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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
デイゴ王国闘技大会編・団体戦
92/151

91話

 騎士が水の人形の中に潜り込んでいくのを見ながら、フィーナはもう一度攻撃を仕掛けるタイミングを見計らう。

 フィーナは、実際には氷の中に入り込んでいる訳では無い。

 氷に映った自分の姿を、相手に見せているだけだ。しかし、氷の微粒子が迷路の中には散布されており、それが立体的にフィーナを映し出している。

 何度かその虚像を使い、フェイントを入れた後で自分自身が攻撃に向かう。背中から刺せばそれで勝負が決まるかもしれないし、正面から行っても、武器を破壊できれば大きく有利な状況に傾く。


「次は……」


 相手が人形の中に完全に潜り込んだところで、あと数回の虚像を送り込もうと考えていた。人形がどんな効果を持っているか分から無いからだ。

 その虚像に対して何か攻撃を仕掛けてきたのならば、相手の人形の特性が分かるかもしれないし、分からなかったとしても、動きは分かる。

 反応されるかされないかだけでも、情報としては良い収穫になるのだ。


「さあ、どこからでもかかってこい!」


 騎士が声を上げる。それに便乗するようにして虚像を騎士に向けて放った。

 しかし騎士はその虚像に対して、何もアクションをしてこない。

 そのままフィーナの虚像は、騎士の体をすり抜けて氷の壁の中に消えて行ってしまう。

 その行動に疑問が浮かぶ。

 今までの動きから、騎士が決して反応できない訳では無いことは分かっている。ならば自分の虚像がばれていたのか? しかし、魔法の内容がバレるほどこの魔法をまだ見せてはいない。

 そこで思い付くのが、水の人形の効果。

 斬られても問題ないほど防御力が高い可能性。個人戦の決勝で見たシグルドの剣を思い出したのだ。

 あの時のシグルドの剣は稲妻を受けても水がはじけ飛ばずに剣に密着していた。それほどの硬さがあるのならば、確かに属性剣の攻撃に対しても怖くないのかもしれない。

 しかしそれだけの密度の水を操れるのは、シグルドが1等星だったからだ。

 あの騎士が1等星である可能性も否定はできないが、フィーナの魔法をさらに大きな魔法で破ろうとしないことと、最初に使った水で自分たちを囲う魔法が、天井を完全に覆わなかったことからそれは無いんじゃないかと考える。


「自分で行ってみるしかなさそうですね」


 その後、2度ほど虚像を送り込み、相手が全く動いてこないのを確認して、フィーナは自分が出ることを決意する。

 狙うのは死角からの一撃。


「ここです!」


 フィーナが飛び出したのは、天井だ。

 虚像をずっと両面の壁から飛び出させることで、フィーナの実体も同じように両面から飛び出すと思わせておいたのだ。そして隙を見て天井からの一撃を入れる。

 それが作戦だった。


「もらった!」


 騎士は動かない。フィーナは属性剣を自分の落下の速度を使ってそのまま騎士の肩に突き刺した。

 パシャンッ!

 そんな音がしたのはその直後だった。

 そして自分がずぶ濡れになっていることに気付く。


「これは」


 見れば人形は簡単に壊れて、それこそ水風船を割るかのように水をまき散らしていたのだ。

 そしてその中に騎士の姿は無い。


「どこに!?」

「残念こっちでした」


 そして後ろからそっと首筋に当てられる冷たい感覚。

 それは紛れもなく剣だった。

 騎士がフィーナの後ろから首筋に剣を当てているのだ。


「ど、どうやって?」


 訳も分からず、どうなったのかもよく分からないままフィーナがたずねる。


「あの水の人形は囮。君が君の偽物を使ったように、俺も水で偽物を作った訳」

「でも確かに人形の中に入って」

「ああ、入ったのは事実だけど、その後またすぐに出たんだよ。氷と水の壁が張り巡らされてるせいで気付かなかったでしょ?」

「迷宮が利用された?」

「そゆこと。残念だったね」

「うう……降参です」


 言うと同時に、フィーナは自分の迷宮を解体する。

 騎士も同じように水の壁を解体した。その時に分かったのは、騎士の水の壁は少しずつ氷の迷宮の壁にも上から重ねるように駆けられていたこと。

 要は、幻覚を掛け合って、最終的に騙された形になる。

 降参した以上はフィールドから降りなければならない。

 とぼとぼと歩き出そうとしたところで、周囲の異変に気付く。何も音がしないのだ。


「あれ? どうしたんですか?」

「ああ、全力出して俺が勝ったらみんな黙っちまった」


 トーカの一言で理解する。

 A+ランクの冒険者とデイゴのトップ騎士2人を同時に相手して勝ってしまったのだ。それも目立った外傷すらせずに。


「ああ、そういうことですか。やりましたね!」

「イエィ!」「イエィ!」


 その嬉しさのあまり、思わず駆け寄って周囲の目も気にすることなくハイタッチしてしまった。実際の所は抱きつきたい気分だったのは、フィーナの心の中にそっとしまってある。




