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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
デイゴ王国闘技大会編・個人戦
79/151

78話

話しが進まない気がするなら、二倍投稿すればいいじゃない?

「急がないと試合が終わっちゃいますよ!」

「分かってはいても、この人ごみは……」


 観客から少し遅れて闘技場を出た俺たちは、どこか食べれる場所を探した。

 しかし闘技大会初日の人の数を見誤っていた。

 近くの料理店は一瞬で満席になり、探索の範囲を広げて行っても、一向に3人も一緒に座れるような席は無かった。

 そしてようやく見つけた店で食事を取り、戻ってくるころにはすでに試合は始まってしまっていた。

 その上、戻ってきた人が入口で詰まってしまい、なかなか中に入れない。

 そのせいで、観客席に辿り着いたときには、すでに試合は大詰めになっていた。


「間に合ったか!?」

「大詰めっぽいな。大分人数が少ない」

「まあ、じっくりは見られませんでしたが、とりあえず出場者の動きが見られればいいので」


 フィールドに残っているのは5人。騎士が2人に冒険者が3人のようだ。

 中でも目立っているのは、冒険者2人。明らかに他と動きが違う。

 1人は大剣を振り回す巨漢。もう1人は、そこまで大きい訳では無いが、レイピアのような剣を2本持っている。

 他の3人が肩で息をする中、その2人は呼吸1つ乱さずお互いに背中を預けて3人の様子をうかがっていた。

 その様子から2人が仲間であろうと言うのは予想できる。

 さすがに即席のパートナーに背中を預けるなんてことはしないだろうしな。


「試合は最終局面を迎えて、昼休みを終えていったんクールダウンした観客の熱気も一気に戻って来たぞ! さあ、注目の2人大剣使いガンディルと、刺突2刀流のシュアトル・コースターは実力者3人に対してどのような戦いを見せてくれるのか!」

