88話
「皆様お待たせいたしました! 整備も万端、天気も良好。この晴れ渡る空の元、これより団体戦を開始したいと思います!」
個人戦から1日空け、団体戦の開始日。俺達3人は再び闘技場のフィールドに戻ってきていた。
俺にとっては2度目、フィーナやリリウムには、もう何度目になるか分からない歓声を浴びながら、司会の進行を眺める。
別に団体戦になるからといってわざわざ選手を一同に集める必要は無いと思うのだが、どうも個人戦の表彰式を決勝直後にやってしまうことから、一応のけじめとしてやっているようだ。
団体戦に参加しているチームは全部で8つ。デイゴ、ユズリハ、カラン、ギンバイから1チームずつと、冒険者のチームが4つ。俺達のチームは冒険者チームに分類される。
団体戦の参加チームが意外と少ないのは、平均的に強いメンバーを集められるチームが少ないからだ。国のチームは参加限界の5人が全員一流の騎士で構成されているため、どうしても冒険者のランクとしては最低でもB+以上のメンバーで構成しないといけなくなる。それほどの人材を所有しているチームとなるとかなり少なくなるのだ。
そのため、この大会だけの即席チームも参加していたりする。フィーナと個人戦で戦った奴などがそうだ。
その中で俺たちは異色だろうな。なんせ3人での参加なのだから。
大会に出る以上は勝ちたい。勝つためには5人そろえる方が良いに決まっているのが普通の考え方だが、俺の存在や大会に出る目的が訓練の為、俺達にはそう言った執着が少なかったりする。大会の優勝賞金などはもらえればラッキー程度にしか考えていないのだ。
「それではこれで団体戦の開会式を閉会します! 選手の皆さんはそれぞれに控室で待機していてください」
スタッフの指示に従い、俺たちは控室に戻って行った。
控え室は5,6人が座れる程度の小さな部屋だった。何となく学校の部室を思い出す。
その部屋には中央に大きなテーブルと、それを囲むように椅子が置かれており、テーブルにはお菓子やジュースが適当に並べられていた。自由に食べても良いらしい。
「こりゃかなり優遇されているな」
控室は地下に設置されていて日の光こそ入ってこないが、魔法道具のランプがこれでもかというほど設置されており、明るさは十分確保されていた。
「私たちの時もこれぐらいの部屋でしたね。内装も同じです」
「試合の進み具合によってはここで半日以上も待たなくてはいけないこともあるからな。選手の機嫌を損ねないために、全力を注いでいるのだろう」
「なるほどね」
適当に1つのお菓子を手に取り食べてみる。クッキーのようだが、甘味は果物で付けられているのか、酸味も感じられる。
「俺達の試合って今日の最終だよな?」
控室に戻る途中でスタッフから渡された対戦表には、トーナメントの一覧が乗っていた。
そして俺達のチームの名前が書かれていたのは最も右端。今日最後に試合をする場所だ。
「そうだな。それまではゆっくりとしていればいい。闘技場から出なければ試合を見に行くのも自由だぞ」
「まあいいかな。あんま試合ばっか見てると、俺達の順番の前に動きたくなっちまう」
「フフ、トーカらしいですね」
フィーナが笑いながらお菓子をつまみ、リリウムも適当に手を伸ばす。試合前だというのに、控室の雰囲気は昼下がりのお茶会のような和やかさを醸し出していた。
「しかし、まさか初戦の相手があいつらになるとは思わなかったな」
「試合はくじ引きで決められるからな。こればかりは運だろう」
「だよな」
初戦の俺達の相手。それはデイゴチームだった。
つまりデイゴ騎士のルーガと、A+ランク冒険者フェイリスのいるチームということだ。
「作戦は予定通り俺がルーガとフェイリスを受け持つぜ?」
「ああ、どちらも私では倒すのが困難だからな。ほかの2人は私が受け持つ。その間にフィーナは訓練だな」
「はい」
「リリウムは勝てそうなら勝っちまっていいからな?」
「当然だ。無駄に手を抜く気はないさ。こういう機会は少ないからな」
強者と戦える機会と言うのは意外と少ない。まあ、大規模な闘技大会や、定期的にそう言った行事が行われることが無いのが原因だが、予算とかを考えると仕方のない事だろう。
