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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
デイゴ王国闘技大会編・団体戦
97/151

96話

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 トーカがフィールドで戦っている頃、舞台裏ではスタッフたちが右往左往していた。

 戦闘中盤、ギンバイ騎士たちの鎧から光が放たれた後、ギンバイ騎士たちの異常な状態はスタッフたちも把握していた。

 そして今、スタッフたちが議論しているのは、試合の継続についてだ。


「今すぐ中止させるべきだ。彼らは普通の状態ではない!」

「しかし、しっかりとした根拠も無く、ただ様子がおかしいという理由では不十分だ!」

「そんなことを言っている場合か! 彼は今1人で相手をしているのだぞ!」

「それは彼の仲間がフィールドを降りたからだ。そうでなければ今も5対3だった可能性もある」

「可能性の話などどうでもいいのではないのかね? 今分かっている現実を見るべきだ」


 結論のまとまらない話合いの中、確実に試合だけは進んでいた。そしてトーカが3人の騎士を気絶させたところで、話し合いは試合を継続させてもいいのではないかという感情が湧き始めていた。このままトーカが5人を倒してしまえば、問題は無かったことになる。

 スタッフたちの中にも、極星の勇者の再来と呼ばれるトーカに期待する思いが膨らんでいく。

 しかし、その希望は打ち砕かれた。

 トーカが4人目の騎士を倒し、ディオと魔法をぶつけ合おうとした時のことだ。


「馬鹿な! 気絶したものがどうして試合に戻ってきている!」

「フィールドスタッフは何をやっているのだ! これでは反則だぞ!」


 一度気絶した選手は、フィールドを降りて、以降試合に関与することは禁止されている。そして、今のギンバイ騎士たちの行動は明らかにルール違反になっていた。


 しがみつき、明らかに試合の妨害をする2人の騎士。そしてそれを振り払うことが出来ないトーカに、ディオの炎が直撃した。

 炎に包まれる選手たち。そして、スタッフも呆然とその光景を見ていることしかできなかった。そんな中、会議室の扉が開く。


「誰だ! 今は大事な会議中……」

「その会議が進んでいないから俺が来たんだ」


 扉を開けたのは、デイゴ国国王、ファーレンハイト3世だった。


「へ……陛下! これはご無礼を」

「いい、それより責任者は?」

「私でございます」


 国王が部屋を見回していると、1人の初老の男が立ちあがる。


「お前か。これより闘技大会の全権は私が預かる異論はあるか?」

「ございません」


 初老は深々と頭を下げる。それは実質自分の管理責任が不十分だったことを認めることになる。


「試合の中断はしない。その代り、医療スタッフと鎮静スタッフは集めておけ。ギンバイが何をしたのかは分からんが、あの騎士どもは普通じゃない。審判が試合を終わらせた後、観客に襲いかかっても不思議ではない状況だ」

