89話
開始と同時にトーカから離れる。それが1番重要なことだ。それをしなければ戦いに巻き込まれる可能性がある。
リリウムとフィーナはその事をあらかじめ承知し、開始と同時に2手に分かれ戦闘に入った。
「デイゴの騎士を2人同時に相手か。やはり距離を取って魔法合戦が無難か?」
目の前に立ちはだかるのは、青い甲冑に身を覆った2人の騎士。フィーナの方には1番弱いと言われた騎士が向かったことから、こちらには3番手と4番手が来ているのだろうとリリウムは予想する。
1人は騎士剣を持った一般的なスタイル。もう1人は長槍を持っていた。騎士で長槍を持つのは意外と珍しいが、騎馬隊などの所属ならばそれも特におかしい事ではない。
そのため、リリウムは特に気にすることなく2人に相対する。
「1人だからといって容赦はしないぞ」
「相手が相手だからな。俺達でも下手すればやられる。油断は無しだ」
「当然だ。私も油断されて勝ったのではつまらんからな」
相手から動いてくる気が無いのを感じて、リリウムは自分から攻めることにした。
まずは厄介な長槍を持っている騎士をターゲットにする。剣どうしでかち合っている時に、剣の騎士の後ろから攻撃される可能性をなくすためだ。
元から相手もその布陣を考えていたのか、長槍の騎士は剣の騎士より2歩下がった場所で構えていた。まずはそこから引きずり出す。
剣の騎士に向かって行くように見せかけながら詠唱をする。
もちろん信頼しているウィンドカッターだ。
「星に願いて、風刀を流す。ウィンドカッター」
「星に願うは、水の刃。ウォーターカッター」
剣の騎士が放つウォーターカッターにウィンドカッターはかき消される。しかしその隙をついて剣の騎士を躱し、槍の騎士の前に出ることができた。
こうなると相手は迂闊に魔法を発動できなくなる。
敵1人を挟み撃ちにすることは、戦いの中では非常に有利な状況を生み出すが、飛び道具や魔法を使った場合、それは味方に当たる可能性を生み出す。
「まずは貴様だ!」
「自分から挟まれて、無事で済むとは思うなよ!」
「俺達の連携をなめるな!」
突き出される槍を躱し、騎士の懐に飛び込む。その瞬間、後ろから剣が迫ってきた。
リリウムはとっさに横に飛び、その攻撃をかわす。一見そのまま仲間を斬ると思われた剣筋は、仲間の直前を通り過ぎて行った。
「なるほど。信頼か」
「フェイリスさんに鍛えられたからな」
「あの地獄に比べれば、剣が迫るぐらいどうってことない」
「A+冒険者直々の指導か。私も受けてみたいものだ。星に願いて風を纏う。ウィンドマント」
リリウムが唱えた詠唱によって、リリウムの回りに風がまとわりついた。
そして再び走り込む。
「また挟まれに来た?」
「何かあるんだろうが、俺たちはいつも通りにやるだけだ」
槍の騎士が動揺を見せるが、剣の騎士の叱咤によってすぐに冷静さを取戻しリリウムの剣に対処する。
槍と剣がぶつかり合い、激しい応酬をする中、後ろから迫る剣をリリウムは、全て見ずに躱していた。
「なぜ躱せる!?」
リリウムの魔法ウィンドマントがリリウムに迫る攻撃を全て教えてくれていた。どのような現象でも空気の動きはごまかせない。それゆえ、リリウムには全方位からの攻撃も全て見えていた。
剣の騎士に若干の焦りが現れる。いくら攻撃しても、まるで自分の攻撃が見えているかのように回避してくるのだ。その間にも槍の騎士はリリウムの剣技によってじりじりと追い詰められていく。それが余計に騎士に焦りを生んだ。
「クソッ、あれをやるぞ!」
「りょ、了解!」
剣の騎士が声を上げる。それに反応して槍の騎士が大きく槍を振るいリリウムを強引に引き離す。
しかしその強引さ故、リリウムの剣が腕をかすめた。
「チッ、掠めただけか」
何かしてこようとする騎士2名に対し、リリウムは距離を取ろうとする。
しかしその前に2人が動いた。
「星に願うは水の刃、ウォーターカッター!」
「星に願うは大地の起伏。アースウォール!」
剣の騎士が発動させたウォーターカッターがリリウムに迫る。リリウムはそれを横に飛んで躱そうとした。しかしその直前に地面がせり上がり、リリウムの逃げる方向を閉ざす。
「クッ……」
逃げる場所を失ったリリウムはとっさにその場にしゃがみ込む。ウィンドカッターとは違いウォーターカッターはその攻撃の向かう位置が分かりやすい。だからこそ、とっさにしゃがむことで回避することができた。