魔物ならばいくらでも強い奴もいるが、それじゃ命がいくつあっても足りないだろうしな。
「それはそうと、トーカは本当に大丈夫なのか? もし2人相手に勝ってしまえば、お前はA+を余裕で超えた存在として世界から認知されるのだぞ?」
それはそのまま俺が邪神級同然の力を持っていることを世界に知らしめることになる。そうなると、俺の幼少期のトラウマが、どうしても現実として押し寄せてくることになる。リリウムはそれを心配してるのだろう。
けど――
「問題ねぇな。色々吹っ切れたのもあるけど、もう1人じゃねぇしな。それにそれだけ力を知らしめれば、迂闊に近づいてくる奴もいなくなるだろ」
中途半端な強い力は周りを使って利用される可能性がある。その一番の被害者になる可能性が高いのはフィーナだ。
しかし、邪神級と同等。もしくはそれ以上の力を俺が持っていると分かれば、そもそも近づいてこなくなる。さわらぬ神に何とやらって奴だ。
利用したがる連中が使いたいのは俺の力だろう。けど、その力が町ごと吹っ飛ばす力だとしたら? それは迂闊に使えない。下手すれば自分も巻き込まれることになるからだ。
「そうか。そこまで覚悟が決まっているなら問題ないか」
「そう言うこと。まあ、デイゴが冷たく当たってくるようなら他の国に行けばいいしな。カランやギンバイ辺りがダメでもユズリハなら何とかなる気がするし」
王族と一応は顔見知りだからな。辺境の村とかでひっそりと暮らすぐらいなら問題なく受け入れてくれるだろう。俺がいるだけで意外と国の抑止力になる可能性もあるしな。
ある意味、核の傘みたいな存在になっちまえばいい訳だから。
「んじゃ俺少し寝るわ」
「ん? そうか。フィーナはどうする?」
「私も少し寝ます。朝が早かったですから」
この部屋は小さいながらも一応仮眠用のリクライニングシートのような物が用意されていて、仮眠を取ることも可能になっている。暇な時間を潰すのには寝るのが一番だ。試合は万全で挑みたいし。
「そうか。なら私は試合を見てこよう。歓声に当てられるのもやる気になるからな」
「あいよ」
「分かりました」
リリウムが席を立ち部屋から出て行く。俺とフィーナは仮眠用のシートに横になる。
すると、俺のシートにフィーナの手が伸びてきた。
「トーカ。どれだけトーカが恐れられても、私は絶対に離れませんからね」
「ありがとな。フィーナがいるから俺は本気を出す気になれる。フィーナは俺が守るから」
俺はフィーナの手をそっと握り、そのまま眠りに落ちて行った。
デイゴチームの控室は静まり返っていた。そこには重い空気がのしかかっている。
その空気を発してる原因は2人。デイゴチームで当初リーダーとして登録するはずだったルーガと、現リーダーのフェイリスである。
「フェイリス、腕の調子はどうだ?」
ルーガが沈黙を破り、フェイリスに声を掛ける。フェイリスの腕は一昨日の戦いで1度折れている。その事を気にしたのだ。
「問題ない。フィールドを降りるときにはしっかりと繋がっていたしな。電気の通りも悪くない。いつも通り動かせる」
そう言いながらフェイリスは左腕を上げ軽く握って開いてを繰り返す。その動きは非常に滑らかで、神経がボロボロになっているとは到底思えない。
「そうか。中途半端な状態では勝てないだろうからな」
「当然だ。相手は邪神級と同等かそれ以上と考えなければならない」
フェイリスの言葉に再び重い空気が流れた。
デイゴの残り参加騎士3名は、今回の敵に危険な存在がいることを事前に聞かせられていた。そしてそいつを倒すために、おきて破りの抽選操作をしたことも。
第1試合でデイゴとトーカのチームが当たるのは偶然ではなかった。
宰相が裏から手を回しそうなるようにしたのだ。それもこれも全ては最悪の場合に予想される被害を最小限に抑えるため。
「本当にそんな存在なのでしょうか? 俺には信じられません」
1人の騎士が口を開く。その感想は当然と言えば当然だろう。何せ邪神級と同じ存在など、これまででは極星の勇者ぐらいしか存在したことが無いからだ。
その極星の勇者も、今はおとぎ話程度の存在でしかない。
「事実だ」
端的に答えたのはフェイリスだ。