「シュアト、期待されてるぞ」

「ガンが頑張ってくれればいいんじゃないかな? 明日からは決勝トーナメントもあるんだから、力は温存しておきたいんだよね?」

「なら俺が1人でお前が2人だな!」

「僕が1人の間違いだろ?」


 フィールドでは、余裕の表情で2人が会話をしている。


「なめやがって!」


 挑発に、見事なまでに乗せられた1人の騎士が、シュアトルに切りかかった。

 突然動いた騎士だったが、他の2人はこれ幸いとその騎士を囮にするようにして詠唱を始める。

 騎士が切りかかる中、シュアトルは左手でその剣を受け流し、右手のレイピアで剣を持っていた腕を突き刺した。

 その激痛に、騎士は剣を取り落す。そこにすかさず蹴りを入れ、騎士を吹き飛ばした。

 そこでシュアトルの動きは止まらない。

 詠唱が完了し、飛んできた炎と土の魔法に対し、レイピアを構えたのだ。

 魔法に剣で対抗しようと言うのは無理な話だ。空気を鉄の剣で斬るのと同じで、意味をなさない。

 魔法を放った騎士と冒険者が勝利を確信する。しかし、思い通りにはいかなかった。

 フリーになっていた大剣の男ガンディルが詠唱をしていたのだ。

 その魔法は、完成すると2つの魔法とシュアトルの間に水の壁となって立ちはだかる。

 炎はその水によってかき消され、土の魔法も威力をかなりそがれた。

 しかし2人分の魔法に対して、1人の使った魔法では全てを受け止めることは出来なかった。

 土の魔法は水を突破し、シュアトルに襲いかかる。


「結局僕が全部倒すことになるんですか……」


 シュアトルが小さなため息とともに掻き消えた。

 そして次の瞬間には、騎士と冒険者2人の喉元にレイピアが突きつけられている。


「俺が守ってシュアトがトドメ。いつも通りだろ?」

「これは個人戦なんですから、もう少し1人で頑張ろうよ……」


 騎士と冒険者が降参を認め、腕を貫かれた騎士もまた降参した。

 こうして、第3戦は、シュアトルのみが実力を見せた形で終わってしまった。



「あのガンディルと言う人とは当たりたくないですね」

「そうだな。情報が少なすぎて、フィーナでは対応が難しいかもしれない」

「けど、あのシュアトルってやつもかなり早かったぞ? フィーナだときつくないか?」

「キツイのは誰でも同じさ。だが、魔法一辺倒の敵よりかは、やりやすいだろう」


 第4戦が始まるまでの間に、さっきの試合を反芻する。

 ほとんど見ることは出来なかったが、それでも決勝トーナメントに参加する1人の特徴は分かった。

 スピードタイプ。しかもかなり早い。

 カウンタータイプもスピードで言えば早い部類になるが、正確な攻撃を要求される分、要求される技量は上がる。

 特に、相手の動きが早ければなおさらだ。

 しかしそれでも接近戦を出来ることに変わりはない。

 魔法で遠くから攻撃され続けられるよりは、確かに遥かにマシってことか。


「今日は後1試合か」

「3戦目が予定より早く終わったみたいですから、整備係の人たちもしっかり整備しているみたいですね」

「3戦もやれば嫌でもフィールドはボロボロになるからな。少しずつ交換してはいても、地盤からダメになることもある。出来た時間はその整備に充てるのだろう」

「やっぱ魔法みたいな大技があると、フィールドの消耗も早いな」


 その分修繕も早いみたいだけどな。

 みるみるうちに修復されていくフィールドを見ながら、俺は魔法の有効性を改めて思い知らされた。




「さあ! 今日の最終戦が始まるぞぉぉぉおおおおお!」

『うをぉぉおおおおお!』


 会場のボルテージは今や最高潮の状態にまで高まっていた。

 これまでの戦いが、大番狂わせに始まり、高威力魔法での殲滅、流れるような連係プレイと観客の視線を釘づけにするような戦いばかりが起きていたのだから当然だ。

 今の所ダークホースと呼ばれるような参加者はフィーナしかいないが、それも賭けをしてる人たちにとっては期待が膨らむ要因になっている。


「最終戦は残った参加者全てが参加するため、他の試合より数人ほど多い! この混雑した状態のなかでどう戦うのかがカギになるぞ! さあ、お前たち! 俺達に最高の戦いを見せてくれ!

