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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
デイゴ王国闘技大会編・個人戦
85/151

84話

 翌日。またもオッチャンに出会った。まあ、同じ宿に泊まってれば当然か。


「もちろん見に行くよな?」

「おう、フィーナは2試合目だから1試合目はどうしようか迷ってるけどな」

「なんだ、嬢ちゃんの次の対戦相手になるかもしれない相手だぞ? 見ておかないのか?」

「フィーナは今日で負けちまうだろうしな。さすがに相手がシグルドじゃ勝てねぇよ」

「なんだ、あきらめムードかよ」

「どうあがいても勝てない実力差があるからな。まあ、そういう実力の相手と当たるのも良い経験になるだろ」


 俺と戦えばそれで解決の気もするけど、俺じゃフィーナ相手には本気になれないだろうし、こういう時には知らない奴で思いっきり負けるのも重要だろうしな。


「まあそういう訳で悩んでるってこと。2人には試合は見に行くとは言ってあるから2戦目が始まる前には闘技場に行くつもりだけどな」

「そうか。じゃあ俺は一足先に行かせてもらうぜ」

「おう、また後でな」


 オッチャンが宿を出て行くのを見送って、俺はコーヒーを啜った。




 そろそろ出かけるかと席を立った時、不意に声を掛けられた。


「あれ? トーカさんこんなところで何してるんですか?」


 宿に現れたのは串焼き屋の妹、マナだった。

 パッと見だと一瞬区別がつかないぐらい似ている姉妹だが、名前の呼び方で分かる。


「マナか。俺はフィーナの試合が始まるまでの時間つぶし。マナこそなんでこんなところに来たんだ?」

「私は特製の調味ダレをここの宿に届けに来たんですよ。初日にここのオーナーさんが私たちの屋台に立ち寄ってくれて、闘技大会中だけでもいいからタレを分けてくれないかって。いい機会だから定期的に取引することにしたんです」

「順調に経営拡大してるみたいだな」


 ユズリハのみならずデイゴまでタレの輸出を始めたとなると、もう貿易レベルじゃね?


「はい、おかげで随分お金もたまってきて、そろそろ目標にしてたお店を出す資金がたまりそうなんですよ!」


 マナの夢は自分の店を持つことだった。今は屋台で串焼きを売りながらコツコツと資金を溜めているようだが、それももうすぐってことか。

 そうなると、久しぶりにあのカン○リーマーム的なクッキーが食べれるようになるかもしれないな。


「そりゃ楽しみだ。店ができたら行かせてもらうぜ」

「その時はまたサービスしちゃいますね」

「ハハハ、サービスし過ぎで赤字出すなよ?」

「その辺りはお姉ちゃんがしっかりやってくれるから大丈夫ですよ」


 経営方面は完全に姉頼りらしい。まあ、料理が好きで店をやりたいってんだからそれでいいのかもしれないな。

 経営なら冒険者やってたカナの方ができるだろうし。


「そう言えば、フィーナさん1回戦も勝ったんですよね? お店やってて見に行けなかったけど、凄い試合だったってお客さんが噂してました。美少女冒険者の快進撃だって」

「そんな噂が出来てるのか。試合は結構ギリギリだったんだけどな」

「それでも勝てること自体が凄いんですよ」


 そう言ってマナは瞳を輝かせる。

 そこに俺は違和感を覚えた。


「あれ? マナって闘技大会とかってそんなに興味あったっけ? どっちかって言うとカナの方が好きそうだけど」

「あー、確かに闘技大会とか暴力的なのはちょっと苦手ですね」


 頬を搔きながらそう言うマナ。


「でも、知人が参加してれば気になりますよ。それに私は活躍している女性とかそう言う人には頑張ってほしいと思いますから」


 そう言うことか。

 マナは、女性が社会で頑張っている姿が好きなんだろうな。そりゃマナ自身も料理屋やりたいって言ってるぐらいだし、当然か。

 この世界でも、家庭で料理を作るのは女性が殆どだけど、店で仕事として料理を作るのはやっぱり男が多い。この宿も料理を作ってるのは確か30代のおっさんだ。


「なるほどね」

「じゃあ私はそろそろ行きますね。これ渡して早く戻らないとお姉ちゃんに怒られちゃいますから」

「おう、じゃあまた今度買いに行くわ」

「はい、まってますね」


 こりゃフィーナの試合が終わったら行くしかねぇな!