「奴は強い。それこそお前たちでは瞬殺されるだけだろう。だから元からあいつには俺とルーガの2人で当たると決めていたのだ」
「それはそうですが……しかし御二方が一度に相手をする必要など――」
「あるからこそのこのチームだ」
フェイリスの言葉を継ぐようにルーガが口を開く。
「フェイリスがどこの国にも属さないと明言していることは知っているだろう。その明言すら歪めて今回俺たちのチームに参加してくれているんだ。その意味を考えろ」
「そ、そうですね。失礼しました」
「そう気張るな。怖いのは分かるが、お前たちが相手をするわけでは無い。お前たちの相手は普通の冒険者だ」
「はい」
重い空気の中、デイゴのメンバーたちは試合の時間を迎えた。
「2人ともそろそろ起きろ」
「ん……」
「んあっ……おう、おはよう」
体をゆすられ目が覚めると、リリウムが目の前にいた。俺の左手は今だしっかりとフィーナの右手とつながっている。
俺はそれをそっと離して起き上がった。
「今3試合目が始まったところだ。そろそろ準備運動をしておかないと試合で体が動かなくなるぞ」
「もうそんな時間?」
「今は午後の1時だ」
「了解。だってさフィーナ」
「わかりました……」
目をこすりながらフィーナがむっくりと起き上がる。結構ガッツリ眠ってしまったらしい。
「準備運動ってやる場所あるのか?」
「いや、特別体を動かせる場所は無いな。部屋の物を動かして軽く体操するのが限界だろう」
「了解」
3人でテキパキとテーブルと椅子を隅にどかしていく。そして出来たスペースでストレッチを始めた。
「フィーナ、すまないが背中を押してくれ」
「あ、はい。分かりました」
リリウムが股を大きく開いて座り、フィーナがその後ろから背中を押す。するとリリウムは何の抵抗も無く胸をピタリと地面にくっつけてしまった。
「スゲー柔らかいな」
「そうか? これぐらいなら普通にできるが」
リリウムは体を地面に着けたまま顔だけ起こしてこちらを見る。
俺はその間にアキレス腱を伸ばしていく。
「私は足先に指をつけるのが限界ですね」
「俺もそんなもんだ」
リリウムのストレッチをまねるように体を倒しても、地面に着くどころか足にさえ体が触れない。意外と俺って固いのか?
「毎日やっていれば自然と柔らかくなるさ。冒険者なんだから柔軟ぐらいはしておいた方が良いぞ? 寝る前とかは特に有効だ」
「そう言えば毎日やってましたね」
「そうだったのか。俺も今日からやってみるかな」
いつもはベッドに飛び込んだらそのまますぐに寝ちまうからな。体ほぐすとか考えたこと無かった。
「それが良い。最初は痛いだろうが、毎日やっていると柔らかくなるのがよく分かるからな。次第に面白くなってくるぞ」
「そりゃ楽しいだろうな」
そんなことを話しながら体を温めていく。そしてしばらくすると部屋の扉がノックされた。
「チームトーカ様、そろそろ時間になりますのでスタンバイお願いします」
「あいよ」
外から掛けられた声で、俺たちは自然と目を合わせる。
「んじゃ行きますか」
「トーカのデビュー戦だな」
「派手になりそうですね」
「最高の舞台にしてやるよ」
サイディッシュを背負い、フィーナが属性剣を腰に下げる。
リリウムが剣の位置を直した所で、俺が扉を開き、俺達は試合会場に向かった。
入場は俺達が東側のゲートから。デイゴチームが西側のゲートから入場することになっているらしい。
俺たちはスタッフの指示に従いゲート前で入場の時間を待つ。
この時間が何気に一番緊張する気がするんだよな。フィールドに出ちまえば後は戦うだけだし、その場の勢いと流れでどんどん飛ばせる気がするんだけどさ、どうしても出番前って色々考えちまって、いつもの調子になれん。
「トーカでも緊張することがあるんですね」
そんな俺を見てフィーナが微笑みながら言う。
「当然だろ。前の王族との謁見だって結構緊張したし」
「王族との謁見と、闘技大会の初戦は同レベルか?」
「緊張することに変わりはねぇよ。どっちもその場に出ちまえば同じだ」
「それこそ異常だと思うがな」
そうかね? 腹くくるって意外とみんなやってることだと思うけど。