「承知しました」


 国王の言葉で、いままで止まっていたスタッフたちが一斉に動き出した。


「勇者の再来かどうか。見極めさせてもらうぞ」


 スタッフが駆け出して行った会議室の中で1人、国王はフィールドで炎に包まれているトーカを見ながらつぶやいた。



 炎に包まれながらも、何とか意識は保てている。肌は酷い火傷を負っているが、まだ耐えられる。すぐに治療しないといけないレベルじゃない。

 しかし、俺に捕まっていた騎士には耐えられないレベルだったのだろう。俺の拘束が緩んだ。

 その瞬間を逃さず、俺は騎士を振りほどく。そして、苛立ちをぶつける様に、鎧を蹴り飛ばした。

 騎士は炎から飛び出し、そのままフィールドをバウンドすることなく壁に叩きつけられめり込んだ。自分から囮になる奴だ。生死など知ったことではない。

 そして足を掴んでいた騎士の腕に、もう片方の足を振り下ろす。

 ペキンッと軽い音がして、鎧ごと腕をへし折る。いくら暴走していても骨が折れていれば問題ないはずだ。

 邪魔者が全員いなくなったところで、俺はサイディッシュを思いっきり振るう。

 その衝撃波で自分の炎を全て吹き飛ばす。


「ハァ……ハァ……」


 さすがにキツイ。かなりの時間焼かれたせいか、全身がひりひりする。服もほぼ燃えてしまったし、皮膚も真っ赤になって爛れてしまっている。

 周囲の様子を気にしている余裕も無い。今はただ、目の前の敵を倒すことだけに集中する。

 その敵、ディオは悠然と俺を見ている。身長の関係で見下していると言っても良いかもしれない。その目線が気に入らない。自分より下の連中を見ているようなその眼が、俺は気にくわなかった。


「覚悟しろよ、この下種野郎」


 ディオを睨みつけ、俺は1歩を踏み出した。


 俺がサイディッシュを振り下ろすと、ディオはそれを剣で受け止める。

 そう、受け止めて来るのだ。

 ガリガリと激しい火花を上げるサイディッシュと剣だが、それでも俺の攻撃は見切られ、全て受け止められていた。

 試合の開始時より、明らかに反応速度が上がってる。

 相変わらずミチミチと何かよく分からない音が聞こえてきている。これが、力や反応速度が上がっている理由なのかもしれないが、それを気にする余裕は無い。

 相手がこっちの速度に付いて来ていると言うことは、隙を突かれればこちらが攻撃されると言うことだ。

 今は、俺が押して押して押しまくっているため、相手に隙を突かせてはいないが、何が起こるか分からない。

 細心の注意を払いつつ、ディオを叩きのめすためにサイディッシュを振るっていると、両サイドに気配を感じた。

 俺はその瞬間、ディオから離れ飛び退る。

 その直後、俺のいた場所に、両サイドから剣が振り下ろされた。2人目と3人目に倒した騎士が起き上ってきていたのだ。

 その2人を視界に捕らえながら、詠唱をする。


「月示せ、炎華の胎動。フレイムエクスプロージョン!」


 俺から放たれた炎弾が、2人を巻き込みながら大きく爆発した。

 その爆発で、2人は体を燃やされながらフィールドの壁に叩きつけられる。そして崩れ落ちて再び気絶した。確実に動けなくするためには骨の1つも折っておきたかったが、今はその時間も惜しい。

