76話
再びフィールドに戻ってくると、全身を歓声に包まれた。
「すぅ~、はぁ~」
小さく深呼吸をして、自分を落ち着ける。そしてフィールドの上に上った。
そこにはすでに20人程度の参加者がいる。後はフィーナを合わせても10人程度である。
合計30人程度で行われる予選は、その生き残り2名のみが決勝トーナメントに参加できるルールだ。
フィーナは、2人の期待に応えるためにも、何としても予選は突破したいと考えている。
せっかく2人が今日の為に考えてくれた秘策もある。
それを使えば大丈夫だと、トーカは言っていた。リリウムも太鼓判を押してくれている。
しかしフィーナには、一抹の不安を与える材料があった。
それは、いつもは腰に下げている属性剣だ。
その属性剣を今は持っていない。今、フィーナが腰に下げているのは、普通の鉄製の剣だ。
大きさは、フィーナの属性剣が氷を纏った時と同じ大きさ。つまりそれほど大きくはないが、フィーナが振るうには少し大きい程度だ。
重さとしても、属性剣より重くなっている。
その事がフィーナを不安にさせていた。
「大丈夫なんでしょうか?」
2人は、この武器に関しても問題ないと言っていた。とくにリリウムが強く推していたことから、これにも意味があるのだろうと解釈する。
「さて! 1組目が全員フィールドに上ったぞ! 野郎ども準備は良いかぁぁああ!?」
『うぉぉぉおおおおおお!!!!!!!』
司会者の声に反応して、盛況だった歓声がその度合いを一気に増した。
「それでは、選手の皆! 残り2人になるまで存分に戦いあってくれ!
――闘技大会乱戦方式一組目……」
その声に合わせて、選手たちが一斉に思い思いの武器を抜く。
フィーナもすぐに剣を構え、どこからの攻撃にも対応できるべく神経を集中させる。
すると不思議なことに、今まではかなり騒がしいと思っていた歓声がスッと遠ざかる気がした。
そして体の緊張が抜け、いつもの訓練と同じ時の感覚がやってくる。
周りの選手の動きが分かる。どの方向に注意が向いているかまではっきりとだ。
(これが――リリウムさんとの訓練の成果?)
リリウムとの訓練により、集中力を極限にまで高められたフィーナの心は、緊張を不要なものと判断し、排除した。
そしてカウンターに必要な情報だけを厳選してフィーナに届けてくれる。
(これなら、行ける!)
それは半ば直感に近い確信だった。
そしてその自信が付いたと同時に司会が最後の言葉を発する。
「始め!」
『うをぉぉぉぉおおおおおお!』
参加者が一斉に思い思いの方向へ動きだし、乱戦は幕を開けた。
フィーナに1人の男が迫る。
一番近くにいた男だ。見回していたときに、目が合った気がしたのは気のせいではなかったとフィーナは確信する。
近くにいたから狙われたのか、それとも女だから狙われたのか判断はつかなかったが、その男の動きを見て、負ける気はしなかった。
「まずはアンタだ! 痛い目見ないうちに降参するんだな!」
男が剣を振り下ろす。
フィーナはそれを一歩下がることで避け、大きく開いた男の隙にすかさず切り込んだ
「なに!?」
「女だと思って油断しましたか?」
男の首元に剣を当てて相手の降参を誘う。
乱戦方式のルールでは、審判1人では対応が間に合わないため、気絶するか降参する場合のみ負けが決まる。
それ以外は試合続行と言うことになるが、それは痛い目を見ることになるためほとんどの参加者は潔く負けを認めるのだ。
この男もそうだった。
「くっそう……開始早々負けちまった……今年こそはと思ったんだけどな」
剣を下げガリガリと頭を搔きながらそう言ってフィールドを降りていく。
フィーナは男がフィールドを降り切るのを確認してから、次の相手を探して動き出した。
「さあ! 1回戦注目選手の紹介だ! まず1人目はこの男、冒険者ウサインだ! 今はフィールドの中央付近で3人の男と戦っているぞ! みんな注目してみてくれ!」
司会の声に合わせて、観客の視線がフィールドの中央に集中する。
