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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
デイゴ王国闘技大会編・個人戦
82/151

81話

 審判が開始の合図をすると同時に、フィーナは相手に向かって駆け出した。

 俺はそれを上手い行動だと判断する。

 今までの戦いを見ていて思ったのは、どの試合も初手に流れをつかんだものが勝っていると言うことだ。

 流れと言うのは、短いスパンの中で変えることが非常に難しい。

 特に試合ともなれば、最初の流れで勝負が決まってしまうことも良くある。だからフィーナは多少強引であっても、初手の流れを奪うべく前に出たのだろう。

 そうでなければ、カウンター主体であるはずのフィーナが自分から攻めることはあまり考えられない。

 ニューギルも前に出たとこを見ると、同じ考えだったようだ。

 そして切り結ぶ。

 つばぜり合いになれば、確実にフィーナが不利になるのは分かっている。

 フィーナも、すぐにつばぜり合いから離れ、距離を取るためにバックステップで下がる。

 逆にニューギルは離れまいと、フィーナを追いかける。

 そこでフィーナが詠唱を唱えた。


「星に願いを。閉ざせ永遠の凍土。エターナルアイスワールド」


 それは予選で使った大規模な魔法だ。

 しかし、一度見られているだけあって、ニューギルは脚を止め、すぐに自分の回りに炎を発生させ氷を解かしてしまう。

 だが、フィーナがニューギルから距離を取ることは成功した。

 そこで立て続けにフィーナが魔法を発動させる。

 フィーナの攻撃魔法でも基本的なアイスニードルだ。

 何十本と一度に生成された氷の棘は、一斉にニューギルに襲いかかる。

 しかし、ニューギルも負けじと炎の壁を作り、その氷が自らに届く前に溶かしきってしまった。

 さすがにニューギルも1等星だけあって、簡単には魔法で決着が着きそうにはないな。

 そして、試合は振り出しに戻る。

 一瞬の攻防と、激しい魔法の打ち合いで、観客の熱気は一気に上がり、歓声もその大きさを増している。

けど、今フィールドにいるフィーナには、ほとんど聞こえてないんだろうな。

 対戦相手のみに集中し、その一挙手一投足まで逃すまいと、視線を巡らせている。

 そこに、リリウムからの指示が出された。


「フィーナ! 剣を解禁しろ!」


 その言葉にニューギルが警戒を強める。

 当然だろう。指南役からの指示が現状の打開策でない筈がないのだから。

 リリウムの指示が聞こえたフィーナは、持っていた鉄の剣をニューギルに向かって投げつけ、腰に下げていた愛用の属性剣を抜く。

 鉄の剣を相手に投げたのは、離した一瞬の隙を突かれないようにするためだろう。

 そして属性剣に魔力を流し込んだ。

 フィーナの魔力が流し込まれた剣は、その魔力の属性に従い、自らの刀身に氷を張り付けていく。

 そして、ものの数秒で、氷が新たな刃を形成した。


「なんだその剣は!?」


 その光景に、ニューギルが驚く。観客たちも何が起こっているのか分からないようで、動揺が広がっていた。

 しかし、その動揺は次第に歓声へと変わっていく。

 よく分からないが、剣に氷を纏わせると言うカッコいい状態に、感銘を受けたのだ。


「属性剣。私の愛刀です」

「よく分からん武器を使うようだな。しかし、武器に頼っているようでは俺には勝てんぞ!」

「それはあなた自身で確かめてください!」


 再びお互いが走りより、剣を交えた。

 しかし今度はフィーナが剣を引くことは無い。

 切れ味が数倍に増した今の属性剣ならば、切り結んだ時にダメージが大きいのはニューギルの剣となる。

 属性剣が刃こぼれしてもすぐに氷を纏い直るのに対し、ニューギルの剣は普通の剣だ。次第に刃こぼれはひどくなり、切れ味は悪くなる。

 そんな状況になれば、不利なのは必須。

 ゆえに、今度はニューギルが距離を取るために下がった。

 フィーナも深追いすることは無く、そこで詠唱を始める。

 詠唱の完了はほぼ同時だ。

 フィーナの氷とニューギルの火がぶつかる。

 激しい爆発が起き、フィールドを水蒸気が白く包み込んだ。


 水蒸気が次第に風に流され、視界が戻ってくる。

 水蒸気の晴れたフィールドでは、フィーナとニューギル2人が激しい斬撃の応酬をしていた。

 正直、フィーナがここまでやれるとは思わなかった。

 俺はもっと防戦一方になると思っていたのだ。

 今までの戦い方や、フィーナの性格を考えても、あまり前に出て攻撃を加えるようには思えない。

 ならば、これもリリウムの策なのだろうか?

