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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
デイゴ王国闘技大会編・個人戦
83/151

82話

 フィーナがフィールドから飛び降り、そのままリリウムに抱き着く。

 その光景を、フィールドの上からニューギルが見ているが、その表情はどこか満足げだ。


「フィーナおめでとう」

「ありがとうございます。これも、リリウムのアドバイスのおかげですね」

「そんなことは無いさ。私のアドバイスは最低限のものだけだ。実際に戦って勝ったのはフィーナだ」

「そうだな。俺に勝ったのは君だ。故にこれは君の勝ち取った勝利だ」


 フィールドから降りてきたニューギルがフィーナに声を掛けた。

 その声を聞いて、抱き着いていた体を離し、振り返る。


「ありがとうございます。色々勉強させていただきました」

「いや、こっちこそ新しい戦い方を見れて良かった。1つ聞きたいことがあるのだが良いか?」

「はい? なんでしょう?」


 ニューギルの質問にフィーナが首を傾げる。


「最後、俺の剣を完全に見失っていたよな。あの状態からどうやって、体を倒して剣を避けるなんて言う荒業が出来たのか不思議でね。普通なら動けずに切られていたはずだが」

「簡単な事です」

「そうなのか?」

「声が聞こえたんですよ。フィーナ、下!って」

「ん? そんな声は聞こえなかったが」


 フィーナの答えに今度はニューギルが首を傾げる。

 同じ場所にいて、フィーナに聞こえた声がニューギルには聞こえなかった。

 確かに最後の時点で、観客の大部分は静まり返っていた。

 しかし、全員がと言う訳では無い。少なからず応援を送る人たちはいたのだ。その声の中でたった一言を聞き出すなどと言うことは不可能に近い。


「フィーナには聞こえて、ニューギルには聞こえないか」


 その意味を理解したリリウムがにやにやと笑う。その笑いに、ニューギルがふてくされたように顔をしかめた。


「フォートランドは分かるのか?」

「まあな。フィーナ、その声は男のものだっただろ」

「はい」


 嬉しそうに頷く。


「そしてよく知る声だった」

「はい!」


 もう1度。

 そのフィーナの表情を見て、ニューギルも何となく理解する。


「思い人……か?」

「彼氏です」

「なるほどな。……愛の力に負けたと言うやつか。冒険者としてはそこはかとなく悔しいな」

「その気持ちはよく分かるぞ。自分の鍛えてきた力が、愛と言う不確定なものに負けるのは、何となく納得がいかないものがあるな」

「やはり己の実力を孤独に磨いてきたフォートランドなら分かってくれるか!」

「うむ! いや、私は孤独と言うわけでは無いのだがな」


 なぜかそこでニューギルとリリウムの間に友情が芽生えた。

 その光景を見せられながら、アハハと苦笑いをするしかないフィーナであった。




 フィーナとリリウムが抱き合っている光景を見ながら、俺は観客席を降りようと足を踏み出す。

 しかし、その肩をガッチリとオッチャンに掴まれた。


「最後は良い叫びだったぜ!」


 グッと親指を立てて、俺にウィンクしてくる。


「うっせ! 言ったあとスゲー恥ずかしかったんだからな!」


 思わず声が出てしまったが、その直後に周りの観客から視線が集中したのだ。

 フィーナの行動が、明らかに俺の声を聞いての動きだと分かったからだ。

 そこで予想するのが、俺とフィーナの関係。

 まあ、単純ににやにやされるわな。

 ちなみにその視線は今も続いている。そして一番その視線を強く送ってくるのがオッチャンだったりする。とりあえず殴り倒して良いかな?