「それでは入場してもらいます。私がゲートを開いたらそのまま中に入ってフィールドまで上ってください。後は司会と審判が指示を出してくれます」
「あいよ」「分かりました」「了解した」
そしてゲートが開き、俺達はフィールドのある会場へと足を踏み入れた。
開会式の時とは違う熱気のこもった歓声を浴びながら会場に足を踏み入れる。その間に司会が俺達の解説をしている。
どんなことを言われるのか少し興味もあって、耳をそっちに傾けつつフィールドに向かって歩いた。
「まず登場したのは、チームトーカ! なんとこのチーム、超有名人が参加している! その名もリリウム・フォートランド! そう、あの孤高姫がチームに参加しての参戦だぁぁあああああ!!! しかも自らがA-ランクにも関わらず、リーダーにはB-冒険者を据えたチーム編成! これは何かの策略か! はたまた油断の表れか! そしてこのチームにはもう一人注目すべき選手がいる! そう、あの氷結姫フィーナだ! 個人戦ではトーナメント2回戦で敗退してしまったが、団体戦で再度挑戦してくるその姿勢は尊敬するべきものがある! 今日もまた、あの数々の幻想的な魔法を見せてくれるのかぁぁあああ!? そしてそんな姫2人を引き連れる謎のチームリーダ漆トーカ! 冒険者としてはB-、特に大きな噂も無い少年だ! しかし、それだけの存在ならば2人の姫を引き連れることなど不可能! 何かが隠されているかもしれない少年だ! これは要チェックのチームなのかも知れない!」
いつの間にかフィーナにも2つ名みたいなものが付いてた。それにしてもリリウム。孤高姫なんて2つ名付いてたんだな。教えてくれればよかったのに。
「なあリリウム――」
「言うな。何も言わないでくれ……私は1人じゃないんだ……」
「そ、そうか……フィーナは――」
「氷結姫……私そんなに冷たく見えますかね……」
なんか2人とも凄い落ち込んでた。
「氷属性使ってたから氷結姫だろ? 性格とか容姿は関係ないって!」
「そうですか? そうですよね!」
まあ、試合中のフィーナの視線は結構鋭いものがあるからな。それが関係ないとは限らないけど……
何とかフィーナだけでもテンションを取り戻すことには成功した。リリウムは、まあ試合が始まればいつも通りに戻ってくれるだろうと期待しよう。
フィールドに向かう中、俺もフィーナもあまり慣れていないため、特に観客に対応することは無い。せいぜいが、手を振る程度だ。
しかしリリウムは意外と慣れているのか、あらかじめ用意していた鞘付きのナイフを観客席に投げ込んでいた。
「今のなに?」
「ん? ナイフの事か?」
多少落ち込みながらも答えてくれた。
「そうそう」
「あれは簡単なファンサービスのような物だな。ナイフには私が名前を刻んである」
「サイン入りナイフか。冒険者ならではなのか?」
「そうだな。騎士はあまりこういうことをしないが、私は良くサインを求められてな。こういう時にランダムに何個か渡してそれ以外は断ることにしてる」
「スゲープレミア付きそうだな。オークションとかで高値で取引されてそう」
「ナイフの行先はあまり気にしたことはない」
3人でフィールドに上る。
すると今度は俺達と反対側のゲートが開いた。
「出て来るぜ」
「ああ」
「はい」
俺達の視線を受けながら、今度はデイゴチームが入場してくる。先頭はフェイリスのようだ。そのすぐ後ろにルーガ、そして他の3人が続いて出て来る。
「今度はデイゴチームの紹介だ! なんとリーダーには個人戦優勝のフェイリス! そしてそのすぐ後ろには個人戦を準決勝まで進んだルーガまでいる! これほどの戦力を保有したチームは過去にはいないんじゃないかぁぁああああ!? そしてそんな2人の影に隠れがちだか、他の3人もデイゴの国民ならば知らないものはいないほどの有名な騎士たち! 賭けのレートは驚きの1.2倍! ほとんどの人がこのチームに賭けている驚きの期待っぷりだ!」
それほとんどのチームが期待されてないってことだよな? まあ、フェイリスとルーガの2人が揃ってるなら仕方のない事かもしれんけど。
まあ、デイゴチームに賭けた連中はみんな、今日この場で絶望することになるんだろうけどな!
