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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
デイゴ王国闘技大会編・団体戦
93/151

92話

「さすがにこの年になると、権力は荷物にしかならなくてな」


 話しぶりからして、このお爺ちゃんが宰相なのだろう。

 俺達は席から立ち上がり、丁寧な言葉でお辞儀をする。


「初めまして。冒険者の漆トーカです」

「同じくリリウム・フォートランドです」

「同じくフィーナと申します」

「うむ、デイゴ国宰相をしているノーバルだ。よろしく頼む。今日は試合の後なのによく来てくれた」

「いえ、フェイリスからちゃんと説明して欲しいと頼まれましたから。こちらも必要だと考えていましたし」

「そうか。ならフェイリス殿が集まってから話を聞かせてもらってもいいか? そろそろ来ると思うが」

「もちろん」


 何回も説明するのは面倒だしな。一回ですむならそれに越したことは無い。

 俺達の正面に座っていたリリウムはこちら側に移動し、リリウムの座っていたソファーに宰相が腰を下ろす。

 座る時によっこらしょっと出るのは確実に年だからだな。

 少しの沈黙ののちに、口を開いたのは宰相だった。


「正直、君のような少年が氷海龍の巣を襲った犯人だとは思わなかったよ」

「犯人ってなんか嫌な言われ方ですね」


 紅茶を飲みながら言葉を返す。今デイゴで俺達がどんな存在として扱われているのか知る必要がありそうだな。

 ただ氷海龍と戦った冒険者って扱いじゃなさそうだ。


「国は君たちの行いで大混乱しているのだ。犯人と言われても仕方がないと思うがね」

「そう言われましてもね。こちらも理由があって戦ったんですし、元々の原因は氷海龍ですから。こちらは被害者ですよ」


 最初の状況から考えれば、こちらはフィーナを攫われた被害者なのだ。むしろそんな危険な存在を今まで放っておいた国に問題があると言われてもおかしくは無いはずである。

 その事を、含みを持たせてぶつけてみると、宰相もやはり顔をしかめた。


「氷海龍は海に加護を与えていると言われている。だから簡単に討伐という訳にはいかなかったのだ。加護が無くなった後の海がどうなるのか分からない以上、迂闊に手は出せない」


 まあ、確かにデイゴはずっと海に面した国だ。海の加護が無くなって海が荒れた場合、国が一気に衰退する可能性があるからな。けどそれは国の都合であって俺たちの都合じゃない。

 今回のことはこっちに非がある訳じゃない。だから簡単に引くつもりは無い。

 そのつもりを含めて言葉を返そうとしたとき、再び扉が開いた。


「待たせたか?」

「少しな。気にしなくていいぜ」

「そうか。意外と手間取ってな」

「ごくろうさん。どんな感じだった?」

「かなりの記者に追いかけられた。中には風属性を使って追いかけてこようとする強者もいたが、振り切って来た」


 そりゃ、A+冒険者を捕まえられるような奴が記者なんてやってるわけねぇだろ。


「お前がどんな奴なのかを必死に聞いてきたぞ。とりあえず知らないと答えておいたからお前が好きにすればいい」

「悪魔でも勇者でもご自由にってか?」

「今の所はまだそれができると言った状態だな。新聞が出始めればそれは難しくなるぞ」


 記者によって勝手に印象操作される可能性があるからな。そういうところは、どの世界も面白おかしく書きたい記者たちの嫌な体質だよな。


「了解。出来れば謎の人物って形にしたいけどな」

「あれだけ派手に暴れておいて謎もクソもあるか」

「そりゃそうだな。さて、それはこっちで好きにさせてもらうとして、そろそろ本題に入るか」


 俺の言葉を皮切りに、宰相とフェイリスが真剣な顔つきに変わる。


「とりあえず何から聞きたいんですか? と、言うか俺も聞きたいことがあるんですが」

「では先にそちらの質問を聞こう。その方が、話が分かりやすくなるだろう」

「分かりました。では今俺達がデイゴ国にとってどんな存在かを聞きたいですね」

「それか。今は氷海龍の巣を襲った冒険者という扱いでしかない。ただ、邪神級の巣を襲った冒険者だ。相当危険な人物で、何をするか分からないため手を出すのは厳禁ということにしている」

