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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
デイゴ王国闘技大会編・個人戦
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83話

「勝者――ルーガ選手!」


 審判が声を上げる。観客席からは歓声と、僅かに嘆きのような悲鳴が聞こえた。おそらくロイにかけていた人たちだろう。

 ルーガはスタンダードな魔法剣士と言った感じだった。対してロイも同じ魔法剣士。しかし実力は全てにおいてルーガが上回っていた。

 結果、当然と言えば当然に、ルーガが勝利。ロイはフィールドに倒れている。

 ルーガがフィールドを降りるのと同時に、医療班がロイに駆け寄る。そしてすぐに治療が開始された。

 その間、俺たちは休憩になる訳だが。


「俺ちょっとトイレ行ってくるわ」

「場所は――言わなくても分かるか」

「試合と試合の間はかなり混むって聞きますし、行くなら急いだ方が良いですよ?」

「了解。じゃ、ちょっと行ってくる」


 それだけ言い残し、俺はトイレを探して闘技場の廊下へと駆け出した。


 トイレは案外すぐに見つかった。結構な量の案内が出てたから、これで迷うやつとかはいないと思うけどな。

 しかし人の量が尋常ではない。

 トイレに並ぶ長蛇の列。流れ自体は早いようだが、それでも人の数が数だけに、かなりの時間がかかる可能性がある。


「こりゃ次の試合始まっちまうかもな」


 このことを予想して、限界が来るまで大分余裕がある時点で席を立ったのだが、試合に間に合わない可能性があるのはちょっと予想外だった。

 とりあえず、長蛇の列を見ていても仕方がないと、その最後尾に並ぶ。

 俺の後ろからもどんどんと人が来て、すぐに俺は列の中に飲み込まれていった。


 列はゆっくりとだが、確実に進んでいく。しかし、それでも俺の順番が回ってくるまでには30分を要した。

 その間に1度、大きな爆発音のような物が聞こえたし、もう試合は始まっちまってるんだろうな。

 そんなことを思いながら廊下を走る。

 そして観客席まであと少しと言うところの角で、俺は壁にぶち当たった。


「いってぇ!」

「なんだお前は」


 壁だと思ったのは、人だった。目の前が急に真っ暗になったから壁だと思ったのだが、その正体は真っ黒な甲冑だったらしい。

 俺がぶつかった男はびくともせずにその場から俺を見下ろす。

 俺は尻もちをついた状態で、そいつを見上げた。

 がっしりとした体と、鎧。そしてそいつの腰から下げる剣にはまがまがしいモノを感じた。以前見た帝国のちゃらい副隊長とは一線を画す存在感だ。


「おお、わりいわりい。急いでたもんでさ」

「それだけか?」

「ん?」

「死ぬ前の言葉はそれだけでいいのかと聞いている」


 おいおい、いきなり物騒だな。


「そもそも死ぬ気が無いからな。特に言うことはねぇぜ」

「そうか」


 そう言いながら、男は腰の剣を抜き放つ。その剣は、抜いた瞬間血生ぐさい臭いを放った。

 周りにいた通行人の何人からか悲鳴が上がる。


「こんなところでそんな物騒なもん抜いてどうするつもりだ?」

「さっきから言っているだろう。貴様を殺す」

「殺される理由がねぇな」

「俺にぶつかった。それだけで殺すには十分だ」


 男が躊躇なく剣を振り下ろす。

 俺をただの一般人の子供だと思っていたのだろう。その振り下ろしは、騎士にしては遅く、俺にしてみれば止まって見えるレベルだ。

 一瞬白刃取りで受け止めようとも思ったが、それは相手の剣を見てすぐに否定する。

 そして一歩体を引くことで、斬撃を避けた。


「おいおい、今のは当たったら怪我じゃ済まされないぜ?」

「殺すつもりと言っている。バカなのか?」

「バカさ加減じゃ、お前にゃ負けるよ。殺すつもりとか言って剣振り下ろしといて躱されるほど俺はバカじゃねぇしな」

「あれを躱した程度で図に乗るなよ、餓鬼が」

「大口叩くならせめて当ててから言おうぜ。それよりその剣――」


 俺はそう言って男の持っている剣に目を向ける。俺が白刃取りで受け止めるのを止めた理由。それは剣に付着していた液体だ。

 剣を抜いたときに感じた匂いと、その液体の色。それから想像するに、その液体の正体は1つしかない。


「何でそんなにべったり血が付いてんのかね? ここに来るまでにも誰か切り刻んで来たん?」

「何を言っている。俺はさっきまで試合をしていたんだぞ。剣に血が付くのは当然だ」

「は?」


 試合をしてた? さっきの試合はウサインとシグルドの戦いだったはずだ。

 ならこいつは何のことを言っているんだ?