 目の前にディオが飛び出してきているからだ。

 爆発の煙が晴れる前にディオは動きだし、煙を突っ切って俺の前まで出てきていた。

 その表情は相変わらず無表情だ。

 そしてその手には、炎の塊とも呼ぶべきものが握られていた。

 ディオはそれを俺とディオの間に叩き下ろす。瞬間、激しい光と共に、フレイムエクスプロージョンと同等の爆発が起きた。

 俺は両腕を顔の前でクロスさせ、爆風から顔を守る。

 かなりの熱量があるため、顔を防いどかないと、目が焼けかねないのだ。

 そして爆風が収まり、視界が開ける。そこには俺と同じようにボロボロになったディオの姿があった。

 当然だ。俺と同じ距離で爆風を受けたんだから無事なはずは無い。

 しかし、ボロボロの体になってもなお、ディオはその場に悠然と立ち続けている。


「自爆特攻とか面白いことしてくれるじゃねぇか」


 そのせいで両腕は完全に焼かれてしまった。すでに痛みすら感じない。

 早めに決着を付けて治療しないと、後遺症が残りかねないか。

 サイディッシュを振り回すだけの力はもう残っていないため、サイディッシュをディオに向かって投げつける。そして同時にディオに向かって駆け出す。

 俺が今の全力で投げつけた速度のサイディッシュをディオが躱せるはずも無く、ディオは剣で受けた。

 しかし、サイディッシュの重さは30キロ程度ある。そんな物体を剣で受ければどうなるか。

 簡単だ。剣も腕も間違いなく折れる。

 それはなぜか力が上がっていたディオも同じだったらしい。

 剣がはじけ飛び、あらぬ方向へ飛んでいく。そして同時に両腕がブランと力なくたれ下げられた。

 そして俺がディオの懐に飛び込む。俺も腕を自由に使えない。だから俺は駆け込んだ速度のまま、頭からディオの顎目掛けて飛び込んだ。

 激しい衝突と同時に、頭の中に火花がはじけたような感覚が走る。

 フラフラとする足取りの中、強引に目を開きディオを見る。ディオも顎を殴られ、ふらふらとしていた。 攻撃を仕掛けてくる様子はない。

 と、言うよりさっきから完全に動きが止まっている。

 仕掛けるなら今しかない。

 再び踏み込む。そして今度はディオの少し手前でジャンプし、右足を全力で振り抜く。


「はぁぁぁあああああ!!」


 渾身の力で振り抜いた右足は、鎧を破壊しながら、ディオを吹き飛ばす。

 ディオはフィールドをずるずると転がり、壁に当たって止まった。

 闘技場全体が静寂に包まれる。

 救護スタッフがディオに駆け寄り、様子を確認する。だが、確認するまでも無い。俺の蹴りが鎧を破壊した時点で、その衝撃が肋骨に伝わっているはずだ。

 良ければ骨が数本折れている程度だろうが、最悪肺がつぶれていてもおかしくはない一撃だった。あれではいくらゾンビのように動いても立ち上がれないだろう。

 救護スタッフもそう判断したのか、審判に両手を×にして試合継続不可能を伝える。


「勝者、チームトーカ!」


 その声を聞き、観客席が歓声に包まれるのを感じる。フィールドの外からは俺を呼ぶ声が聞こえた気がした。しかし俺はそのままフィールドに倒れ込み、意識を手放した。




「ふむ、実験としては成功ですかね。しかし限界突破の魔法はまだまだ改良の余地がありそうですね。まさか、筋肉繊維がズタズタになってしまうとは」


 ローブの男は先ほどの試合を思い出しながら街中を歩く。

 極星の勇者の再来に対して、いいところまでは行けたのは収穫としては素晴らしいものになった。この成果ならば、皇帝も満足するだろうと判断する。

 しかし、最後の自滅だけはいただけない。限界突破した際に、身体の保護をどうするか。それが今後の課題と決めて、ローブの男は人ごみの中に消えて行った。




 ぼんやりとした意識のなかで、瞼の上から入ってくる光が刺激を与えてくる。そして耳には外の声が入ってきていた。


「ギンバイの連中は別の隔離病棟に入れられたらしい。体はボロボロだったそうだ」

「どうしてそんなことに」

「おそらくあの光が原因なんだろうな」


 リリウムとフィーナの声のようだ。


「死者がよみがえってきたような動き方でしたね。特にトーカが一度気絶させてからが」

「ああ、あれは自分の意思で動いていたのかすら怪しいものだったからな。今その辺りのことを含めてデイゴの研究員が調べている。鎧に魔力回路らしきものの跡が見つかったそうだから、その辺りから調べているらしい」