「今回俺達がここへ呼ばれた理由は?」


 手を出してはいけない存在を呼んだんだ。それなりの理由があるはず。


「フェイリス殿の報告を聞いて、ある程度理性的な会話ができると判断した。後は今日の試合でフェイリス殿に城に呼ぶかどうかを判断してもらった」


 つまり、試合で話し合いの余地がなさそうな奴ならとっとと追い出すか、捕まえるかしたかったってことか。まさかA+冒険者とデイゴ最強の騎士のタッグで負けるとは思ってなかったんだろうな。


「それでフェイリスが問題ないと判断したと?」


 今度はフェイリスを向いて尋ねる。


「そうだな。試合前、試合中、試合後の会話を全て聞いた上で判断させてもらった。試合中、俺の気持ちを考えたような話し方をしていた時点で呼ぶことは大方決定していたが」

「なるほどね」


 面倒くさい説明を省くための言葉がいい感じに作用したらしい。


「では、それを踏まえた上での現在の俺達の扱いは?」


 話を宰相に戻す。


「危険度は多少減ったというところだな。話し合いが出来るからと言って、無警戒にはなれん」


 そらそうだろうな。今も部屋の中にはデイゴチームの騎士が全員壁際に立っているし、外にも何人か控えている。暗部みたいな連中も屋根裏にいるしな。


「分かりました。だいたいのことは判断出来たので、そちらの質問をどうぞ」

「では率直に聞かせてもらう。現在の氷海龍の状態だ」


 氷海龍の状態か。傷自体は無いだろうし、子供も生まれたから魔力も少しずつ回復してるだろうな。そうなると全盛期よりかは弱ってるけど、邪神級としての強さは保ってるって感じかな?


「俺が倒したときはかなり弱ってたけど、今は回復してると思います。俺以外の冒険者が今巣に近づいても返り討ちに合うでしょうね」

「では死んではいないのだな?」

「はい、元気だと思います」

「分かった。次に氷海龍が今後復讐に動く可能性はどれぐらいあると思う? 我々はそれを警戒して今国中の兵士に警戒態勢を取らせている。闘技大会に強力な兵士や冒険者を呼んだのもそのためだ」


 その話はフェイリスが言ってたな。ただ、完全に無駄な努力になったみたいだけど。


「ゼロですね。全くありません。しばらくは巣からも出てこないと思いますよ」


 子供と戯れてるだろうしな。


「なぜそんなことが言い切れる? 倒したものに復讐を考えるのは普通のことだと思うが?」


 そうか、断言できることを説明するには、子供のことを話さないといけなくなるのか。正直あまり話したくない話なんだよな。どこから話が漏れるか分からないし、話すにしてもなるべく少数に抑えたい。


「話しても良いですが、その理由を話すには、壁の騎士たちと外で聞いてる連中と、部屋の回りにいる隠密なんですかね? そいつらを全部退けてから絶対に黙秘するって条件がつきますが」

「つまり私以外には話せないと?」

「フェイリスならいいですよ」


 こいつなら誰かに漏らすことは無いだろうしな。それに、部外者と国の重要人物を、監視のいない仲で同じ部屋に留めておけるとは思えない。


「ふむ……分かった。退散させよう」


 宰相は少し悩んだ後に、ルーガに指示をだし、部屋の騎士と外の騎士を退散させる。そしてそのちょっとした後に、隠れている連中も全員がいなくなった。

 俺はそれを、部屋で待っている時に発動しておいた魔力探査で確認する。

 興味本位で発動しておいた魔法が役に立ったな。最初は「こういう時って隠密みたいなのが俺達の行動監視してるよな!」って感じに探そうと思って使った技だったが、本当にいて少しびっくりした。