 闘技大会個人戦初戦、乱戦方式第4回戦――開始!」


 高らかに今日最後のゴングが鳴らされる。

 同時に、フィールドにいる全ての参加者が一斉に動き出した。

 人が近くにいる者は、すぐに切りかかり、少し離れた場所にいる者は、大技を狙って詠唱を開始する。

 そんな中、いきなり中央の数人が吹き飛んだ。


「おっと! これはいきなり何が起きたんだ!?」


 司会は突然の出来事に何が起こったのか分からないようだ。

 やっぱ司会ってのは大変だね。常に全体を見てないといけないのは、試合に集中できない要因になりそうだ。


「今何が起きたんでしょう? 視線を外してて分かりませんでした」

「中央でかなりの衝撃が走ったようだな」


 フィーナとリリウムも別の場所を見てたみたいだな。ってことは見てたのは俺だけか。


「今のは、風の魔法だな。竜巻みたいに風を巻き上げて周りの連中を吹き飛ばしたんだ」

「見ていたのか?」

「たまたまな。けどあの威力は結構強いぞ。2等星か下手すりゃ1等星だ」

「風の1等星ですか」


 その魔法を使ったのは冒険者だった。

 フィーナは風の1等星を持っている者が参加していることに驚いているようだが、本当に驚くべきところはそこじゃない。

 他の奴らが詠唱している途中で、すでに魔法が発動していることが異常なのだ。

 詠唱の速度は、詠唱の長さがそれほど変わらないこの世界の魔法では大きな違いは出ないはずなのだ。

 だからフィーナのいったん詠唱を区切るものでも、人相手なら十分発動までこぎつけられる。

 しかし今のスピードは完全にそれを上回っていた。

 今の詠唱速度ならば、他のどの詠唱が完成する前に魔法を発動して、相手にその効果を届けることができるだろう。


「詠唱速度が異常だったな。何かひっかけがあるかもな」

「詠唱速度か。普通は大きく変わるものではないのだが……」


 俺のつぶやきに気付いたリリウムが顎に手を当てて考え込む。


「こっそり口の中で詠唱する方法もあるにはあるだろうけど、それじゃこれほどの威力は出ない」


 祈りが届きにくいのだから当然だ。だとすれば考えられるのは1つ。


「あらかじめ文章の一部を試合前に詠唱してたとか?」

「遅延詠唱か。できない訳では無いがかなり難しいぞ?」


 詠唱は一通りの流れを伴っている。だから詠唱をいったん区切って保留と言うのは非常に難しい。

 他の言葉を話せないのはもちろん、ある程度時間が立てば詠唱はリセットされてしまう。他の冒険者に気付かれてしまえば、対応されてしまうこともある。

 誰かがそばにいると、詠唱をあらかじめしていたとしても、剣を振り抜く方が早いのだ。

 そこまですべてのことが上手くいっていないと成功しない奇襲。

 それを成功させるだけの実力や慎重さがあると言うことなのだろう。

 よく分かっていなかったフィーナにその事を説明する。


「そう言うことでしたか。全然気づきませんでした」

「まあ、実際に見てないと詠唱がどうだったとかは分からないしな」

「けどリリウムさんはトーカの言葉を聞いてちゃんと分かっていました。まだまだ勉強が足りませんね」

「これは応用とかそう言う部類に入るものだからな。必然的に経験も必要になってくる。これをすぐさま気づけるトーカがおかしいと思っても問題ないと思うがね」


 自分が気付けなかったことに落ち込むフィーナを見て、リリウムがフォローを入れる。


「じゃあトーカはなんで分かったんですか?」

「実際に見てたからだろ。俺も話だけ聞いてたら分からなかったはずだぜ」


 百聞は一見に如かずってな。


「なるほど」

「それよりほら、また試合が動きそうだぜ」


 最初の一撃で混乱した場がだいぶ収束してきた。

 そこに更なる一撃が加えられようとしていた。


 初撃で10名程度の参加者が脱落した。そしてその攻撃をした例の冒険者は、その派手な攻撃のせいで注目を集め、全体からけん制されている。

 誰かに攻撃を加えようとすれば、その隙をついて他の参加者が攻撃を仕掛けてくる状態だ。

 そんな膠着状態が破れたのは突然だった。

 1人の参加者が突然膝をつく。そしてそのままフィールドに倒れ込んでしまったのだ。

 そしてその背後にいたのは1人の冒険者。

 手にはナイフを持っており、その先に少しだけ血が付いている。


「おっと! 不意打のように放たれた攻撃によって1名の参加者が脱落だぁぁあああ! これはせこいんじゃないのか!?」

「毒属性にせこいもくそもあるかよ。俺は俺のやり方を貫くだけだ」


 司会の言葉に、その男は投げやりに返す。

 なるほど、毒属性か。ナイフに毒を仕込んで、それを刺したんだな。ナイフの先にしか血が付いてないのは、それだけ刺せば十分な毒が体に回るってことか。かなりの自信だな。


「お前らが膠着してんなら、俺がこの勝負はもらうぞ。星散らせ、停滞の霧。パラライズミスト」


 瞬間、フィールドにうっすらと霧がかかった。

 詠唱からするに麻痺辺りの毒が含まれた霧のはずだ。これで試合は時間との勝負になった。

 自分の体に麻痺毒が回る前に、術者を倒すか、残り2人に残らなければ敗退が決定する。


「これは強烈な全体攻撃だ! しかしこの攻撃も周りからは狙われる原因になる攻撃だぞ! ここからはロス選手はひたすら守りの戦いに入ることになる!」

「あの毒使いロスって言うのか」

「かなり高位の使い手だな。あの散布型の魔法は誰でも簡単に使うことができるが扱いは難しい」

「そうなんですか?」


 リリウムの解説にフィーナが首を傾げる。

 簡単なのに難しいとはなんとも矛盾した魔法もあるもんだな。


「散布型の魔法は、自分も効果の対象になってしまうからな。しっかりとその散布した毒に対する対処法を用意していないと、共倒れになることが多い。毒使いの魔法は、祈りでその毒の威力が変わってしまうため、よっぽど熟練していないと自分だけ解毒の効果を使うと言うことができないんだ」