 試合後の予定を決めて、俺は闘技場へ向かった。




 闘技場の中に入ると、ちょうど前の試合が終わったようだった。俺はオッチャンに結果を聞くためその姿を探す。

 ぐるっと闘技場を一周しようかと言うところでオッチャンをやっと見つけた。

 さすがに人の量が多すぎて魔力探査なんか意味をなさないし、生命探査なんかもってのほかだ。

 頭の中の地図が光で埋め尽くされちまう。

 そんな訳で地道にオッチャンを探したのだが、まさか俺が入って来た入口のすぐ近くにいたとは……なんとも灯台下暗し。


「オッチャン」

「おう、坊主じゃねぇか」


 俺の声に振り替えったオッチャンが少し詰めてスペースを作ってくれる。

 そこに座って声を掛けた理由を話した。


「1試合目どうだった?」

「なかなかいい試合だったぞ。ケーレスとコーレル、いかにも騎士同士のぶつかり合いって感じだったな」


 確かケーレスがカランの騎士でコーレルがデイゴの騎士だったはずだ。ある意味国を背負った大事な戦いだろうからな。


「お互い正面からぶつかり合って、次に魔法の打ち合い、そして魔法と剣技を合わせた戦略戦。流れるような戦いだった」

「んで結果は?」


 正直あまり戦い方に興味のない俺は、サクッと結果を求める。


「む……なんだ、試合内容に興味ないのか?」

「正直あんまり」


 俺がまねても参考にならなそうなのだしな。騎士の戦いとか。戦略とか。


「そんなんじゃ強くなれねぇぞ。試合はコーレルが勝ったよ。2人とも結構なダメージ入ってたが、最後は歓声に押されてコーレルが力押しって感じだったな。最後のお互いの剣がかち合った瞬間は鳥肌ものだったぜ」


