77話
「勝ちました!」
「うむ、よくやった」
「おめでとさん」
「勝ったんです!」
「おう、最後の技はかっこよく決まってたぜ」
「頑張ったんですよ?」
「はい、約束の件ですね」
折れるしかなかった。上目使いとか反則だって!
「ご褒美は2人で考えてもらうとして、これからどうする? この後の試合も見ていくか? フィーナが戦うことになるかもしれない相手だ。知っておいて損は無いと思うが」
「出来ることなら試合は全部見たいですね。どの選手が決勝に出て来るか分かりませんが、私のカウンターは相手を知っていればそれだけやりやすくなりますから」
録画する機械が無いと、こういう時は少し不便だな。後で見るとか出来た現代がどれだけ便利だったことか。
「そうだな。ならば試合は全部見て行こう。それと、それを見ながらさっきの試合の反省会だ」
「はい!」
リリウムがフィーナを連れて観客席に向かって行く。
俺もその後について観客席に戻った。
観客席に戻ると、先ほどより観客の数が明らかに増えていた。
そのせいで、俺達がさっきまでいた場所は人で埋もれてしまっている。
「しまったな。場所取りを忘れていた」
「まあ、忘れちまったもんはしょうがねぇって。俺たちは後ろから見ようぜ」
「けどそれじゃ選手の動きがしっかり見えませんよ?」
強い人の動きをしっかりと見て、対策を取っておきたいフィーナにとって、それは余り良いとは言えない状況だろうな。けど――
「魔法が使えれば問題ねぇさ」
「魔法?」
「何か新しい魔法が見れそうだな」
フィーナが疑問を浮かべ、リリウムがその後ろで嬉しそうにニヤリと笑った。
そして、観客席の外周にやってくる。ここまで来ると、かなりの高さになっている。
高さ的に言えば、4階か5階ぐらいになんのかね?
フィールドが、地面を掘って地下1階にあたる部分になるため、ずいぶん高く感じる。
「さて、どのような魔法なんだ?」
「そりゃ、ここまで来たんだから、遠くのものを近くに見る魔法さ」
「そんなことが可能なのか?」
魔法ってのはイメージを浮かべて、それを願う事で発現できるからな。実際に出来ることや、何かからイメージを発展させたものじゃないと上手く使えない場合が多い。
リリウムのウィンドカッターなんかも、本物の刃物を飛ばす感覚を風で再現しているだけだったりするしな。
けど、俺の場合はそのイメージで補えるものに圧倒的なアドバンテージがある。
なんせ、科学至上主義の世界から来たんだからな。遠くのものを見ることぐらいは簡単だ。
実際極星の勇者とかで、広まっててもおかしくはないと思ったんだが、どうやら広まってはいないらしい。それとも勇者が死んでから年月が経ち過ぎてイメージが忘れ去られたか?
「可能だ。とりあえず今回は俺がフィーナとリリウムにも魔法を掛けるから、そんで実感して自分で出来るようになってくれ」
「うむ、分かった」
「分かりました」
フィーナとリリウムが頷いたのを確認して、俺は詠唱を始める。もちろん周りに人がいるため最少の威力しか出ない詠唱でだ。
「星誘いて、彼方の視界を望む。ワイドアイ」
「おお!」
「凄い……」
魔法が発動した瞬間、俺達3人の視界はまるで望遠鏡で覗き込んだかのようにフィールドをはっきりと視認できるようになった。
フィールドに上って来た2回戦の選手の表情までしっかりと見える。しかもこれ、ズームとワイドができるのな。
デジカメみたいな機能になったのは、俺の想像にカメラ機能が混じったからかな?