「まあまあ。それであの嬢ちゃんが勝てたんだから良いじゃねぇか」

「じゃあその気持ちいいままで俺を解放してくんねぇかな?」

「おっと、引き留めて悪かったな。勝った彼女を迎えに行ってやらねぇとな」


 オッチャンがわざと大きな声で、周りに聞こえるように言う。


「くっそ! オッチャン覚えてろよ!」

「ガハハ、こういう時は盛大にやるもんだ」


 オッチャンの笑い声と、生ぬるい視線を背中に、俺は観客席を降りて行った。


 廊下を進むと、そこには警備員が立っている。

 そこから先に選手専用の控室があるのだ。個人戦に出ていない俺は、ここから先には入れないためフィーナ達が出て来るのを待つしかない。

 廊下の壁に背中をもたれさせしばらく待っていると、足音が聞こえた。

 そして次第にしゃべり声も聞こえてくる。


「ふむ、そのトーカと言う奴はかなり強いのか。ならなんで個人戦に出てこないんだ?」

「闘技大会の参加自体が私の訓練の一環でしたので、仲間どうしでつぶし合う可能性は無い方が良いだろうって」

「そう言うことだな。私やトーカが出ても、フィーナと対戦しては意味がない」

「なるほどね。でも団体戦には出て来るんだろ?」

「はい、私たち3人のチームです」

「そりゃいい。俺も団体戦は冒険者のチームの1つとして出ることになってるからな。勝負する機会があったらまた頼むぜ」

「今度も負けませんよ?」

「ハハハ、俺も何度も同じ手には乗らないぜ」


 楽しそうな会話をしながらフィーナ、リリウムそして対戦相手だったニューギルが歩いてきた。

 そしてフィーナが1番最初に俺を発見する。


「トーカ!」


 そう言って、目を輝かせながら俺に向かって駆け出す。

 走ってきたフィーナを俺は素直に受け止めた。さすがにここで躱したりするほど空気が読めない訳じゃない。


「お疲れさん。後おめでとさん」

「ありがとうございます。トーカが最後に声を出してくれたおかげです。最前列で見ててくれたんですね」

「何となくそうした方が良い気がしてな」


 そこにリリウム達が追いついてくる。


「試合前の控室では、トーカなら最上階や、さらにその上の柱から見てそうだと話していたんだがな。当てが外れた」

「どこの悪役だよそれ……」


 高見の見物ってか?


「あんたがトーカか」

「おう、ニューギルっつったっけ」

「そうだ、団体戦に参加するって聞いたぜ。あんた強いんだってな。機会があったら俺と手合せしてくれよ」

「フィーナとじゃなかったのか?」


 さっきの会話的に、フィーナとのリベンジマッチを期待すると思ってたんだが。


「まあ、それもしたいっちゃしたいけどな。せっかく闘技大会に出るんだ。強い奴と戦いたいだろ」

「ハハハ、バトルマニアか。良いぜ、対戦することになったら相手してやるよ」

「おうおう、ずいぶん上から言うじゃねぇか。その口縫い合わせてやるぜ」


 ニューギルは、俺の挑発にも気分を悪くした様子は無く、上機嫌に挑発に乗る。

 どうやらさっきの試合もある程度満足できる試合だったみたいだな。まあ、そうじゃなきゃ自分を倒した相手と仲良く話しながら廊下を歩いてくるなんてしねぇか。


「じゃあ、俺はこれで行くぜ。次の試合も頑張れよ」

「はい、ありがとうございます」


 ニューギルが去っていく背中に、フィーナは頭を下げていた。


 フィーナ達の第3試合が終わった後は、昼休憩が挟まれる。

 俺たちは昨日の反省を生かして、露店で3人分昼食を買うと、その足で闘技場へ戻ってきた。

 それでも、トーナメントとなると観客もプロになるものがいる。

 観客席の最前列のほとんどは、そんなプロたちが弁当を広げて陣取っていた。

 さすがに弁当持参の連中には勝て無いわな。

 と言う訳で、観客席の2列目から見ることになった第4試合。

 そこに出てきたのは、ユズリハ騎士のシグルドだった。その後に続いて出てきたのは乱戦の時にフィーナと同じフィールドにいたウサインだ。


「シグルドの登場だな。何か功績立てるって意気込んでたけど、どうしたんだろうな?」

「大方、結婚絡みだろう。シグルドは第1王女にゾッコンと聞く」

「やっぱそうか。けど大丈夫かね?」


 下手に意気込んで負けるなんてことにならなきゃいいけど。まあ、王族専属の騎士だし、普通の騎士とかよりかは強いんだろうけど。

 そう言えば、リリウムがAランク程度の実力はあるとか言ってたよな。


「ウサインは全体攻撃と斧の攻撃しか見たことが無いんだよな。個人戦だとどんな戦い方になるのかね?」

「基本的には1撃に比重を置いた戦い方をするだろうな。あのバトルアックスなら、一撃入れれば勝ちが決まるだけの威力があるだろう」


 確かにウサインが背負っているバトルアックスは、かなりの威力を秘めていそうだ。俺のサイディッシュほどじゃないけど、それでも相当の重さはあるはず。


「あのバトルアックスならば、シグルドの盾を破壊してそのまま攻撃を通しかねない」

「シグルドは剣と盾だよな。魔法があるせいで盾ってあんまり役に立たない気がするんだけどな」


 剣の攻撃を防ぐならば盾は有効な手立てになるだろう。しかし、剣以上の破壊力を持ち、尚且つ前後左右、場合によっては上下すらどこから来るか分からない魔法には相性が悪い。