「今だ!」
「おう! 囲え!」
「ほう……」
剣の騎士の声に槍の騎士が反応し、リリウムに向けて開いていた手をグッと閉じる。
すると、しゃがんでいたリリウムの後方と左右を囲っていた土壁から新たな壁が飛び出してくる。それはリリウムの頭上と正面を完全に閉ざし、リリウムを四角い土の中に閉じ込めてしまった。
完全に閉じる瞬間、リリウムが一瞬笑ったように感じたが、剣の騎士はあえて無視しすることにする。
「よし! これで1人は無力化した」
「作戦通り、俺たちはもう1人を倒しに行くぞ」
騎士たち2人の役目は、最初からリリウムを倒すことでは無かった。一時的にでも動きを封じることで、数の有利を絶対的にすることだった。
リリウムが動きを封じられれば、フィーナに3人の騎士が向かうことになる。そうなればフィーナは一瞬でやられてしまう。そしてたとえリリウムが復活しても3対1となり、有利はより強固なものになる。
その作戦の第1段階は完了した。そして1人で戦っている騎士のもとに駆けようとした時、2人の騎士は強烈な衝撃に足を止めざるを得なかった。
刃を勢いよく回転させながらゆっくりと駆け出す。相手としては俺の力を様子見と行きたいだろうけど、そんなつまらない試合はしたくない。最初から全力で行かないとまずいと感じる状況に追い込んでやる。
並んで構えるフェイリスとルーガに、俺はサイディッシュを振り下ろした。
フェイリスたちは左右に避け、2人の間にサイディッシュが大きな亀裂を入れる。
「全力で来ねぇと一瞬で終わるぜ?」
突き刺さったサイディッシュを強引に抜き放ち、その場で輪を描くように振り抜く。
その速度にフェイリスは付いて来れている。けど、ルーガはどうかな?
完全に避けれたと思ったんだろうけど、俺のサイディッシュはただの鎌じゃない。刃は回転して見えにくくなっている。フェイリスはそれを一瞬で見抜いたが、ルーガは違った。
その僅かな距離感の差がルーガの鎧の腹部に亀裂を入れる。
「な!?」
「あの武器をよく見ろ! 刃は見えにくいが、少し飛び出している!」
驚くルーガに指摘しながら、フェイリスが動いた。
鎌を振り抜いた反動で止まっている俺に近づいてくる。サイディッシュの攻撃範囲の内側に入ってしまうつもりなのだろうが――簡単に入れさせるわけがない。
「星示せ、旋風の刃。タイフーンスライサー!」
俺の周りを風が回り、竜巻のように全身を覆い隠す。そしてその風の中にはウィンドカッターと同等の威力を持った刃が仕込まれている。
迂闊に近づけば、怪我では済まない傷を負うことになる。
風の刃で砕かれる地面を見てフェイリスもそれに気づいたのか、足を止め手を俺に向けて構えた。
「雷星の加護よ、目の前の障害を穿て。ライトニングブラスト!」
フェイリスの手に電気の球が作られる。手の平から打ち出されたそれはバチバチと激しく帯電しながら俺に迫る。
そして俺の魔法とぶつかり、俺の風を吹き飛ばした。さすがは雷帝の魔法ってことだな。
しかし、俺の魔法を消した所で限界が来たのか、雷球は掻き消える。
フェイリスからの追撃は無い。しかし風が途切れたとたん、次の攻撃が来た。
「星に望む、怒涛の水弾。アクアスキャッター!」
俺の背後からルーガが魔法を発動させる。それは面で迫ってくる水弾の嵐。
「良いね、そうでなきゃ2対1の意味がねぇ!」
魔法による防御は無い。再び詠唱しようにも時間的に間に合わない。このままなら俺はあの水弾でタコ殴りにされる。観客はそんな風に思ってるのかもしれないが、俺はその予想を突き破る!
守るものがないなら作ればいいのだ。材料は足元に腐るほどある。
俺は地面に向けて拳を振り下ろす。その衝撃がフィールドブロックを一撃で破壊し、瓦礫を中に巻き上げた。
水弾はその瓦礫を破壊しながら俺に向かって突き進むが、俺に届く前に消えてしまった。
ついでに砕いた瓦礫のかけらをフェイリスに投げつけておき、砕けたフィールドブロックから別のブロックに飛び移る。
フェイリスはルーガに続いて魔法を発動しようとしていたのを、破片に邪魔される形となった。
こうしないと2対1の場合波状的に攻撃され続けるのだ。それでもやられるつもりは無いが、ずっと防ぎっぱなしというのは俺的にも観客的にもつまらないだろう。
やっぱ試合は殴り殴られの応酬じゃねぇとな!
