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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
デイゴ王国闘技大会編・個人戦
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75話

 天気は快晴。絶好の体育日和。ではなく闘技大会日和だ。

 俺達は早朝から、闘技大会が行われる闘技場へと来ていた。

 出場者は、午前9時までに闘技場へと集合し、そこで説明を受ける。その後、開会式を経て、試合を開始するのだ。

 開会式はだいたい長くても30分程度らしい。それ以上になると、日が暮れるまでに試合が全て終わらなくなる可能性があるのだとか。かなり詰め込まれたスケジュールになっているらしい。

 毎年そんな状態でも死人を出したことが無いのだから、この大会結構凄い。


「ルール説明は以上になります。他に質問などはありますか?」


 闘技場に設けられた大会議室に、個人・団体すべての出場者が一同に集められルールの説明を受ける。

 内容はギルドで参加登録時に渡されたルールブックに書かれているものだが、中にはルールブックを読まない連中もいると言うことでこの説明会が開かれているのだ。

 スタッフが一通り全体を見回し、誰も手を上げないのを確認してから口を開く。


「ではこれにて説明を終わります。この後は闘技場のフィールドに出ていただきそこで開会式を行います。開会式には王も出席されますので、くれぐれも静粛にお願いします」


 ふむ、王様も見に来るのか。まあ、国を挙げた大会だし当然か?

 スタッフを先頭に、全員が思い思いの速度で歩き出す。

 俺達もその波に乗るようにして席を立ち歩き出した。


 闘技場のフィールドは、まるでコロッセウムのようだった。

 円形状の客席がフィールドをぐるっと囲っており、その中心に正四角形のフィールドがある。

 フィールドはすぐに治せるようにするためか、ブロックがいくつも並べられて出来ており、一つ一つがフックで止められているようだ。しかしその一つのブロックもかなり重そうだ。キロなんてレベルじゃないだろうな。要はテトラポットの正四角形が置いてあるようなもんだ。

 どうやって動かしたかと思えば、そこはさすがファンタジー世界。魔法万能である。

 何人ものスタッフが土属性の魔法を使い、地面ごと動かしていた。重機のいらない世界って結構便利だな。


「ここがフィールドか。思ったより狭い?」

「ハッハッハ、お前闘技大会参加は初めてか? 確かに乱戦の時には狭く感じるかもしれないが、団体戦程度の人数ならば、十分な距離が取れるぞ?」


 フィールドを見て何気ない感想を呟くと、後ろを歩いていたおっさんが反応して笑い声をあげ話しかけてきた。

 おそらく個人戦の参加者なのだろう。図体はデカく、一見山賊のような風貌だ。


「そんなにあるのか? 実際立ってみると違うのかね?」

「そうだな。俺も初めての時はそう感じたもんだ。けど実際立ってみると、驚くほど相手との距離に長さを感じるもんだ。プレッシャーなんかもかかってな」

「ふーん、だってさフィーナ」

「そ、そそ、そうなんですか。たたた、大変ですね」

「うん、少し落ち着こうか」


 フィーナはがちがちに緊張していた。てか、俺が手を引かないとまともに歩けないほどカチカチである。こんなんで試合なんて大丈夫かね?

 とりあえず、少しでも緊張を取っとく為に何かしとかないとな。


「なんだ、その子も出場者か?」

「おう、個人戦にはこいつが出るぜ。俺は団体だ」

「大丈夫なのか? 技術以前の問題な気がするが……」


 おっさんに真剣に心配されてしまった。まあ、傍から見ても、これは相当ひどいからな。


「だ、大丈夫ですよ。どん、どんと、こいです!」


 なんか発音がdon’t来いみたいになってんぞ。


「フィーナ、私に合わせて大きく息を吸うんだ」


 緊張したフィーナを見かねてリリウムが肩に手を置き、同じタイミングで大きく息を吸い込む。そしてゆっくりと吐く。

 突然言われたフィーナも、それに何とか合わせてゆっくりと深呼吸をした。


「これまでしっかり練習してきたんだ。フィーナならばいいところまでは行ける。私たちが保証しているのだから自信を持て」


 リリウムのまっすぐな瞳に見つめられ、フィーナが若干頬を染めながら目をそらす。

 そしてすぐに合わせようとして、またそらす。

 うん、分かるよ。リリウムの視線って真っすぐすぎて少し恥ずかしくなるんだよな。

 俺も、魔法を教えるときとかにリリウムの顔見ると、真っ直ぐ俺の目を見て来るからスゲー恥ずかしくなるもん。

 けど、この場所でそれはちょっといただけない。

 それではまるでフィーナがリリウムに恋してるみたいだろ!