「なるほど」

「薬の処方は難しいって言うもんな」

「毒の威力が変われば、薬も変わってくるらしいからな。医者ばかりは、この世界で最も頭のいい存在だと思っているよ」


 それはこの世界でも地球でも同じだな。


「つまりあいつはかなりの熟練者ってことになるな」

「しかもナイフまで使っていると言うことは、接近戦もある程度はこなせるのだろうな」


 実際にロスは、切りかかってくる冒険者を上手くナイフ1本でいなしながら、蹴りや首を叩くなどして撃退していっている。

 ああも簡単にいなす姿を見ていると、結構簡単そうに見えてくるんだよな。今度俺も試してみようかな? いや、俺だと受け流すまでにサイディッシュで吹き飛ばしちまうな。

 あの麻痺毒も使ってみたいけど、祈りが強すぎるせいで、心臓麻痺とかになっちまいそうだ。

 やっぱ毒属性だけは迂闊に使うのは止めとこう。大量殺人とか起こしかねん。

 毒属性の危険性を改めて認識しながら、試合に視線を戻した。


 10分程度したことだろうか、毒による最初の被害者が発生した。

 戦っている最中に毒が体に回ったのか、足をもつれさせてフィールドに倒れ込む。そしてそのまま動けなくなってしまった。

 それを好機と見た、その男と戦っていた参加者が男をフィールドの外に蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされた参加者は、すぐさま医療班に診断され、完全に毒が回って麻痺しているとして、敗退が決まった。

