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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
ユズリハ王国キクリ編
9/151

8話

「みんなー、休憩にするよ! お弁当は1人1つまでだからね!」


 エリシアの掛け声とともに俺の周りで丸太を運び出していた人たちが一斉に引いていく。どうやら昼休憩みたいだな。

 思ったより疲れた。どうやら魔法を連発すると体力とか精神力みたいなもんが少しずつ削られていく感覚があった。これが本に書いてあった魔力を使うってやつか。

 それでも、普通に切り倒すより全然ましだろうけどな。

 午前中だけで凹んでいた部分はすべて切り倒せた。午後からは渦巻を書くように、この範囲を広げていこうかね。


「お疲れ様」

「エリシアか。マジで案外疲れたぜ」

「はいこれ差し入れ」

「サンキュー」


 エリシアがわざわざ持て来てくれた弁当とお茶を受け取る。

 近くに倒したままの丸太の枝を軽く払って椅子にした。

 エリシアは流れでそのまま俺の横に腰掛ける。


「トーカ君のおかげで、予定よりずいぶん早く進んでるわ」

「そりゃよかった。俺としても魔法の実習が出来て収穫はばっちりだ」

「もしかして魔法って使うの初めてだったの?」

「ああ、最近ギルドで教習用の本を借りてさ、昨日勉強して今日ちょうど良さそうな依頼探してたんだよ。いきなり戦闘で使うとか怖ぇし、さすがにやる気にはなんねぇからな」

「確かに使ったことの無い魔法を戦闘でいきなり使うのは怖いよね。そのあたり冒険者は、臆病なぐらいがちょうどいいって王都騎士団の総隊長補佐が言ってた。総隊長補佐って冒険者からのたたき上げなんだよ!」


 総隊長補佐とは、いわば副総隊長だ。ゴロが悪いから補佐と呼んでいるらしい。


「へー、冒険者から騎士団に入る奴なんているのか。基本冒険者なんて束縛嫌うやつか、荒くれた連中だけだろ?」

「なんでも依頼中にピンチになったことがあって、その時に今の隊長に助けられたのが騎士団に入った理由なんだって。恩はきっちり返す性格だって自分で言ってた」

「そういう性格なら騎士団とかピッタリかもな」

「そうでも無いかも」

「なぜ?」


 恩義に熱い男とか騎士道精神バリバリって感じがするけどな?


「補佐が忠義を誓ってるのが隊長だからだよ。騎士団は国の物。国王様に忠義を誓ってなんぼのもんだもん」

「あー、確かにそうかも。そのあたりが冒険者やってた理由か」

「そうみたい。総隊長が引退したら俺の恩義は返したことになるって言って、やめるって宣言してるぐらいだし」

「ハハ、難儀な性格してんな」


 弁当を食べながらエリシアとたわいもない話を進めていく。騎士団のこととか、魔法のこととか、王族のこととか。

 聞いてて思ったのが、エリシア結構噂とか好きなタイプだ。

 魔法に関してはずいぶんと慎重な意見を持ってるようだけど、騎士団や王族に関してはゴシップが大量に出てきた。

 騎士のだれだれが王城にいるメイドのだれだれと付き合っているとか、実は第二王女様は時々お忍びで城下町に出てきているとか。


「そんなことばっか調べてるから飛ばされんじゃね?」

「ハハッ……やっぱりそう思う?」


 うわ、めっちゃ落ち込んだ!? 自分でも分かってたのか!? てか分かってて直さなかったのか! 筋金入りだな。


 ――ドンッ!!


 と、小屋の方から突然土煙が上がった。


「何!? 何事!?」

「さあね。とりあえずあそこって他の連中が休憩して場所だよな?」

「行ってみましょ!」

「あ、おい!」


 エリシアは立てかけてあった騎士剣を取ると、すぐに駆け出して行ってしまった。

 まあ、急ぐのは良いことだけどさ、弁当投げ捨てるのは止めようぜ、もったいねえよ。

 地面に落ちた弁当を見つめながら俺はため息を付く。とにかく俺はちゃんと食ってから行くかな。午後も仕事は残ってるんだし!