「では話してもらえるか?」

「ええ、とりあえずこの話の最初は氷海龍がなんで町を襲ったかから話さないといけないんですが――」


 そうして俺は氷海龍と関わった事件に関してかいつまんで全て話した。俺とフィーナが氷海龍の子供に親として認められたことは隠したが。

説明はだいたい30分程度かかり、それを聞いた宰相とフェイリスの反応は――


「そんなことが起きていたのか……」

「邪神級はそうやって力を溜めてきた者達だったのか……」


 まったく別のことで驚いていた。


「まあ、今のが俺が知ってる氷海龍に関する事全てですね。ですから氷海龍がまたデイゴの町を襲うことは無いですし、俺が復讐される心配もありません」

「有意義な情報を聞けた。しかしトーカ殿の言葉を全て鵜呑みにすることは出来ない」


 そりゃそうだろうな。証拠なんてなにも無いんだから。

 今の話を鵜呑みで信じられたなら、むしろこっちが何かあるんじゃないかと疑いたくなる。


「ではどうします?」


 鵜呑みにはできないからと言って、このままという訳にもいかない状況なことは、宰相の話で何となく分かった。

 冒険者や騎士を他国から呼んで対策するのだから、自国の騎士はすでに手一杯なのだろう。


「確認を取る方法があればいいんだが」


 確認を取る方法か……俺達が氷海龍の巣に行けば一発なんだろうけど、俺達以外をさすがに巣に行かせるわけにも行かないしな。


「え!?」


 お互いに頭を悩ませていると、突然フィーナが声を上げた。

 その声に部屋にいた全員の視線が集中する。


「フィーナ、どうした?」

「あ、すみません。トーカちょっと」


そう言ってフィーナは強引に俺の手を引いて部屋の隅に移動する。


「どうしたんだよ」

「ちょっ、ちょっと待ってください」


 そう言ってフィーナは何やら服をごそごそとし始めた。突然どうしたんだ?

 そして、突然胸元を大きく広げた。


「いきなり何してんの!?」

「私じゃありません! この子です!」


 小声ながらも必死に訴えるようにフィーナは自分の服の中に手を突っ込み、そこから何かを引っ張り出した。


『きゅー』

「なっ!?」


 中から出てきたものに、さすがに俺も驚いた。


「ちょっ、なんでこいつがここに!?」

「分かりませんよ! いきなり服の中に出て来たんですから!」

「出て来たって、前氷海龍がやったみたいに転移してきたってことか?」

「たぶんそうだと思います」


 フィーナが服の中から引っ張りだしたもの、ガラスのように澄んだ鱗を持ち、長い胴体に小さな手足、そしてその鳴き声。間違いなく氷海龍の子供だ。てかこんな存在を俺は氷海龍の子供以外知らない。


「お前たち、どうしたんだ?」


 いきなり部屋の隅でこそこそとし出す俺達に宰相が声を掛ける。

 ってヤバイって。今ここに邪神級の子供とか色々不味いって。てか、親はどうしたんだよ! 子供だけこっちに突然出て来ることっておかしいだろ! じゃあもしかして氷海龍も近くにいるのか!?

 そっちの方が問題だ。子供だけなら力も体も小さいから隠すことは出来る。けど、氷海龍とかでか過ぎて隠しようがないって!


「あ、ああ、すみません。ちょっと待ってください」

「む、うむ」


 宰相は納得していないようだが、俺達の慌てっぷりを見てどうにか承諾してくれた。とにかく今は子供の事より親の事考えねぇと!


「月示せ、魔力の在り処。サーチ」


 小声で詠唱を唱え、周りの魔力反応を確認する。今俺達がいる部屋には俺や氷海龍の子供がいるため非常に強く輝いている。それ以外にデカい魔力反応があればそこに親がいる可能性が高い。

 しかし、脳内の地図にその姿は見当たらない。

 首都全てとその周りをざっと確認したが、反応は無かった。つまりまだ近くに来ていないことになる。

 これならまだ間に合うかもしれない。親は餌を取りに巣を出ているのか、巣で子供を探しているかだ。

 一発勝負だが、やれることはやってみないと。


「月示せ、思考の共有。テレパシス」

『む、なんだこの感覚は?』


 繋がった。俺が試したのはテレパシーの応用のような魔法だ。構想だけは考えていたが、今まで誰ともやったことが無いうえに、相手が魔物と言うことでどうなるか分からなかったが、無事成功したようだ。


