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真夜中の密会

7、真夜中の密会



「それでこれからどうする?」

 私が落ち着いたのを見て、タイが言った。


私はタイの顔を見た。無精髭の生えた疲れた顔。鬢のあたりに白髪が見える。この事故で生えたのかも。


「タイはどう思う?」

「俺?そうだな、救助が当てにならないなら自分らで出るしかない……かな?」

「うん」

 私もそう思う。


「それか、ここで暮らしてもいいなとか?」

「へっ?」

「こんな暮らしもやってみれば、結構楽しいって事に気付いた。性に合うっていうか」

「バカな事言わないで。親とか友達とか心配じゃないの?」

 こんなとこで死ぬのを待つだけなんて、嫌だ。


「性に合うって言っても、ミヤに全部やってもらってるけどな」

「そうだ、ぐうたらしたいだけだろ?」


「ぐうたら、とは違うかな。事故前は毎日忙しいってあくせく働いてさ、で、疲れて帰って酒飲んで寝て、朝はむりくり起きて、また疲れに行くんだよ。働くのも疲れるのも、生きてればこそだけど。その代償が、金で、じゃなきゃ生きていけないと思い込んでた。じゃ今は?金なんかないけど、満たされてる。あの生活は矛盾だらけだ。まあ、今はまだ物珍しさかもしれないけど。貴重な体験してるって分かる。ミヤのおかげだな。ミヤがいなかったら、とっくに死んでた」


 タイはありがとうと囁いて、耳元に口付けた。こんな雰囲気になると思ってなかった。不意をつかれて、タイの顔を見られなかった。抱えた自分の膝をじっと見て、固まってしまった。


「不適切な場所ですよ……」


 タイは私からはなれると笑って言った。

「足が治ったら、たくさん働くよ。体を動かすのは好きなんだ。イカダつくりでも、家を立てるんでも、なんでもいい。協力してやって行こう」

「うん」

 必ず生きて帰ろう、と本当に言いたいことは言わなかった。


 この島にいて彼が見つからない以上、私は家に帰るしかない。

 なるべく早く人間のいるところに行く。もしくは救助される状況にならないといけない。


 そんなことを考えていたら、この4日間の疲れと睡眠不足がどっと押し寄せて眠りについた。


 まきがはぜる音で目が覚める。ゆっくりと浮上する意識を突然覚醒させたのは、タイの不在だった。焚き火にたされたまきは、まだ燃え始めたばかりで、いなくなって間もないことを伝えていた。


 いつもタイのいる辺りをよく見ると、今まで見たことなかった跡が砂の上に。まるで子供が描いた電車遊びのレールみたい。そのレールの間に足跡がひとつ。

 レールは海のほうへ向かっている。


 用を足しに行ったのかしら?とあまり近くに行くのは避けて、波打ち際から遠く離れて目を凝らした。

 タイかと思ったら岩だったりする。もしかして、用を足してる最中に波が来て流されてたりして?!

 せっかく助かってもそんなことになったら、死んでも死にきれないだろうが! 

 波打ち際を走っていると、松葉つえ代わりの棒が二本落ちていた。


「タ……」

 大声を出そうとしたら、波間にタイの姿が一瞬見えた。

「ああ、いた。良かった」

 思わずつぶやくと、タイが振りかえって私のほうを見た。向こうからも見えないだろうと、ジャンプして手を挙げた。

 タイも手をあげて、こちらに戻ってくる。


 ん、あれ?なんかタイの後ろに人がいるように見えるんだけど。

 見えるというか……感じる?あの洞窟探しの時みたいに。そう目で見えるんじゃなくて、心で見える。 その存在に対する適当な言葉が見つからないけど。強いて言うなら生き霊か。

 

 びしょぬれで海から上がるタイは、ものすごく元気だった。

「なにしてたの?」

「言わせんなよ」

「は?」

「ひとりじゃなきゃできないことだよ」

「やっぱ、トイレか。でもあんまり遠くに行くなよ」

「……おお」


「それより、タイの近くになにかいなかった?」

「いいや、いない」

「そっか」


 隠してる、何かを。

 わざとらしさ満点の返事に呆れかえる。きっと嘘がつけないんだろうな。私は話したいけど、タイにとっては隠したい存在なんだ。

 いったい何なんだろう?


 翌朝、タイはなかなか起きなかった。反対に、私は爽快な気分で起きて、はじめて釣りを試してみた。


 タイはまだ釣りができる状態じゃないから、まだ未使用の釣竿には錘と釣り針と、浮き。ものすごく原始的な装備なんじゃないのか?と思いながら岩場のほうに行った。

 思い切り遠くに糸を垂らしたつもりでもそんなに遠くに飛ばない。まあいいか暇つぶしだし。

 そう思っていたら、浮きが沈みこんだ。びっくりして竿を立てると重ーい!糸がものすごい速さであっちこっちに移動していた。

「なんてこった」

 どうしたらいいのか分からずただ見ていた。釣りあげなきゃいけないんだけど。疲れるのを待つんだろうか?

 試しに釣竿に力を入れてみた、すると


「あ」


 あがった糸の先には、ちいーっちゃい魚がついていた。あんなに重かったのに、しかも動きまくってたのに。


 くっくっくっくっ


 がっかりする私の後ろで忍び笑いが聞こえた。

 …………

「タイ!しょうがないでしょ!はじめてなんだから!」


「あんなに慌てて、あがったのがメダカみたいな魚」

 私の慌てようがそんなにおかしかったのか、また笑いだした。


 振りかえると、杖も持たずに立っているタイがいた。


「タイ!杖は?」

「今日になってだいぶ調子がいいんだ。少し足は引きずるけど、杖は要らないみたいだ」

「あ、あり得ない!」

「まあ、骨は何度も折ってるしいつも医者にそう言われてたから」


 ほんとにそんなことあるんだろうか?演技か?そうだそうに違いない。

「この治り方だとヒビが入ってたんだろうよ。それこそよくあることだ」

「空手、か?」

 タイはうなずいて私の手から釣竿を取ると岩場に投げた。

 竿をかまえる姿はとても様になっていて……まあ、あれだ。かっこいいんだろう。


「あれだけ笑ったんだから大きいの釣って来てよ!」


 私もたいがい負けず嫌いだ。

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