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退屈な僕と面倒な国家-4章-

退屈シリーズ一話です。

推敲うまくいってないかも…

◆二つの異常と三つの目


   何、勝手に発言しているの?

   君の発言なんて意味はないよ。

   僕は聞く気もないし、取り入れるつもりもさらさらない。

   だって・・・・・・・・・僕だよ?


 今ここはブラックジャックの中。

 覆面野郎たちはこの奥にある、「超水」に居る。

 この「超水」とは、どんな怪我でも治すと言い伝えられているため、そんな名前が付いたが、実際は何もないただの水だ。だけど、湧き水だからなかなか旨い。

 そんな水があるここ、ブラックジャックはまた半端じゃなく暗い。今はピクシーのライトがあるから大丈夫だが、何も持たずに入ったら30秒で前も後ろも分からなくなるだろう。

 ここがブラックジャックと呼ばれる理由は、今言った二つである。

 暗闇で恐怖を与えるから「暗闇の使者」(ブラックジャック)。どんな命も救うから「奇跡の医師」(ブラックジャック)。意外に考えられている。

「イッコク、これを持っとけ」

 偉繰が僕に、人差し指の爪程度の大きさの黒い物体を手渡してきた。片面がプニプニしているが、もう片面は硬い。

 偉繰、なんだこれは?

「それは通信機みたいなものだ。耳に付けとくだけで会話が出来る。だけど、付けている全員に聞こえるから注意しろよ。一応教えとくが、今これを持ってる人間は、俺様と、イッコク、妹六、党夜、ダックス、そして枚狗だ」

 へ~、こんなに小さいのか。

「多分これから、相手はこっちの勢力の分散を(はか)ってくるはずだ。だから、これを付けとけ」

 わかった。付けとくよ。

 僕は耳に付ける。どうやら仕組みは自分からから発する声を外に出ている硬いほうで集音しているらしい。雑音が全然でないのはダックスの技術力の高さだな。

「それと、もし、これから足止めをくらっちまったら、イッコク、一番奥にはお前が行け」

 何で僕が?普通だったら偉繰だろう。

「それはえっと・・・・・・まぁイッコクが一番殴りたそうだからだ」

 ・・・・・・まぁ、さすが幼馴染と言ったところか。確かに僕は今まで味わったことのないほど、怒っていると思う。いわゆる、はらわたが煮えくり返っている感じだ。今までと言っても昔の事は覚えてないけど。

「だから、イッコクが行け。だけどもし、まだ戦うことを止めたと言うのなら、ピクシーで戦えばいい」

「わたしはご主人様のためなら何でもやるです!」

 すごい意気込んでるな。けどいいよ。自分でやる。僕ピクシーのことを物のように扱いたくないし。

「ご、ご主人さまぁ~!」

 コラ、抱きつくな。僕は人とか人っぽいのが苦手なんだ。

「あ、ごめんなさいです~」

「ガハハハ!本当に仲良くなったな。まぁ、とりあえずそういうことだから今回は面倒くさいと言わずにちゃんと走れよ」

 分かった。みんなの分、特に雷三の分もぶん殴ってきてやるよ。

「任せたぞ」

「主よ。そろそろ第一波グァ来そうである」

「よし、出口に一番近いここで俺様が暴れておく。絶対に退路を残しといてやるから安心して奥へ進め」

 お前自分で壊す心配があるがまぁいいか。何処にいても派手なんだし・・・・・・

「足音が聞こえるわね・・・・・・ねぇ、一番安全な人って誰だと思う?」

 安全な奴?敵から守ってくれるのは偉繰じゃないか?というか、党夜なら解るだろう。

「偉繰君も気になるけど、今回興味深いのはあなただし・・・・・・まぁどちらも安全なのは変わらないから、私はあなたに付いて行こうかしら」

 そうか。じゃあ頑張って走ってくれ。怪我はするなよ。

「ええ。心配してくれてありがとう」

「いっくん!来たよ!」

 目の前から黒い影がこっちに来る。なんかピクシーの光が闇に侵食されているようだ。偉繰がダックス特製のアヒル型ライトを取り出して点けた。

「じゃあ行って来い」

 偉繰も頑張れよ。よし、じゃあ行こう。妹六、党夜、ダックス、行けるか?