「意識すれば、見てる距離を遠くにすることも出来るみたいだぜ」
「む……これはちょっと難しいですが……」
「……何とか出来る、と言ったところだな」
どうやら、ズームやワイドを知らいない人には、この効果はあまり有効的に作用していないらしい。
まあ当然っちゃ当然か。
フィールドを見ながらそんなことを思っていると、司会の声が会場に響き渡った。
「第2試合が始まるみたいだな」
「ちょうどいいタイミングですね」
フィーナは、石の柵にもたれ掛り、前のめりになってフィールドを見る。
「そんなことしていると落ちるぞ」
「ならトーカが支えといてくださいね」
「たく……」
フィーナの腰に手を廻して、俺はフィールドにズームを掛けた。
「さあ、お前ら! 第2試合の準備が整ったぞぉぉぉおおおおおお!!」
1試合目と変わらずやかましい司会が高らかに宣言する。
その声にフィーナが驚いた。
「こんなに五月蠅かったんですね。フィールドだとそれほどでもなかったんですけど」
「フィールドだと、大丈夫だと思ってても体は緊張してたりするからな。その影響だろう」
「なるほど」
リリウムの解説でフィーナが納得したところに再び司会の声が降り注いだ。
「さっきの試合は謎の美少女冒険者フィーナによる大番狂わせが発生したが、この試合はどうなるのか。非常に! 非常に楽しみだ! じゃあお前ら、しっかり見ておけよ!」
「さっきまでは気になりませんでしたが、こういわれるとかなり恥ずかしいものがありますね」
フィーナがもじもじしながら顔を赤くして俯くのを横目に、リリウムが笑いながら言う。
「謎の美少女冒険者だからな。注目度は一気に増しているぞ」
「そんなこと言わないでくださいよ! 私はトーカと違って目立つのは慣れてないんですから!」
「こらこら、俺が目立ちたがりみたいに言うのは止めてくんね?」
「違うのか?」
「違うんですか?」
俺の注意に、フィーナのみならずリリウムにまで首を傾げられた。俺ってそんなに目立ちたがり屋に見えた?
まあ、確かに少し派手にやったりすることはあるけど、それはその場のノリだし、自分から目立とうとしてるわけじゃないんよ?
「違います。それより試合見なくていいのか?」
俺の方ばっかり向いてると、試合見逃すぜ?
「そうでした!」
「司会はまだ誰にも注目しろとは言っていないみたいだがな。ただ、目立つ奴はすでに目立ち始めているみたいだ」
「本当ですね」
フィーナの時もそうだったが、上から見れば、試合の流れは一目瞭然だ。
今回は強者が左右に寄ってるみたいだな。
フィールドの中央付近では、戦いがまさしく入り乱れていた。
狭い範囲の中で、数組が魔法を交えた戦闘を行っており、まれにその魔法に巻き込まれて不意を突かれる者までいる。
しかし左右を見てみれば、その人数はぐっと減り、戦闘も静かになっている。
1人に対して数人の参加者が協力して対応しているのだ。
それはまさしくさっきホワイトやウサインが集団と戦っていたのと同じ状態だ。
司会者もそれに目ざとく気付き声を上げた。
「この試合注目すべき選手は今の所2人だ! 2人とも3回以上のトーナメント出場経験があり、しかもトーナメントも1回戦は勝ち抜いたことがある実力派だ! まずは南側、デイゴ騎士のナガラだ!」
デイゴの騎士なだけあって、ナガラはルーガと同じような真っ青な甲冑に身を包んでいた。しかし、そのシルエットはルーガと違い、かなり細い。顔は見えないが、おそらく女なのだろう。そうでなければ胸のある甲冑の説明ができないしな。
ナガラの周囲には、すでにナガラの攻撃の後が色濃く残っている。その爪痕が、ナガラの攻撃のすさまじさを物語っていた。
「ナガラの炎がすでに猛威を振るっているようだ! 多くの参加者が丸焼けになるのを恐れてフィールドの端に追い詰められているぞ!」
そこにナガラの炎が追い打ちをかける。
「邪魔な連中はさっさと燃やしちまおうね。いい加減甲冑着てるのは熱いしね」
詠唱と共にゴウッと燃え上がった炎は壁のようにナガラを囲うと、壁のように広がり参加者をフィールドから押し出した。
避けきれないものは、その炎に触れ酷い者は丸焼けにされフィールドの横で医療班に治療されていく。
俺はその医療班にも注目してみた。
どんなもんなのか気になったのだ。
俺たちの世界とは技術が根本的に違っているはずだ。詳しくは知らないが、俺たちの世界なら皮膚の治療は、他の部分から持ってくるか、人工皮膚だけど――
医療班は、治療箱から何か四角いフレームのような物を取り出すと、冒険者から血を採取し、フレームのような物の四方に塗りつけた。
「なあ、リリウム。医療班が今何やってるのか分かるか?」
「ん? ああ、あれは皮膚の製作だな」
「製作?」
あの場で皮膚を作ってるのか?