そこには大柄の男、斧を振り回し、近づこうとする相手をけん制している。そして司会の紹介に気付いていたのか、大きく声を上げて斧を振り上げた。
それを振り下ろすと、フィールドが大きく揺れ、ブロックに大きく罅が入る。
「俺の怪力と加護の合わさった技を見るといい! 星に願いて、世界を砕く、グランブラスト!」
罅から光が溢れ、そこから大量の鋭くとがった石が飛び出してきた。
それは大きく空に飛びあがり、重力に引かれて落下してくる。
ただの石だが、先端は鋭く尖り、重力によって加速したそれは、人間にとって十分なほどの凶器になる。
その石に襲われて、戦っていた3人のみならず、ウサインの周りにいた7人以上の参加者が気絶する。
そして勝利の咆哮のように雄叫びを上げた。
「これがウサイン! 地属性の魔法を使った強力な全体攻撃を得意とする冒険者だ! 今年で4度目の参加、決勝トーナメントには過去2回の参加経験があるぞ!」
勝利と共に司会から情報がもたらされ、観客のボルテージも上がっていく。
「そして1回戦の本命の紹介だ! フィールド東側にいる優男を見てくれ!」
そこには白いマントを羽織った金髪ロングの男がいる。なぜかその男は花を咥えていた。
「見てくれあのキザったらしい格好を! 白のマントに金髪ロングとかお前はどこの王子様だと言いたくなるあの立ち姿! しかしその顔は非常に残念系冒険者! 今年で3度目の参加、しかもそのすべてで決勝トーナメントに進み、ベスト4にも残ったことがある実力者! ホワイトだぁぁぁああああ!」
「残念系とは失礼な! 私はいつも優雅なだけですよ!」
と言いながらも、本当にその顔は残念系。後ろ姿だけならば本当に王子様なのだが、顔にはニキビ跡が酷く浮かび、頬は痩せコケている。
その細い目が、閉じているのか開いているのかは、親しい者でないと分からないだろう。
ホワイトは、司会の紹介に抗議をあげながら、持っていた花を手に取る。
「星よ。我が願いを叶えたまえ! 美しき氷の刃、アイシクルストーム!」
ホワイトの魔法が発動すると、手に持っていた花が一瞬にして凍る。そして、砕け散り花びらを周辺に飛び散らせた。
その花びらは正確に参加者たちを攻撃し、昏倒させていった。
「出たぁぁあああ! ホワイトの名実共に寒い攻撃技、アイシクルストーム! 持っている物を凍らせバラバラにし、その破片で敵を攻撃するなんとも微妙な技だぁぁぁぁああああ! しかし侮るなかれ、その魔法は2等星級の加護によって強力な武器になっているぞ!」
司会の解説が終わるころには、ホワイトの周りにいた冒険者たちは全て倒されていた。
これだけで、参加者の半数以上が倒れた計算になる。
そんな中、フィーナは確実に1人ずつカウンターで倒していっていた。
「これで3人目。ふぅ、やっぱり気絶させるのは疲れますね」
最初の2人は降参を促すことで倒したが、3人目は降参する様子が無く、気絶させるしかなかった。
しかし今のフィーナの力では、大の男を気絶させるのはかなり苦労するのだ。
「ん?」
気絶した男から視線を外すと、奇妙な光景が飛び込んできた。
今までは戦いあっていた参加者たちが、フィーナを中心に囲むように立って警戒しているのだ。
3人目を気絶させたことにより、フィーナへの注目度が一気に上がったために起こった現象だ。そしてそこに少しだけ司会の解説が入る。
「謎の新人美少女が順調に参加者たちを倒しているぞ! 既に注目している人もいるようだが、フィールドの西側を見てくれ! なんとこの美少女、今回が初参加にも関わらずすでに3人の参加者を倒したつわものだ! その華奢な体のどこにそんな力を隠しているんだぁぁぁああああ!?」
「う、面倒な注目をされてしまいましたね」
参加者たちは、まずフィーナを倒すために一時休戦を選んだのだった。
そして、周りを囲まれたフィーナは、観客からしてみれば絶体絶命のヒロイン。これほど絵になるものは無かった。
しかしその中に2人だけ、観客たちとは別の感情を持った者達がいた。
「ここからが本番だな。私たちの作戦が役に立つ」