「行けるよ!」

「いつでもどうぞ」

「我も行けるぞ」

 よし、突っ切ろう。

 僕たちは、敵の横に突っ込んで行った。もう少し攻撃を受けるかと思ったが、何も無かった。見た感じ二十人ほど居たようだかから、最初から偉繰狙いの精鋭だったのだろう。

「簡単に抜けれたね!」

「最初から偉繰君を狙っていたみたいね」

「うむ、しかし、敵は王を狙っていたのではなかったのか?」

 そうだ、僕もそれが引っ掛かる。偉繰を狙っているのなら僕たちの足止めをするはずだ。うぬぼれでは無いが、妹六と僕は相手にとって特に邪魔な存在のはずだ。妹六は捕まえられないし、僕は傷を治す。バラバラにしたい人ベストスリー入りできるぐらい迷惑な存在だろう。

 それに、三十四人という少人数では正攻法じゃ勝てないと踏んで、雷三を襲って僕たちをここに連れてきたんだ。対策も立てているはずなのに・・・・・・その、証明として偉繰が追いかけてこない。あれぐらいの人数、偉繰だったらすぐに倒すはずだ。しかも、僕に譲ったとはいえ親玉を殴りたいはず。その偉繰が来ないという事は相当の作戦を練ったということだ。

「フフフ・・・・・・覆面さんたちの狙いは偉繰君じゃないみたいよ?」

 どういうことだ?普通に考えてこの国を壊すなら王である偉繰を狙うだろう。それとも、本気で鬼ごっこのルールを使って改革することだけが目的なのか?あの復讐という情報はデマか?

「さぁ?今までは助言。ここからは予言だから有料よ」

 そんなけち臭い事を・・・・・・

「私は今観察中なの。それに先のことがわかったら退屈で、面白くないでしょ?後もう一つ助言してあげるわ。勘違いしているようだけど敵は三十四人じゃなくて、三十八人よ」

 三十八?という事は逃げ回っていた四人も反対派なのか?それに、偉繰が狙われていないとなると一体誰が狙われているんだ。

「あ、来たよ!」

「ふむ、どうやら今度は我を指名らしいな」

 そうみたいだな・・・・・・まぁ、もしかすると動物好きの妹六の足も止める事が出来るのかもしれないが、さすがに妹六もあれには興味ないだろう。

「それにしても、よく集めたわね」

 目の前からはたくさんの生き物が来た。ライオン、鷹、蛇などがたくさん。どうやら相手には「生き物」(アニマルマスター)系が居るみたいだ。数十匹の猛獣が一度にこっちにやってくるのを見ると結構怖いな。

「うわ~、妹六も蛇は好きじゃないな~!」

「そうか、妹六殿もそういうならやはり我グァ行くしかあるまい。同胞たちよ、彼らと目を合わせるな。刺激を与えるな。さすれば、襲ってはくるまい。あと、これをかけていくとよい。〔無臭薬(ノットスメラー)〕だ」

 わかった。ありがとう。がんばれよ。

「うむ」

 ダックスから受け取った香水のようなものを体に振り掛け、僕たちは壁沿いに猛獣の群れを抜けていった。うれしいことに襲われることは無かった。

 それにしても、相手も考えたな。ダックスは獣を傷つけることを極端(きょくたん)に嫌う。だから、ああいった奴らは眠らせる。そうなるとやはり時間もかかる。足止めには十分だ。

「ねぇ、ピクシーちゃん!「超水」まで後どれくらい?」

「さっきダックス様からもらったデータによると、あと五分ほど歩いたところにありますです」

 もうそんなに来たのか。このまま三人と一体で行ければ良いけど・・・・・・

「もう敵さん来ないかな?」

「来るわよ。後一回だから妹六ちゃんだけで良いかしら・・・・・・というか、敵さんは妹六ちゃんをお望みのようね」

 妹六が望み?というか、どうやって妹六を足止めする気なんだ?異常的に何も策が無いなら偉繰より人数が必要だと思うんだが・・・・・・

 妹六、お前を止める方法はあるのか?