 と、言うことで少し強引に二人の間に割り込む。


「そう言うことだ。フィーナなら普通に戦えばいいところまで行けるんだからさ。楽しんで行こうぜ」

「は、はい!」

「うし、その意気だ」


 おっさんを完全にフェードアウトし、俺たちは仲間内だけで盛り上がっていた。


 開会式が始まる。

 観客席はすでにほぼ満員状態で、静かに闘技大会の開催を待っていた。

 俺たちがフィールドに現れると、観客から一斉に歓声があふれ出す。その声は闘技場を飛び出し、市街にまで広がっていく。

 その中を進み、整列する。順番は適当だが、ある程度綺麗に見えるように縦に数列で並ぶと言った感じだ。

 俺たちはリリウムを先頭にフィーナ、俺の順番で並ぶ。

 出場者全員が並んだのを上から見た司会が確認する。

 客席が再び静まり返り、始まりの声を待つ。


「さあ! 今年もまた、この時期がやってきた! 自らの武を駆使し、知識を駆使し、加護を駆使しただ1つの(いただき)を目指す。その長く短い一週間が今幕を開ける! 第68回、デイゴ闘技大会の開幕だぁああああ!」


 司会の開会宣言により、観客が爆発した。

 歓声が闘技場の地面を揺らし、熱気が空を覆う。

 観客席から投げ込まれたのは、大量の花束。その花束が風に揺られ花びらを散らしながらフィールドに舞い降りると、一瞬にして石作りの簡素な光景は花畑へと生まれ変わった。


「こりゃスゲーな」

「綺麗ですね」

「毎年恒例の行事だな。毎年観客も増えて派手になっているがな」


 初めて参加する者は、フィールドから見るその光景に感動し、再びこの舞台に上って来た者たちは、その光景を懐かしく思う。

 花びらの雨が収まれば、再び静寂が戻ってくる。

 司会はそれを確認して、開会式を進行する。


「開幕のあいさつも終わったところで、続いてはこの素晴らしき大会を今年も開いてくれた我らが王、デイゴ国国王ファーレンハイト3世の挨拶だ! お前ら静粛にしろよ!」


 司会が1番うるさいんじゃないかと思うテンションで、王は紹介された。それに合わせて司会の頭上にある少し飛び出た観客席、おそらく王族の特等席なのだろう。そこのテラスに1人の男が現れる。

 見た目はまだ若々しい。20代後半と言ったところかもしれない。ユズリハの王が2児の父なので、そのイメージが強かった俺は少しあっけにとられる。

 青の髪は、短く切りそろえられ、整った顔立ちは王様と言うよりも王子様を連想させた。

 少女漫画とかに出て来る知的クール系王族と言った感じだな。少女漫画読んだことないから知らないけど。

 その王が口を開く。


「参加者の諸君、今年も良く集まってくれた。今年は我が国が大々的に参加者を募ったことにより、これまで以上にレベルの高い戦いになると思う。その中で頂点を目指す者達よ、諸君の健闘を期待する。

 また今年も素晴らしい開会式を見ることができた。この素晴らしい演出に協力してくれた観客の皆にもありがとうと言わせてもらう」


 王様直々の感謝の言葉に、デイゴの民は深く首を垂れた。

 旅行客も嬉しそうに軽くではあるが頭を下げる。


「最近になり、これまでにない規模で盗賊の動きが活発になってきていると聞く。国としても、そのような事態にはしっかりと対応したいところだが、限界がある。そこで国としては冒険者たちにも盗賊の退治に協力してもらおうと考えている」


