表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/39

20 妻の父親と会話って緊張するよね-ジェスト視点-


「さて、ジェスト君」


「はい」


「最近、どうかね?」


「どう、とは?」



 爵位を持つ貴族同士、財産面だろうか。領地のことだろうか。



「ディスカとのことだよ」


「ああ。うまくやっていますよ」


「ふむ?」



 公爵は、顎をひとなでして首を捻る。



「その割には、浮かない顔をしているようだが?」


「……隠し事をされているようでして」



 流石は公爵。築いた財産は湧き出た金じゃあない。

 しっかりと、自分で稼いだものだ。それだけの洞察力と、実力と、その他必要なものを兼ね揃えている。

 表情ひとつで、こちらの内面が全て悟られる。



「ふむ……うぐふっ」



 平静を装う公爵が、何故か噎せた。



「大丈夫ですかっ?」


「ああ、……まあ、うん。大丈夫だ。えっと。うん、ディスカは隠し事などしてない。うん」



 挙動不審である。



「もしかして、お義父さんもディスカの隠し事を知っているのですか?」



 エディも知っているらしいのに。僕には、教えてもらえないのか。

 公爵もエディも知っていたら、それはまるで、僕だけが仲間はずれにされているような。……いや、子供っぽいことは考えないでおこう。



「まあ……知っているというか……原因というか……わしのせいというか……」



 カタカタと、珈琲を持つ公爵の手が震え始める。

 やはり、自分だけが知らないというのは納得がいかない。


 ディスカは、僕に伝えたくないのだろうが。


 人間、秘密にされると暴きたくなるものだ。



「……お義父さん、教えてください」


「うげふっ」



 公爵は目をそらし、しきりに珈琲を飲む。額に脂汗が浮かび、不自然に腹が上下している。



「いや!わしは!言わんぞ!」



 目を閉じ、耳を塞ぎ、口を噤む。

 しかし、ちらりと片目が開いてこちらを見る。小動物のような動きだが、生憎とこの親父がやると可愛らしさのかの字もない。

 じっと見つめていると、やがて公爵は観念したように口を開いた。



「あと……2年だ」


「え?」


「少しばかり切り捨てての考えだが、あと残り2年だ」


「何がですか?」


「あ……のよ……が」



 モゴモゴと、口の中で言葉が紡がれる。視線はふらふらと彷徨い、かち合わない。



「もうこれ以上は言わん!」


「はあ……?」



 よくわからなかった。しかし、公爵はこれ以上喋らないためなのか、ジェストに遠まわしに帰るよう伝えてくる。



「あの子を、大事にしてやってくれ。少なくとも、あと2年。わしが与えてやれなんだ愛情を、与えてやってくれ」



 与えられなかった?



「……僕から見る限り、ディスカはあなたに愛されているように見えますが」



 今だって、娘の未来を案じているのだから。

 公爵は悲しげに俯いて、違うんだ、と首を振った。



「愛していたら。愛があれば。あの子に、きちんとした未来を。与えてやれたんだ」



 ちゃんと、父親だったなら。



「いや、ジェスト君に言っても仕方ないな。兎に角、あの子を愛してやってくれ」



 公爵の言葉は謎が多い。あと2年。それが指し示すところもわからなければ、愛があれば、という言葉の意味もわからない。

 けれど今は、公爵の悲しげな雰囲気に何も聞けなかった。





 ……結局、ディスカが隠していたこともわからないままだな。公爵の様子だと、楽しげな雰囲気ではなかった。

 どんな嬉しいことがあったのだろう。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