「一応二、三個あるよ!妹六のこれは精神状態にすっごく影響するから、どうにかして精神をグラつかせれば戻っちゃうし!もう一つは、どうにかして私の体を触れるようにすること!最後の一つは・・・・・・」

「敵が来たようよ」

「二十人弱ぐらいです」

 見たところ普通の人たちみたいだ。どうやって妹六を止める気なんだ?

「・・・・・・あちゃ~!どうやら嫌な人が居るみたいだね!一番ありえるとは思ったけど、まさかの最後の一つだよ!」

 妹六を見て僕は驚いた・・・・・・・・・実体が見える。今まで妹六の向こう側にある岩壁が透けて見えていたのに、今は全然見えない。なんか、幽霊が生き返ったみたいだ。

 妹六、その体はどうしたんだ?

「あのね、これは多分「無力化」(キュアパワー)だよ!イッコー授業聞いてないみたいだから知らないかもしれないけど、異常には異常を無力化するものがあるんだよ!多分これはそうだと思う。もしくは、「現実」(リアリズム)かな?でも、無理やり感が無いから十中八九、最初に言ったほうだと思うけどね!ちなみにこの二つの違いは体を持ってくるか、そのまま実体化させるかだよ!」

 ・・・・・・妹六、十中八九なんて言葉使えたのか。

『ねぇ~、妹六の体が無くなったんだけど、そっちに行ってないかい?』

 ・・・・・・来てますよ。

『そう、ならよかった~。いきなり消えちゃったからビックリしたんだよ~。じゃあ妹六、実体だけど頑張ってね~』

 枚狗先輩からの通信が途絶えた。先輩にも大体の予想が出来たらしい。先輩が優秀というのは嘘じゃないらしいな。

「じゃあイッコー、後は頑張ってね!」

 分かった。今回は妹六を完全にご指名のようだから任せよう。妹六の目も完全に戦闘モードに入ったみたいだしな。なんか妹六が着ているパジャマの熊の目が光ったように見えた。

 僕たちは妹六を襲ってきた敵の横を走り抜けた後はもう普通に歩いていった。予想通り誰も攻撃してこない。どうやら親玉の狙いは僕か党夜のようだ。

 しばらく歩いていると前方に明かりが見えてきた。どうやら「超水」近づいてきたらしい。今まで暗闇の中を歩いて来たからとても目が痛い。

「心配してないの?」

 心配って何を?

「みんなよ。いくら強いといっても苦戦するんじゃない?」

 僕は偉繰たちが、そんな簡単に負けるとは思ってないし、党夜のことも結構信じているから心配なんてしてないよ。

「どういう意味?」

 妹六の時の話しぶりからして、党夜はこうやって僕たちだけになるのが解っていた筈だ。という事は、危ないならちゃんと偉繰たちを止める。けど、普通にあいつらを送っているということは、苦戦はしても危なくないということだ。

「・・・・・・随分私も信用されたものね。私はあくまで観測者だからあなたたちがどうなってもいいのよ?」

 それでも、僕は党夜を仲間だと信用しているから関係ない。

「そう。それにしても、あなたはことごとく、私の予想を反するわね。そんなこと言うなんてあなた結構頭良いでしょ?」

 僕の頭なんて党夜や他のみんなに比べたらアリと地球ぐらい違う。

「フフフ・・・・・・そこまで考えているか解らないけど、アリは地球に穴を開けるのよ?穴を開けるということは、地球を壊していることにならないかしら?」

 さぁ?ならないと思うし、そこまでは考えて無かったよ。

「・・・・・・・・・まぁ、いいわ。また私の期待を裏切ってくれたあなたにご褒美をあげる。もう解っているとは思うけど、狙われているのはあなたよ。そして・・・・・・驚くんじゃないかしら?「超水」にいる人たちを見たら」

 どういうことだ?僕が驚く人間なんて居るのか?そんな簡単に驚いていたら、退屈とは言わないぞ。

「まぁ行ってみたら解るわよ」

 そうだな・・・・・・ピクシー相手は何人だ?

