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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
デイゴ王国闘技大会編・団体戦
91/151

90話

 トーカから注意を受けてしまったリリウムだが、捕まったのはどうしようもないことだと考えていた。

 何せ相手の情報が全くない状態だったのだ。

 見た目から入ってくる情報と、技量、そして相手の魔法の属性。知らなければまともに戦えないものは沢山ある。

 その中でも今回は魔法の属性を知らなかったためのミスだ。こればかりは責められてもどうしようもない。

 しかし、先ほどの攻撃と連携、そして2人の使った魔法でほぼ全てを理解することは出来た。

 これで相手とこちらの条件は対等になったと言える。さすがに人数の事まで含めると対等とは言えないが、それはルールに則ったことなのだから仕方がない。


「さて、まさか捕まえられるとは思わなかったぞ」

「俺もこんなに簡単に抜けだされるとは思わなかった」


 リリウムを魔法で捕まえていた槍の騎士は壊された土壁を見て苦笑する。


「俺じゃ抜けることも出来なかったんだけどな」


 剣の騎士は、そもそもあの土壁から簡単に脱出できたこと自体にショックを受ける。そこに技量の違いを見せつけられたからだ。

 しかし――


「2人でやれば捕まえられたんだ。今度は倒しに行くぞ!」

「もちろんだ、相棒。デイゴ騎士の底力を見せてやる」


 気持ちを一瞬で切り替え、リリウムを見据えた。


「今度は先ほどのようにはいかないぞ。2人の情報はだいたい収集出来たからな」


 リリウムはゆっくりとした動作で剣を構える。そして再び詠唱をした。


「星に願いて、風を纏う。ウィンドマント」

「またその魔法か。考えればその魔法で俺の攻撃を躱してたんだな」


 詠唱しても風を身に纏うだけだったこの魔法。しかし騎士にしてみれば非常に厄介な魔法になっていた。


「風は全てを伝えてくれるからな。1人で動いていたときにはよく世話になった魔法だ」

「孤高姫の名は伊達じゃないってことか」

「その呼ばれ方は、あまり好きじゃないが……な!」


 最後の一言でリリウムが一歩を踏み出す。その一歩は、騎士たちには非常に軽いものに見えた。しかし実際のリリウムの一歩は、その予想をはるかに超える速度を伴って騎士たちの目の前にリリウムを運ぶ。

 ウィンドマントはただ風を纏って動きを教えるだけの魔法ではない。その風を利用して術者の機動力を高めたり、また時には盾となる時もある。その応用力は術者の技量次第だが、長年使い続けているリリウムには運動のサポートなど造作も無いことだ。


「なっ!?」


 完全に予想からずれた行動をとられ、槍の騎士は無防備な状態でリリウムに体をさらしてしまう。


「クソッ、星に願いて、水弾を放つ。アクアショット!」


 とっさに剣の騎士が発動した魔法も、リリウムのウィンドマントはしっかりと主人に射線を教え、リリウムは少し体をずらすだけでアクアショットを躱してしまう。

 そして振り下ろされる剣。

 騎士はその攻撃を槍で受け止める。

 ガキンと重い音がして、剣が受け止められると、リリウムはすかさず剣を引き距離を取る。そして風を纏って高速で動き回りながら2人の騎士を翻弄する。

 目の前を通ったかと思えば、後ろを走り抜ける。先を予想して視線を向けてもそこにはおらず、気が付けば目の前から剣を振り下ろされそうになっている。

 時にはジャンプで空へ飛びあがり、空中を踏むような動作すら見せるリリウムに、騎士2名は剣も魔法もその標的を定めることができずに、次第に足を止めるようになっていった。

 そして気付けば騎士たちは互いに背中を合わせ、なるべく死角が無くなるように陣形を取っている。

 そうしているうちに、またリリウムの剣が振り下ろされ、槍の騎士がそれを受け止める。これで5度目になる攻撃に、槍の騎士は苛立ちを隠せずにいた。


「クソッ! このままじゃじり貧だ。大技使うから援護頼む!」

「わ、分かった」


 槍の騎士の呼びかけに剣の騎士が答え警戒を強める。しかし今の状況においてそれは悪手でしかなかった。

 騎士たちは厳しい訓練の中で、剣の騎士が前、槍の騎士がその後方という連携を訓練し続けてきた。そのため現状の2人が背中を合わせている状態でも、訓練の時と同じ判断が出てしまったのだ。

 いつものポジショニングならば槍の騎士の詠唱を剣の騎士が守ることは出来ただろう。

 しかし背中を向き合わせた状態から、槍の騎士の正面を守るのは実質的に不可能だ。

 騎士たちの焦りがその判断ミスを生んだ。

 そのミスをリリウムが逃すことは無い。

 集中した槍の騎士の正面に回り剣を振り下ろす。剣の騎士がとっさに声を上げ槍の騎士は迫る剣に気付いた。そして6度目の斬撃を槍でなんとか受けとめる――――はずだった。

 パキンッ!!