 けど、いくら戦えてると言っても、それは対等にという意味ではない。

 フィーナの攻撃はことごとく急所から外され、あまり効果のない部分を攻撃している。

 それに対し、ニューギルの刃は、確実にフィーナを追い詰めていた。

 そしてついにフィーナが限界を感じたのだろう。

 大きく剣を振り、ニューギルを下がらせると、自らも距離を取った。

 そこですかさずリリウムがタイムアウトを取る。

 そうして短くて重要な5分が始まった。




「フィーナ、今までの戦いは良くやった」

「ありがとうございます」


 審判の指示に従い一旦フィールドを降りた私は、リリウムのもとに駆け寄る。

 そこですぐさま水の入ったカップを渡された。

 それを飲みながら、リリウムの指示を聞く。


「相手の戦い方はスタンダードなものだな。基本的には、フィーナが積極的になった状態と同じだと思えばいい」


 それはつまり、剣と魔法の混合技と言うことだろう。しかし、そのすべての技において対戦相手は私より上手い。その結果が今の自分の姿だと確認する。

 服はところどころ破れ、そこからは血が出ている。

 確実に対戦相手の剣は私に届いているのだ。それに加えてあの火属性の魔法。

 一見炎属性の魔法より規模が小さく威力が低いように見えるが、小さい代わりにその中には濃密な威力が込められていた。

 アイスニードルを放った時などは、触れた先からすべての氷が水になりそのまま蒸発してしまっていた。

 それだけの熱量をあの選手は扱えている。


「作戦としては、この後はカウンターを狙っていくことになる。まずは接近戦に持ち込むところだが、相手もあまり長距離戦は好きではないらしいからな。誘わずとも相手から近寄ってくるだろう。問題は、近寄ってきた際に発動してくるであろう魔法だが」

「氷で相殺は難しいですかね?」

「あの火の威力は見ただろう? 正直今のフィーナでは魔法としての練度が違う。同じ威力の魔法を使っても、ニューギルの魔法がフィーナの魔法を突破してくる可能性は高い。その可能性がある以上、相殺と言うのはあまり得策とは言えないな」

「そうなると躱すぐらいしかないですが……」


 火や炎属性の魔法は、実体が不定形のため完全に躱すと言うのが非常に難しい。

 氷や土などは確実な実体がある分紙一重であっても躱してしまえばダメージは無い。

 しかし、火や炎、風などは不定形のため紙一重で躱したとしてもダメージが通ってしまう可能性がある。

 その可能性をなくすには大きく避けるしかないが、それではカウンターの為の体勢に入れず、じり貧になりやがてやられてしまう。

 ならどうすればいいのか?


「相殺は難しいのなら、その上から潰してしまえばいい。フィーナの魔法で今一番威力が高いのは?」

「ブリザードですかね」


 トーカから教えてもらったブリザードは、範囲技だが威力も尋常じゃない。

 トーカの持つ月の加護でやれば周囲を一瞬で冷凍するが、フィーナの1等星の加護を使っても周辺を氷で包み込むまでに3秒もいらない。

 3秒間動き続けられると氷が張りつかず凍らせることも出来ないが、ただの魔法ぐらいならばかき消すことは出来るかもしれない技だ。


「ならばそれを使おう。相手の戦い方を見ているに、試合の再開と同時にこちらに走り込んでくる可能性は高い。こちらはすぐにブリザードを詠唱し、魔法に備えた状態で迎え撃つ。後は練習通りに武器破壊だ」

「剣なら腹を、ですね」

「そうだ。相手の剣も幸い業物ではあるが訓練で壊した剣とさほど形状は変わらない。やりやすい部類だろうからな」

「分かりました」

「もし3回斬っても壊れなかった場合に動揺などはしないようにな。訓練用の剣とは違うんだ。耐久度も変わってきているはずだ。何か別の鉄が使われている可能性も0じゃない」