「レーダーによると二人みたいです」

 二人・・・・・・か。

 僕たちはゆっくりと光の中へと歩いていった。

 視界が完全に光に覆われた。上からの人工の光が「超水」の水面に反射して、ものすごく眩しい。何か人影のようなものが二つ水面の向こう側に見える。

「イッコク、俺はもう待ちくたびれたぜ」

 ん?この声には聞き覚えがあるぞ。

「党夜さんも来たんだ。まぁ僕としてはこっちも二人だから別に良いけどね」

「私は手を出さないわよ。厳重郎君」

 そうだ。声を聞いてそう思ったが目が慣れて確認が出来た。そこにいた二つの影とは水戸と厳重郎だった。

 何でお前らが居るんだ?ここで何している?

「イッコク、馬鹿言ってんじゃねーよ。此処に居るって事はつまり、そういうことだよ」

 なるほど。一番嫌な回答だったが、どうやらそういうことらしい。という事はこいつらが今回の親玉ということか。

 驚きだ。こいつらが親玉なんてキリスト教が釈迦(しゃか)を信じるぐらい信じられない。ていうか僕のクラスに反対派がいた事に驚きだ。

「ビックリした?ところで、先ほど党夜さんが私は手を出さないと言っていたけど、そっちは一人ということかな?」

 いや、一人と一体だ。

「わたしも居るです。ご主人様はわたしが守るです!」

「ん?あ、あぁ、そこに居たのか。小さ過ぎて見えなかったよ」

 遠いしな。別に不思議じゃないさ。だからピクシー、怒るな。ちなみにこいつはピクシーだ。ダックスの創造物。

「へ~、良く出来ているみたいだな。イッコクの趣味か?」

 なぜそうなる?僕は断じて妖精のようなものには興味が無い。どちらかと言うと、ダックスの趣味じゃないのか?あいつが創ったんだし。

「ふ~ん・・・・・・まぁどうでも良い。じゃあイッコク、戦おう。そっちにはピクシーという奴がいるから二対二と考えて良いな?」

 ちょっと待て。勝手に話を進めるな。どういう流れで、理由で、僕たちとお前たちが戦うことになったんだ?

「何言ってんだ。流れは正確にして緩やか、理由は明瞭にして明確。実に簡単なことだ。お前たちと、俺たちが、敵同士だからだ」

 何を言っても戦わなくてはならないらしい・・・・・・面倒くさいことになってきたな。

 じゃあ二つだけ質問させろ。そしたら戦ってやる。

「なんだ?」

 一つ目だが、お前らは僕に何か恨みでもあるのか?それとも、単純にこの国に恨みがあるのか?

「それは前者だね。まぁ正確に言うとどちらでもないけどね」

 どういうことだ。僕が何かしたか?

「何もしてないよ。何もしてないからこそ存在が邪魔なんだよ。君は何も実力が無い・・・・・・というのは表向きだ。しかし実際は違う。君ほど恵まれた存在は居ない。王と幼馴染、王に大切にされ、王に愛される。それ だけでも十分過ぎる恩恵なのに、更にものすごく強い。付け加えて国のナンバー2の権力を保持しているのに、その力を使わない。そしてなにより、嫌な記憶が無い・・・・・・なんて羨ましいのだろう。だけど別に僕たちは恨んでいるわけじゃないんだ。ただ僕たちは君に嫉妬し、妬み、羨望している。だから、王の言うことを聞かず、こうして反乱した」

「ふ~ん・・・・・・まあいいわ。それにしてもなかなか上手く返したわね。やっぱり、偉繰君関係は観察のしがいがあるわ」

 党夜の言っている意味はよく解らないが、そんな事を気にされていたのか。偉繰と幼馴染でも得だったことは無いけどな。むしろ、色々迷惑に巻き込まれて困っているぐらいだ。あいつは完璧なトラブルメーカー、トラブルゲッターだからな。それの後始末ばっかりでこっちはひどく退屈している。

「ああ、ちなみに俺の意見も双子って事で、厳重郎と一緒にしてもらって構わないから、よろしく」

 そうかい。水戸も同じ意見かよ。

「さて、僕たちの意見はわかってくれたかな?だから僕としては今の君のポジションと交代したいんだけどね。どうだい?イッコク君にも悪くない話だろう?」

 ふ~ん、確かにな。・・・・・・けど無理だ。

「なんで?僕も望んでいるし、君も望んでいる。願ったり叶ったりじゃないか」

 まずお前は僕じゃないし、僕はお前の意見なんて最初から聞くつもりも、取り入れるつもりもないからな。それに僕は、グダグダ言っているけど今のポジションは結構気に入っているんだよ。

「・・・・・・そうか。天邪鬼な人だね、イッコク君は」

 結構な付き合いになるのに今更気づいたのか?