 甲高い音と共に槍の柄が真っ2つに折れたのだ。

 そして剣はそのまま槍の騎士の肩口に食い込み、振り抜かれる。


「ぐあっ」

「大丈夫か!」


 剣の騎士もすぐに動きリリウムを槍の騎士から引き離すが、槍の騎士の傷は明らかに致命傷だった。

 右の肩から5センチ程度。剣の刀身がもろに食い込まされた状態まで切られてしまっている。この状態では槍を構えることはおろか、痛みでまともに詠唱すらできないだろう。


「くそぉ!」


 絶対有利だった状態から、完全に対等な状態にまでされてしまった剣の騎士の姿は、まだ対等な状態になっただけの様子とは到底思えないものだ。

 有利な状態から押されたという事実が、対等から不利へと騎士の意識を持って行ってしまったのだ。


「教えておいて私が一度も使わないというのもなんだからな。フィーナが見ていないのは残念だが、まあ教えるだけの技量が私にあるのは証明できただろう」


 リリウムは苦戦しているフィーナの方を見ながら、満足したように1つ頷く。


「さて、後1人だな」

「簡単にはやられねぇぞ! せめて相打つぐらいはしてやる!」


 実際に1対1で戦うのならば善戦できるはずの剣の騎士なのだが、今までの戦いの流れで完全に自分がリリウムより実力が下だと思い込んでしまっていた。


「ふむ、私は全力で行くだけだな」


 そうして平然といつも通りの感情で戦うリリウムに、負ける要素は無いに等しかった。




 強い。フィーナが騎士に対して純粋に感じた感想だ。

 落ち着いて自分の戦い方を守ることを心掛けて戦いに挑んだが、それでも若干押されているのが分かる。これがチームのなかで一番弱い人だと言うのだから、自分の未熟さを思い知らされる。