「フィーナの冒険者初お披露目だ。大々的にとことん派手に行ってもらおうか」
桃花とリリウムは事前にこのことを予想していた。
ある程度敵を倒せば注目されるのは当然だ。そして乱戦方式ならば、厄介な相手を先に倒そうと協力することも良くある話である。
そこでフィーナにはあらかじめ、こうなった時の対処法を教えていた。
フィーナの魔法と桃花の知識を使った合わせ技だ。
その技の規模はかなり大きいため、派手な技になるだろう。それがフィーナのお披露目にはうってつけだと桃花は考えていた。
「行け! フィーナ!」
観客席から声を掛ける。
この歓声の中では聞こえることは無い。しかし、何かを感じ取ったかのように、フィーナは詠唱を始めた。
「星に願いを。閉ざせ永遠の凍土。エターナルアイスワールド!」
「おっと! 美少女が魔法を発動させたぞ! これは氷属性か!? ホワイト選手のライバルとなるのかぁぁぁあああ!?」
「僕のライバルだと!? 氷使いは僕1人で十分さ!」
解説に反応して、ホワイトがフィーナを標的に定める。そして走り出した所で大きく足を滑らせた。
「うわっ!?」
地面が凍っていたのだ。
薄い膜のような氷によって覆われたフィールドは、参加者たちの足もとから摩擦を奪い、滑らせる。
突然の出来事に、参加者たちのほとんどは対応できなかった。
唯一対応できたのは、地属性の魔法を使って、瞬時に氷を砕いたウサインぐらいだ。
そしてその現象が起きた理由はもちろんフィーナの魔法だ。
エターナルアイスワールドは、フィーナを中心として半径50メートルの地面を凍らせる。
それも地面自体を凍らせるのではなく、薄い膜を張るため摩擦がほぼなくなるのだ。
その場所で立っていられるものはほとんどいない。
それはもちろんフィーナも同じだ。しかしフィーナは、氷に足を取られることなく走り出した。
「一気に決めます!」
転んだ上に、滑ってフィーナの近くにまで来てしまったホワイトに向かって駆け寄る。そして起き上がれないホワイトの顎にすれ違いざま膝蹴りをかました。
直撃を受けたホワイトは、激しく脳を揺さぶられその場で昏倒する。
「これは凄いことが起きたぁぁあああ! 有力候補と言われていたホワイトが、無名の美少女によって撃破されてしまったぞ! これは大番狂わせの発生だ! しかもその美少女は立て続けに参加者たちを文字通り蹴散らしていくぞ! これは凄まじい!」
フィーナの無双姿を見て、桃花とリリウムは大きくうなずき満足げな表情を作る。
桃花がフィーナに教えたのは、スパイクシューズだ。
アイスワールドは氷の膜を張ることで摩擦をほぼゼロにする。しかし、スパイクのように地面に突き刺さるものならば、その効果の範囲外なのだ。
アイスワールドの攻略法は、ウサインのように氷自体を破壊するか、棘のような物を使って、氷の膜に突き刺しながら歩けばいいのだ。
フィーナの靴底には、今氷の棘が生えている。そしてその棘がスパイクの代わりとなってフィーナの足元を固定しているのだ。
「知識が無い者には、これは驚異的な技になるな」
「けど一発芸だ。1度落ち着いてみれば対応策はいくらでもある。まあ、魔物にも有効だろうけどな」
「確かにそうだな」
魔物の足の裏とか肉球とかしかなさそうだし、よく滑りそうだしな。
フィーナとウサインが動けなくなった参加者をことごとく打ちのめしていくのを見ながら、リリウムと桃花は大きくうなずいた。
途中で彼らを見て気付いた者達も、時すでに遅く、対策をする前に昏倒させられていった。
「ゲーム終了!!!!! 決勝進出は、ウサインと謎の美少女、情報によればフィーナと言うそうだ! この二人に大きな拍手を!」
会場が観客の拍手に包まれる中、フィーナとウサインは自らの足でフィールドを後にした。
「んじゃ、俺たちもフィーナを迎えに行くか」
「そうだな。大々的なデビューを飾った立役者を盛大に迎えてやろう」
観客たちが次の試合までの間に思い思いの行動をする中、俺達は観客席を離れて、選手控えに向かった。
闘技大会開始です。団体戦まではテンポよく行きたいですね。