『俺だ。トーカだ』

『近くにいるのか?』

『違う。遠くから話しかける魔法を使ってる。ちょっと子供のことでな』

『そうか。ちょうどいい我も我が子を探していたところだ』

『その子供が今こっちに転移してきちまってんだけど、なんか分かるか?』

『我が子が? ふむ……魔力が恋しくなったのかもしれん』

『どゆこと?』


 魔力が恋しくなるって聞いたことねぇぞ。親が恋しくなるなら聞いたことはあるけど。


『先ほどお前ともう1人の親の強い魔力を感じた。それが恋しくなったのだろう。お前たちが親の匂いを恋しく思うのと同じだと思えばいい』


 あ、同じことなのね。ってことは俺達が試合で使った魔法の魔力を感じてこっちに来ちまったってことか。


『こいつって自力で戻れるのか?』

『我が子は最近やんちゃ盛りでな。よく転移をして遊んでおる。腹が空けばこっちに戻ってくるだろう。それまでは遊んでやってくれないか?』

『良いのか? こっちは人間の町にいるんだぜ?』


 あれだけ子供のことで暴れていた母親の落ち着きっぷりとは思えない。もっとすぐにでも迎えに来るとか言い出すと思って、必死に止める言葉考えてたんだけど。


『お前のそばほど安全な場所は無いだろう』

『あ~了解。とにかく状況は分かった。こっちもある意味助かったところだ』


 そう、氷海龍の子供がこっちに来たことで、宰相に証拠を見せるための鍵が手に入った。生まれたときに懐かれたっていう風に説明してあるし、つじつまが合わなくなることは無いはずだ。


『そうだ、たまにはお前たちも遊んでやってくれ』

『おう、ならその時はまたこの魔法で連絡するから』

『分かった。我が子にもそう伝えよう』


 どうやら子供は、まだ人間と会話できるほど言葉を理解できるまでは成長はしていないらしい。こっちの言うことを多少は理解できるといった程度なのだろう。


「トーカ?」


 テレパシーで氷海龍と話していて何も反応しなくなった俺に、フィーナが首を傾げる。その間にも子供はフィーナの頬をなめたり、顔を胸に押し付けたりして懐いている。うらやましいとかはちょっとしか思わなかった。


