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- 終章 -

 俺は今、ばあちゃんを黄泉之国へと見送る為に実家に戻って来ている。

 残りの貴重な時間を俺の入院先への往復と付き添いに使わせてしまったが、それでも棺の中に横たわるばあちゃんの穏やかな顔を見ていると、きっと最後にゆっくりと話が出来た事を喜んでくれてたんだと、そう思える。


 お袋は"婆ちゃんっ子"だった俺が取乱したりしないか心配していたが、妙に落ち着いている姿を不思議に思いつつもどこか拍子抜けしているようだった。

 まぁ俺としては、ばあちゃんが死を迎える日時が分かってたし、何よりその死は"誰かに息を引き取ってもらう必要の無い安らかなもの"だと知ってたからな。


 もちろん悲しみの感情はあるがそれ以上に、悔いが残る人生じゃ無くて良かったな、大好きだったじいちゃんの傍に行く事が出来て良かったなって、そんな思いの方が強かった。

 俺が先に行って景色のいい場所を取っておくって約束は守れなくなったが、逆にばあちゃんが後から行く俺や弟の為に場所取りしててくれよ。

 それがいつになるのか分からないけど、それまでじいちゃんと仲良くな……

 

 一通り式を済ませた後は平穏を取り戻すまで3日程滞在したが、俺は怪我の治療もあるからと都会へと戻ることにした。

 お袋はあと一週間くらいは泊まってのんびりしなさいと言うが、何もしない時間を過ごす事が耐えられなかった。

 俺が今こうして生きてるのはミコトが罪を犯してまで息を吹き返してくれたから……

 この命はミコトが自分の存在のすべてと引き換えにしてまで俺に与えてくれたものだから……そんな大切な時間を無駄にする事など出来はしない。


 今まで以上に大学では知識を得る努力をし、やりたい事、出来る事には正面から挑み、死を受け入れる覚悟をしていたあの時よりも充実した人生を歩まなければならない。

 別に使命感や強迫観念に迫られてる訳ではなく、そうする事が一番ミコトが喜ぶような、そんな気がするからな。


 ただ玄関を開けた時の寂しさはいつまで経っても慣れる事はなかった。

 ミコトと出会う前の生活に戻っただけなのに……

 二年以上続けてきた一人の生活に戻っただけなのに、やるせない気持ちでいっぱいになる。


 そんな時、不意に扉を叩く音が聞こえた。

 通販で買い物をした覚えは無いし、お袋から何かを送ったと言う知らせも無い、きっとまた新聞か宗教の勧誘が来たんだろう。

 こう言った類の連中は一旦扉を開けて顔を見せてしまうとクドクドとしつこく迫ってくるからな、無視するのが一番の正解だと思う。

 相手は俺の所だけでなく何件も回らないといけない訳だから、いつもは無視していればすぐに諦めて退散してたのに、今日の敵はなかなか手強く五分以上経っても帰る様子が無かった。


 このまま勧誘なんかの為に気配を隠して部屋に篭るのも馬鹿らしいし、何よりいつまでも玄関先に立たれてると近所迷惑になってしまう、ここは一つ厳しく注意しないとな。


「おい! 勧誘ならお断りだ! そこに居られると迷惑…………」


 玄関を開けると同時に怒鳴り声をあげた俺の目に信じられない光景が飛び込んできた……


「一郎さん……」

「ミ、ミコト……なのか?……」


 静かにうなずく彼女を俺は力強く引き寄せ抱きしめた。

 腕の中に感じる存在感と温もり、これは夢なんかじゃない……寂しさの余り幻を見てる訳でもない。

 確かに……確かにミコトはここに居る。


「どこに行ってたんだよ! 黙って居なくなるなんて酷いじゃないか! 心配したんだからな」


 色々な感情が溢れ出し何を言っていいのか収拾がつかない、だがそんな事はもうどうでもいい。

 ミコトが腕の中に居る、それ以外何も望む事はない。


「やっぱり使命を否定しなくてもいい方法があったんだな? そうなんだろミコト?」


 期待を持って掛けた言葉に対しミコトは首を横に振った。


「いいえ……神である事を否定し……与えられた使命を放棄してしまったんです……そんな自然の摂理に反する行動をとった私の罪は決して許される事ではありません……」


 そんな馬鹿な!

 俺の息を引き取らなかった事が使命の放棄だと言うのか?

 俺に息を吹き返した事が自然の摂理に反する大罪だと言うのか?


 だったら俺を罰すればいいじゃないか! 俺が予定通り死を迎えれば何の問題もないじゃないか!

 そうだろ別天神コトアマツカミ

 ミコトに罰を与える必要がどこにあるって言うんだ! 答えてみろよ!


 …………


 どうして……どうしてミコトが……


「一郎さん……私は神として最も重い罪を犯しました……だから最も重い罰を受けなければなりません」


 最も重い罰? ミコトはどんな罰を受けなきゃいけないんだよ。


「神としての存在を奪われ人間の世界に落ちる事……そして人間として限りある寿命を嘆き……いつ訪れるか分からない終わりに怯え……やがて死を迎える事……それが私に科せられた罰なんです……」


 それが……罰?

 それが大罪を犯した者に科せられる最も重い罰だと言うのか?


 …………


 ははっ……

 あははははっ……

 別天神とやら! あんたは八百万の神々を統治し何千年も世界を見守ってきたくせに、人間の事を何も分かっちゃいない!

 

 限りある寿命を嘆く?

 いつ訪れるか分からない死に怯える?


 人は命に限りがあるからこそ今を大切に生きる事が出来るんだ!

 やがて死を迎えるからこそ他人を思いやる事が出来るんだ!


 あんた達は永遠に生きられる事が幸せだとでも思ってるのか?

 使命だけを考え、孤独な時間の中を永遠に存在し続けるあんた達が幸せだとでも言いたいのか?


 冗談じゃない!


 愛する人がいつも傍に居てくれる、それ以上の幸せが他にあるって言うのか?

 愛する者と同じ時間を生きる事が出来、同じ様に年老いて行き、そして死を迎え、その後も同じ場所に行く事が出来る……こんな幸せな事が他にあってたまるか!


 残念だったな! あんたは最も重い罰を与えたつもりか知らんが、こんなに嬉しい事は他に無い!

 俺もミコトもこれ以上無い幸せを感じている!


「ミコト、もうどこにも行かないでくれ、頼むから」

「はい……二人が年を取り、やがてお互いの息を引き取るその時まで、私は決して一郎さんの傍を離れる事はありません……」

 

 神では無くなったミコトと俺の間には、もうお互いを引き離すものは何も存在しない……


 こうして共に人間として生き、人間としての幸せを育む……

 そんな二人の新しい物語が始まった……

 

 


 


                          -おしまい-

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