 オッチャンは満足そうな表情をして、中空を見上げる。


「コーレルが勝ったのか。またあの勝利の言葉言ったのかね?」

「どうだろうな。かなり接戦だったし言ってる余裕なかったんじゃないか?」

「けど、その流れも全部計算づくだったら恐ろしい相手だよな」

「まったくだ。相手の一手先を読むってだけでも大変なんだ。勝利まで全てを予測して方程式を立てるなんて、普通の奴じゃまずできないだろうな」


 まあ、それができるから強いんだろうけどな。


「お、次の試合の準備が出来たみたいだな」

「おう、フィーナの登場みたいだ」


 フィールドの入口から、フィーナとリリウム、その少し後ろからシグルドが出て来るのが見えた。




 スタッフに呼ばれてフィーナとリリウムが待合室から出る。

 2人の間に会話は少ない。

 それは緊張から来る言葉数の少なさと言うよりも、試合前に選手が集中させるための静けさのような物だ。


「ついにシグルドさんとの試合ですね」

「何度も言うが、どんとぶつかれば良いからな。私も最大限アドバイスするが、今のフィーナではシグルドの弱点が分かっていたとしても、勝つのは難しいだろう」

「はい、この試合で私がすることはドンとぶつかって、少しでも多くのことを学ぶことですから」

「それでいい。終わったらトーカに何か言うことを聞かせてパッとはじけるのも良いかもしれないな」

「そう言えば2回勝ったから、2回は言うことを聞いてもらえるんですよね!」


 フンッと鼻息を荒くするフィーナ。リリウムは何を考えているのか、あえて聞かないことにしておく。

 そしてフィールド入口前の階段に着いた。そこでいったんスタッフに止められる。

 そこで司会の紹介をまち、入場するのだ。

 そうして待っていると、逆サイドの廊下から歩いてくる音が聞こえた。その中には金属のこすれる独特の音も交じっている。


「おはようございます、皆さん」


 現れたのはやはりシグルドだった。


「おはようございます」

「うむ、おはよう」

「今日はフィーナさんと試合ですか。姫様の為にも全力で行かせてもらいますよ」

「私も胸を借りるつもりでぶつからせていただきます」


 軽く挨拶を交わし2人で握手をする。

 他の選手とではそんなことはしなかったが、知っている人物ならではだ。


「もう、姫との間を隠すことはしないんだな」

「ええ、闘技大会中には大々的に発表するつもりです。できれば優勝の場でと思っているんですが」

「そうなると相手はフェイリスと言うことになるだろうからな」

「さすがに大口を叩ける相手ではありませんからね」


 優勝して姫と結婚するとでも言ってしまうと、実際に優勝できなかった場合にどうなるのかなど、色々な問題が出てきてしまう。だから迂闊なことは言えない。

 今公言出来るのは、せいぜいが2人が付き合っていて親公認と言うことぐらいだろう。

 これをわざわざ闘技大会で公表するのにも理由がある。

 闘技大会はこの娯楽と賞金、賞品目当てで他の国の貴族や、場合によっては王族すら来ることがある。

 それだけ重要な人間たちの前で公言してしまうことで、後から来る国内貴族たちの言葉をけん制する予定だ。

 この話は、出発する前に国王から直接聞かされていることの為、話に違いが出ると言う心配も無い。

 後はシグルドが無様な試合をしなければいいだけなのだ。


「公言するのは機を見計らって、ここだと言うところで言わせてもらいますよ」

「大会が盛り上がるいいスパイスになるだろうな」

「そうだと良いんですが」


 2人のいつも通りの会話を聞いていて、フィーナも自然と残っていた緊張がほぐれていくのが分かった。

 いつも通りと言うのは、ここまで緊張を解いてくれるものかと驚きながら、フィーナたちは、スタッフの指示に従いフィールドに歩みを進める。




「トーナメント2回戦2戦目はこの2人の出番だ! 片や乱戦から生き残り、数々の接戦を繰り広げてきた美少女冒険者フィーナ選手! そして言わずと知れたユズリハ騎士の中でもトップクラスの実力を持つシグルド選手! 一見実力には明白な差が付いているように見える両者だが、試合は常に何が起こるか分からないもの! これまでの試合でそれを証明し、安易な強者に賭けた観客を絶望の淵に追いやったフィーナ選手はどのような試合展開を見せてくれるのか! それでは審判、試合開始の合図を頼むぞ!」


 観客が静まり返り、開始の時を待つ。

 審判が腕を上げた。


「トーナメント第2回戦2試合目――始め!」


 腕が振り下ろされると同時に、シグルドがその場から掻き消える。

 そしてフィーナの目の前に現れ、得意のシールドバッシュを繰り出してきた。

 しかしそれは、フィーナも読んでいたのだろう。

 シールドバッシュの付きだしに合わせて自分も後方へ飛ぶことでダメージを最小限に抑えつつ詠唱する。


「星に願いを。氷結の世界を成せ、ブリザード!」


 フィーナも最初から全力で行くようだ。

 最大威力の技を放ち、シグルドをけん制する。

 シグルドは、自分の体に氷が付くのを警戒して盾で吹雪を防ぐ。すると盾はみるみる氷に覆われてしまった。

 氷はシグルドの手まで浸食しており、盾の持ち方を変えることも出来ない。これで得意のシールドバッシュは封じたことになる。


「なるほど。まずは盾を潰す作戦ですか。ですがあまいですね。この程度の氷では、今の私は止められない!」


 シグルドが自らの凍った左手に力を入れる。


「ふぅぉぉおおお!」


 フィーナの最大威力で放ったブリザードだ。ただの力技で壊れるはずがない。俺もリリウムも、もちろんフィーナもそう思っていた。

 しかし、その氷に罅が入った。


「私の愛は! この程度では! 冷ますことはできない!」


 罅はみるみるうちに広がり、一気に砕けた。


「そんな!?」


 自由になった左手と、凍ったままの盾がフィーナに迫る。

 とっさにフィーナは属性剣を構えてガードするも、激しく弾き飛ばされてフィールドを転がった。


「フィーナさん! あなたは昨日の試合を、愛の力で勝ったらしいじゃないですか! ならば私もこの試合は愛の力で勝たせてもらいます!」

「シグルドさん人格変わってませんか!?」


 脳筋張りに力技で魔法を突破し、攻撃をしてきたシグルドを見て、フィーナは思わず声を上げる。


「愛の前に、人格など不要!」

「一番重要なところだろ!」


 シグルドの答えに、観客席のどこからともなくツッコミが入った。


「さあ! フィーナさんも今の私に勝ちたいのならば、愛の力を見せてください!」

「む……良いでしょう! 私だってトーカを愛しています! この愛の力でシグルドさんを倒してあげましょう!」

「フィーナ! 相手のペースに乗せられるな!」


 シグルドの挑発に乗ったフィーナに、リリウムが焦って声を掛ける。


「大丈夫です。私の愛はシグルドさんの愛に負けるほど弱くはありません!」


 こりゃダメだな。完全にシグルドのペースに乗せられてる。リリウムも頭抱えちゃってるし。

 この状態だと、フィーナはいつもの慎重な行動は出来ないだろうな。愛だなんだって言って、いつも以上に張り切り過ぎてる。

 これがシグルドの作戦だとしたら上手く乗せられたってことだ。まあ、あのシグルドは結構マジ入ってる気がするけど。


「さあ行きますよ! 私の愛を破って見せなさい!」


 そう言ってシグルドはフィーナに正面から迫る。


「フィーナ! 正面から受けるな! シグルドの思う壺だぞ!」

「大丈夫です!」


 大丈夫じゃないからリリウムが言ってるんだけどな。

 こりゃ一回こっぴどくやられないと冷静さは取り戻せないな。

 そう思っている端から、フィーナはシグルドのシールドバッシュを受けて吹き飛ばされる。しかも盾は、自分で凍らせたためごつごつと波打っている。そんな状態の盾で殴られて無事なはずがない。