「何事!?」


 エリシアが小屋に到着した時、冒険者の半分は地面に倒れていた。

 そして残りの半分は魔物に対して斧や鉈を使って応戦している。


「エリシアか! 魔物が出た。こいつ3等星級のジルコルだ!」

「ジルコルですって!?」


 ジルコルは突進力が非常に強力な魔物だ。その驚異的な脚力は短距離で最速に到達し、発達した2本の牙で相手を突き刺したり、体当たりをしてくる。

 また非常に頑丈で、3等星級の魔物なのにもかかわらず固さはフェリールとさほど変わらない。そのため突進しながら木々や建物をなぎ倒してくる故に、隠れることもできない厄介な敵だ。

 ならなぜこの魔物が3等星級かと言えば、攻撃が直線的で避けやすいため、大きな被害になりにくいのだ。

 また岩などに自分からぶつかると脳震盪を起こして動けなくなるため、その間に狩られることがほとんどである。

 しかしこの伐採場にジルコルを誘導してぶつけれそうな岩など無い。

 最初にトーカと聞いたドンと言う音は小屋がジルコルによって破壊された音だった。


「なんでこんな浅い森にジルコルが!?」

「知らねえよ! それよりどうするんだ? 大半がやられちまったぞ? ここにいるのは戦闘よりも肉体労働メインの奴らが多い。戦闘するなら死人が出るぞ」

「私が注意を引くから、あなたたちはジルコルの死角から攻撃して! 絶対に無理しないようにね!」

「あいよ! エリシアちゃんも気をつけろよ!」


 エリシアが剣を抜き、ジルコルの注意を引くように前に出る。

 それに合わせて冒険者たちが倒れている仲間を回収しながら死角に回っていく。


「はあ!」


 ジルコルが突進してきたところを横っ飛びに躱し、剣を振り下ろす。しかし、その刃はジルコルの固い皮膚によって弾かれる。


「くっ……やはり固い」

「エリシアちゃん無理すんな! あんたが倒れたら俺らは全滅する!」

「わかった。とにかく時間をかけてゆっくり倒すよ!すまないけど誰か1人は救援を呼びに行って。なるべく足の速い人がいい!」

「わかった。1番逃げ足が速い奴がまだ無事だ。そいつに行かせるぜ。カルト、お前走って町まで救援呼んで来い!」

「わかりやした!」


 少年が1人森の中へ飛び込んでいく。そのスピードはエリシアから見てもかなり速いものだった。彼のペースが保つのなら1時間ほどで救援が来るだろう。

 それまで耐えれればこちらの勝ちになる。


「1時間の勝負だ。全員気を抜かないでね!」

「「「おう!!!」」」




「ふう、ごっつぉさんでした」


 なかなか美味い弁当だったな。きのこ炒めは冷めても良い風味がしてたし、焼き魚も絶妙な塩加減だった。

 これでごはんではなくパンだったのは心残りだが、まあこの文化じゃ仕方ないか。

 さて、飯も済んだところでやけに騒がしい小屋の方向へ行ってみますかね。

 腹ごなしのために少しスピードを出して走る。最短距離を走るため森の中を突っ切ったが、その際は木の枝を飛び移りながら走る曲芸も挑戦してみた。案外できるもんだな、これ。魔法と組み合わせれば空中で足場を作って向きを変えるとかもできそうだ。今度試してみっかね。


「おっと、到着」


 最後にバランスを崩しそうになったけど何とかセーフ。うまく枝の上に止まれたな。

 下を見ると、数名の冒険者とエリシアが魔物と戦っていた。

 見た目イノシシを巨大化した感じだ。どうも牙が危ないっぽいね。エリシアも一番注意してるのはそこっぽいし、それ以外は特に気を付ける様子は無いようだ。


「エリシアは生粋の剣士タイプだねー。魔法も使えるんだから併用すりゃいいのにな」


 エリシアの戦い方を見ていると、ステップで躱し切りつけるを繰り返しているが、皮膚が固いのかイノシシには傷が付いていない。せいぜい毛を切っている程度だ。

 エリシアの属性は風。ならば自分に風を纏わせてスピードを上げたり剣に纏わせて切れ味を上げたりできるはずなのに。それともこの世界じゃそういう魔法の使い方はメジャーじゃないのか?


