眠る姫
ある日、森のなかでお姫様が命を落としてしまう。
『魔女に紡錘で刺された』とも『継母に林檎を食わされた』ともウワサされたが、原因は定かではない。
それどころか、何故こんなところにお姫様がいたのかも、どこのお姫様なのかもわからない。
わかることは、きらびやかな宝石を身につけて華やかなドレスにつつまれた女性がそこに『ある』ということだけだ。
近くの村の住人たちも森に住む動物たちも「どうせすぐ王子様とやらが来るだろう」とそのまま放置していた。
その予想は的中せず、一ヶ月経っても一年経ってもダレもお姫様を迎えには来ない。
お姫様は相変わらず森で安らかに眠っている。
そんなお姫様を気味悪く思い始め、お姫様の扱いについて村人や動物のあいだで話し合いの場がもたれた。
数回の話し合いの末、お姫様は森に葬るということになった。
お姫様を棺桶にいれて丁重に埋葬し、近くの大石に『姫様 有』とだけ漢字で彫っておいた。
お城の使者や王子様が迎えにきたときに、どこにお姫様が埋まっているかわかるようにだ。
それから幾年も過ぎ、村も森も世代が変わる。
住人たちにも動物たちにも、お姫様の存在はすっかり忘れ去られてしまう。
大石に書かれた文字も風化して、いまはもう読み取ることができない。
村が大きくなり、人々は多くの土地を必要として森を開墾した。
切り開かれた森は、農地や商店や住宅やが立ち並ぶ大きな町へと変わっていく。
できた町も、時代の移り変わりとともに大小さまざまな変化をなんども繰り返した。
いまでは、森の面影はなにひとつない。
そして、森であった土地も含めて地域一帯を大企業が買い上げた。
政府援助による大規模な複合商業施設の建設を予定してのことだ。
工事が始まりしばらくが過ぎ、重機による掘削作業中に棺桶が掘り起こされる。
棺桶はほとんど朽ち果てていたため、重機による採掘で崩れ落ちた。
ボロボロだったいれものとは対照的に、なかにいれられていたお姫様は美しいままだ。
ドレスも宝石もまったく色あせることはなかった。
息をしていないということ以外は、まるで生きているかのようだ。
ひらひらするドレスを手早くまとめて作業員はお姫様を肩に担いだ。
遠くで上の人間と談笑している監督に指示を仰ぐ。
「これ、どうしますかぁ?」
監督は声の方向へ目を向けることすらしなかった。
談笑をつづけながら手だけを作業員へ差し向け、すばやく払い捨てるような動作を二度ほど見せた。
「ウィっす」
返事をした作業員はお姫様を近くの手押し車に載せて運ぶ。
荒く整地された土の道を進むと、すでに役目を終えた深い縦穴があった。
穴に向けて手押し車は傾けられ、暗く深い穴の底へとお姫様は滑り落ちていく。