 雷属性などは、盾に感電させられる可能性すらある。

 それに魔法の向きを調整するのにも盾は邪魔になる。

 ほとんどの魔法を使うものが、腕を伸ばして魔法の出る方向や場所を決めているのだ。戦いの中では剣で相手と斬り合いながら魔法を使うことも良くある。その際に盾があっては魔法の方向性を決められず、上手く相手に当てることができなくなる。

 つまり、普通に考えれば、盾はこの世界の戦いにおいて無用の長物であると言える。

 そんなものを持って、平然と王国騎士なんてやってられるシグルドの実力も凄いが、何か秘密があるのだろうか?


「シグルドは盾を盾として使わないからな」

「そうなんですか?」


 シグルドと試合をしたことがあるリリウムは何か知ってるようだ。そしてフィーナは、リリウムの言葉に首を傾げる。


「試合を見ればすぐに分かると思うが、シグルドは盾で攻撃を防ぐと言うことはしない。奴の盾は常に攻撃の為にある」

「攻撃のための盾ですか……」


 なんか、変な感じだな。盾が矛になってるような矛盾を感じる。まさしく字の通りって感じだな。


「さあ、試合が始まるぞ。良く見てると言い。今の盾の使い方と言うものを」

「しっかり勉強させてもらいましょう!」

「トーナメント第1試合4戦目――始め!」


 審判の宣言と共に、シグルド、ウサイン両名が動いた。


 ウサインがバトルアックスを振り下ろす。

 その真下に、シグルドが自ら入り込んだ。

 そしてバトルアックスが振り下ろされる直前に、シグルドはウサインの腕目掛けて盾を突き出した。

 いわゆるシールドバッシュだ。盾を相手に叩きつける簡単な打撃技だが、シグルドの盾はホームベースを縦長にしたような形をしており、その先端はとがっている。

 それは十分な殺傷能力を有していた。

 ウサインはとっさに突き出された盾を躱そうと腕を倒すが、その隙にシグルドの剣がウサインに一太刀を浴びせた。

 左の肩口を斬られながらも、何とか致命傷を避けるウサイン。しかし、その一撃で勝負の流れは決まったと言っても良いだろう。

 バトルアックスの一撃は、非常に強力で、当たれば勝利できるような武器だ。しかしそれだけの威力を有する武器には、それ相応の筋力が必要とされる。

 特にバトルアックスなどはそれが顕著だ。

 ウサインもそれにたがわずバトルアックスを両手で振り回していた。その時点では完璧に扱えていたようだが、左肩の傷を見る限り腕に力が入らなくなっているようだ。おそらく神経を傷つけられたようだ。

 片腕でバトルアックスを振るうなんて、俺のように根本的に体がおかしくないとできない行為だ。

 ゆえに、ウサインは強力な武器を奪われたことになる。

 魔法での戦闘継続も出来ることは出来るだろうが、シグルド相手には厳しいだろうな。

 そう考えているうちに、ウサインはあっけないほど簡単にバトルアックスから手を離した。そしてすぐに懐から短剣を取り出す。まだ闘志は衰えていないようだ。

 この切り替えの早さは冒険者ならではだろう。色々な状況に合わせてスタイルを変え、死亡率を減らすのは、冒険者としては当然のことだ。

 自分のスタイルに固執するようでは、魔物との戦いで生き残ることは出来ない。

 それを見て、シグルドも嬉しそうに笑う。なんだかんだ言っても、シグルドも戦うことが好きなようだ。まあ、そうじゃなきゃ王族護衛騎士になるまでの実力なんてつけられる訳ないか。