 それを機に、少しずつだが確実に毒の被害は広がっていく。

 それも、体の小さい者から順に、徐々に体の大きなものにもその症状はみられるようになっていった。


「大分効果が出始めてるな。これは1人はあの毒使いで決定かね?」

「大きなミスさえしなければな。この時間帯が一番油断しやすい」

「けどあいつがそんなミスするようには見えないけどな」


 毒が自分に危害を加える可能性がある以上、常に細心の注意を払っていなければならない筈である。

 それは、試合の終盤に差し掛かり、集中力が削がれてきた今こそが一番気を引き締めるべき場所だと簡単に分かる。

 分かるならば、対処は意外と簡単な気もするしな。


「にしても、あと一人は予想つかんな。最初の一撃は見事だったが、その後はあの冒険者もパッとしない」

「完全に人ごみに紛れ込んじまってるもんな。俺もあいつがどんな奴だったか覚えてねぇや」

「ずいぶん印象が薄い人でしたからね。私も目で追ってましたけど、いつの間にか見失っちゃってました」


 あの強力な風魔法を使った冒険者は、今はどこにいるのか分からない。そもそもまだフィールドに残っているのかですら疑問だ。

 そんな状態になって、フィールドではますます乱戦が激しくなっていく。

 1秒でも早く相手を倒そうと躍起になっている者。

 少しでも落ち着いて毒の回りを遅くしようとするものなど、対応は様々だが、止まっていれば狙われるし、動いていれば毒の回りは早くなる。

 どうしても、参加者は一定の速度で毒の浸食をくらうことになるのだ。

 突出した者がいない現状では、泥沼化するのは免れないはず。

 そう思いながら、俺はフィールドを見続けていた。




 当初の予想通り、戦いは泥沼と化していた。

 参加者のほとんどが毒の影響を受け始めた中で、比較的影響の少ない参加者が重傷の参加者を狩っていく現状だ。

 すでに、ここまで効果が出てしまっていると、毒使いの決勝トーナメント進出は確実だろう。

 動きの悪い状態で、毒使いのナイフ捌きに対処できるとは思えない。

 参加者たちもそう思っているのか、当初は毒使いを標的にしていた者達も、今はほぼ全員がもう1人の枠に残ろうとあがいている。

 そんな中で動きの良い者たちが若干名だがいた。


「毒をくらっていない人たちがいる?」

「そうだろうな。あの毒から逃げる方法はいくつかある。それを実践出来た者達だろう」

「毒から逃げる方法……」


 リリウムの言葉にフィーナが考え込む。

 さて、フィーナはどんな風にあの毒に対処するかね? 決勝トーナメントで当たるかも知れない相手だし、今んところはアドバイス無しで、自分で考えさせてみるか。


「あの毒は確か霧状でしたね?」

「そうだな」

「なら私は霧を凍らせます。霧自体は水分ですから、私の氷属性とは相性がいいはずです」

「うむ、フィーナならばそれでこの試合は対処できただろうな」

「では彼らもそんな風に対処したんでしょうか?」

「おそらくな」


 フィーナの属性が氷だったために、フィーナは霧を凍らせることを選択した。

 これがもし風属性なら霧を自分の回りから吹き飛ばしたり、綺麗な空気だけを口元に集めたりすればいいし、火や炎なら爆発で吹き飛ばすのもありだ。

 毒属性なら自分で解毒を作ることも可能だろう。

 この状況で相性が悪いのは水や雷、土属性の連中だろうな。特に雷なんて、霧に対処するのは難しそうだし。

 今倒れている者たちの大半も、この属性を持っていたものか、そこまで上手く魔法を扱えていない者たちなのだろう。

 そして、この後に残った少数が、魔法を上手く扱える上級者ってことになるな。


「さあ! 試合もとうとう終盤に差し掛かっているぞ! 毒使いのロスを始め、最初の一撃を成功させた風使いのシアトも健在だ! 他の参加者たちの中にも、毒の影響を受けていない者達が少なからず残っている! さあ、お前らここからの展開を見逃すなよ!」


 司会が、選手の状況を簡単に説明していく。こういう時には、名簿とかあると楽だよな。

 それにしても、最初の風魔法を使った奴はまだ残ってたのか。

 あれだけの技量があったんなら、毒への対処は出来るだろうとは思ってたけど、最初以外はずっと静かだったからな。分からなかった。


「星に願いて、風刀を放つ! ウィンドカッター!」


 1人の参加者がシアトに向けて魔法を放った。どうやら同じ風属性らしい。

 シアトは、他の参加者の相手をしていて、魔法が放たれたことに気付いていないようだ。


「おっと! シアト選手これは危ない!」


 しかしそのウィンドカッターは、ギリギリでその攻撃に気付いたシアトが、左手を振り上げただけで渦に吸い込まれるように刃の形が崩れ霧散した。


「これはいったい何が起きたんだ! シアト選手に当たると思われたウィンドカッターが、その直前で霧散したぁぁあああ! 放った選手も何が起きたか分かっていないようだ!」


 しかも、シアトが何か対策をしたにしても、攻撃に対して何の詠唱もしなかった。

 ってことは自動防御とかそう言う部類になるのか? そんな魔法は見たことないけど。


「リリウム、今何やったか分かるか? 俺はよく分からんかった」

「同じ風属性のリリウムさんなら何か分かりませんか?」

「確かに私も風属性を持っているが、3等星だからな。あまり上級の技は知らないんだ。おそらく風の防御系魔法だと言うのは分かるが、詠唱も無しにそのような魔法が発動できるとは思えないんだが……」


 なるほど、風の防御魔法か。1等星レベルの防御魔法なら、ウィンドカッターを打ち消すことぐらいは出来るか。

 しかし、やっぱりそこで疑問になるのは、リリウムと同じで詠唱の問題だ。

 あの時司会の言葉で俺達の視線はシアトに集中していた。その時にシアトは戦っていて詠唱を行っていない。

 そこで思い出すのは、初撃のことだ。

 あの時もシアトは詠唱をほとんどすることなく魔法を発動させた。遅延詠唱と言う形でだ。

 ならばこれも遅延詠唱を使ったのか?