「それでも――」


 ただじりじりと追い詰められるだけのつもりは無かった。

 属性剣はすでに2度相手の剣の脆い部分を切っている。あと3回も斬れば折れるだろうと予想がついている。

 しかしそれまで耐えられるかというのが現状一番の問題だった。

 相手の剣速は何とか見れている。しかしそれに魔法が加わってくると、どうしても反応が遅れてしまい、上手く躱す、ないしいなすことが出来ていないのだ。

 それが自分の手に負担をかけているのはよく分かっていた。

 魔法を何とかしなければと考えた時、声がかけられる。


「フィーナ、デカいの行くぞ!」

「え? もう!?」


 それはトーカからの範囲技の合図。この合図が来たときは敵との戦闘をやめ、衝撃に備えろと言われていた。

 フィーナはそれに従い騎士から距離を取って衝撃に備える。

 騎士はそれを不思議そうに見るが、すぐに襲ってきた衝撃によって大きくバランスを崩される。


「うわっ!? なんだよ、これ」

「今!」


 バランスを崩した騎士は、とっさにフィーナとの距離を取るが、フィーナはそれを考慮して氷の矢を放っていた。


「その程度!」


 騎士はバランスを崩しながらも、その矢を間一髪で躱した。そして詠唱をする。


「星に祈りて、視界を惑わす。ミラージュレンズ」

「これは!」


 騎士の放った魔法は、一瞬にしてフィーナと騎士の回りを覆い尽くした。それは水の壁だ。その水の波が視界をぼやけさせる。


「あんなのが飛んできちゃ集中できないし、分断させてもらう。それにあまり時間はかけられない。あんたが最弱ってんならなおさらな。だから一気に行かせてもらうぜ!」

「負けません!」


 まだ魔法の効果はフィーナ達を囲っただけである。フィーナ自身にその効果が及んでいることは無い。

 そのためフィーナは、いったん周りのことを頭の隅に追いやり、相手の武器を破壊することに集中する。

 そして騎士が走り出す。

 騎士はなぜか真正面から切りかかって来た。

 その程度の攻撃ならばフィーナは苦も無く躱すことが出きる。それだけの練習を積んできたのだから。

 そしてステップで剣筋のギリギリ外側に動き、相手の剣の軌道に合わせて属性剣を振り抜く。


「なっ!?」


 しかし完璧なタイミングで振り抜いたと思った属性剣は、空を切る。逆に騎士の剣はフィーナの服をかすめた。

 フィーナの脇腹に一筋の切り目を入れた騎士は、さらに果敢に攻め立てる。

 下から切り上げれば、フィーナも負けじと属性剣を当てに行く。しかしまたも属性剣が騎士に当たることは無く、フィーナの足は軽く切り裂かれる。


「クッ……なんで……」

「俺のミラージュレンズは感覚を狂わせる。周りの視界が歪むってのは、意外と目に影響を与えるんだぜ」

「この壁のせい……」


 ミラージュレンズはごくわずかに外の視界を歪ませていた。その歪みがフィーナの剣筋を僅かにずらし、見切りをもずらしていた。そのため直撃はしないまでも、掠る程度にはダメージが入ってしまう。