「見ていろ、すぐに変化が出て来るぞ」
リリウムの言葉通りにフレームを見ていると、血の塗られた四方から徐々に薄い膜のような物ができ始めた。
「まさか、あれが皮膚?」
「そうだ。あの生成器は血から皮膚を作り出すものだ。あの4角形の全てが皮膚で埋まれば完成だ」
「あんなに早く皮膚って作れるもんなのか」
俺たちの世界だと、他の皮膚から少しずつ培養するとかでかなり時間がかかると思うんだけど、その場でみるみるうちに生成されてる。
「どういう原理なんだ?」
「そんなもの分からないさ。私は出来ると言うことを知ってるだけだ」
「そりゃそうか」
医療の専門家でもなきゃ、医療技術なんて分から無いわな。俺たちの世界でもそうだったし。
発展して来ればそれだけ専門的な技術も知識も必要になってくるってことかね。
「それより試合が大詰めだぞ」
「え? もう?」
1試合目より大分早い。
「今回は2強だったからな。すぐに舞台が動いたんだろう」
「なるほどね」
フィールドを見れば、さっき紹介されていたナガラと言う女騎士と、緑色の甲冑を着た騎士が同時に魔法を放つところだった。
どうやら中央で争っている参加者たちをまとめて両サイドから薙ぎ払うようだ。
「星に願いて、赤き津波を望む。ファイアーウェーブ!」
「星に願う。激流。スプラッシュ」
炎の壁と、水の激流が中央付近にいた参加者を一斉に襲う。
突然の攻撃に、参加者たちは何もすることができず吹き飛ばされる。
水と炎が正面衝突したせいで、その場でさらに巨大な爆発が起き、フィールドを大きく抉りながら周囲を薙ぎ払った。
水蒸気が消えれば、中央付近の参加者たちはことごとく掃討され、その場で気絶しているか、フィールドの外に叩き出されていた。
そんな攻撃をくらっては、まだ戦えるものでも戦意を喪失する。
そしてトーナメントの参加者が決まった。
「試合終了ぅぅぅうううう! トーナメントの参加は、前評判通りの力を見せた、デイゴ騎士のナガラと、カラン騎士ロイだあぁぁぁああああ! 勝者に万遍の拍手を!」
参加者がフィールドから降りていく中、リリウムがフィーナに問いかける。
「どうだった?」
「2人とも魔法中心の戦い方をしていました。カウンター狙いの私とは相性があまり良いとは言えませんね。けど魔法だけでの試合でしたら私の魔法もかなりの威力がありますから善戦は出来ると思います」
「拮抗を狙って、じれた相手が直接攻撃に来たところをカウンターか」
「はい」
フィーナが1つ頷く。
まあ、確かに今の戦闘を見たら、それが妥当だろうと思う。
「ではその行動で戦った場合の問題点はなんだと思う?」
「カウンターを最初から狙っていると、相手にもばれる可能性があることでしょうか?」
「うむ。それもあるな。カウンターを狙っていることを悟られては、相手はそれをされないような戦い方をしてくる。そうした場合、フィーナは一気に苦しくなるだろうな」
「はい。それ以外にも何かあるんですか?」
リリウムがそれもと言ったことが気になったフィーナが聞く。
「相手が武器を持っていなかった場合の話だ。確かに騎士ならば剣ぐらいは常に持っているだろう。しかしすべての騎士が剣を武器としている訳では無い。
騎士として剣を持ってはいるが、メインの武器は拳。そんな騎士だって世の中には存在すると言うことだ。その場合、フィーナは打つ手をなくし、じり貧になり負ける」
「なるほど……」
それは俺にも盲点だったな。
俺がちょうどそれにあたるんじゃないか。素手を武器として自分の身体能力のみで戦う相手って。
今はサイディッシュをメインに使ってるけど、それを手に入れる前までは素手でフェリール殴って倒してたしな。
「俺みたいな相手ってことだな」
「そうだ。その場合フィーナの武器破壊のアドバンテージは失われ、近接戦で勝てない可能性は飛躍的に大きくなる」
「そうですね。失念していました」
武器破壊が技ならば、武器を持っていない相手には無意味なのだ。
魔法での戦闘は何とかなる可能性があるとしても、肉弾戦でフィーナが相手を圧倒するのは無理だろう。
なんせフィーナは少女だからな。あのデイゴの女騎士みたいに鍛えている訳じゃないし。
「だから今後は、相手をどうカウンターしやすい攻撃に誘導するかが焦点になる」
「分かりました。次の試合はそれを考えながらやればいいんですね」
「そう言うことだ。と、反省と今後の方針が決まったところで昼にするか」
「そうだな。何もここで話さなくても、昼飯を食べながら話せばよかった気もするけどな」
「昼食の時に戦闘のことを考えるなど無粋だよ。昼食は昼食として素直に楽しまなくてはな」
「それもそっかね」
「じゃあどこに行きましょうか?」
昼食の為に多くの観客が闘技場を出て行く。俺たちはその流れに乗り町中に繰り出していった。