「次は俺の番だ! ちょっと本気出すぜ? 星示せ、大地の嘶き――」
「なに?」「まさか!」
俺の詠唱に、2人が驚きの声を上げる。そりゃそうだよな。超レアな2属性持ちが大会でいきなり2人も発覚したら驚くよな!
「アースブラスト!」
フェイリスとルーガの足もとが割れ、そこから石の礫が飛び出す。2人はとっさにその場から飛び去るが、元々避けられるのは考慮に入れている。
フェイリスが飛び去った先に、俺は地面を蹴りつけ突撃する。そしてサイディッシュを振り抜いた。
「この程度で――俺に攻撃が当たると思うな! 雷星の加護よ、自らを雷と成せ。サンダライズ!」
俺のサイディッシュがフェイリスに当たる直前、フェイリスの姿がその場から掻き消えた。まさに言葉通り僅かな残像を残して消失したのだ。
「おわ!? マジか!」
突然すぎて俺は完全にフェイリスを見失った。
ただこういう場合、敵は大抵上から来る!
自らの直観に従って自分の頭上を見上げると、フェイリスがいた。剣を構え振り下ろそうとしている。それは一昨日のリリウムに重なるものがあった。
ゆえに対処は一段上の物になる。
振り下ろされるフェイリスの剣に合わせて、サイディッシュを振るう。
サイディッシュは剣を横から殴り、手から弾き飛ばした。その行動にフェイリスは驚愕の表情を浮かべる。
「ハハ、ビンゴ!」
さらにそのまま落下してくるフェイリスに追撃を加えようとしたところで、横から影が割り込んできた。ルーガだ。フェイリスが無防備になったため強引に助っ人に入って来たのだろう。
ルーガの剣筋はフェイリス以上に鋭い。俺はその剣をサイディッシュの柄で受け止める。
ルーガは一瞬力勝負に出ようとしたが、俺がビクともしないことに驚きながらも、すぐに反応し下がる。
しかしその間にフェイリスへの追撃の機会は失われてしまった。
フェイリスはルーガのもとまで警戒しながら戻り、自らの電気を磁石にして剣を引き寄せる。俺はそれを黙って見ていた。
その間に少しだけ余裕ができて、司会の声を聞くことができた。
「これは一体何が起きていると言うのか! 試合開始直後はすぐに終わってしまうのではないかと私も心配したフェイリスとルーガの共闘に対し、トーカ選手1歩も引いていない! その上今大会シグルド選手に続いて2人目の2属性持ち! 私たちは夢でも見ているのかぁぁあああ!!!」
凄く良い反応してくれてるな。それでこそ俺も頑張ってる甲斐があるってもんだ。
そしてついでに仲間の状況も確認してみる。
フィーナは騎士の1人と切り結んでいた。安定の武器破壊を狙っているのだろう。リリウムとの訓練で教えられたことを忠実に守りながらの戦いをしているようだ。
それでも地味に押されているのは、騎士の実力ゆえだろうな。
そしてリリウムは――――おいおい、捕まってるよ……
リリウムの方を見た時、ちょうどリリウムは土の壁に閉じ込められているところだった。
そしてリリウムの相手をしていた騎士2人がフィーナの元へ向かおうとする。さすがにそれは止めないとだめだ。
「フィーナ! デカいの行くぞ!」
「え? もう!?」
フィーナは驚きながらもとっさに騎士から距離を取ってその場に腰を落とし踏ん張る体勢を取った。
フェイリスとルーガも警戒して構えを取る。
そして俺は氷海龍の島でやったことと同じ『ただ腕力に任せてサイディッシュを振りぬく』を島でやった時よりかは少し加減して実行した。じゃないと闘技場が吹っ飛びかねないからな。
「くおっ!」
「なんだこれは!」
振り抜きの衝撃を間近で浴びたフェイリスとルーガはその衝撃で地面を転がる。
フィーナは何とか踏ん張って耐えたが、騎士の方は踏ん張りが聞かずにバランスを崩す。しかし転倒は避けて、フィーナから距離を取った。
フィーナのもとに向かおうとしていた騎士2名は、その場で足を止めて衝撃を受け止めている。何とか耐えられたといった感じだ。
そして捕まっているリリウムは――
ザンッ!!
