34 季節は巡るものですわ
悲しみに暮れようと、喜びに溢れようと、季節は巡るし時は過ぎる。
ディスカの腹は少し目立ち始めて、中の子供は元気すぎるほどに元気に育つ。
「あ、今、蹴った?」
ディスカのお腹を撫でていたジェストが、驚いたように言った。
「ええ、蹴りましたわね」
元気に今日を生きる我が子が、愛おしくして仕方ない。
エディは最近、子供の教育本を読み始めた。
家庭教師には当たりをつけているし、乳母も目星は付いている。
日々は穏やかに巡って、変化という変化はない。
屋敷はにわかに騒がしく、新しい子供の誕生を待ちわびている。
1番心待ちにしているのはジェストだろう。
毎日ディスカのお腹を撫でては、お父様ですよ、と声を掛ける。
その姿があまりにも微笑ましく、平和だ。
「ジェスト様、そろそろお仕事ではなくて?」
「ああ、もうそんな時間か」
ジェストは慌ただしく屋敷を出る。
勿論、屋敷を出る前にくれぐれも安静にするよう、という言葉を忘れない。
多少は大丈夫だろうと思うのに、ディスカも頷くだけにとどめる。
エディにまで念を押していくのだから、旦那様の心配性はとどまるところを知らないようだ。
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多少の誤差はあれど、十月十日、母親はその命を以って子を守る。
無事、ディスカもそれだけの間を過ごした。
産気づいたのは、良く晴れた日の午後。
俄かに腹を鈍痛が襲い、異変に気付いたエディは産婆さんを呼んだ。
ジェストは使用人の報せで急いで帰宅し、屋敷内をうろつくようにして妻が出産するのを待った。
落ち着きのないその様子は、出産という一大イベントに内心パニックになっていた若い使用人の心を落ち着かせ、苦笑を誘った。
エディは意外にも落ち着いていた。
子どもは魔女に祝福されているのだから、などというあまり母体に関係のない根拠でディスカの無事を信じていた。
6時間、というジェストにとっては長い長い時間でディスカは愛おしい命を生んだ。
生まれた子は、ディスカと全く同じ色彩を持った男児。とっても元気だった。
跡継ぎの誕生でもあるその出産は使用人に祝福され、屋敷は祝福ムード。
ジェストは嬉し泣きでディスカにからかわれた。
生まれた子にはディストと名付けられた。