「大ダメージは無理だけど、じりじりと追い詰めるのは得意でね」

「やっかいな魔法ですね……けど、効果を教えたのは早計ですね」

「ん?」

「星に願いを。迷い込め氷の迷宮。アイスラビリンス!」

「これは!?」


 詠唱によって生み出されたのは、氷で出来た迷路。それは騎士の水の壁の中を細かく分断していった。

 そして水の壁とは違い、天井までをも完全に覆い尽くす。


「これは迷路です。あなたの魔法は目であの水の壁を見なければならない。この魔法ならあの壁を見ることはありません」


 どこからともなくフィーナの声が振ってくる。


「外の視界で私の距離感を惑わせるのなら、その内側にもっと壁を作ってしまえばいいんです」

「くっそ、こんな魔法まで使えるのかよ」


 完全に閉じ込められた騎士は悪態を突きながら剣を氷の壁に向かって突き立てる。

 しかし氷の壁はびくともせずその剣を弾き返す。


「これが1等星の硬さかよ。俺のとは大違いだな」


 騎士の等星は2等星だった。それでデイゴ騎士のトップ5に入れるのだから技量としては申し分ないのだが、多少軽はずみな行動と軽い口が災いしているのは言うまでもない。


「一気に攻め込みます!」


 フィーナの声と共に、氷の壁の1つがぐにゃりと歪んだ。そしてその壁から飛び出してくるフィーナ。

 騎士は驚きながらもなんとかそれを躱す。

 しかしフィーナはすぐに壁の中へと消えて行ってしまった。

 それを追おうと壁に手を伸ばすが、すでに壁はもとの状態に戻っており、騎士をその先に進ませることは無い。


「こりゃちょっとヤバいか。いや、まだあれを使えば……」


 ピンチになった騎士は、若干考え込みながらフィーナの奇襲を警戒する。

 そして2度目の攻撃が来た。

 氷に映った背後の壁が歪み、その中からフィーナが飛び出してくる。一瞬正面の氷が歪んでいるのと勘違いして反応が遅れたが、それでもまだ対処できないタイミングではない。

 振り向きざま騎士は、剣を振るう。しかしその剣は空を切った。

 そして迫るフィーナ。もうだめだと思った。しかし次の瞬間、フィーナの体は騎士をすり抜けそのまま氷の中に潜り込んでしまった。


「これって、氷の幻想? でもこんな魔法って」


 完全な形の虚像を相手に見せる技を、騎士は今まで聞いたことが無かった。


「むちゃくちゃな嬢ちゃんだな。けど今ので突破口は見えたぜ」


 小さくニヤリと笑い詠唱を唱える。


「星に願いて、水の人形を成す。アクアドール」


 詠唱と共に、騎士の目の前に水が集まる。その水は徐々にその形を変えてゆき、次第に騎士と同じ姿を取った。


「さて、あとは」


 そう言って騎士はその人形に手を伸ばす。手は人形の中に飲み込まれた。そして腕、肩、体を順番にその人形の中に潜り込ませていった。


「さあ、どこからでも来ると言い」


 完全に人形の中に入った騎士は隠れているフィーナに向かってそう叫び、剣を構えた。




 地面を蹴れば軽く抉れる。止まる時にも地面をガリガリと削りながら止まる。

 俺が一歩移動するたびに、フィールドはどんどんと荒れ果てていく。しかしそんなのは気にすることじゃない。どうせ俺とフェイリスが魔法をぶっ放せばボロボロになるんだ。

 フェイリスに走りより、今度はサイディッシュの柄尻を槍のように突き出す。刃はついていないが、地味に鋭くなっている尻の部分は、俺の力が合わさると十分な凶器になる。

 フェイリスはそれを躱しながら詠唱を開始する。それと同時にルーガも動く。

 フェイリスの詠唱を邪魔されないようにするためだろう。何かを仕掛けてくる様子も無く、剣で斬りかかってきた。

 純粋な剣技ならやはりフェイリスよりルーガの方が強い。剣筋は鋭いし、フェイントを混ぜて来る斬撃は意外と受けるのも躱すのも難しい。

 俺も対人戦の経験は少ない。だから結構簡単にフェイントには引っかかってしまうのだ。

 まあ、動体視力と強引な動きで躱したり、受け止めたりはしてるけどな。


「雷星の加護よ、世界を穿て。ライトニングボルト!」


 そうしているうちにフェイリスの詠唱が完成してしまった。

 完成と共にルーガが下がり、空に黒い雲が浮かび雷鳴がとどろく。もう数秒もしないうちに俺に向かって稲妻が落ちてくるだろう。

 さすがの俺も雷の速度は躱せない。だがあの稲妻はかなりの威力があるっぽいし、さすがに直撃は受けたくない。それについさっき落雷も躱せるいい方法をフェイリスから見せてもらったし、一発勝負だけど使ってみますかね。

 そろそろ俺も全力で行きたくなったしな!


「月示せ、雷の軌道。ライトニングバニッシュ!」


 直後、俺のもとに一筋の落雷が落ちてきた。


「やったか!?」

「残念! 俺はこっちだぜ!」


 せっかくルーガがフラグっぽい言葉を呟いてくれたので、そっちに攻撃を仕掛けることにした。


「な!?」


 突然後ろに現れた俺にルーガが驚き、振り返る。そこにサイディッシュを振り下ろす。

 ガンッ!!

 と重い音がしてサイディッシュがフィールドに突き刺さる。

 ルーガはその場から消え、フェイリスと共に俺から離れた場所に座り込んでいた。

 そして俺を睨みつけるフェイリス。


「チッ、今のは決まったと思ったんだけどな」

「お前、今何をした?」

「ん? これの事か?」


 そう言ってもう一度雷を避けた魔法を詠唱。フェイリスの目の前に現れる。

 その動きにフェイリスも目を見張る。けど試合中にそんな驚いてちゃいけないな。隙だらけになるぜ。

 サイディッシュを振るうには近すぎたので、そのままフェイリスの頬に向かってパンチをかます。

 重い手ごたえと共にフェイリスが吹っ飛んだ。


「くおっ……」

「クリティカル! お前もいつまでも座ってんじゃねぇよ、戦場なら死んでるぞ!」


 あっけにとられ動かなくなっているルーガにも蹴りをかまし、フェイリスと同じ方向へ飛ばしておく。

 ろくな防御もせずに吹き飛ばされたルーガは、体勢を立て直したフェイリスにぶつかるようにして止まった。


「バカな。今のは雷属性!?」

「いつから2属性が限界だと思い込んでいた?」


 1度言ってみたかったセリフだ。力隠してたんならこれは言うべきだろ、うん。


「3属性も使えるのか?」


 フェイリスの問いに俺はあえて答えず、言葉を返す。


「これから全力のラッシュで見せてやる。自分で判断しな。ラッシュについて来れたら褒めてやるよ」


 俺のラッシュという言葉を聞いてか、ルーガとフェイリス2人が身構える。正直ルーガが俺のラッシュに耐えられる気はしないが、フェイリスと協力して何とか耐えて欲しいもんだ。


「月示せ、刃の檻。ウィンドキューブ! 月示せ、雷の咆哮。スパークブラスト! 月示せ、大地の刃、クレイランス!」


 ウィンドカッターで出きた檻がフェイリスたちを囲み、クレイランスが2人目掛けて飛んでいく。そしてそれを躱しても電気を纏った衝撃波が逃げ場無く2人を襲う。さあ、どう躱す?


