31 夢と幸せは永遠じゃないね-ジェスト視点-
ジェストはやるせない気持ちでいっぱいだった。ただ、表面上は穏やかに全てを受け入れたかのように振る舞った。
陰謀渦巻く王宮にて仕事をしているせいもあってか、ポーカーフェイスはお手の物だったジェストにとってどこかお芝居にも似た取り繕いなどは苦手ではない。
心のどこかで納得のいかない事実を変える術はないかと思案しながら、優しげに微笑んで見せる。
___ディスカが死んでしまう?そういう呪い?彼女は受け入れて生きている?
心の隅では呪いだとか魔女だとか、彼女の家族だとかを詰りながら自分が一番何もできていないことを知っていた。現状の打破を見つけられるほど賢くはなかった。
子供の未来を思い、近い将来を楽しみにするディスカ。そんなディスカを抱き締めながら、泣きそうになる。
ディスカは眠気が来ているのか、ウトウトし始めた。ブランケットを膝にかけ、もう半分眠りの世界に旅立っているディスカの頭を撫でて部屋を後にした。
廊下に出ると、エディが腕を組んで立っていた。ジェストに気づき、近付いてくる。
「エディ」
「そろそろ、聞きたいことがあるじゃないかな?と思い、待ってました」
この優秀な男は実に察しがよく、ディスカの寿命を知った日に近づいてくることはなく、日にちを開けた今日近付いてきた。
「お前も、知っていたのだろう」
「何をです?」
「ディスカの呪いのことだ」
「まあ。知ってましたよ。誰よりもお嬢様の近くにあったのですから」
この男は実にムカつくことに、昔からディスカの側にいた。ディスカはエディを多分家族のように思っていて、恋愛感情は持っていないだろう。
エディの方はどうか。それは恐らくジェストの心配する通りで、ならばなぜディスカの側にエディを置いておくかというと、エディのディスカへの思いがあるゆえにディスカが安全だからだった。
エディを側に置かなければ、ディスカの心身の安寧はもたらされない。それは護衛的な意味でもあるし、長く寄り添った者がいるという安心感の問題でもある。
「お前は納得しているのか」
「まさか。俺が代わりにお嬢様の呪いを受けられるというのなら、いくらでも受けますよ」
「ディスカは……受け入れている。何故だろうか」
「お嬢様の生きてきた17年間は、呪いの解呪法の模索のみです。あとは、俺に手を伸ばしてみたり強がってみたり。呪いが解けないと知ってからは、日々を幸せに生きようとしたり」
残りは2年と少し。生きてきた年数よりも明らかに寿命の方が短くて、彼女はもう受け入れたのだ。
ジェストはゆっくりとその意味を噛み締め、俯いた。
「悔しいのも、悲しいのも、何も出来ないのも。全て、旦那様だけではありません」
エディは慰めにも似た言葉を吐いた。ジェストはその言葉に上を向き、唇を噛みしめる彼を見て
「そうか」
と呟いた。
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夜眠るとき、ジェストは必ずディスカを強く抱きしめる。その腕からディスカが消えてしまわぬように。
ディスカは時折夜中に目覚めてジェストの腕の中で泣いた。ジェストは用心深くディスカが眠っているときにベッドを抜け、ひっそりと泣いた。
今こんなに泣いたらきっと、ディスカが死んでしまった時に涙は枯れて出てこないだろうなとも思ったけれど、ディスカが死ぬまでには新たな涙が生成されてそれが溢れてしまうだろうとも思った。




