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矢気失気

作者: 荒井爽馬

この「話」はノンフィクションです。

「おはようございます。あの…金曜日の弔電ありがとうございました」

「おはようございます。大変でしたね。無事に終わりましたか?」

「は…はい。無事に」

そして社長に対して弔意のお礼は終わった。


弔意(ちょうい)とは~人の死を悲しみとむらう気持ち。Webで調べてそんな意味なのだとわかった。いや、わかったような気持ちになった。


そして弔意を表すためにために撃つ空砲は、「弔砲」ということを知った。いや、知った気持ちになった。


僕は言葉の意味を勝手なイメージで解釈をする天才であるとつねづね思っている。

もし「天才とバカは紙一重」なのだとしたら、僕は普通の人を超越してしまったバカなのだと認めざるをえないのだけれど。

でも、バカといわれるのは嫌なので前置きに自己PRさせてください。


僕はバカではなく超天才なのだ!と。



告別式で椅子に腰かけ、弔砲を放つ準備は完了した。

長椅子についたまましばらく祝砲の制御機関の調整を確認していたが、どうやら今日は調子が良いらしい。

今朝はサツマイモを三つ食べてきたのだからこれで準備万全でないわけがない。

つまり、現在の腸の中にあるガスの塊は外界に出んとしていた。

これでいつでも祝砲をあげることができるはずだ。

葬儀場で祝砲なんて場違いで不謹慎!なんて思う人がいるかもしれない。

でもこれは亡くなったお婆ちゃんからのいいつけなのだ。

「自分の式場では これ をしなさい」っていわれていたから、 これ をすることがお婆ちゃんに対するねぎらいになる。

お婆ちゃんの最後の願いを叶えてあげられる。

だから葬式を大成功で終わらせるために、僕は頑張って噴出せんと!



告別式は始まって十五分経過している。

お経を唱える音だけが会場に響き、棺に対して祈りをささげる人達が椅子に座り続けていた。

二列目の席から視線だけを動かして、みんなの様子を見る。

みんな、無表情の能面をかぶっているようだった。

後ろの方は見えていないけれど、みんな楽しくなさそうな様子だった。

しかし、この動作が僕を窮地に立たせる引き金になってしまったのだ。

お腹に対する意識から離れて考え事をしていた天才な自分は、レットゾーンの境界にいる腸の内部について気づけなかった。


あ…やばい。


途端に発射口に空弾が近づいてきた。

危ない!と思い、腹筋とお尻に力を入れて無理やり出口を塞ぐ行為に専念する。


「まだだ、まだ早い」


小声の独り言は周囲の耳にはとどいていなかった。

僕はこう門に力を入れて、外にでたがる空気の塊をおしとどめることに従事する。



「葬儀で祝砲をあげようとおもう。花たむけと一緒だよ。大丈夫、一般的なヤツとちがって、うるさくなくて他人に迷惑なんてかからないよ。どう、一緒にやらないかい?二人いればボリュームも倍増。会場の盛り上がりも倍増だ」


以前こんな感じのことを親しい友人に言った。

どうしても、気持ちが熱くなると周りの人を巻き込もうとしてしまう。

一緒にやってくれないことはわかっているのに。


「お前の屁への鈍感さは異常」


これが、友人の返答だった。

なんだか僕が間違った考え方をしているような言い方である。

だが僕は天才なのであって、異常では無いのだということを知っている。

知っているから自信をもって行動に移せる。

それだけだった。

僕のすることが正しいと認識することで、人前で放屁することが恥ずかしくなくなる。

人前で放屁をすることは人間にとって健全な行為なのだと、恥ずかしいことではないのだと確信しているから僕は躊躇などしない。


だから今日も当たり前のように勢いよく、スカしてやろうと心に決めているのだ。


それでも、タイミングを計らなければならない場合は、多少の苦痛もいとわない。

空砲はデカければデカいほど、迫力がでる

今日はめっちゃデカい一発にしてやろうと、心に決めていた。

そのためには、空弾を溜め込む作業が必須だ。


お尻をもぞもぞと動かして、屁の制御に意識を集中していたが…。いきなり邪魔が入ることになる。



「かぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーつ!」


そんな、気合いの入った叫びが聞こえた。

お坊さんの方からだった。

「難妙法蓮華今日〜」のようなゆっくりとしたテンポのお経から「喝!」なんて叫び声をだされるとは思いもしなかった。

よそ事を考えていた僕はいきなりの予想外の声に現状を読み込む暇もなく、





「うわ、プーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんぶーーーーーーーープーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


驚いてしまった。

やってしまった。

こう門からバルーン風船の圧縮から解放されたような、感覚があった。

気の抜けたプーという音が会場に響きわたる。

さっきまでピンと張り詰めた空気でお経を唱えていたお坊さんの手が止まり、後ろを振り向いた。


会場の人間残らず全員、僕に注目していた。

もうお尻からは「ふー」という音しかしないくらいに弱っていた。

その「ふー」という屁が生前病室で一生懸命息を吸ったり吐いたりするだけのあのお婆ちゃんの姿を連想させた。


僕の屁がみんなに届きますように


読む…見て下さってありがとうごさいます。



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