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サバイバル

2、サバイバル


 私は、気持ち良さそうに気絶しているワカヤマを放置して、海へ出た。ハンカチを海水に浸し、痛む目にあてた。しばらく繰り返し、少し熱がひいたころ、水探しに出かけることにした。

 うーん、水と言えば、湧き水、川、湖、地下水、水たまり……

 この島は、常緑樹も、一年草も宿根草も生えてる。苔もキノコも生えてる。ってことは、ちゃんと雨が降って、地下に水が溜まってる証拠。どっかに水が湧いてるはず。


 目の照準を無限遠にしてみる。木の茂っているところを見渡して、かすかに浮かび上がるのは……周りよりこんもりした木々と、濃い緑。あそこだ。ちょっと遠いけど、行こう。私はワカヤマがいなければ、進んでいたであろう方向に向かって歩き出した。


 ああ、どうしてこんなことになってるんだろう。シドニー発の飛行機は離陸して約5時間、順調に飛んでいた。何かの衝撃で目が覚めて時計を見たから確かなはず。その後も大きな音がして、白い煙が見えたんだ。と言うことは、飛行機内のトラブルなんだろうな。

 落ちる感覚がして、気を失って、気づいたら波に洗われてた。

 今頃は捜索隊が出てるかな?それとも、まだ救助活動中?落ちた飛行機を探してる?

 まだ事故は今日の話だから。どっかに助けてって印つけとかなきゃ。それとのろしを上げる。


 目はキョロキョロと探し物に余念はない。結構使えそうなものが落ちている。

 考えたり、辺りを見ているうちに予想通り、湧き水を見つけた。3mほどの泉ができていて、あふれた水はしばらく流れて砂浜に消えていく。

 泉の周囲を何も危ないものはないか確認して、水の匂いをかいで舐めてみる。


「みずう~」

 自分でもヘンテコだと思う声で喜びの雄たけびをあげると泉に顔をつけた。


 うまい。


 空っぽの胃に冷たい水が落ちると、胃がびっくりしたのかきゅっと締め付けて痛い。胃のあたりをさすって逆流しないように喉を締め付ける。

 しばらく様子を見て、どこも痛くならないと確認したところでさっき拾った、ヤシの実が半分に割れたの二つに水を汲んで、急ぎ足でワカヤマのところへ戻った。

 頭のメモに書きつける。何か水筒のようなものを見つけないと。


 ワカヤマは若干弱っていたものの、元々頑丈なのかもしれない。呼びかけるとすぐに目を開けた。


「ワカヤマ、お水持って来たよ。口開けて」

 二つのカップのうち一つは倒れないように砂にめり込ませ、もう一つを手に採ると、口に含んだ。ワカヤマに口移しで飲ませると、目が見開いた。


「なっ?!」

「どうした?」

「何で口移しなんか……」

「へ?起きるの大変でしょ?ストローもスプーンもないし。手っ取り早いし、それに冷たいと吐くよ」


「わーー!!」

 ワカヤマは目を閉じ荒く呼吸をする。そりゃ、弱ってるのにそんな大声出したら。

「普通に飲ませてくれ!」


「んまあ、医者のいうこと聞けないの?吐いたってすぐおかわりってわけにいかないんだから。そうなったら、自分で汲みに行くか?!」

「にゃにおお」


 怒るワカヤマに見せつけるように、カップの水を飲んでやった。

「ああ、おいしい」

 横目で見ると、必死に上体を起こしていた。ふん、かわいくないの。しょうがないので、背中に手を当てゆっくり起こしてやって、カップを口に持って行った。


「ほら、飲め」


 一杯目をあっという間に飲み干した。背中を支え、上体を起こしたままにして、吐かないか様子を見る。ワカヤマの脱力した身体は汗をかいてべたついている。

 青い顔で目を閉じ、深く呼吸をしているが、少し待つと落ち着いてきた。


「大丈夫か?すまなかったな。ケガ人にする態度ではなかった」

 私が謝ると、ワカヤマも

「助けてもらったのに、すまん」

と詫びをいれて来た。


「許す、もう一杯あるぞ」

ともうひとつのヤシのカップを口元へ持っていってやった。

「急ぐと吐くぞ」

と言うと、半分ほどで飲むのをやめた。


 ゆっくり横にさせると彼の腹がごろごろと鳴った。

「ワカヤマ、腹減ったか?」

と聞くと、頷いていた。


「食欲があるなら回復するだろう。この島は宝の山だ。食べるものもある、待っとけ」

 私はまた、山へ向かった。

 収穫は、バナナとマンゴー。うひゃーマンゴー大好き、すぐさま一個かぶりついた。ヤシの実や、イモも見つけたけど、今は役に立たない。それらはあとで取りに来ることにして、別に火口になりそうなヤシの毛の繊維と、薪を集めた。


「ワカヤマ、寝るなら食べてからにしろ」

 うつらうつらしていたワカヤマを起こして、側にある木に寄りかからせてやる、さっきよりは動きがいい。水飲んだからな。

 果物を渡すとかぶりついた。


「うまっ!!」

 ガツガツと食べているワカヤマを見て、笑いがこみ上げて来た。

「たんと食え。まだまだ持って来てやるから」

 私は水を探していた時に見つけた、にぎりこぶし大の石英の結晶を取り出た。異物も多く、さほど大きくないが、目的には関係ない。

 真ん中に走るヒビにむかって別の石を叩きつけると硬いはずの石英は難なく割れた。割れた石英の鋭角の方を手に採るとポケットに入っていた鍵を使ってこすってみる。

 カツッという音と共に火花が散った。


 うーふーふー。


「気持ち悪い声出すなよ」

 ん?聞こえちゃった?


 準備として砂を少し掘って風上に盛り、穴の中に薪を並べその下にヤシの繊維を入れる。

ヤシの繊維に向かって火花を散らす、なかなかうまくいかないものの、コツをつかむとうまく繊維に向けて火花が散るようになってきた。

 そして、手が痛くなってきたころ、白く、か細い煙が上がってきた。息を大きく吸って顔を近づけると息を吹き込んだ。

 だんだん煙が増えて、私はくらくらし出したころ、ポッと音がして火がついた。

「やった!」

 慌てて繊維を足し、小枝をたして、太い薪が燃え出すと一安心。


「いやあ、サバイバルの番組で見たんだけど、結構うまく行くもんだね」

「うまいもんだ」

 偉そうに言うワカヤマを鼻で笑ってやった。できるもんならやってみろ!大変だったんだぞ!まあ大人だから、口には出さないけど。


 火を二分させて一方は日陰から日向に移し、葉っぱのついた生木をかぶせてのろしを上げた。これで問題一つ解決っと。どうか、見つけてくれますように。


 ワカヤマのところに行くと木に寄りかかったまま、眠そうにしていた。


「ワカヤマ、手え貸してやるから横になれ」

「すまない」

 ワカヤマを横たえるとすぐに寝息を立てだした。私も疲れて眠りたかったが、やることやっとかないと。

 もう一働きしたら、休憩しようと決めて、今一度山へ向かった。



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