「うし、フィーナ。親と連絡が取れた。あっちは落ち着いてるから大丈夫だ」

「え? どうやって……まあ、トーカですからね。良かったです。じゃあこの子はどうするんですか?」

「腹が減ったら勝手に帰るらしい。それまでは遊んでやってくれって」

「そうですか。じゃあクーちゃん遊びましょうか」

「クーちゃん?」

「ずっと氷海龍の子供じゃ呼びにくいじゃないですか。名前付けてみたんです」

「あー、うん。いいんじゃない。とにかく俺は宰相と話続けるから」

「あ、はい。止めちゃってごめんなさい」

「いや、こっちも解決の糸口が見えた」


 そうしてクーをフィーナの服から完全に引っ張り出し、再びソファーに戻る。


「すみません。お待たせしました」

「いや、構わないがいったいどうしたんだ?」

「ちょっとこいつが転移してきちゃって」


 そう言って俺はクーを指差す。フィーナの腕に巻き付いていて宰相はクーの存在に気付かなかったのか、それで初めてフィーナにじゃれついているクーに気付く。


「そ、それは?」

「さっき話した氷海龍の子供です」

「なっ!?」


 宰相がガタッと机に脚をぶつけながら立ち上がる。俺の言葉を聞いた瞬間、フェイリスも戦闘体勢に入っている。

 俺はそこで強引に止めるため手を前に突き出した。


「落ち着いてください。害はありません」

「ひ……氷海龍の子供なのだろ! 親が来たらどうする!? パニックでは済まされないぞ!」

「大丈夫です。親は来ません」

「なぜ分かる!」

「えーっとですね。私の魔法で遠くの者と会話できる魔法があるのですが、それで先ほど会話をしていました」

「お前が黙りこくっていた時か?」


 フェイリスが警戒しながら聞く。俺はそれに1つ頷いて言葉をつづけた。


「どうも俺達が試合していたときに使った魔法で魔力を感じ取り、懐かしく思って来てしまったようです。お腹がすけば勝手に帰るそうなので」

「懐かれたとは話していたが、それほどか……」


 フェイリスは少しだけ警戒を解きながら、フィーナとクーを見る。まあ、あの状態を見て危険とは判断できないだろうな。

 宰相も、何とか気を持ち直し、ソファーに腰を下ろした。


「とりあえず話を戻しましょうか。ちょうどいい証拠も来てくれましたしね」

「そうだな。実物が俺達の目の前で彼女に懐いているのなら、否定のしようがないだろう」

「う、うむ。確かにそうだな」


 少し冷めてきたお茶を飲み干して、宰相が息を吐きながら納得してくれた。

 かなり強引な手だったけど、何とか上手くいった感じだな。


「では軍の警戒命令を解こう。しかし冒険者が氷海龍の島に近づかないようにした方が良いのは変わらないな」

「ええ、氷海龍にも島に入った人間は俺とフィーナ、リリウムの3人以外は問答無用で攻撃していいと言っておきますので。その方が、問題は少ないでしょう」

「そうだな。下手に馬鹿な連中を近づけて怒りを買うことも無いだろう」


 その後は、淡々と話が進み、俺たちは解放された。


 宿のことを相談したら、客室を用意してくれることになった。荷物も宿から持ってきてくれると言うことで、ある意味全て計画通りである。

 そして俺たちは今、リリウムとフィーナに用意された部屋でクーと戯れている。


「クーちゃんはトーカの頭の上が好きなんですね」

「どうなんだろうな。高いところが好きなだけとか?」

「なら自分で飛べばいいだけだろう。氷海龍は自由に空を飛べるからな」

「そりゃそっか」


 クーはマフラーのように俺に巻き付き、頭の上に顔を載せている。手の爪で落ちないようにしているため、ちょっと頭皮に食い込んではいるが、特に痛くは感じなかった。


「トーカの頭は少しハネてますからね。それが気持ちいいんじゃないですか?」

「鳥の巣頭ってことかよ……」


 髪に埋もれるようにわしゃわしゃと体をゆするクーが、何となく同意したように感じた。




 執務室に入り、自分の椅子にどっしりと腰を下ろす。

 その後に入って来たフェイリスとルーガがソファーに腰を下ろす。


「ふぅ、本当に老体に堪えるな」

「お疲れ様です。しかしこれで問題の1つが解決したとみて良いのではないでしょうか?」

「そうだな、目下懸念されていた氷海龍の襲撃が無いと分かったのだ。肩の荷は下りただろう」

「それはそうだがな。しかし根本は解決されていない」


 もともとこのような問題が浮上した理由は、国の近くに平然と氷海龍が巣を作っていることなのである。

 その根本である氷海龍と会話にせよ討伐にせよ、何かしらの対策を講じてこなかった国の失態だ。それを解決しないことには、今後いつ同じことが起きるか分からない。

 今後はそれを考える必要が出てきたのだ。


「一難去ってまた一難と言ったところか」

「そうだな。王の教育も大詰めだと言うのに」

「それが終われば大半の仕事は王に任せられます。宰相は専念できるようになるのでは?」

「専念するということは、気を紛らわすことも出来ないということだよ」


 宰相は苦笑しながら凝った肩を片手で揉む。


「まあ、心配ばかりしていても仕方がないな。今は目の前のことを喜ぼう」

「では私が各騎士への伝令は手配しておきます」

「頼んだ。この用紙を使ってくれ」


 宰相が机の引き出しから取り出した用紙。それには宰相の直筆サインが書かれており、すぐにでも命令が出せるようになっている物だ。よほど信用している者にしか渡せない用紙である。


「ありがとうございます」


 ルーガはそれを受け取り、執務室を出て行く。それを見送ってフェイリスが口を開いた。


「まさか氷海龍が自由に転移を出来るとはな」

「邪神級には常識が通用しないというのを、つくづく思い知らされたな」

「それならあのトーカという冒険者もだ。極星の勇者と同じ全属性を使える上に、あの非常識な体力と筋力、完全に人間という枠を逸脱している」

「極星の勇者も、肉体的には鍛えられた冒険者や騎士と同程度だったという話だしな」

「正直アイツに勝つ方法は闇討ちぐらいしかないだろうな。どれだけ実力が有ろうと正面から戦ったのでは負ける」

「お主がそこまで言うほどか」


 フェイリスが完全敗北を宣言するのは非常に珍しい事だった。

 それゆえ、宰相もトーカの非常識さを認識する。


「そばにいるだけで危険な存在か。なるべく早く我が国から出て行ってもらいたいものだ」

「殺そうとは考えないのか?」

「もしも――のことを考えるのなら、手を出さないのがベストだろうな」


 もしもトーカが国で暴れた場合を考えるよりも、もしもトーカを暗殺しようとして失敗し、報復される場合を考えれば、後者の方が危険性は高くなる。

 面会時のトーカの敬語に違和感を感じてはいたが、すぐに暴れるような少年には見えなかった。むしろ慣れない敬語を必死に使う少年にしか見えなかったからだ。


「そういうことか。今日は俺も城に泊めてもらうぞ」

「そうしてくれ。いつもの部屋を用意してある」

「感謝する」


 フェイリスが退室したのを見て、宰相はもう一度ため息を吐く。


「老後ぐらいはゆっくり過ごしたいものだ」


 トーカ達との面会の為途中で止まっていた書類仕事を済ませるため、メイドを呼び、お茶を頼むのだった。


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