「舐めるな! 雷星の加護よ、世界を雷で覆え。サンダーエンド!」


 フェイリスはどうやら俺の魔法を上から叩き潰すことにしたらしい。

 けどフェイリスの魔法だけじゃ威力が足りないな。せいぜいウィンドキューブを消すのが限界だ。あとはルーガがどう動くかだけど。


「ルーガ、貴様も呆けてないで動け。焼き払われるぞ! あの電気をどうにかしろ」

「あ、ああ。星に望む。水の護り。アクアキーパー!」


 2人の前面に水が吹き出し、俺のスパークバニッシュを受け止める。さて、後はクレイランスをどう止めるかだが、どうやらフェイリスが動くようだ。大方剣で叩き落とすか、あの左腕で強引に方向を変えるのだろう。

 けど、そのまま自由に動かすわけがないよな。


「月示せ、氷結の世界。アイスワールド!」


 俺のアイスワールドは、フィーナのそれとは違い地面だけでなく世界そのものすら凍らせる。ブリザードのような殺傷力は無いが、その分範囲が広かったりする。

 今の範囲はだいたい闘技場に張られている結界のギリギリ内側って感じだろうな。

 地面が凍り、壁が凍り、フェイリスの剣が鞘ごとベルトに凍りつく。そしてその足と地面を縛り付ける。


「くっ……」


 鞘から剣は抜けず、その場から動くことも出来ない。ルーガは魔法に集中して動けない。

さあ、どうする?


「雷星の加護よ、その力を走らせろ。ラウンドサンダー!」


 フェイリスは地面の氷を吹き飛ばすことを選択したようだ。

 氷が吹き飛んだ状態で、クレイランスが迫る。フェイリスはルーガに迫るクレイランスを蹴り飛ばし軌道を変え、自分に向かってきたクレイランスを左腕で受けとめる。

 しかし全力で放ったクレイランスが腕一本で止められるはずも無く、そのまま体を後方に吹き飛ばした。


「くお……」

「フェイリス殿!」


 直撃を受けたフェイリスは何とか意識を保っていた。フラフラとしながらもなんとか立ち上がる。

 俺はそこにサイディッシュを振り下ろそうと、走り寄る。しかし途中にルーガが飛び込んできた。


「このっ!」

「ハハ、吹き飛べや!」


 サイディッシュを横向きに振り抜く。ルーガはそれを受け止めようと剣を振り下ろした。

 一瞬だけ剣がサイディッシュにぶつかり、すぐに手から吹き飛ばされる。そして振り抜いたサイディッシュを強引に止め、柄尻でルーガの鎧の最初に切り裂いた部分を打ち付ける。


「ぐふっ」

「これで1人目!」


 トドメとばかりにくの字に折れたルーガの横顔を蹴り飛ばし、フィールドの外に叩き出した。

 吹き飛ばされたルーガを見ながら、フェイリスが詠唱を始める。


「雷星の加護よ、目の前の壁を撃て。サンダーショット」

「月示せ、炎華の胎動。フレイムエクスプロージョン!」

「5属性目だと!」

「驚いてる暇はねぇって言ってんだろ!」


 サンダーショットとフレイムエクスプロージョンがぶつかり爆発が起こる。

 その煙の中を突っ切り、俺はフェイリスの前に躍り出た。


「貴様! まさか全属性を!?」

「気付くのが遅せぇ! これで終わりだ!」

「クッ」


 俺が振り抜いたサイディッシュをフェイリスはとっさに凍りついた剣で鞘ごと受け止めようとする。

 しかし高速回転するサイディッシュの刃とぶつかって、まともに耐えられるはずがない。

 氷を吹き飛ばし、剣を手から弾き飛ばす。ここで盗賊とかならそのまま首ごと飛ばすとこだが、それをやるとさすがにこの結界の中でも死んじまう。

 だから俺は首筋に当たる直前でサイディッシュを止めた。

 首筋に触れそうなほど近くで火花をあげながら回転する刃を、汗を垂らしながら見るフェイリス。


「こ……降参だ」

「なかなか楽しめたぜ。褒めるレベルじゃなかったけどな」


 結局俺のラッシュを受けきれなかったのだから、まだまだってことだな!

 フェイリスの降参コールを聞いて、サイディッシュを引く。

 しかしいつまでたっても審判から勝利の判定が出てこない。仕方がないから俺は審判に直接訪ねることにした。


「審判コールは?」

「あ……しょ、勝者チームトーカ!」


 審判が判定を告げるとほぼ同時に、フィーナ達の戦っていた氷と水の壁がはじけるように消えた。そしてそこからしょげたようなフィーナと、意気揚々とした騎士が出てきたのだった。

 ありゃ負けたな。

 そう思っていると、フィーナがこちらに気付く。そして周囲の静けさにも。


「あれ? どうしたんですか?」

「全力出して俺が勝ったら、みんな黙っちまった」

「ああ、そういうことですか。やりましたね!」

「イエィ!」「イエィ!」


 周りの空気など一切読まず、俺とフィーナはハイタッチした。


年末にかけて忙しくなるため、更新が四日置きになります。ご了承ください。

次回更新は13日になります。

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