「はい」

「では行って来い!」

「行ってきます!」


 審判の声がかかり、試合再開まであの30秒となったところで、私は再びフィールドの上に立った。




 相手選手の指南役がタイムアウトを取った。

 審判の指示に従い、フィールドを降りると、対戦選手が指南役のもとに駆け寄るのが見える。

 指南役の人物には見覚えがあった。確か名前は――


「リリウム・フォートランドと言ったか」


 A-ランクの冒険者だったはずだ。指南役での出場を考えると、あの選手は弟子か何かなのだろう。

 今回の出場はさしずめ力試しか、訓練の一環と言ったところか。

 しかし、予想以上にあの選手――強い。

 予選を見ていた知り合いから話を聞いた限りでは、実力はあるが、まだまだ発展途上だと言うところだった。気を付けるのはせいぜいが、かなり特色の強い氷属性の魔法。

 最初に使ってきたアイスワールドがそうなのだろうが、あれは確かにやっかいな技だ。

 あの技1つでどうしても足を止めなくてはならなくなる。

 しかし、次はそうはいかない。相手が魔法を使って来るのなら、こちらも同時に魔法を発動してしまえばいい。

 お互いの魔法は、ぶつけ合ってみて分かったがこちらが熟練度という観点では上だ。魔法にはなれているのに、熟練度が低いのは、もしかしたらこれまでに攻撃魔法を使ってこなかったのかもしれない。

 まあ、冒険者でもなければ攻撃魔法を使うこと自体まれだから当然と言えば当然か。

 同じ魔法ならば、こちらが威力は上になる。ならば試合の開始と共に魔法で攻撃を仕掛け、相手に上級の魔法を使って対処させる。躱してくる可能性もあるが、それならばそれで相手はバランスを崩すだろうしやりやすい。


「よし、次の戦闘で決める」


 作戦が決まったところで、審判がタイムアウト終了を告げる。

 それに合わせて俺は再びフィールドに戻った。




「さあ、タイムアウトも終わり、これから試合が再開される! 美少女冒険者のフィーナ選手は何やら指南役にアドバイスを貰っていたようだが、それが今後の試合展開にどのような変化を与えてくれるのか楽しみだ!」


 司会の声が闘技場に轟き、観客の熱が徐々に戻ってくる。

 しかし静けさに包まれたフィールドの雰囲気に押されて、歓声をあげる者はいない。


「試合――再開!」


 審判の声と共に、フィールドでは詠唱が開始された。

 それと同時に緊張の静けさから解放された観客の歓声が爆発する。


「星に願いて、火の牙を放つ。ファイアーランス!」


 ニューギルが火を槍状にした魔法を放つ。

 しかし、それを予想していたように、フィーナは俺の教えた最大威力の魔法を詠唱していた。


「星に願いを。氷結の世界を成せ、ブリザード!」


 フィーナの魔法によって生み出された氷の結晶が、フィールドに降り注ぐ。

 その氷に触れたものは、一瞬にして凍らされていた。

 それはニューギルの生み出したファイアーランスも例外ではない。

 氷を溶かしながら突き進むランスに、強引に氷が張りつき、その全体を包み込む。

 そして次第にランスは失速し、フィールドの上に落ちた。

 火の槍がいまだに燃え続けるなか、その火ごと凍らせる不思議な光景がそこには出来上がっていた。


「ちっ、想像以上の技を持ってきたか。だが!」


 ニューギルはファイアーランスの詠唱後、すぐにフィーナに向かって走り出していた。

 ファイアーランスが凍らされた時点で、フィーナとニューギルの距離は剣1本程度しかない。

 しかし、何も妨害が無い状態でならば、それはフィーナの訓練風景そのままだ。

 ゆえに、フィーナのカウンターも成功する。


「は!」

「そこです!」


 ニューギルが振り下ろすのに合わせて、体を傾けながら剣を振るフィーナ。その軌道は、完璧にニューギルの剣の腹を薙いでいた。

 完璧なタイミングで剣を払われたニューギルは、体勢を整えるべく、その力に逆らわずに横に動く。フィーナもそれに合わせて常にニューギルを正面からとらえられるように動く。

