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洞窟

6、洞窟


 救命ボートで沖に出るか否か。

 それが問題だ。


「でないに一票」

「なんでだ?」

「ビーコンが作動してるから、ここでいいでしょ?海に出たってうまく船や飛行機に会えるかわからない。それにこんなビニールボート結局はどっか破れて浸水すると思わない?救命ボートの目的はこれで脱出することじゃなくて、一時的なものだよ。数日のうちに見つけてもらうか、こういう島にたどりつくための」

 なんとなく納得してない様子のタイを説得しようとしていた。

「それにペットボトルが手に入っただけでも良かったと思うよ。水を運ぶのが便利になった。まだ足も治ってないんだし、また、治ってから考えよう」

そう言うと、不承不承うなずいた。


「タイ、今日は夕方までに戻るよ。食料も水もあるし、内職も用意したから」

 内職とは、タイの暇つぶし兼私の手伝って欲しいこと。前のロープ作りみたいな。

「今日はどこ行くの?」

「あっち」

と北西の方角を指差した。一番最初に崖だって避けたところ。

「何がありそう?」

 今までそんなこと聞いたことないくせに。タイ、わかりやす過ぎる。

「ん、わかんないけどお、潮の流れがあっちだから、もしかしたら何か流れ着いてるかもね」


「そっか、すまないな。俺がこんなで」

「大丈夫、じゃ、行くね」

 ひらひらと手を降ると、今朝出来たばかりのカバンをもって出発した。

 タイも手を振っているけど、今までみたいな能天気な表情じゃない。彼は彼なりに何か考えているんだろう。ケガで余裕がなかったことを考えると、体調は良くなってきているとみてよい。


 さて、この規模の火山で地下水も溜まってるって事は、あると思うんだ、洞窟。スコールや雷のときにすぐに逃げ込める洞窟の場所を知っておきたい。

 と言うのも、今日は4日目。救助は来ない。

 ビーコンが頼りにならない、ってことあるかしら?一応、飛行機事故のあった現場海域で救助信号出してるところに来ない?

 何かがおかしい。できるだけこの手の中に有利な要素を集めておきたい。


 それにしても……

 タイってば、意外と勘が鋭いな。まあ、野生の感と言ったほうがいいだろうか?実は今日、もう一箇所気になってるところがある。昨夜、眠れなかった時人影が見えた様な気がするんだ……そいつが去って行ったのは北西のほうだった。と言っても月夜で、焚き火の明かりに周りは風に揺られる植物だらけだから、この件は自分でも自分を信用できない。ただ気になることは放っておけない。


 来てみた物の……いやいや、岩場大変。ぜーんぜん進まないったら。もうたいがいヘトヘトだし、この4日、睡眠不足で動きっぱなし。よくやるな私。

 事故以来私が見たのは私とタイ、他はあのかわいそうな人だけ。確立的には、400人からの人間が乗ってたんだから、もう少しここにいてもいいはずなのに……生き死に関わらず。

 そうだ飛行機は炎上はしなかった、んだろうな。煙も自分で起こした火でしか見てないし。燃えてたんなら見えたはずだし。すぐ沈んだ?それも考えにくい。

 それを言うなら私がここにたどりついた経緯も皆目見当がつかない。


 なんて考えてたら、あった。穴が。入れるかな?、と言うのも、四メートルほど上にあるから。口をあけて見上げるとそこから水が白糸の滝の様に落ちて来てる。

 岩はもろそうに見えて、結構丈夫で、手足をかけるところもありそうだから、登ってみようかな。ダメならゆっくり下りればいいや。


「オッスッ」

 空手風に気合いれて、崖をよじ登った。

 岩は崩れはしないけど、ところどころ錆びたナイフみたいに尖ってて手が切れそう。

 途中で疲れて、折りちゃおうかなと下を見たら、降りるなんてとんでもない高さにいることがわかっただけだった。休みながら深呼吸してようやく着いた!じたばたともがきながら草の生えた地面に立つ。

 洞窟……?と思ったけど違った。したから見えてた入り口は穴じゃなくて、アーチ状だった。大きなくぼみだ。雨を避けれる場所ではない。


 でも……誰かいる?


 バナナの食べがらと葉っぱ、果物の種なんかが落ちてる。

 そして、気配……何だろうな、今まで感じた事ない。敵とも味方とも、良いとも悪いとも定義できない。


「誰かいますか~?お~い」

とぼけたふりして叫んでみる。


 うん、見てる。私が見られてるって知ってる様に、向こうさんも私に気づかれてるって知ってる。

「こんにちは~」

 口に手を当てて叫ぶ。第6感が刺激されてる。

 何も考えないまま、カバンにしまってある昼食用のマンゴーをバナナの葉っぱの上においた。


「これあげる。バイバイ」


 私はその場を去った。下に降りるのは怖いから、山のほうへ……道ができてる。

 一体何者だろう。

 道が消えた時振り返って、目印を探した。またここに来られるように。


 結局、洞窟のようなシェルターは見つからないで、気配だけが見つかった。


「タイ、ただいま」

「おお大量にとって来たな。ペピーノか」

「嫌い?」

「あんまりな。ここじゃ好き嫌い言えないけど」

「ちょっと違うんだ、見た目はペピーノだけど、食べてみるともうちょっと甘い。メロンに近い」

「ふーん」

「食べる前に足診てあげる」

 私はタイの足を診ながら、この4日で得た情報と、自分の考えをまとめ上げた。タイが、私がなぜここにいるかも。そしてあの人、海で亡くなってた人がなぜあんな目に合わなくちゃいけなかったのか。 今日のあの存在は何なのか(誰なのか?)