「遅延詠唱ってのはどれぐらいまで遅延できるもんなんだ?」

「技術にもよるが、早くて10秒、上手い者でも1分程度が限界だろう」

「1分か。あいつが遅延詠唱の達人だとすれば、1分あればあらかじめ詠唱しておくことは出来るな」

「理論上は……だがな。戦闘中に遅延詠唱を使うとなると、そのむずかしさは格段に跳ね上がるぞ?」


 当然だ。黙って突っ立っている時に遅延詠唱をしても、特に問題は無いだろうが、戦闘中ならば息も上がるし、体も激しく動く。考えなくてはいけないことも沢山あるのだから、その難易度は格段に跳ね上がるだろう。

 そこまで考えて、俺は何か引っかかるものを感じだ。


「息……動き……流れ……」


 ぶつぶつと何度かつぶやきながら試合を見続ける。

 フィーナとリリウムはそんな俺を不思議な物でも見るような目で見ていた。

 そこに、シアトの遅延詠唱が再び炸裂した。

 シアトが左手を振るうと同時に、突然現れる巨大な竜巻。それは紛れも無く初撃に使われた魔法だ。

 その攻撃に、残っていた参加者の半数以上が吹き飛ばされ、気絶する。残った参加者は4人に絞られた。

 そして、俺の引っかかりはシアトの動きを見たことで外された。


「そうか、動きか!」

「どうしたんだ突然!?」


 突然声を上げた俺に、2人が驚いてこちらを見る。

 俺は驚いている2人に対し、さらに追い打ちをかけるように言葉を紡いだ。


「あいつの遅延詠唱の方法が分かったんだよ」

「そうなんですか!?」

「この激しい戦闘の中で、いったいどうやってやっていたのだ?」

「動きだよ」

「動き?」


 一見詠唱とは関係ないように思われる動作。しかし、星の加護の場合、結構関係が深かったりする。


「星の加護を発動させるとき、宗教に心酔してる奴だと実際に祈ってる奴もいるって前に言ってたろ?」

「ああ」

「それで実際に威力が少し上がることも証明されてる」

「そうだ。敬虔な司祭や修道女が祈った加護は、少なからず普通に詠唱した時の加護より効果は上がる」

「つまり祈るって動作が、詠唱の一部として認められてるってことだ」

「それがシアトの遅延詠唱となにか関係があるのか?」


 かなり重要な関係になってるんだな、これが。


「シアトの遅延詠唱は正確に言えば遅延じゃないんだ。普通よりはるかに長い詠唱をしてるってことだ」

「長い詠唱ですか?」

「まずは普通の詠唱を唱える。その後に、祈りとして体の動作を詠唱の一部として付け加える。その動作が加護の星に祈りとして認識されれば、詠唱はそのまま続くことになる」


 要は巫女の舞いと同じことなのだ。

 その動き全てが魔法を発動させるための詠唱であり、動きが発動の最後のトリガーになっている。

 それならばこれまでの突然魔法が発動した現象も、詠唱が聞こえなかったのに威力が強かった理由も分かる。


「詠唱はぼそぼそと読むだけでも、動きによる詠唱が試合中ずっと続いてるんだ。それだけの祈りを込めれば必然的に魔法の威力は普通に詠唱するのと同じ威力になる」

「なるほど。祈りを動きと解釈したわけか」

「だからさっきのウィンドカッターを防いだときは左腕を振り上げたし、今の攻撃は左腕を振り払った。あれが発動の最後の動作に設定してるんだろうな」

「恐ろしく長い詠唱を、私たちは遅延詠唱と勘違いさせられていた訳だな。確かにそれならば声の詠唱からのタイムラグに説明がつく」

「いつ詠唱をしているか分からない相手となると戦うのは難しいですね。どのタイミングで魔法が発動するのか全く分からなくなります」


 確かに普通の詠唱は声だけの為、相手に魔法の発動を知られてしまう。しかし、この詠唱方法ならば唐突な奇襲ができるようになる。しかしこれも弱点はある。


「フィーナ、これはもの凄く長いだけのただの詠唱だ。詠唱を遅延してるわけでも破棄してるわけでもないんだぜ。なら、相手が魔法を使った直後は、相手は魔法を使えない。狙うならそこだろ」