「試合を見ていなかったようだな。俺はトーナメント第1回戦第6試合の勝者だ」

「なに!? もう試合が終わってんのか!? 次の試合までには戻らねぇと!」

「あの程度の雑魚にかける時間は無い。そして貴様にもな」


 再び斬撃が迫る。先ほどとはうって変わってかなり早い振り下ろしだ。しかしそれでも俺の身体能力からしてみれば、遅い。トーナメントの招待選手なのだから、本気で切りかかって来ればこっちもそれ相応の対応をしないと躱せないかもしれないが、相手が本気を出さない以上は適当にあしらうのがベストだ。

 相手は時間をかけたくないって言ってるし、こっちも正直これ以上の足止めはごめんだ。

 だからさっさと片付けることにする。こいつの次の試合に影響がでない程度にな。

 斬撃を躱し、男の後ろに回り込む。

 突然動いた俺に、男はしっかりと反応するが、反応するだけで体は追いつかない。

 俺は後ろから男のひざ裏に向かって蹴りを入れる。膝がっくんの要領だな。


「クッ!?」


 突然膝を小突かれ、男がバランスを崩した隙を見計らって、俺は全力で逃走した。




 逃げられた。それが男の苛立ちを上昇させる。

 そもそも男はこの大会に全く興味は無かった。しかし国の、ひいては王の勅命とあらば出ない訳にはいかなかった。

 実際に戦いを始めれば少しは気分が晴れるかとも思ったが、相手は弱く、脆く、余計に自分をイラつかせるだけの結果になってしまった。

 そしてイラついていたところにぶつかってきた餓鬼である。

 しかも、普通剣を向けられれば怯えるはずのただの餓鬼のくせに、妙に生意気なのだ。

 こちらの言葉に常に挑発してくるような言葉を返してくる。

 最初はただの餓鬼だと思って見逃そうとも思ったが、気付いたときには剣を振り下ろしていた。

 こんなところで殺人をおこせば、間違いなく違反行為で失格を言い渡される。

 不味いと思ったが、体は止まらず剣を振り下ろした。

 しかし、あっけなく躱された。その後の流れは男の苛立ちを最大限に駆り立てる物にしかならなかった。2度目の攻撃もかわされ、その上自分の膝を蹴って逃げられる。

 餓鬼だからと油断していた部分もあっただろう。

 しかし、それでも自分が攻撃をくらうとは思っていなかった。

 当然のように逃げて行った餓鬼の方向を見ながら、男は改めてその餓鬼を殺す決意をする。




「ふぅ。危ない奴だったな」


 廊下を走り抜けて完全に振り切ったのを確認して、俺は足を止めた。

 こんな人通りの多い場所で剣を振り回す奴なんてろくな奴じゃない。ちょっと戒めに膝に蹴りを入れておいたし、それで少しでも反省してくれればいんだけどな。

 近くの扉から観客席に入る。そしてフィーナ達のいる場所まで戻った。


「お待たせ」

「お帰りなさい」

「ずいぶん時間がかかっていたな」

「超並んでてさ、しかも帰りに変な奴に絡まれるし散々だったわ。そういやぁ試合ってどうなってる? 途中で爆発音みたいなの聞こえてたけど」


 そう言ってフィールドを見る。今は上には誰もおらず、整備員たちがフィールドの張り替えを行っていた。

 あの男が言っていた通り、1試合は終わってしまったと言うことだろう。


「それが……」

「第6試合と第7試合が終わってしまっている。2つともあまり気分のいい試合では無かったがな」

「2試合も!?」


 マジか。俺が席を立ってから40分程度しかたってない。あの変な男が第6試合の勝者って言ってたから1試合が終わってるのは予想していたが、2試合は予想外だ。


「どんな内容だったんだ?」

「第6試合はディオ・ジークハルトと言う帝国の騎士と、乱戦で共闘戦線を組んでいた2人組の大男の方だ。名前はガンディルと言う」


 第6試合で帝国の騎士ってことは、あの変な奴がディオってやつなのだろう。


「ディオが試合開始と共に炎属性魔法で自分とガンディルを覆い、後は剣でひたすら切り刻んで行った」

「ガンディルは抵抗できなかったのか?」

「ああ、力が違いすぎた。一方的だったよ。しかもガンディルが降参しようとしたところに攻撃を加えて降参の意思を審判に気付かせないようにしていた」

「そりゃひでぇな」


 戦う気のなくなった奴をいつまでもいたぶろうってことかよ。確かに胸糞悪いな。


「最後にもう1度炎で自分とガンディルを囲い、審判の視線すら外し、ガンディルの四肢を切断して終了だ」

「そこまでやるのかよ」

「会場中が怖がっていたよ」

「私も正直、彼と戦うぐらいなら棄権したいですね。戦うとしたらですけど」

「正直私もそれでいいともう。あれは何かを学べるような試合ではない」

「そうか。それでその次は? 一瞬で終わっちまったのか?」