「魔力回路……と言うことは、あれは魔法なんですかね」

「よく分からん。それよりもそんな連中を相手していたトーカだ」

「はい……」


 話が俺の話になってきたな。まだ体が起きてないのか、体が動かない。意識は大分はっきりしてきてるんだけどな。


「体力の消耗が激しいらしい。命に別状はないが、目を覚ますのはいつになるか分からないと言うことだ……」


 リリウムの声は辛そうだ。正直もう意識は戻ってきちまってるんだけどな。なにか伝える方法があればいいんだけど。


「大丈夫ですよ。トーカなんですから、意外と今にでも目を覚ましてもおかしくありません」

「そうだな。私は少し食べ物を買って来よう。朝からまだ何も食べてないだろう」

「あ、はい。ありがとうございます」


 ガチャッと扉が開く音がして、足音が遠ざかる。リリウムが部屋から出て行ったようだ。

 すると手にぬくもりを感じた。フィーナが俺の手を握っているのだろう。


「大丈夫ですよね。トーカなんですから。早く起きてくださいね」


 その声は微妙に震えている。やっぱりフィーナも心配なんだ。ただリリウムの前だから虚勢を張っていたに過ぎなかったのか。

 手に力を込める。

 俺は大丈夫。そう伝えたい。言葉でなくても、なんでもいい。今、フィーナの手を握ってやれば、あいつは安心するだろう。

 だから少しでも動いてくれ!

 全神経を手に集中させる。握れなくてもいい。ピクリとでも動いてくれればいい!


「え!?」


 その瞬間、フィーナが声を上げた。俺の手が少しだけ動いたのだ。

 俺はそれに満足して、また眠りに落ちて行った。




 隔離病棟。そこの病室を望める部屋にデイゴ国国王と宰相の2人はいた。

 そしてその2人にギンバイ騎士の現状を説明するための医者。その医者はファイルを見ながら、騎士たちの様態を説明している。

 その騎士たちは今、全身を包帯にまかれ、ベッドの上に寝かされている。試合から3時間が経過しているが、全員がいまだに意識を取り戻していない。


「まず騎士たち全員に言える症状ですが、全身の筋肉がズタズタに千切れています」

「千切れている?」

「はい、刃物で切ったような跡ではなく、力技で強引に縄を引きちぎったものと同じ状態です」

「なぜそのような状態になる?」

「わかりません。現在彼らの使った魔法を中心に調べていますが、いかんせんおかしなものが多くて」

「おかしなもの?」


 医者の言葉に、宰相が眉を顰める。


「彼らの着ていた鎧から魔力回路が発見されたのはご存じだと思います」

「うむ」

「その魔力回路は今までのどのデータにも無いものでした。工業ギルドで調べさせたので間違いありません。それが原因ではないかと考えているのですが……」

「なるほど、分野外か」

「現在、魔導具の専門家を総動員してどういう効果の物か調べさせていますが……」


 医者の表情からは、上手くいっていないことが見て取れた。


「実際に戦った者の感想を聞ければ一番いいのだがな」

「彼も現在意識不明の状態です。騎士たちと違って、体の怪我は全て治っておりますので、後は意識レベルの問題かと」

「そうか……」


 意識レベルの問題である以上、医者でもいつ意識が戻るのかは予想がつかない。

 そのため団体戦の表彰も、今だ行われていない状態だ。チームメンバーは問題ないが、勝利の立役者が不在では観客も盛り上がらない。

 ひたすらに待つしかないもどかしさが部屋を覆う。


「とにかくその冒険者には感謝しなければな。このような無粋な連中に闘技大会を穢されずに済んだのだから」

「そうですな。恩賞はいかがなさいますか?」

「それ相応の報酬を渡す。優勝賞金に色を付ければいいだろう。それとデイゴでの身分保証書をな。そんなもんでどうだ?」


 簡単に言うが、優勝賞金に色を付け、身分保証書を発行すれば、すぐにでも首都に土地ごと一軒家を買うことが出来るレベルの物になる。


「妥当かと」


 王の言葉に宰相が満足げに頷く。


「ではそのように進めてくれ。俺はギンバイへの抗議文を考えなければならないからな」


 そう言って王はガシガシと頭を掻きながら部屋を出る。宰相はその後に続いた。


「今回の行為は明らかに我が国を侮辱するものですからな。厳しめの物をお願いします」

「まかせろ。煽り文句は得意だ」

「怒らせるだけじゃ意味がありませんよ……」

「分かってる」


 本当に分かっているのか怪しい自らの王に、宰相はため息を付いた。


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