 よし、じゃあ後、これだけ答えてくれ。雷三に異常を使ったのはお前らの、ある程度は予想が付くが、どっちかなんだな?

「あぁ」

 解った。僕の戦う理由はそれだけで十分だ。ピクシー、お前は水戸とやってくれ。

「フリーバトルモードでよかったですか?」

 あぁ、多分OKだと思う。初めて聞く単語だけど意味はなんとなく解るし。

「作戦は決まったかな?」

 こっちは準備万端だ。

「そうかい。それじゃいくぜ」

 いきなり、厳重郎と水戸が僕に向かって走ってきた。

 二対二とか言ってたくせにいきなり二対一の様相かよ。二人が走ってきた時にピクシーが、僕と源十郎の間に羽を投げる。すると、水戸が赤色の鍵を取り出した。

 あれは水戸の異常だ。水戸はその鍵を、羽の方の空間に()しこむ。

 空気に穴を開けた。その部分が丸い形で真空状態になる。

 バァァンッ!

 爆発音共に、空気の流れが変わる。なるほど、あの羽の爆弾は軽いから空気抵抗を受けやすいわけか。水戸が鍵を()したほうへと羽はそれていった。

 その間に僕の近くまで二人は距離を詰める。いきなり二人相手かよ。しかもさすがは双子。もの凄く息が合っているな。まさか厳重郎が一切羽のほうを見ずにこちらに来るとは。そのコンビネーションは反則だろう。

 僕は目を瞑って集中する。そして、僕の気持ちは久しぶりの戦闘モードに、目は紫色へと変化していく。僕は開眼直後、周辺の岩を劣化させ砂へと変えていく。

 それにはさすがに驚いたのか、二人は少しバランスを崩す。そこで僕は跳躍、水戸をピクシーの方へ蹴り飛ばし、厳重郎を返しの足で叩きつけた。

 僕ってまだこんなに動けたんだ。台湾映画とかに出れるかも・・・・・・

「は、はは、はははははっ。やっぱりそんなこと出来るんだ。兄さん、僕の見込みは間違ってなかったよ!この仕事やって正解だった!」

「・・・・・・っ、そうだな」

 いきなり厳重郎が笑いだした。もしかして戦闘狂?

「くそっ、思いっきり蹴りやがって・・・・・・イッコク、リミットまではもう少し時間がある。後数分、厳重郎と遊んでやってくれ」

 リミットって何のリミットだよ?ていうか、僕にとって遊びというものは、偉繰の持ってくる奴で十分なのだが。

「まぁ気にするな。俺は仲良くこのチビピンクとやっとくからよ」

「わたしはピクシーです!」

 タイマンを張れというのか。本気で蹴ったのに全然ダメージを受けてない奴と?しかし、厳重郎はこんなに強かったのか?

「イッコク君、戦おう。まだ、ゲームは終わってないし、戦いも終わってないよ。もう忘れているかもしれないけど、タッチをするか、もしくは相手を倒したらゲーム終了だ」

 そうか、まだゲームは続いているのか。なら、勝機はあるかもしれない。

 ピクシーと水戸のほうは結構互角みたいだ。なら、僕は自分の相手に集中だ。

 厳重郎が青い鍵を取り出した。

 厳重郎。そういえば雷三をその鍵でどこまで閉じたんだ?

「あぁ、やっぱり気づいてたんだね。うん。この鍵で閉じたけど、一応、脳からの信号の伝達を閉じて、人間の微弱電流(びじゃくでんりゅう)の流れも閉じたよ。後腐っちゃいけないから、兄さんが開けて作った、真空も閉じてきた」

 そうか。なら、死ぬことは無いんだな?

