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緋の扉2 ~いつかの断片~  作者: 緋龍
想いの果て
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41話 魂の叫び

「待て!」


 ライカを追おうとするファムカ。

 彼女の鼻先にダレスは大剣を振り下ろした。

 がんっ、と大きな音がして、白い床に剣がめり込む。

 

「お前の相手は俺だ」


「ちっ」


 進路を遮られたファムカは大きく後ろに飛び下がり、地面に手をつき、怒りに顔を歪ませた。

 その隣に、ヴォードに攻撃を弾かれたシュニカが、空中で身体を回転させ着地する。


「なんでだ? なんでこんなことをする? お前たちの目的は女王なんだろ。だったら彼女だけ狙えばいいじゃねえか。なんで王都の民を皆殺しにしようとするんだ」


 ヴォードが攻撃の手を止めて口を開く。

 ダレスも床にめり込んだ剣を抜き、敵意の篭った眼で睨んでくる血濡れの双子を見た。

 彼女たちは強くない。王宮の外で戦った、痛みを感じない民の方がよほど手強かった。槍を使えてはいても、並以上の兵士、ましてや騎士と渡り合える腕ではないのだ。

 それは最初の一撃で分かった。

 自分たちが敵う相手ではないと向こうも悟ったはずだ。

 なのに、なぜ戦意を失っていないのか。

 先に行かせたライカのことが気になりつつも、ダレスは二人が口を開くのを待った。


「私たちが受けた苦しみを」


 ファムカがくらく呟く。


「私たちが受けた哀しみを」


 シュニカがくらく囁く。


「彼らにも与えてあげたのよ!」


 昏冥こんめいの二重奏を奏で、双子は再びダレスとヴォードに槍を振りかざす。

 その攻撃は最初より素早く、重い。一撃一撃に彼女たちの魂が宿っていた。


「この国は私たちの母を殺した!」  


 ファムカの槍がダレスの喉元を狙う。


「この国は私たちの父を殺した!」


 シュニカの槍がヴォードの心臓を狙う。


「私たちの友達を殺した!」


 ダレスの大剣をファムカは身を低くしてかわす。


「私たちの大切な人を殺した!」


 ヴォードの二剣をシュニカは身を翻して避ける。


「……私たちの、未来を、殺したっ!」


 ファムカは下から、シュニカは背後から、同時に渾身の一撃を繰り出した。


「…………」


「…………」


 ――からんからんからん。

 金属が床に落ちる音が大広間にこだまする。


「ファムカ……」


「シュニカ……」


 かすれた声で名を呼び合った双子は、どさりと床に崩れ落ちた。どちらも脇腹から血が溢れてきている。

 磨き上げられいた白く輝く床や壁には、戦いの痕が克明に刻まれており、そのいくつかに赤い液体が流れ込んでいく。

 ダレスとヴォードがつけた傷は浅くはない。だが、すぐに処置を施せば助かる程度でもあった。

 手加減したわけではなかったが、迷ったのだ。

 彼女たちを殺してしまうことを。 


「全部話したら手当てしてやる。だからもう終わりにしろよ」


 剣を鞘に戻し、ヴォードはシュニカの傍に屈む。


「お前たちは三の翼と四の翼だと言っていたな。二の翼が女王の命を奪おうとしているとも。では、一の翼はどこだ? 『嘆きの四翼』と名乗っているからにはもう一人いるのだろう。そいつは誰で、どこにいる?」


 大剣を床に突き立て、ダレスはファムカを見下ろす。


「……残念だったわね。あの方は、もうここにはいらっしゃらない」


 ごほっごほっ、とシュニカは咳き込む。


「残念?」


「あの方……セアルグ様を追っているんでしょう。聞いているわ、貴方たちのこと。……先に行った()のことも」


 ファムカがライカのことを女と言った瞬間、ダレスの細く鋭い眼が、かっ、と見開いた。


「奴はどこにいる!」


「ルーク、落ち着けって。なあ、お前らはセアルグにそそのかされてこんなことをしたのか? 一体奴に何を言われたんだ?」

 

 ヴォードが優しく問いかける。

 もしかすると、二人はセアルグに騙されているのかもしれない。リムストリアを憎むよう、色々吹き込まれて操られているのかもしれない。

 そんな考えがヴォードの頭をよぎった。

 しかし――


「ふっ」


「ふふっ」


 ファムカとシュニカは声を上げて笑いだした。血の混じった咳をしながら、痛みに顔を歪めながら、二人は笑い続けた。


「何がおかしい」


 ダレスが苛立った声を発する。


「……お前たちは何も分かっていないわ」


 笑うことを止めた双子は、よろよろと身体を起こし始めた。


「セアルグ様は真実を与えてくれたのよ」


 床に置いた手は震え、脇腹からは血が流れ続けている。


「馬鹿、動くんじゃねえ! 死にたいのか!」


「そして、私たちに思うままに行動しろと仰った」


「だから私たちはここにいる」


 ヴォードの制止を無視して、双子は上半身を起こす。

 そして震える手で胸元に手を入れると、小さな瓶を取り出した。

 瓶の中には液体と細かい砂のようなものが入っている。


「それは、何だ」


「……あの方が与えてくれたのは真実だけじゃない」


 幸せそうに微笑むと、ダレスとヴォードが止める間もなく、双子は瓶の中身を飲み干した。



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