「確かに……ならあの人と戦う場合は、いかに最初の魔法を食らわないかが鍵になりそうですね」

「後は試合中に話かけても良いかもな。とっさに答えたり喉を詰まらせたりして詠唱がキャンセルされる可能性もある。まあ、確信じゃないからあんまりやらないほうがいいかもしんないけど」

「それは最終手段ですね」


 まあ、追い詰められた時に唐突に話しかければ、相手も少しは動揺するかもしれないしな。悪あがきだけど。


「しかし良く動きだと気付いたな」


 リリウムが関心したように俺の方を見た。


「まあ、元の世界に神様に捧げるための踊りってのがあったからな。あいつの動きに戦闘にはいらない大げさな動作がたまに混じってたのもなんか引っかかってたんだ」

「そうだったのか。神に捧げる踊りと言うものも詳しく聞いてみたいが――」

「今は試合優先」

「そうだな」


 そう言って視線を試合に戻す。

 そこでは最後の攻防が始まろうとしていた。



「さあ! ここにいる4人のうち、トーナメントに進めるのは半分の2名のみ! この戦いが決めてとなるぞ!」


 現状、フィールドにいる4人は、1対1の状態になっていた。

 毒使いロスと参加者の騎士。風使いのシアトと参加者の冒険者と言う組み合わせだ。

 ロスは騎士に対して余裕の表情で状況を見守っている。特にナイフを構える様子すら見せないのは、実力の表れか過信かは分からない。

 対する騎士は、隙無く剣を構え、いつでも切りかかれると言った状態だ。

 2人の距離ならば、詠唱するよりも切りかかった方が確実に早い。この2人は剣の腕勝負になりそうだな。

 そうすると騎士の方が若干有利か?