「うん。老化の流れも閉じてきたから大丈夫じゃないかな?」

 そうか、ならいい。

「いいなら続けよう」

 そう言って、こちらに向かって走ってきた。僕は間合いに入ってきた瞬間、タッチをしようとした。しかし、僕の狙いが解っていたのか簡単に避けられてしまった。そして、タッチしようと伸ばした手に鍵を鎖し込まれる。

「感覚閉鎖」

 僕は厳重郎を蹴り飛ばした。糞野郎、笑ってやがる。

 ふ、と違和感に気づいた。右腕の感覚が・・・・・・無い?あいつの能力は自分の概念に従って、鍵を差し込んだもの全てを閉じる事が出来ると聞いていたが、こんなことも出来るのか?

「まずは右腕」

 マジで感覚が無い。僕の目では戻らないらしい。異常所有者はなにか自分だけしか知らない攻撃方法を持っているというが、こんなのアリかよ。

 昔聞いた話によると水戸も厳重郎も自分たちが開閉できると思ったものを開閉できるらしい。意外に二人の異常は概念的能力だったんだな。

「その右腕は使い物にならない。もう一本の腕も使えなくしたら、タッチで勝利はありえなくなるね」

 やばいな・・・・・・長引くと非常にやばい。どれくらいヤバイかと言うと、ゴキブリが顔面めがけて飛んでくるぐらいだ、ってそんな事を考えている場合じゃない。

 くそっ、次突っ込んできたら呼吸を止めて勝負に出るしかないか。

 意識して呼吸を止めると人間はより早く動くことが出来る。今の僕なら三十秒ぐらいだったら行けるだろう。それしかないな。

 厳重郎がまた突っ込んできた。牽制として一応進行方向にある岩を砂に変える。しかし、予想通り怯まない。しょうがないか・・・・・・僕は息を止めて迎え撃つ。厳重郎は鍵を右手に持って僕の間合いに入ってきた。第二段の牽制として僕は顔を狙って前蹴りを放つ。

 しかし、スウェーでかわされる。けど、その無理な動きで厳重郎の体が止まった。その隙を突いて左手を伸ばす。

 ・・・・・・しかし、僕の左手には触った感覚がなかった。

 やられた。スウェーでかわした時の反動で右手を振り上げてくるとは。これで僕の両手を使えなくなったということか。

「ジ・エ~ンド」

 どんどんキャラ変わっていってるだろ?それにしても本気でやばそうだ。さっきから蹴ってもダメージ効いてないし・・・・・・

「どうする?降参するかい?」

 するわけ無いだろ。くそ、こんな所じゃアレは使いたくないんだが・・・・・・使うしかないのか?

「あら、やられているの?早く奥の手を使えばいいじゃない。あなたが負けるとまた、私の予言が外れることになるし、何より負けたら私が悲しいわ」

 何もしてないくせに言いたい放題言いやがる・・・・・・しかし、党夜の予言で僕はアレを使っているのか。じゃあ、しょうがないか。

「奥の手?そんな状態でも出せるものかい?もし本当にそんなものがあるなら、そろそろリミットだから早く出して欲しいな」

「ご主人様!わたしも負けないんで、負けないで下さいです!」

「お、言うね~!おい、イッコク。こっちは決着つかねーから、早くそっち付けちまえよ」

 はぁ~、畜生。どいつもこいつも僕に期待しやがって。僕はスーパーマンじゃないんだぞ?くそっ、面倒くせーな・・・・・・・・・

 おい、厳重郎。もう面倒くさいからこのゲームを終わらせるぞ。

「・・・・・・そんな状態で何をするのか。楽しみだね」

 僕は目をつぶり、深く、深く、深呼吸をしていく。僕の神経を、僕の血を、僕の体力を、僕の全てを、目に集中させる。

 息を深く吐いて目を開ける。

「あれ、イッコク君。目の色が黒に戻ってないかい?」

 正確には違う。僕の最初の目の色は黒茶色だった。今の僕の目は漆黒。その漆黒の目で自分の両手を見つめる。

「あれ?も、もどってる?」

 僕は手の感触を確かめる。感覚が戻ったみたいだ。

「・・・・・・その目はなんだい?」

 厳重郎が驚愕の顔で質問してくる。さすがに答えなくてはなるまい。

「これは僕の異常の最後の形だ。「干渉眼」(ゴッデスアイ)。この目の前では全てが戻り、進み、捻じ曲がり、そのものの理を曲げる。それは異常(エラー)だって例外じゃない」