 それはさながら、2人がフィールドに円を描くように動いていると、外から見ていた観客には思えた。

 そして再びニューギルが攻め込む。フィーナが自分から攻め込む様子は無く、カウンター主体のいつもの作戦に変更したらしい。

 まあ、最初の流れを持ってかれることは無かったからここまで善戦出来てるんだろう。

 もし、流れを相手に捕まれていたら、まともに切り結ぶことも無く、魔法と剣技に慌てて蹂躙されてただろうしな。


 そうして見ているうちに、2度目の斬撃がニューギルの剣に入る。そこでニューギルも自分の剣の違和感に気が付いた。


「剣の破壊を狙って来ていたのか……」

「バレてしまいましたか」

「どうりでそちらから攻撃してこないはずだ。攻めで武器破壊を狙うと、すぐにばれてしまうからな」

「ええ、ですから攻撃を誘っていました。後1発ぐらいだったんですけどね」


 一見軽口を叩きあっているように見えるが、フィーナは冷や汗だらだら流してるだろうな。けど、カウンターからの武器破壊がバレることも試合前には3人で予想していた。

 ここからが本当の勝負になるな。


「魔法主体の攻撃に変えてみますか?」

「まさか」


 そう言ってニューギルはフィーナの言葉を否定した。


「そんなことをすれば、また奇妙な魔法で動きを封じられかねんからな。お前のカウンターは確かに厄介だが、それ以上にその見たことも無い魔法は厄介すぎる。知っていて厄介なものと、知らない上に厄介なものでは明らかに前者の方がやりやすい」

「そう言ってもらえると助かりますね。私は作戦を変更しなくてもよさそうです」


 そう言ってフィーナが構える。

 確かに、ブリザードやアイスワールドなど、俺の世界の知識が入ってる魔法は、この世界の連中にとっては厄介な物だろう。

 それに比べれば、対処法も知っていて、戦った経験もあるかも知れない戦略なら、明らかに戦略の方が戦いやすい。

 まあ、フィーナが使える俺の魔法ってこの2つしかないから、それ以外は普通の魔法なんだけどな。

 相手が上手く警戒してくれたおかげでやりやすくなったと感謝するべきか。


「俺はその作戦とやらを正面から破るだけだ」


 そう言ってニューギルが切りかかる。

 武器破壊が狙いだとバレた現状、ニューギルは武器どうしの接触を極力避けるようになった。

 フィーナの攻撃は、躱すことメインに行動し、自分の剣はフェイントを織り交ぜながら、フィーナの防御範囲の外側から攻撃をあてに行く。

 しかし、フィーナも伊達にリリウムの訓練を受けていない。

 剣の動きを見続けた成果か、フィーナがニューギルの剣を完全に見失うことは一度として無かった。

 決して魔法の打ち合いのような派手さはない。しかし、そこには一瞬の攻防の輝きが確かにあった。故に観客はその一瞬に目を輝かせる。

 次第に観客の歓声も収まり、辺りが静かになって行った。いつもならこの状況を大声で解説してくれるはずの司会も、固唾をのんでその戦闘を見つめる。

 何度目かの剣の応酬ののち、先に隙を見せたのはフィーナだった。


 一瞬だけフィーナがニューギルの剣を見失ったのだ。


 それは疲れからか、それとも別の何かが要因だったのか分からない。

 その時、俺はとっさに声を上げていた。


「フィーナ! 下!」


 ニューギルは、剣を手放して切り上げるモーションだけをしていたのだ。

 腕の動きにつられ視線を上げてしまったフィーナは、フィールドに刺さったままのニューギルの剣を見失う。

 そしてその隙をついて、ニューギルが自らの剣を左手で振り上げるように切り上げる。

 それは型も何もあったものではない。ただ全力の振り上げだった。

 これでフィーナはやられただろう。誰もがそう思った。

 しかし、フィーナは動いた。

 体を後ろに倒すように傾けながら、自らの属性剣を振り下ろす。

 パキンッと聞きなれた音の直後に、フィーナがフィールドに背中から倒れ込む。しかしすぐに側転の要領で後ろに下がりながら立ち上がった。

 しかし、その状態になるまでに、ニューギルは完全に体勢を立て直している。

 ニューギルがフィーナの目前に迫り、剣を振り下ろした。


「私の勝ちですね」

「俺の負けか」


 ニューギルが振り下ろした剣は、フィーナに届くことは無かった。それは剣が根本付近で折れていたからだ。

 そして振り下ろしてがら空きになったニューギルの首に、フィーナが属性剣を当てている。


「…………勝者――――フィーナ選手!」


 審判の勝者宣言。一瞬の沈黙ののち、闘技場が爆発したような歓声に包まれた。


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