「きゃっ!?」


 ドサッとフィールドに倒れ込むフィーナ。そこに追撃を掛けるようにシグルドが迫る。

 とっさにフィーナは、起き上りざま氷の矢を放つ。

 最速で作ったにしては、3本は上出来だろう。2本は盾で防がれてしまうが、1本はシグルドの足をかすめる。

 しかし掠めただけだ。

 盾をずらし、刺突をするようにシグルドが剣を突き出す。

 フィーナは地面を転がることで何とかそれを躱す。だが、その場しのぎに過ぎない回避は、一流の騎士にはあまりにも無意味だ。

 すぐさま剣を引いたシグルドが詠唱をした。


「星に願いて、水の刃を放つ。ウォーターカッター」


 水の刃が逃げた先のフィーナを襲う。

 一方的に攻められる状況で、フィーナはとっさにカウンターを捨て守りに徹することを決めた。


「星に願いを。守れ氷結結界。アイスサークル」


 フィーナの回りの地面が丸く水色に発光し、一瞬のうちにフィーナを囲うように氷が生まれた。

 それはさながら、氷海龍の卵の時のような状態だ。

 そこにぶつかったウォーターカッターは霧散する。


「フィーナ! 大丈夫か!?」

「あ、はい! すみませんでした!」

「どうやら正気を取り戻したらしいな」


 連続で苛烈な攻撃を受けたおかげで、やっとフィーナの目が覚めたらしい。


「もう正気に戻ってしまいましたか。もうちょっと行けると思ったんですけど」

「愛を戦いの道具にするなんて卑怯です!」

「道具などにはしてませんよ。私も好きな人がいますから愛の大切さは分かっています。だからこそ私はこの戦いを勝ち抜いて、上に行かなければならない。これはそのための戦術です」


 シグルドの目は本気の目だった。何が何でも勝ちあがりたい。そんな気持ちが溢れている。


「正々堂々、私の武力、知力、全てを持ってこの戦いを生き抜く。それだけの覚悟を背負ってこの場に来ているんです!」

「う……」


 その迫力に、フィーナが押される。

 氷海龍の気迫で多少は慣れているとはいえ、むき出しの人間の意思をビシビシと感じるのは初めてだろう。

 ならば、委縮しても仕方がないと思える。

 しかしここは決闘の場。その委縮はそのまま命取りになる。


「はっ!」


 シグルドがフィーナの氷に向けて切りかかる。

 まっすぐに振り下ろされたそれは、フィーナの氷を半分まで一気に切り裂いた。


「こんなものに籠ってないで、出てきてください」

「言われなくても!」


 剣が氷に刺さっている所を見て、フィーナが直感的に攻勢を仕掛ける。

 剣が無い状態ならば、盾で防がれたとしても反撃を気にする必要は無いと考えたのだろう。

 シグルドが切った氷の隙間から、フィーナの属性剣が飛び出す。

 シグルドはそれを、盾で受けることなく首を傾けることで躱した。

 そして隙間に盾をねじ込む。


「こじ開けます!」


 割れた部分に盾が衝突したことで、氷の全体に一気に罅が入る。

 それを見たフィーナは、すぐに自ら魔法を解除して、後方に飛び退いた。

 しかし、それは完全にシグルドの手の中だった。


「星に願いて、水球を穿つ。ウォータークランプ!」

「あっ……」


 その場でシールドバッシュのような動作を取るシグルド。それに合わさるように、水の塊がフィーナを突き飛ばした。

 フィーナはそのまま場外に弾き飛ばされ、背中を壁に打ち付けて倒れる。

 すぐに医療班がフィーナのもとに駆け寄り、フィーナの怪我を調べる。そして審判に気絶していることを説明した。つまり――


「勝者、シグルド選手!」


 会場が歓声に包まれる中、俺はそっと観客席を後にして、選手の控室がある廊下に向かった。


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