 そういうことだ。僕の異常はなぜか段階に分かれている。通常状態でも「見極眼」(ヒーリングアイ)が働いている。これは、相手の中を見ることが出来る。実際は外側を見てその繋がりを見ているのだが。まあ、レントゲンみたいなものだと思っていいだろう。そして紫眼状態(しがんじょうたい)では「時駆眼」(タイムズアイ)、通常状態プラス時を進めたり、戻したりできる。そして今の黒眼状態だ。僕の異常が三段階に別れていることは誰にも言ったことが無いけどな。

「でも、どうやって僕を倒すんだい?」

 もう忘れたのか?僕は見ただけで異常を消せる。お前のその体に使っている異常(いたみどめ)を消し去ってやるよ。

 僕は厳重郎を睨み付けた。

「ぐわっっ!」

「厳重郎!」

 ピクシーとの戦いを切り上げて水戸が駆け寄る。

「あの人どうしたんですか~?」

 こっちに質問をしながらピクシーが帰ってくる。

 厳重郎は自分の異常で痛みを閉じてたんだよ。だからそれをこの目で無かった事に捻じ曲げただけ。簡単に言うと、流れをせき止めていたものを外してやっただけだよ。

「あなたのその目は反則気味だけど、面白いし、観察甲斐があるわ。まだまだ、私たちには異常は解らないわね」

「わ~、さすがご主人様です~」

 いや~それほどでも~。けど、まだ終わってないよな。

 僕は目を戻して二人をタッチしに行く。

「くっ・・・・・・っ!」

 厳重郎大丈夫か?

「もう・・・・・・やっぱりっ・・・イッコク君はずる過ぎるよ・・・・・・・・・そんな力まで持っているなん・・・て」

 まぁな。

 んーどうも見た感じ、死ぬようなことはなさそうだな。よかった、よかった。

「はぁ、完敗か・・・・・・おい、イッコク。さすがにさっきの目はずるくないか?」

 まぁね。確かに反則かもな。

 だけど、正直使いたくは無かった。こっちの負担大きいし。

「お~い、イッコク、無事か?」

「イッコー!」

「おわったようであるな」

 お、偉繰たちが来た。これなら安心して眠れる・・・・・・実を言うとさっきからフラフラなんだ。この異常はやっぱり反動が大きいな。

「どうやらリミットが来たみたいだな」

「・・・・・・そうみたいだね」

 リミットって偉繰たちが此処に来るまでだったのか。まぁ二人で僕たち全員と相手するのはきついだろうからな。

「そういうわけじゃないんだけどね」

 ならどういうことだろう。

 どういうことか聞きたいが、そろそろやばい、体が倒れそうだ・・・・・・

「寝て良いわよ」

 いつの間にか党夜が僕の後ろで肩を支えてくれていた。

 ありがとう。悪い。

「別に良いわ。良いもの見せてもらったし」

 そうか。けど、ちょっと寝る前に用事がある。おい、厳重郎、水戸、こっち向け。

「わかった」

「わかった」

 二人が同時にこっちを向く。さすが双子息がぴったりだな。

 僕はだるい体に鞭打って、二人の顔を軽く叩いた。すると、二人は固まった。

『うん?勝者が決まったみたいだね。今回も優勝チームはマイミルクの皆さんでした~。ぱちぱち~』

 まぁ偉繰にゲームを終わらせろと言われていたし、親玉は一発殴ると決めていたからな。これで、僕の役目は全て終わった。それにしても枚狗先輩ちゃんと仕事していたんだな。今まで知らなかった。

 あぁ久しぶりに僕も仕事をしたから疲れた。しかもあの目、使っちゃったし・・・・・・こういう時こそいつものように退屈、面倒くさいといって逃げたいな。けどまぁ、少しは楽しかったかな。今はちょっとだけ人生の達成感、満足感というものを得られたかもしれない。

 偉繰の命令もちゃんとしたし。怒られることはないだろう。

 ふあぁ~。

 じゃあちょっと疲れたから・・・・・・おやす・・・・・・み・・・・・・・・・・・・

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