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馬鹿な彼女とずるい彼

作者: 豌豆


至って平凡な高校で目まぐるしく動く生徒達。彼女、柊 愛奈(ひいらぎ まな)もまたその1人である。


「早く早く!急いで!」

「ちょっ、有里速いって!」


息を切らしながらも必死について行く愛奈。彼女の"友達"である有里は面白そうに笑っていた。


「本当愛奈って体力ないよねぇ」

「ごめんって~」

「いいから、ほら!早くしないとパン売り切れちゃう」


有里が視線を人だかりのできる購買にやる。愛奈が途端に笑顔を消したのを有里は知らない。



私立である当校では食堂で食べるも中庭で食べるも、はたまたスタンダードに教室で食べるのも許されている。大半が教室で机を寄せ合う中、1人寂しく食堂の隅っこでパンをかじる青年がいた。名を折部 秋吉(おりべ あきよし )という。

そんな秋吉の前の椅子が引かれる。口一杯にパンを頬張りながら秋吉はそれを見上げた。


「よっ。相変わらずしけた面してんなぁ」


茶髪がかった髪は一見染めようとして失敗したようだが彼は地毛だと言い張っている。だがそれを考慮して尚あまりある美貌、才能。つまり彼は超人のようなイケメンだった。爆発しろとか言われるらしいけれど本人は軽く笑っている。

そんな彼が何故秋吉に話かけるのか、それこそ秋吉も疑ったものだ。というか今も疑っているが。初対面で悪いくせ(ツンデレ)が出てしまい、「お前に話かけられても全然!これっぽーっちも嬉しくねぇよ!(うわ、どうしよ!超嬉しい!)」とか言ってしまったのだ。それで何故話しかけてくるのか、秋吉には全く理解できなかった。


「お、それカレーパンじゃん。一口頂戴」

「…自分の食えよ(どうぞ!)」

「じゃあ俺のハンバーグも一口あげるから!おねが~い」

「…しょうがないから一口だけな(好きなだけ食え!)」


ちなみに秋吉は無表情であるが内心素直になれない自分にかなり落ち込んでいる。秋吉は基本が無表情だから誤解されやすいのだが、実はかなり感情豊かなのだ。


「んぐっ、うまいなこれ!」


キラキラした笑顔で彼、佐々部 朱鷺(ささべ とき )が言う。内心大喜びなその言葉にさえ、「そうか」とだけ返す秋吉はやはり安定の無表情だった。




秋吉は意外とかっこいい。朱鷺ほどではないものの雑じり気のない黒髪は秋吉の雰囲気に合っていた。余談だが、告白をされる度あまりにてんぱり過ぎて「…迷惑だ」と返している。告白までされるのか!と思ったそこのあなた。勘違いに勘違いを重ねてミステリアスだとか寡黙だとか言われている可哀想なやつなんだ。許してあげて欲しい。

っと、少し話がずれたが要は話しかけたいと思っている子も大勢いるということだ。ちなみに愛奈が在籍するグループでも度々話題に上がっている。


「折部くんってミステリアスで何かいいよねー」

「ねー!」


"友達"が"友達"の意見に賛同する。だから愛奈も「だよねー!」と言う他なかった。


「愛奈話しかけてみてよ」

「え!?無理無理無理!」

「確かに愛奈なら焦って転ぶくらい仕出かしそう(笑)」

「ちょ、ひどっ!」


わざとらしく愛奈が泣き真似をすれば「バーカ(笑)」と友達二人が言った。それに愛奈の口端が少し持ち上がったのはきっと誰も知らない。




昼食が終わり生徒に眠気が襲いかかる。それを更に増進させるようなスピードと声音で来年還暦を迎える先生が言った。


「すまんが今日の日直は放課後残ってくれるか?」


奇しくもそれは愛奈と秋吉であった。


放課後、言われた通りに先生を待っていた愛奈であったがすでに退屈になっているようだ。先生は職員会議でもしているのか教室に二人以外いなくなっても現れず、ついには秋吉さえ暇だと心の中でごねだした。


「…………ねぇ、折部くん」


突然愛奈に話しかけられた秋吉は内心もの凄く同様している。しかしそれを全く出さず(というより出せず)ただ黙って愛奈に視線をやった。


「暇だね」

「…そうか?(まぁ、暇だよな)」

「ふふ、折部くんはすごく素直だね」

「俺が?」


どこをどうとればそうなるのかわからなかった秋吉は思わず聞き返す。それに愛奈は「素直だよ、すっごく」と小さく笑って返した。


「だっていつも思っていることと正反対のことを言うでしょ?それってわかりやすくて素直じゃん」

「……はぁ(俺のこと初対面でわかってくれた人は、初めてだ)」

「少なくとも………」


そう続けたきり言葉を紡がない愛奈に何が言いたいのかを悟る秋吉。


「俺は…柊はすげぇなって思う、けど」


それは、珍しく彼が口にした本音だった。


「……今のはどっちなんだろう。でも、多分だけどね…本音だと思う。どうかな?」

「…違ぇよ(うわわわ、また!)」

「今度は嘘。わかりやすいね、折部くんって(笑)」


秋吉は胸に広がるじんわりとしたこの甘い疼きが何なのか知らなかった。


「…さっきはね、私よりは素直だって言おうとしたの。私昔から人より人の感情に敏感で、気持ちを読み過ぎる所があったから…ずーっと人に気に入られる子を演じてきた。それでも私をむかつくと思う人はいるみたいなんだけどね(笑)…友達だって内心別の友達にむかつくと思っているくせに笑って話してたりしてさ…そういうの、苦手なんだ。だから折部くんと話してると楽…って何言ってるんだろう私。忘れて(笑)」


秋吉は愛奈の満面の笑顔は見たことがあるけれど、こんなにも儚げに笑うを見たのは初めてだった。だからこそ秋吉の胸が締め付けられるように痛いのかもしれない。


「…俺、素直になれないっていいことじゃねぇなってずっと嫌悪しててさ、ずるくなりたかったんだ。裏表のある人を羨ましいって思うくらいには。…でも俺、柊の言葉聞いて考えが変わった。いいよな、素直でも。だから…さんきゅ」


それは秋吉にとって精一杯の励ましであり、また伝えたい本音であった。


「折部くんってかっこいいね(笑)」

「は、ぁ?」

「うん、かっこいいよ」


確かめるように言う愛奈の心臓はかつてないほどに高鳴っていて、その感情を知っていた愛奈はすんなりとそれを受け入れた。


「今度一緒に出かけたいな、なんて」

「……やだよ!(うわ、何着てこう?つかどこ行けば喜ぶんだ!?)」

「ほんと、素直じゃないよね」

「うっせー(…わかってくれてる)」


幸せそうに笑う愛奈と頬に赤みが差す秋吉。きっと二人が付き合うのはそう遠くない未来の話。

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