囚われている土の壁に剣が突き立てられる。そしてギリギリと土壁を斬っていく。
上辺と左右に切り込みが入ったところで、壁が内側からはじけ飛んだ。
そして中には蹴りを入れた体勢のリリウムがいた。
「ふう。少し苦しかった」
「おいおい、危うくフィーナの方に行くところだったぞ?」
「それはすまなかった。私も2対1だとさすがに厳しいんだ。少しは大目に見てくれ」
「たくっ……次は止められねぇぞ?」
今のは不意打ちだったから足を止められたのだ。次同じことをしても何かしら対処してくるだろう。それに俺も今みたいに余裕がある状態じゃないかもしれないしな。
「大丈夫だ」
リリウムは強くうなずくと、2人の騎士に剣を向けた。
その様子を見て、俺もフェイリスとルーガに向き直る。2人はすでに起き上がり今の衝撃が何だったのかを考えているようだ。
普通に考えれば俺の風属性の魔法だろうな。けど俺は詠唱をしていない。
そこで疑問が深まっているのだろう。
「俺が何したのか分からないって顔だな」
「魔法……ではないのか?」
「残念ハズレ。あれは素の腕力だぜ」
「馬鹿な! あれほどの力がその細腕のどこにある!」
「そんなこと言ったら、こいつも振り回せねぇって」
ルーガの叫びに俺はサイディッシュをコツコツと叩く。全く今まで何を見ていたんだか。俺はこいつを自由に振り回してたのにさ。
「お前は何者だ?」
「冒険者だよ」
「そういう意味じゃない。貴様は本当に人間か?」
フェイリスは俺を睨みつけながら尋ねる。その表情に恐怖はまだ含まれていない。ルーガの方は微妙に怖がり始めてるか? でもまだ行けそうだな。フェイリスは俺と氷海龍が戦ったのを知ってたみたいだし、ルーガも俺が邪神級を相手にしたことがあるって情報が功を奏してるのかもしれないな。
「おいおい、俺が邪神級と戦ったことは知ってるんだろ? それでこの程度もできないとか思ってたのか? もう少し真剣に取り組んでくれないと俺もつまらねぇンだけどな」
「ククッ、確かにそうだな」
「それは……」
フェイリスは若干唇を吊り上らせニヤリと笑う。そしてルーガは何かを思い出したかのように苦い顔をする。
「最初っから邪神級を相手してるつもりで来いよ。まだ俺は本気出しちゃいねぇンだぜ? せっかくデイゴの最強騎士とA+冒険者と戦えると思って楽しみにしてたんだ。少しは楽しませろ」
「貴様はなぜそこまで戦いたがる? 氷海龍を襲ったのもそれが理由か?」
フェイリスが尋ねる。しかし氷海龍と戦ったのも面白いことを求めてだと思われちゃ困るな。あれは俺の一世一代の告白のためだし。
「おいおい、俺をバトルマニアと一緒にすんなよ。氷海龍はあいつに仲間を攫われたから取り返しただけだ。今戦いたいのは――そうだな、フェイリスは決勝、戦ってて面白かったか?」
言葉で説明するのは難しい。だから感覚で分かってもらうことにする。
「なに?」
「個人戦の決勝。俺も見てたけどよ、いい試合してたろ。その時戦ってて楽しかったか?」
「……ああ、俺が全力を出せる機会だったからな。ことのほか楽しめた」
「そう言うことだ。命賭けずに全力だして戦える機会なんだぜ? そんな楽しいイベント他にないだろ」
「つまり全力で戦いたいだけだと? 氷海龍を襲ったのは関係ないと?」
「そう言うことだ。さて、質問はそこまでだ。試合の後にでもゆっくり聞いてやるよ。そろそろ試合を再開しようぜ。観客も困惑し始めてる」
ずっと立ち止まって話していたせいで、観客たちは疑問の声を上げ始めていた。司会も状況がつかめず、リリウムやフィーナ達の戦いに観客の視線を向けようと必死だ。
しかし、もっとも注目できそうな戦いが止まっていてはそれにも限界がある。
「俺達が楽しむのも重要だけど、観客楽しませるのも忘れちゃいけねぇからな。そんじゃ行くぜ!」
サイディッシュを構え、再び突撃の姿勢を取る。それに反応してフェイリスとルーガも再び戦闘態勢に戻る。
そして俺は、思いっきり地面を蹴った。