デイゴチームがフィールドに上ってくる。彼らは特にファンサービスをすることなくまっすぐに上って来た。
てかフェイリスが無愛想すぎるんだよな。他の連中が手を振ってるのに、それを無視してとっとと歩いちまうし。
そしてデイゴチームと正面から向き合う。
騎士がずらっと揃ってると、意外と迫力あるもんだよな。それと反するよなフェイリスの風貌はちょっと異彩を放ってるけど。
相手チームを観察していると、驚くことにフェイリスから声を掛けてきた。
「お前が漆トーカか」
「ん? そうだけど」
「お前には色々聞きたいことがあるが、それは試合中に聞くとしよう。今は1つだけ確認したいことがある」
「なんだ?」
「氷海龍の巣を襲撃した冒険者とは、お前で間違いないな?」
おおぅ……フェイリスが向けた視線で、一瞬背筋がぞくっとした。底冷えするような冷たいその視線が俺に集中している。
「ああ、間違いねぇよ。俺が氷海龍の巣を襲撃して倒した」
「やはり倒していたのか。殺したのか?」
「まさか。あいつを殺す必要はねぇよ。ただの懸命な母親だったしな」
「どういうことだ?」
「あんたが知る必要はねぇよ」
氷海龍が今子育てしていることは、なるべく秘密にしていた方が良いのかもしれないと、話しながら思う。もし子供が拉致されるようなことになれば、それこそ取り返しがつかないからな。まあ、邪神級の巣に行こうなんてぶっ飛んだ考えの奴がいるとは思えないが。
「それよりこっちも聞きたいことがある」
せっかく向こうから話しかけてきてくれたのだから、こっちも質問をしておこう。
「なんだ?」
「あんたらの中で1番弱いのって誰?」
「……そんなことを聞いてどうする?」
「こいつとぶつける」
そう言って俺はフィーナの頭をポンポンと叩いた。
「こいつはまだ戦闘に関しては初心者だからな。あんたらの中の最弱でもギリギリ試合になるぐらいだろ」
「ふむ……ルーガ」
フェイリスは少し考えた後、後ろに控えていた騎士の1人の名前を呼ぶ。
「おそらくこいつだな」
「ルーガさん酷いっすよ」
ルーガが1人の騎士の肩を叩いた。その騎士の声はかなり若い。若手のホープと言ったところなのだろう。ならばフィーナと戦わせるにはちょうどいいかもしれない。
「そっか。ならフィーナはあいつ狙いな」
「分かりました」
フィーナが頷くと同時に、審判がフィールドに上ってくる。そうして戦いの準備は整った。
「これより闘技大会団体戦、第1回戦第4試合を開始します! 両チーム指定の位置に」
団体戦の場合、フィールド上で一定の距離を開けた状態から試合が始まる。至近距離での乱戦になるのを避けるためだ。
俺達が指示に従い、フィールドの隅に移動したところで、審判が腕を振り上げた。
「第1回戦第4試合――始め!」
腕が振り下ろされると同時に、リリウムとフィーナがそれぞれ左右に飛び出す。
そしてそれに対応するように、フェイリスとルーガ以外の騎士3名も飛び出した。
「さて、俺達も始めようか」
サイディッシュを抜き、鎌を展開させる。その独特の形状に観客が一瞬どよめくのを感じた。
けど、驚くのはまだ早い。
サイディッシュに一気に魔力を流し込む。刃がギリギリと回転し始め、同時に火花を上げる。
「行くぜ、A+冒険者に騎士様」
俺はどっしりと構える2人に向かって駆け出した。




