せんせいあのね
今日は水曜日。
家庭教師の先生が来る日だ。
家庭教師って言っても大学二年生だから二つしか年は変わんないんだよね。
メイクや服装のせいでなんだか大人っぽくてドキドキするけど、ドキドキするのは先生が年上でメイクがばっちりで服装が可愛いからじゃない。
私の最愛の恋人だからだ。
「言っておいた予習はちゃんとした?」
新発売されたばかりのグロスでぷるぷるのくちびるで先生は勉強机の前に座ってる私の後ろに立って机の上のノートを覗き込む。
まさか忘れたと言ってばっくれるわけじゃないよねせんせー?
もちろん私の予習じゃない。
ちゃんとやっておかないと先生が辞めさせられちゃったら困るしね。
「先生こそ宿題、忘れてないよね??」
ぎくっとなって固まる先生。
覚えていてくれて何より。
「・・・・・・なんのことかしら?」
なるほどしらをきりますか。
「忘れちゃったの?せんせー。」
視線を泳がせながらとぼけてる先生を座ったまんまで見上げる。
可愛く見えるように首を傾げてみたりなんかして。
先生の反応を見るまではこんなのぶりっ子してるのみえみえでいたいと思ってたポーズだったんだけど、
「ううっ・・・・・・。」
結構効果はあるみたい。
ちょろいな先生ってば。
恋人としてはかなり心配なんですけど、他にも生徒いるって言ってたし。
ま、私でさえ落とすのに結構時間かかったもんね。
何しろ鈍感で鈍感で、大変だった。
見た目は大人で中身は子供なんだから。
「ちゃんと覚えてるんじゃん。持ってきたんでしょ?先生忘れ物にはうるさいもんね。」
「もってきましたとも。」
「はいはい、ちゃっちゃとつけるつける!」
先生は諦めたのか悟りでも開いたのか自分のバックを開けて私のお願い(命令じゃないよ?)どおり猫耳を取り出して頭につけた、ピンク色でちっちゃいの。
かわいいなぁ。
まぁ予想どおりっちゃそうなんだけど、想像するよりも実際に見たときの方がやっぱりパンチ力が違う。
なんていうか先生の羞恥でまっかっかな顔とか、頭を抱えてるとことか。
事実は妄想より萌えるね。
「もう無理だよ、お願い勘弁して~~~。」
あ、うずくまっちゃた。
耳がぴょこんと見えてて可愛い。
でもこれくらいはサービスしてもらわなきゃね。
私と付き合うとき先生はいくつか条件をつけた。
1、高校を卒業するまでは先生と呼ぶこと。
2、タッチはなし。(手を繋ぐのも×)
3、外では会わない。
精一杯年上ぶってこの条件を提示した時は私は固まったものだ、私は自慢じゃないが本能のままに今まで生きてきたわけで、それこそナポレオンのように私の辞書に我慢はないと公言して生きてきたのに。
生まれて初めて好きになった人にこんなことを言われた日には。
明日から私はSになりますと神様に誓わずにはいられなかったわけで。
富良野の冬は寒いわけで。
いやここは東京だけどね?
「せんせー??」
私は挙手して先生に声をかける。
「なんですか、和泉さん。」
律儀と言うかお約束と言うか先生っぽく返事をする先生。
「にゃーは??」
「ほえっ??」
「先生は今日猫なんだから、猫語をしゃべらなきゃ。ま、私も鬼じゃないから?いきなり全部猫語でしゃべるのは無理だろうからとりあえずは語尾につけるだけでいいよ??」
「ちょちょっと落ち着こうよ和泉さん!それはきいてないよ!?」
うずくまった状態で前に乗り出すからなんか土下座みたいな姿勢になる先生。
あ、四つんばいともいうのかな?
上から見下ろしてるとなかなかの眺めだ。
うむ、苦しゅうないぞ。
でも、そんなのかんけーねー。
「にゃーー、は。」
「き、きいてないにゃーーー。」
ごちそうさまです。
もうおなかいっぱい。
すごいな猫耳。
初めに考えた人天才じゃない?
巨乳って言葉を作ったホリプロの社長よりすごいよ。
さ、満足したし勉強、勉強。
「じゃ、今日は二次不等式をやりましょう。」
「にゃー。please after me?」
「きょ、今日は二次不等式にゃー。」
「はーい。頑張りまーす!」
ほんと和泉さんって不思議な子。
初めて会った時は可愛らしくて教えやすそうな子だなって思ったんだけど。
そのうちよく目が合うようになって、気づかれないように一人でどきどきしてて。
そしたらある日『せんせいあのね?実は私先生をすきになっちゃったんだ。』って震える声で言ってくれて。
あまりに一生懸命で可愛くて、嬉しくてこちらこそお願いしますって思わず返事しちゃったんだよね。
でも付き合ってからはほんと意地悪。
今日だって小テスト90点以上の御褒美は何がいいって聞いたら少し考えたあとそれはもう嬉しそうな顔で猫耳っていったんだよね。
私はてっきり、き、キスとかおねだりされるのかと思ってたんだけど。
実は真面目な子で約束したことはきちんと守る子。
最近ほんとに頑張ってるから、き、キスくらいいいかなって思ってたんだけどな。
ちょっと拍子抜けしたことは内緒。
言ったら絶対『先生私とキスしたいの?』ってニコニコしながら言われるもの。
今だってさっき宣言したとおりちゃんと集中して勉強してる。
私は集中力ないほうだから素直にすごいなって思える。
「あ、まって和泉さん、そこ間違ってるよ・・・・・・」
「え?あ、そっかこれは・・・・・・。」
私が語尾ににゃーつけてないことにも気づかずに問題を解いている。
こういうところ好きだな。
少し茶色に染められた短めの髪を後ろから眺める。
こんな風に真剣な彼女の横顔を盗み見るのが実は大好きで、私は水曜日が待ちどうしい。
彼女も水曜日が待ちどうしいと感じていてくれるといいな。
ねぇ和泉さん。
大好きだよ?
でも結局彼女はやっぱりというかなんというか私が途中からにゃーを言っていないことに気づいていてそれの×ゲームとしてセーラー服を着せられることになるんだけど、それはまた別の話・・・だにゃーー。