 もう1組、シアトと冒険者は圧倒的に冒険者が不利だな。

 距離的にもシアトには十分に詠唱をするだけの時間があるし、何よりあの詠唱の聞こえない魔法が冒険者の攻撃の手を止めさせてしまっている。

 このままでは、また魔法の準備をされ、接近戦に持ち込まれた状態で発動され終了だ。

 冒険者がここで起こすべき行動は、間髪入れずに切りかかることなのだが、まあできないわな。


「あのシアトはほぼ確定か?」

「だろうな。ロスって毒使いと騎士の方が微妙なところだよな」

「だがあのロスの余裕は気になるな」

「まだ何か仕込んでいる可能性がある――ということでしょうか?」

「可能性は捨てきれない」

「お、騎士が動くぞ」


 先に動いたのは騎士の方だ。一見ロスは構えを取っていないし隙だらけだろうからな。

 無駄に時間を消費して何か策を講じられる前に潰そうって考えだろう。

 騎士の切り込みは鋭く、相応の実力を見せるものだ。だが、ロスはそれをまたしてもナイフ1本で受け止めた。

 ナイフと剣の場合、破壊力の違いから受け流す方が良いと思うんだけどな。

 俺の疑問はすぐに解消される。

 ロスは、左手を懐に入れると、そのまま抜き放つ。

 その手にはもう1本のナイフが握られていた。

 つまり――


「剣を止めたのは相手の位置を固定するためか」

「ナイフ1本で騎士の剣を止めるってスゲー度胸だよな」

「それだけ自分の技術に自信があるのだろう。相当な手練れだな」


 左手のナイフが騎士の肩、甲冑の隙間を狙う。

 しかし素早く反応し、騎士は背後へと飛び退いた。そのためナイフは空を切る形になった。

 一瞬の攻防に会場は熱く燃え上がり、司会の声もヒートアップする。


「2刀流だったのか」

「まあ、左手は保険だけどな。このタイミングで躱されるとなると正直あんま意味ないかもな」


 そう言いながら、ロスは左手のナイフをジャグリングのように投げあげて遊ぶ。

 ナイフには毒が付いているだろうに、俺にはそれがかなり軽率な行動のようにも見えた。

 それは騎士にも同じだったのだろう。

 ロスがナイフを空中に放り投げた瞬間を狙って、再び突撃する。

 しかしそれも全てロスの計算通りだった。

 ロスは、投げあげたナイフが頂点に辿り着く前に自ら手を伸ばし刃の部分を、人差し指と中指を使い白刃どりの要領でつかみ、そのまま騎士に向かって投げつける。

 あまりの早業に観客たちは投げあげたナイフが突然方向を変え、騎士に向かって飛んだように錯覚しただろう。

 そんな速さのナイフを、騎士は正確に剣で弾く。

 与えられたものではない、自らが作り出したその隙を、ロスは逃さなかった。

 懐に飛び込み、ナイフを再び騎士の肩に向かって突きつける。

 偶然にも、それはさっきナイフを向けた場所と同じ場所だ。そのせいかどうかは分からないが、騎士はそのナイフをバランスを崩しながらも体を捻じ曲げることで躱した。

 しかし、ロスはそこで止まらない。崩れた体勢に手をかけ、騎士を地面に押し倒す。


「これで終わり」


 騎士の首筋にナイフを突き立てたことで、ロスと騎士の決着はついた。

 最終的に見れば、終始ロスが戦況を支配していた試合になっていた。


「決まったぁぁあああああ! ロス選手、デイゴ騎士のシュメールを倒して、トーナメント進出に大手を掛けた! ここからどうするのか!? 残った2人に乱入を仕掛けるのか!」

「そんな面倒なことはしないさ! 俺は高みの見物だ」


 司会の声に、ロスはそう答え、シアトと冒険者から最も離れた場所に移動した。

 毒攻撃ならば、そこからでも攻撃は可能だが、本当に見守るつもりなのだろう。

 まあ、トーナメントもあるし、体力の温存や、相手の確認は有効だしな。


「と、言うことで! トーナメント進出の枠は、この2人のどちらかに絞られたのではないだろうか!」


 シアトと冒険者は依然にらみ合ったままだ。しかしこれだけの時間があれば、シアトの勝ちは確定的かな?

 と、シアトが動いた。

 今度は切りかかるようで、冒険者に向かって走り寄る。

 冒険者もそれに受けてたつ構えだ。

 剣どうしがぶつかり合い、激しい音を立てる。

 何度にも及ぶ斬撃の応酬は、まさしく闘技大会そのものを表していた。

 しかし、それにもすぐに決着の時が来る。

 シアトが左手をまた意味なく動かした。


「来るぞ」

「今の動きか」

「今のはしっかり見ましたよ!」


 左手が動くと同時に、周囲の風がシアトの剣に集まる。

 驚いた冒険者がシアトから距離を取るが、もう遅い。シアトは剣にあつまった風を剣を振り抜くことで撃ち放つ。

 ウィンドカッターの応用版みたいな感じだな。発動後に斬撃の飛ばす方向を決められるウィンドカッターの発展系のようだ。

 ウィンドカッターは、冒険者の足を捉え、両脛に深い切り傷を入れる。


「まだやるか?」

「……降参だ」


 動けない冒険者の首筋に剣を当てたところで、冒険者が降参した。


「試合終了! トーナメント進出は! 小手先の技で騎士すらもいなした毒使いロスと、謎の魔法を放つ風使いシアトだぁぁああああ!」


 あふれんばかりの歓声が、観客席からフィールドに浴びせられる。

 そんな中を、2人は一言も介することなくフィールドを降りて行った。

 選手がいなくなると、この日の試合が全て終わったためか、観客にも帰る客が増え始める。

 俺たちはそんな中、最上階からずっとフィールドを見つめていた。


「明日からがフィーナの本番だな」

「はい、みなさん強い人ばかりで、私が太刀打ちできるのか分かりませんが」

「フィーナもこの乱戦を勝ち抜いてトーナメントに進んだのだ。力は皆同じだよ」

「そう言うこと。もっと自信持ちな? じゃないと同じ力の相手にも気力で負けるぜ」

「はい!」


 フィーナの覚悟が決まるまで、俺たちはずっとその場からフィールドを見続けていた。


闘技大会は戦闘の訓練と言うよりも、魔法の応用を勉強する場になってますね(笑

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