「まあいいや、そろそろ手助けしますかね」


トンッと木から飛び降り冒険者たちの間を抜けてイノシシの前に出る。


「なっ! トーカ君!?」


 突然現れた俺にエリシアが驚いているが、軽く無視してイノシシに向かって右手をかざす。

 練習は丸太数十本でしっかりしてある、問題は無い。だが、どうもこいつはかなり固いようだ。木をたたっ切れるからと言ってこの魔物を殺せるとは限らない。だからさっきより威力を上げた魔法を放つ。

 もちろん詠唱は周りの連中に聞こえないように注意しながら。


「月誘いて風刃を流す、ウィンドカッター」


 バスッと音がして、ウィンドカッターが放たれる。それはまっすぐにイノシシに襲いかかり、正面から縦に真っ二つにした。

 ブシャッとその場に血が広がり、濃密な鉄の臭いが一面に漂う。


「うし、なかなかだな!」


 イノシシの切り口は内臓がつぶれることや、骨が割れることなく、図解のようなきれいな断面をしている。


「……はっ! トーカ君無事か!?」

「おいおい見てなかったのか? 俺はあいつに触れられても無いぜ」

「そ、そうだったな。すまない。いや、それより今の魔法の威力は!?」


 エリシアはやけに焦ったような様子だが、周りの冒険者はそんな反応すらできていない。今だ、何が起こったのか理解できていないのだ。


「ウィンドカッターだぜ。威力は上げたけどな」

「あんなものがウィンドカッターなものか!? ウィンドカッターはどう頑張ってもジルコルを真っ二つにすることなどできない!」

「いや、でも実際できちゃってるし」


 マジか、ウィンドカッターってその程度の威力だったのか。リリウムのウィンドカッターしか見たことが無かったから知らんかったが、どうやら俺が木を切り倒している程度がウィンドカッターの普通の威力だったらしいな。

 チッ、使うタイミング間違えたか?


「いや、おかしいでしょ!? できちゃったでできちゃうものじゃないって! 総隊長でもできるかどうか分からないんだよ!?」


 総隊長とはキクリの町の騎士団総隊長のことだろう。


「へー、総隊長も風属性もちなんだ」


 俺はエリシアとは全く別のところで感心していた。てか属性魔法が使える奴で俺の知り合い風属性持ちが多くね? てかそれ以外がフィーナの氷しかいないんだけど……


「とりあえずこの魔物どうにかしない? 血で他の魔物が寄って来るかもしれないぜ?」

「う、うん、そうね。でも後でしっかり説明してもらうからね! みんな、ジルコルを片付けるから手伝って! 牙は倒したトーカの物でいいよね?」

「あ、ああ、問題ないと思うぜ。お前らぼさっとしてないで動け! 早くしないと次の魔物が来るぞ!」


 次の魔物と言う言葉に反応したのか、冒険者たちがゆっくりと動き出す。


「じゃあ、俺は牙もらってくぜ」


 イノシシに近づいて、牙をつかむ。そして強引に引き抜いた。

筋肉が硬直する前のため、案外簡単に抜けた。ズリュッと引き抜くと、かなり根本が深いらしく、想像より長い牙が2本とれた。


「へー、結構固いな」

「そりゃ、ジルコルの牙だからな。武器にすりゃかなり凶悪なもんになるぞ」


 話しかけてきたのはさっき冒険者たちを仕切っていた男だ。


「へー、槍とかに便利そうだな」

「そうだな。下手な鉄より固いからな。曲がらないし長持ちだ」

「でも俺、槍は使わねえからな」

「そうだな、お前魔法メインの使い手だろ?」

「そう見える?」


 やっぱさっきの魔法がかなりのインパクトになってんだろうね。このまま魔法使いとしてやっていっても良いかもしれない。

そうすりゃ俺を魔法使いだって油断した敵をぼこぼこにできるしな!


「違うのか?」

「いや、魔法メインだぜ。まあそれだけじゃないけどな」

「お前がいて助かったよ。俺たちだけだったら1時間保てるか分からなかったところだ」

「なんだ? その制限時間」

「町から応援が来る時間だ。エリシアを筆頭に1時間耐えて応援と一緒に倒す予定だったんだけどな」

「ハハ、俺のおかげで犠牲が減ったってか。そりゃラッキーだな。冒険者には運も必要らしいぜ」

「まったく今日は幸運だよ」


 そう言い残し男は冒険者たちの中に戻っていった。俺はそれを見ながら牙の血を振り払い鞄の中にしまう。

 さて、俺はそろそろ撤退した方がいいかね。

 いろいろ聞かれる前にその場を離れようとしたところを、俺は肩をつかまれ止められた。


「どこに行こうと言うのかね?」


 振り返ると笑顔のエリシアが立っている。


「ハハ、仕事に戻ろうかなと?」

「大丈夫。今日は怪我人が大勢出ているから仕事は中止さ。ああ、安心してくれて大丈夫よ。ちゃんと今日分の給料は出すから」

「そっか、そりゃ安心した。じゃ俺は帰るぜ」

「帰れると思う?」

「ダメ?」

「ダメ」


 ちきしょう! もう少し手加減して倒しときゃよかった


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