20 妻の父親と会話って緊張するよね-ジェスト視点-
「さて、ジェスト君」
「はい」
「最近、どうかね?」
「どう、とは?」
爵位を持つ貴族同士、財産面だろうか。領地のことだろうか。
「ディスカとのことだよ」
「ああ。うまくやっていますよ」
「ふむ?」
公爵は、顎をひとなでして首を捻る。
「その割には、浮かない顔をしているようだが?」
「……隠し事をされているようでして」
流石は公爵。築いた財産は湧き出た金じゃあない。
しっかりと、自分で稼いだものだ。それだけの洞察力と、実力と、その他必要なものを兼ね揃えている。
表情ひとつで、こちらの内面が全て悟られる。
「ふむ……うぐふっ」
平静を装う公爵が、何故か噎せた。
「大丈夫ですかっ?」
「ああ、……まあ、うん。大丈夫だ。えっと。うん、ディスカは隠し事などしてない。うん」
挙動不審である。
「もしかして、お義父さんもディスカの隠し事を知っているのですか?」
エディも知っているらしいのに。僕には、教えてもらえないのか。
公爵もエディも知っていたら、それはまるで、僕だけが仲間はずれにされているような。……いや、子供っぽいことは考えないでおこう。
「まあ……知っているというか……原因というか……わしのせいというか……」
カタカタと、珈琲を持つ公爵の手が震え始める。
やはり、自分だけが知らないというのは納得がいかない。
ディスカは、僕に伝えたくないのだろうが。
人間、秘密にされると暴きたくなるものだ。
「……お義父さん、教えてください」
「うげふっ」
公爵は目をそらし、しきりに珈琲を飲む。額に脂汗が浮かび、不自然に腹が上下している。
「いや!わしは!言わんぞ!」
目を閉じ、耳を塞ぎ、口を噤む。
しかし、ちらりと片目が開いてこちらを見る。小動物のような動きだが、生憎とこの親父がやると可愛らしさのかの字もない。
じっと見つめていると、やがて公爵は観念したように口を開いた。
「あと……2年だ」
「え?」
「少しばかり切り捨てての考えだが、あと残り2年だ」
「何がですか?」
「あ……のよ……が」
モゴモゴと、口の中で言葉が紡がれる。視線はふらふらと彷徨い、かち合わない。
「もうこれ以上は言わん!」
「はあ……?」
よくわからなかった。しかし、公爵はこれ以上喋らないためなのか、ジェストに遠まわしに帰るよう伝えてくる。
「あの子を、大事にしてやってくれ。少なくとも、あと2年。わしが与えてやれなんだ愛情を、与えてやってくれ」
与えられなかった?
「……僕から見る限り、ディスカはあなたに愛されているように見えますが」
今だって、娘の未来を案じているのだから。
公爵は悲しげに俯いて、違うんだ、と首を振った。
「愛していたら。愛があれば。あの子に、きちんとした未来を。与えてやれたんだ」
ちゃんと、父親だったなら。
「いや、ジェスト君に言っても仕方ないな。兎に角、あの子を愛してやってくれ」
公爵の言葉は謎が多い。あと2年。それが指し示すところもわからなければ、愛があれば、という言葉の意味もわからない。
けれど今は、公爵の悲しげな雰囲気に何も聞けなかった。
……結局、ディスカが隠していたこともわからないままだな。公爵の様子だと、楽しげな雰囲気ではなかった。
どんな嬉しいことがあったのだろう。




