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03 渋々ですけど恋敵にブーケを投げ飛ばして差し上げてよ

 リーンゴーンリーンゴーン。


 祝福の鐘はもう少しありがたい音を鳴らしていた気がするが、ディスカにはこんな音にしか聞こえなかった。

 父であるシェゼンスタ公爵が付き添って花婿の元にディスカを連れて行く。

 ヴェールの下ろされた視界不良の中、ジェストの顔がしっかりクリアに見えてしまうのはきっと、恋がなせる技だろうと若干悲しい。

 自分がそこまで恋に落ちるとは思っていなかった。



「ディスカ、きれいだよ」



 目の前に来たジェストが、賛辞をくれる。そうでしょうとも、と軽く強気になれたのは結婚式ということで気分が浮ついているからだ。



「ありがとうございます、ジェスト様。ジェスト様もかっこいいですよ」



 白い花嫁姿のディスカに合わせ、白いタキシードを纏うジェストは元々の美しさも相まってかっこいい。利益の一致とはいえ、こんなにもかっこいいならばときめいてしまうのも仕方ないだろう。



「ありがとう」



 意外にも照れているジェスト。ディスカは軽く目を見開いて、その赤く染まった耳を見つめた。

 正装のためか、いつもは固めていない髪を耳が見えるように固めたジェスト。真っ赤な耳がよく見える。



「それでは誓いの言葉を」



 つつがなく結婚式は進行し、誓いの言葉も噛まずに言えた。


 そして地味に待っていたブーケトス。



「では花嫁様、お投げください」



 ということで、ディスカは遠慮することはしない。

 ターゲット(レイラ)をロックオン。さぁ、思いっきり振りかぶれ私!とばかりにディスカはブーケを投げた。

 狙い通り、レイラの腕にポスンと落ちたブーケ。よし、とディスカは小さくガッツポーズを決め、それからジェストを振り返った。



「あら……?ジェスト様、どうなさいましたの?」



 ジェストは固まっていた。



「レイラは……結婚するのか?誰と?」



 何やらブツブツと言い始めたジェスト。ブーケトスが思わぬ勘違いを呼んだ感。

 そういえば、この結婚が3年しか続かないことをこの人は知らなかったな、と思い至って納得する。貴族の離婚は醜聞のため、ジェストはレイラと結婚することが不可能だと思っている。

 理由は含めず、レイラと結婚できることを早急に教えたほうがよさそうだな、と頭の片隅で考えた。冷静なその部分以外は、結婚式でさえもレイラのことしか考えていないのかと、悲しくなった。



「ねぇ、ジェスト様。今ここで言うのもなんですけど。私とレイラさん、後ろ姿はそっくりですし、暗いところでならば前から見ても見間違いますのよ」



 ジェストの気分を少し盛り上げてあげようかと、気を回す。それがどうしたとこちらを見られ、けれど視線を向けてもらえたそれだけで嬉しいなどと、ジェストの何かに貪欲になっている自分に気づいた。



「夜ならば。多少人通りのあるところでレイラさんと逢引きしても平気ですわ」



 私はね、あなたと堂々と歩ける正妻という座があるだけで満足なのよ、と。優越を保つ。そうでもしないと、私は幸せになれない。


 ディスカはきっと、不幸だけれど幸せなのだ。


 ディスカの言葉に、ハッとしたようにレイラとディスカを見比べ、複雑そうにけれどもはっきりとした笑顔を見せた。



「ねぇ。他意はないのだけれど。あなたの笑顔って好きだわ」



 笑顔だけでなく、顔も好きよ。性格も好きよ。それは心の中だけで言った。



「僕は、君の気遣う心が好きだよ」



(あなたって残酷ね。それって、親切な人以上にならないってことじゃない)



 うっすら滲んだ涙は、ジェストが目を離したすきに拭っておいた。




*・゜゜・*:.。..。.:*・'*'・*:.。. .。.:*・゜゜・*



 結婚式を終えたディスカとジェストは、シェゼンスタ公爵が用意した別荘へと新婚旅行に向かうため、馬車に乗り込んだ。



「お父様、行ってきますわ」


「あぁ」



 何故か馬車の方まで見送りに来てくれた父にひらひらと手を振り、バタンと扉を閉める。御者台に何故かエディが乗っていたな、というのは知らないふりをした。



「ジェスト様」


「なんだい」



 一応着替えたため、2人は結婚式用の衣装ではない。



「この結婚は、長くとも3年しか続きませんわ」


「……?」


「そのあとは、お好きになさってくださいませ。私も好きにいたしますもの。あぁ、一応あなたには感謝しているのですし、ある程度手を貸しますわ。レイラさんとの結婚もできましてよ」



 あなたがそれを望むなら。


 心にある言葉を、歪め歪めて、本心など悟らせぬように、あるいは本心がジェストを好きなどとは思っていないかのように言う。



「3年?離婚するのか」


「えぇ。離婚するのよ」


「貴族の離婚は醜聞だぞ」


「ええ。存じています。私も貴族ですもの」


「……何故」



「……私、この地を離れるつもりですのよ」



 それはディスカの意志ではないし、この地どころか現世を離れるわけだが。それは言う必要がないだろう。



「そう、か」


「嬉しくないんですか?レイラさんとも、結婚できるのですよ。シェゼンスタ公爵の名の下に」



 あの狸親父は、金と脂肪と、他方からの恨みつらみ、さらには権力を手に入れた。それは時に王にも意見できるような、大きな権力。

 一介の伯爵家にすぎないジェストの家族の説得など簡単だ。容易だ。

 あっという間にレイラとジェストは結ばれる。



「本当に、結婚できるのか……?」


「疑り深いですわ。嘘などつきませんのに」



 涼しい笑顔でのたまった。


 ジェストはまだ信じられないかのような顔をしていたが、突然ふわりと微笑んで、ありがとうと言った。



(私との結婚よりも、レイラさんと結婚できるかも(・・)ということを喜ぶのね。当たり前だけれど)



 やっぱり、時々見せられるジェストの本心がしくしくとディスカの心を傷つけた。





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