 ハイタッチを交わした後に、リリウムの姿を探す。

 リリウムは先にフィールドを降りていた。けど負けたって訳じゃなさそうだな。かなり満足げな表情しているし。


「リリウムはどうだった?」

「うむ、なかなか楽しめる戦いだったな。1対1になってからはいささか拍子抜けしてしまったが」

「それは仕方がないと思いますよ? 2対1で勝てなかった相手にどうやって勝つんだって思っちゃいますもん」

「実力としてはいい勝負を出来る相手だと思ったんだがな」


 要は試合中の感情次第ってことだな。俺は最後までフェイリスが立ち向かってくれたからかなりいい試合が出来たと思うし。

 そう言えばフィーナはしょぼくれてたな。


「フィーナは負けちまったみたいだな」

「はい……行けた!と思ったところで、完全に読まれてました」

「経験不足が祟ったってやつ?」

「かもしれないですね。けど読み負けるって、どっちかって言うと頭の問題の気が……」


 そこに、さっきフィーナと戦っていた騎士が声を掛けてきた。


「いやいや、俺とあそこまで読み勝負できるのは良い頭してるよ? ただちょっと俺が良すぎただけでね」


 ハッハッハと陽気に笑う騎士は、フィーナの肩をパンパンと叩く。


「なんせ俺、デイゴの騎士じゃ1番頭良いしね! 騎士学校も主席で出てるんだぜ!」


 騎士の言葉を聞いて、俺はリリウムに振る。


「リリウムどう思う?」

「ふむ、人は見かけによらないんだな。勉強になる」


 そうなんだよな。喋り方とか俺に似てるし、何となくかなり軽い男な感じするし、こういう男って大抵がバカじゃん? こう、騎士ってこと自慢しながら女の尻追いかけまわすような感じの。


「ちょっ、それひどくないっすか。偏見っすよ偏見」

「そう言うことにしておこう」

「うわ、理解する気ないよこの人……」


 リリウムにボロクソに言われ、とぼとぼと肩を落として騎士は仲間たちの元へ戻って行った。

 その頃になってようやく観客たちが我に返り始める。

 さすがに5属性も使ってたら観客もぶったまげるよな。さて、この後はどうなることやら。

 正直この後の事が全く予想できない。

 予想としては全属性を使える奴の登場で、極星の勇者の再来!とか言って盛大に盛り上がる可能性と、あんな恐ろしい奴が闘技大会に出て来るなんて。あんな化け物に勝てる奴いる訳ないじゃないか!って感じの批判的なコメントに埋め尽くされるかのどっちかだと思うんだけどな。

 そんなことを思っていると、フェイリスがこっちに歩いてきた。


「少しいいか」

「おう、なかなかいい試合だったぜ」


 そう言って、俺はフェイリスが何か話し始める前に右手を差し出す。


「む……そうか。楽しんでもらえたなら何よりだ」


 フェイリスは少し驚いて目を開くが、すぐに何か納得したように俺の手を握った。

 そして軽く握手を交わして離す。


「そんで何の用?」

「氷海龍についてだ。試合中に聞き出してやろうと思っていたのだが、戦いに精一杯になってしまって詳しい話が聞けなかったからな」

「ならこの後、どっかの喫茶店とかで話すか?」

「いや、王城に来てほしい」


 また王城ですか……できればお断りしたんだけどな。

 俺の表情を読み取ったのか、フェイリスもしぶしぶと言った表情で訳を話す。


「氷海龍の一連の騒ぎで、国はかなり右往左往している。今回闘技大会に腕利きを集めたのも、実は氷海龍対策だと言ったら信じるか?」

「マジ?」

「そうだ。そして、現状氷海龍のことに関して一番詳しいのはおそらくお前だろう」

「そりゃそうだろうな」


 なんせ殴り合って、氷海龍の子供の親にもなったんだし。


「現状、あの島と氷海龍がどうなっているのか詳しく話を聞きたい。それで国は今後の軍の動きを決める必要もある」

「あー、そういうことか。まあ、そういうことなら話さない訳にはいかないよな。分かった、じゃあこの後城に行くか」

「おそらく現状を聞くだけでお前自身には何も手を出してこないだろうとは思うが、用心しておけ。今の試合で色々と邪推するバカはいるはずだ」

「あんたはどんな反応をするんだ? かなり色々やったと思うけど」


 試合前と全く変わらないフェイリスの反応に少し驚きつつ、俺は問いかける。


「ただ俺より強い奴が現れただけだ。お前の強さがどういうものかは気になるが、それ以上は何もない」

「そりゃいい答えだ。あんたも城へは行くのか?」

「ああ、護衛と関係者としてな。今フィールドにいる連中全員で動くことになるだろう。会場の外はパニックになっているだろうからな」

「なるほどね」


 そりゃ、俺みたいなやつがポッと出てきたらパニックにもなるか。今日の夜の新聞が楽しみでしょうがない。あ、宿大丈夫かね?