「タイこれ痛い?」

 足を押さえてみる。

「痛くない」

 そして骨折もしくはヒビが入ってたはずのスネが約4日で回復したのはなぜか?

 またしても、この島の怪しさを発見しただけの日になった。

 タイとまた夕日を見た。真っ赤なでっかい太陽が水平線につく寸前ダルマみたいになって。タイも私も周りの全てが赤くて。


「でっかい太陽だあ」

とつぶやくとタイが、


「いいや、どでかい太陽だ」

とかぶせて来た。


 真っ赤な雲が移動するのを見てたら、東の空が濃いいオレンジと、濃いい紺のグラデーションになっていて……


 おうちに帰りたくなった。けどいくら願っても、思いだけでは届かない。あのタカシの香りがかぎたい。涙を夕陽のせいにして、そっと拭った。


 すでにとっぷりと日が暮れて、辺りは真っ暗になっていた。

 夕食も終り、後は眠るだけという状況で、うつらうつらしているタイに聞いた


「タイ、ここからヘリとか飛行機とか、船とか見かけた?」

「ん?見てねえな」


「事故から4日経った。さすがに、墜落現場周辺から捜索が始まってるはずだよ。潮の流れを考えて墜落地点から捜索範囲は広がって行くはず。要救助者は海に浮いてるか、陸に上がってるだろ。緊急性が高いのは、海に浮いてる奴。次が私達みたいな、島にたどり着けた奴。


 私達は、事故の翌日から昼はのろしをあげて、夜は火を燃やし。絶えなくサインを出してたはず。それでも見つけてもらえないのはなんでだろう?」


「さあな」

「ちょっと、大事なことだよ。考えて」

「そもそも、ここがどこなのかもわかんねえのに、当推量は怪我の元だ」

「ここは北緯10度あたり。飛行ルートから予測すると太平洋のど真ん中より西側。たぶんミクロネシアの島の一つだと思う」


「なんで」

「理由1、北極星。北極星は地軸の延長線上にある。知ってるよな。北極星が水平線状にあれば緯度は0度。天頂にあれば緯度90度だろ?ここでは約10度にあるから、な。理由2、飛行速度。私達の乗った飛行機はボーイング747。離陸後約5時間飛行してから墜落した。落ちる寸前に時計を見たからたぶん正確。ジャンボ機の巡航速度は時速800~1000km。風やら、雲の影響は今のところわからないから無視して、間をとって時速900kmで計算すると、5時間で4500km移動した事になる。飛行経路も最初モニターで流してただろ?シドニーから約4500kmはミクロネシアのあたりだ。どうだ?」


「なんか、理屈っぽくてよくわかんねえな」

「っぽいんじゃなくて、理屈なの。ミクロネシアならちゃんと救助がくるはず。この状況はやっぱりおかしい。ヘリの音すら聞こえない」

「……そうだな」

「そうだろ!」

 良かった、やっと話が通じた。


「もう一つの疑問は、なぜ、他の乗客がいないのか?違う言い方すると、ここに流れてこなかったのか?」

「あのパニックの最中に、救命胴衣をつけられた奴があまりいなかったとか……」

「考えにくいな」

 約400人のうち2人?ないよ。


「ミクロネシアは小さな島もいれると400以上あるから、すごく小さな単位でいろんな島に流れ着くことはあるかな?島の周りは潮流も複雑になるから……」


「ミヤは海に落ちた時のこと覚えてる?」

「いや、落ちる途中で気絶した」

 前にバンジージャンプした時も、落ちる途中の意識がないから、落下の衝撃に弱い体質かもしれない。


「気付いた時はこの浜にいた」

「そっか、ミヤは運が良かった。ほとんどの人は、壊れて空いた穴から流れ込む海水に押されて機体の奥に流された。機内が海水で満ちて、穴からでれるようになっても、暗くてどこから出たらいいのか迷ったんだ。それで溺れた人がたくさんいたよ。俺はドアのすぐそばの席で、隙間風が寒いしついてないな、って思ってたけど。俺もついてたんだ。客室係のやつとドアを開けて出ようとしたら、機体がどんどん傾いて、オレのいたほうが空を向いたのはラッキーだったよ。ドアの縁に手をかけてよじ登るのが精一杯だった。それやって外に出た。他にそこからでられた人がいるかはわからない。登った後は、海に飛び込んで沈む飛行機にのまれないように必死で泳いだから」


「その足はどういう風に怪我したんだ?」

「んー、よく覚えてねえ。パニックでアドレナリン出てたし」


 やりきれない。助かってしまった事が、申し訳なくて。


「ミヤ、ミヤ……ひどい顔してる。大丈夫か?」


「……ちょっと、ゴメン」

 泣きそうだ。でも私には、あの人たちを思って泣く権利がない。だって、ここにいるから。夕日を綺麗と思って、星が沢山だと喜んで、ご飯を食べている。

 不意に手があったかい物に包まれた。


「タイ」

「ツライな。分かるよ、俺も同んなじだ」

 私はタイの手を握り返した。そんなの間違ってるって分かるのに、そう言ってあげられない。おんなじ気持ちだから。意味がないと知っているから。


「乗り越えよう」

 そうだね。言いたかったけど。


 小さく何回も頷くしかできなかった。


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