「ああ。7戦目はフェイリスがナガラを、開始と同時に魔法一撃で倒してしまった。トーカが感じた爆発はおそらくそれだろう」

「容赦ねぇな。6試合目とは別の意味で」

「そうだな」


 少なからず闘技大会を見に来ている者たちは、参加者の剣や魔法を見に来ているはずだ。それは試合が長引けば長引くほどさまざまな技を見ることができるようになる。

 それが一瞬で、しかも何が起こったのかよく分からなかったのではつまらないだろう。それは参加者のナガラと言う騎士もそうだったろうな。


「完全に雑魚に興味は無いと言った様子だった。相手選手を一瞥もしなかったからな」

「なんか感じわりぃな。A+てみんなそんな感じなのか?」

「いや、ドラグルなどはフェイリスとは正反対に気のいい冒険者と言った雰囲気だな」

「ならそいつの特性か。陰険な奴は嫌われるぜ?」

「フェイリスは昔からその傾向があったが、A+になってからは顕著になったと聞く。名声が彼の何かを変えたのかもしれないな」

「それはありそうですね」


 確かにそうだ。名声や力ってのは人を変えやすいからな。直接の原因がそいつに無くても、周りの環境がそれを許さない時がある。

 そう言うのは仕方がないと思うしかないかもな。


「けど、相手に試合を楽しませないのは許せねぇな。俺が団体戦でお仕置きをしてやらねば」

「あまりバカなことはするなよ。おっと、今日最後の試合が始まるようだぞ」

「残っているのは、前回優勝者のオルト・ランドロス選手とシュアトル・コースター選手ですね」

「最後ぐらいは気持ちのいい試合を期待しよう」

「いろんな技術が見れるといいです」


 俺とリリウムは試合の楽しさを、フィーナは技術を学ぶために、最後の試合に注目した。




 宿の食堂は、どこのテーブルでも今日の試合の感想で盛り上がっていた。

 もちろん俺たちのテーブルもだ。


「最後の試合は面白かったですね」

「前大会の決勝戦と同じような戦いになっていたからな。まさかシュアトルが勝つとは思わなかったが」

「前回の優勝者でも1回戦敗退って、今年のレベルが上がり過ぎなんだよ」


 最後の試合、オルト対シュアトルは、シュアトルが接戦の末に何とか勝利を勝ち取った。

 しかし、シュアトルも満身創痍と言った感じで、明日の試合にも必ず疲れが残りそうな状態だ。

 体の怪我がすぐに直されるとはいえ、心労までは簡単には取れないからな。


「私が勝てたのが奇跡のようです」

「正直奇跡と言っていい勝ち方だったからな」


 そう言いながら、リリウムが俺の方に意味深な目線を送ってくる。


「あんまり思い出させないでくれ。今思い出しても顔から火を噴きそうだ」

「フィーナ、下だ! だったか。もう、噂にはなっているぞ」

「マジ勘弁してくれ!」

「私は嬉しかったですよ。本当に1番近い席で見ててくれるとは思ってませんでしたし」

「あれはまあ、たまたま気分的にそうしようと思っただけだし……」

「要は運命的なものを感じたと言うことだな」


 これ以上、この話を続けても不毛なだけだ。そう判断した俺は話を変えることにする。


「明日のフィーナは2戦目だよな?」

「はい、相手はシグルドさんです」

「正直今のフィーナではどんな奇跡が起きても勝てない相手だ。明日の目標はいかにシグルドにくらいつくかを焦点にすることになりそうだな」

「やっぱり勝つのは難しいですかね?」

「ああ、奴は慢心しないし、油断もしない。戦いは常に全力を持って挑んでくる相手だからな」


 だから今日の戦いも見てて楽しかった。常に全力で戦う姿ってのは、どんなもんでも見てて面白いからな。


「決して勝つことを捨てるわけではないが、それ以上に学ぶことに比重を置いて戦うと良いだろう。シグルドの戦い方はフィーナとは全く違うものだからな」

「確かにそうですね」


 フィーナがカウンターなら、シグルドは先に攻め、相手の反撃すらも叩き潰す戦い方だ。その代表例がシールドバッシュだろう。

 あれをカウンターするのは非常に難しい。

 剣の攻撃なら躱せばいいが、シールドバッシュは攻撃面積が広く、躱すのが難しいのだ。

 その分肉体へのダメージは少ないが、その後に作らされる隙がかなり大きくさせられる。


「シグルドは先手必勝って感じだよな」

「ああ、だからこそフィーナには色々学ぶことが多くなるだろう」

「楽しみです」


 フィーナも最近は自分が強くなるのが楽しくなってきているらしい。まあ、順調に力が伸びるのは楽しいもんだよな。下手に壁にぶち当たるとつまらなくなることもあるけど、それは上手く周りがカバーすればいいことだしな。

 翌日に備え、今日の練習は無しにして英気を養うことにした。


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