 今更ながら、その事を心配する。フィーナだけでも結構有名で騒ぎになりかけてたのに、俺やリリウムまで一緒となるとちょっとヤバいかも? まあ、そうなったら城にでも泊めてもらえばいいか。国民の安全を考えるなら、その方が良いだろうしな。


「では後で迎えを控え室に送る。それまでは控え室にいてくれ」

「了解。おとなしく待ってるよ」


 フェイリスは言うことだけ言って自チームに戻って行った。そこで俺との会話を伝えるのだろう。

 俺はその間にリリウムとフィーナに事情を説明する。


「ふむ、私は構わないぞ」

「私はどこまでもトーカと一緒ですよ」

「うし、なら城に行くってことで。宿の荷物は、まあ、城の兵士にでも頼むか」


 かなり自分勝手な事を言ってる気がしないでもないが、まあ大丈夫でしょう。

 さて、湧き上がってる観客席に手を振りながら、控室に戻りますかね。




 控室に戻ってゆっくり疲れを癒していると、扉がノックされた。


「トーカ殿。ルーガだ」

「おう、待ってたぜ」


 扉を開けると、ルーガが立っている。その後ろにさっき試合をした騎士たちも並んでいた。ルーガはここに来る前に鎧を変えたのか、俺が切った部分が無くなっている。まあ、城に行くのに壊れたままの鎧は不味いわな。

 そして、なぜかその中にはフェイリスの姿が無かった。


「あれ? フェイリスは?」

「フェイリス殿は観客の視線を誘導してもらうために先に出てもらっている。今ならフェイリスから話を聞こうと記者たちが追いかけているからな。多少は楽になるはずだ」

「なるほどね、んじゃ行きますか」


 そうして俺達は騎士に連れられ闘技場の裏口からこっそりと闘技場を後にする。

 それでもかなりの人数に囲まれたが、騎士たちが人の壁をこじ開けながら進んでくれたおかげでかなり進みやすい。やっぱ鎧付けた人が壁をこじ開けると、広く空いて良いな。

 そして俺たちは早々に王城に到着する。

 客室に通された俺たちは、そこで話を聞くと言うことで、荷物を置いて寛いでいる。フィーナはかなり緊張した様子だが、ルーガが言うには王様と会う訳じゃないってことだから、そこまで緊張する必要ないのにな。


「フィーナ緊張しすぎじゃない? 人の目は慣れてきたのに、こういうのは慣れてないのか?」

「む、むむ、無理ですよ。デイゴ国の重要人物と面会ですよ!? 私、今は冒険者としてトーカと一緒にいますけど、それまではただの商人の娘だったんですから! 慣れている訳ないじゃないですか! それに商人としては商売してる国の重要人物なんて、絶対に頭が上がらない存在なんですから!」


 ああ、そりゃそうか。商売させてもらってる感じだしな。国がこいつには商売させないっつったら、別の国に行かないと生活できなくなっちまうもんな。


「重要人物って誰なんだろうな?」

「おそらく宰相だろう」


 口を開いたのは、紅茶を一口のんで、落ち着いた様子のリリウムだ。さすがに貴族だけあって、こういう時のしぐさは非常に優雅だったりする。


「宰相?」

「トーカもデイゴ国王の姿は見たろ。まだ若い王なのだ、今は宰相が色々とサポートしながら業務をしていると聞いている。面倒な案件は全て宰相が解決しているらしい」

「有能だな」

「ああ、だがかなりお年を召されているらしい。早く王の教育を終わらせて隠居したいと言っていると噂も聞いている」

「へー、珍しいな」

「何がだ?」

「だってほら。こういう行政とか王政を取り仕切ってる時って、権力とか金とか欲しくなる時じゃん? 王様を傀儡にしてやろうとか、そういう野心が全く見えないっつうか」


 どこの国だって、最高権力の一旦を握れば離したくなくなるのが人間ってもんな気がするし、早く隠居したいっていうのは意外と珍しい気がする。


「それは私がすでに年だからだよ」


 扉から声が聞こえた。俺がそちらを振り向けば、そこにはどこかの大魔法使いかと言わんばかりにひげを蓄えた爺さんがいた。

これと次で闘技大会の休憩的に宰相とお話し。

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