 そんなことを考えているうちに、ウサインがシグルドに迫る。

 バトルアックスを捨てたことで、ウサインの速度は格段に上がっていた。その動きに一瞬シグルドが遅れを取る。

 突然のスピードアップは、やっぱ強いな。一太刀交えただけとはいえ、両者ともプロだ。その動きと速さを一瞬で理解している。

 ゆえに、一度理解した速度が変わると、そのタイミングをずらされることになる。

 それもウサインの速度上昇は、本気を出したとかそう言う類ではなく、バトルアックスによる枷から、ナイフ1本と言う上昇率だ。普通のそれとは訳が違う。

 先ほどのような攻撃前のモーションを止めることができないと判断したシグルドは、そのナイフを受けるべく、盾を構える。

 逆手に持ったウサインのナイフが振り下ろされる。

 盾はそのナイフをしっかりと止めていた。当然だろう。ナイフ1本壊れるような盾など誰も持たない。

 ウサインも当然それを知っている。ならなぜそんな無駄な事をしたのか。

 答えはすぐに出た。

 動かなくなったはずのウサインの左手が、シグルドの剣を相手の腕をつかむことで止めたのだ。


「動かなくなったフリですか」

「おうよ。あんたと力比べするにはそれぐらいしかないと思ってな」


 ウサインがギリギリとシグルドの腕を握りしめ、血行を止める。

 次第にシグルドの手に力が入らなくなり、剣を落としてしまった。


「スピードはアンタが上だろうけどな。止めちまえばパワーが上の俺の方が断然有利だよな。これだけ近けりゃ魔法も使えないだろ。腕も押さえてるしな」

「それが意外とそうでも無いんですよ!」

「なに!?」


 シグルドは力の入らなくなった右腕の人差し指だけをウサインに向ける。


「星に祈りて、水線を放つ。ウォーターライン!」

「くそっ!」


 ウサインはとっさにその指の向きから、攻撃の方向を予測し、それとは反対側に体をそらせる。

 そうすることで何とかシグルドの魔法を避けた――ように見えた。


「あまいですよ」


 シグルドは外れたように見えた人差し指の向きをそのままウサインの方に向け直す。

 それに合わせて、指の先から伸びている細い水の線も一緒に動いたのだ。


「これは放ってしまう槍や弓とは違いますからね。こんな芸当も出来るんですよ」


 水の線は指から一直線に固定されたままだ。その長さはだいたい3メートルと言うところ。

 それはあたかも細く長い剣のように見えた。

 水線はウサインのふくらはぎを切り裂く。その痛みにウサインがふらついた。

 その隙をシグルドが逃すはずも無く、力の弱まった盾に当たるナイフを盾で押し返し、そのまま弾き飛ばす。

 ウサインは盾に弾き飛ばされ、フィールドに倒れる。

 すぐさま立ち上がろうと足に力を入れたところで、ウサインの視界が影に覆われた。

 それは真上から降ってきた盾だ。

 そして、ウサインの首の横にフィールドを砕いてそのまま突き刺さる。


「判定! 勝者シグルド選手!」


 その攻撃を完全に決まり手だと判断した審判が、シグルドの名前を叫んだのは、その直後だった。




「シグルドが勝ったか」

「まあ、納得って感じだったな」

「私たちはリリウムからシグルドさんの強さを聞いていましたからね」


 試合が終わり、その場ですぐにウサインの治療が始まる。

 治療自体はすぐに終わり、フィールドの消耗も少なかったため、すぐに第5試合が開始されることになった。

 フィールドに現れたのは、あの宿で仲裁に入った騎士。ルーガだった。


「お、あいつの戦いか」

「相手はロイ・ロンドベル。カランの騎士だったか」

「確か乱戦の2戦目にいたやつだよな。あの炎使う女騎士のインパクトが強くてあんまり記憶にないな」

「そうですね。私も普通の剣士で水属性使いと言うことぐらいしか覚えていません」

「まあ、この戦いで色々と分かるだろうな。しかし、相手はあのルーガだ。今までの試合を見ていると苦戦しそうだな」

「楽しく見させてもらいましょうや」


 こういう高見の見物的感覚は嫌いじゃないな。祭りみたいなのは参加してなんぼだけど、人の動きを予想しながら上から見るのもたまには面白い。

 そう思いながら、俺はルーガとロイの試合を観戦していた。


感想や誤字の指摘ありがとうございます。最近一人一人にお返しできずに申し訳ありません。全て見て修正や今後の励みにさせていただいております。ありがとうございます。

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