21 お父様の独白-シェゼンスタ公爵視点-
割とどうでもいい(お父様、ごめんなさい)お父様の告白。
前話で、お父様が「愛してやれていれば」と言った理由。読まなくても大丈夫ですが、お父様の印象が(良い意味だったらいいな…あ、多分無理)変わるかもしれません。
シェゼンスタ公爵。妻の父から受け継いだこの名前は重苦しく、実に窮屈なものだった。
元々、公爵なんぞ継げるような爵位は持っていない。まさか婿養子になるとは。いや、次男坊なのだから貰ってもらうしか無いのだが。
妻の父の期待に応えるべくわしは出来うる限りで努力し、気が付いたら腹の脂肪が溜まって……脂肪ネタはもういい?それはすまん。
妻の父の代でも公爵家に相応しいだけの金があったのだが、気が付けばそれを倍にして余りあるだけの金を手に入れていた。
わしは仕事人間だったといえよう。
公爵の名に恥ぬよう、ひたすらに仕事に打ち込んだ。
そのためか、家のことはほとんど顧みなかった。
それなりに子供のことは愛したし、妻のことも愛したが。
金も十分蓄えた頃、欲が湧いた。もっと、力が__権力や、財力、それに連なる力が__欲しいと思った。
そんな時だ。フィブレの森の魔女のことを知ったのは。
フィブレの森の魔女が人嫌いの特に男嫌いなことを知っていたが、わしは無断で森に立ち入った。
まあそれだけでも雷モノなのだが、さらにわしは出会い頭の魔女にバケモノ呼ばわりしてしまった。それに激怒した魔女に、さらに追い討ちをかけるように若作りのババアめ、と叫んでしまった。
言い訳させていただこう。
混乱していたのだ。
いや、割と冷静だったが。
魔女は呪詛を吐いた。
呪詛は、シェゼンスタ公爵家に対してのものだった。故に。シェゼンスタ公爵を名乗りはするものの血は流れていないわしは抜け道を見つけ、呪いから逃れた。
呪いは何故か妻に向いた。そしてさらに、妻の腹の中の子に吸い込まれたのだ。
ディスカには魔術や魔法の才があったのかも知れん。呪いのせいで今は使えないが。
その時はまだ、深刻ではなかった。魔女も流石に幼い子供に呪いは可哀想だと思ったのか、解いてくれると言った。
しかし。
わしは地雷を踏みぬいた。踏んづけただけならいざ知らず。踏みぬいたのである。
さっさとしろ!
そう怒鳴り、あらゆる言葉で罵ったのを覚えている。いくら温厚な者でも、この辺りが限度であろう。
解呪は失敗。さらに、解呪のために掛けた魔法が崩れ、一層複雑になってディスカに定着した。
すなわち、20歳で死んでしまう呪い。
さて、ディスカはこの時点でもう無理なのだと諦めているが。実は、死なない方法はあった。それは、呪いの身代わり。
ただし、わし限定である。
わしは死にたくなかった。
身代わりに関しては、魔女の個人的な判断で出来る魔法ではないのだそうだ。本人の意志が必要だそうで、わしは拒んだ。
わしが拒めば身代わりにはならん。
ジェスト君に、愛があればと言ったのはこのせいだ。
普通の父親ならば。
身代わりをしてやるのが普通なのだ。
そもそも、わしのせいによる呪いなのだから。
この身代わりの話は、わしとフィブレの森の魔女しか知らぬこと。
きっと、妻が知れば今以上に、今だって軽蔑されているというのに、さらに軽蔑されるのだろう。
娘や息子達も、今でさえわしを悪の権化でも見るかのように見るというのに、さらに酷くなるのだろう。
だがしかし、今更身代わりにはなれん。
手遅れだ。身代わり制には制限があるから。
わしはやはり、父親失格なのだろう。