 その言葉に、出場者のみならず、会場に来ていた冒険者全員がどよめく。

 これまでの盗賊退治は、村か大きければ町が依頼をだしたりする程度だった。そのため自主的に盗賊を退治しても、手に入るのは盗賊が奪っていたお宝だけ。

 盗賊程度が持っているお宝なら、大抵金で買えてしまう冒険者にはどうでもいいものだったのだ。しかしこれからは違うと言うことだ。


「つまり盗賊を退治したものに国から報奨金を出すと言うものだ。もちろんこれはギルドを通しての依頼となるためしっかりとギルドの成績にも加算されるものだ。

 これは我が国のみならず、ユズリハ国、カラン合島国と3国共同で行うものだ。その3国ならばどの国にいても盗賊を倒した証明さえあれば報奨金を受け取れるようになると言うものだ」


 その説明にもどよめいた。

 リリウムによれば国どうしが同じ依頼を協力して出すことは初めてのことになるのだそうだ。そりゃどよめくわな。

 しかしなんで、こんなところでこのタイミングで発表したんだ?


「残念ながら、ギンバイ帝国とは共同で行うことができなかったが、我々だけでも、盗賊に対する強い意志表明にはなるだろう。そして、その第一歩としてこの大会で我々の強さを見せつけるのだ! 盗賊などでは到底及びもしない、我々の武勇を見せつけ、まずは盗賊たちに自らがいかに危うい立場にあるのかを分からせる! そうして、少しでも盗賊を減らすことが出来たのならば、この大会は大いに成功したと言っていいことになるだろう!」


 なるほどね。実際に盗賊がこの大会を見ている可能性は少ないだろうけど、少なくとも今後進んで盗賊になろうとする奴らは減るだろう。

 そして、この大会ほど大きなものならば、その話は辺境や隠れ家にいる盗賊たちにもある程度は耳に入ることになる。

 ここで、どれだけの強さを持った者達が敵にいるかを知ることで、被害を減らす作戦か。


「有効な手だな。これほど大々的に宣言されれば、これまで派手に動いていた連中も委縮せざるを得ない」


 リリウムのつぶやきに俺も賛同する。フィーナは黙って王様の言葉を聞いていた。


「あまり話が長くても、つまらないだろう。私の話はこれで終了させてもらう。最後に、選手諸君、健闘を祈「ありがとうござぁぁああいましたぁぁぁああああ!」る」


 王の言葉が終わる前に、司会が割り込んでしまった。

 しかし、王はその行為に怒ることなく、むしろ飽きれた様子で首を横に振ると、テラスの奥へと戻っていく。


「それでは! 選手代表による、選手宣誓だ! 代表はもちろんこの人! 前回個人戦優勝者の騎士、オルトだぁあああ!」


 それに合わせて、フィールドの先頭にいた騎士1歩前に出る。

 そいつが前回優勝者なのだろう。騎士は剣を抜き高々と掲げた。


「宣誓! 我ら参加者一同! 全身全霊を持ってこの戦いに参加することをここに誓い「さぁああああ、いよいよこの後は個人戦乱戦第1組だ! 観客の皆はトイレには行っとけよ!」


 寂しそうに剣をおろし、そっと鞘にしまうオルト。

 仲間だろう人物が、彼の肩に手を当て慰めていた。

 他の選手たちは、ぞろぞろとフィールドを降り、控室に戻っていく。


「私たちも戻ろう」

「そうですね」

「おう、じゃあ行くか」


 俺達も他の選手の邪魔にならないように、すぐに移動を開始した。

 こうしてあっけなく開会式は終了する。まあ、闘技大会の開会式なんてこんなもんで十分だよな。


 ルールの説明を受けた部屋に戻ってくると、正面に大きな張り紙がされていた。

 それは4枚に分かれており、ずらっと名前が書かれている。


「どうやら乱戦方式の組み分け表のようだな」

「フィーナはどうなってんの?」

「ちょっと待て――」


 1番先頭に近かったリリウムが、一覧を見ていく。


「あったぞ、1組目だな」

「初戦ってことか」

「初、初戦で、ですか。緊張事が、は、早く終わるとは、良い事ですよね!」

「あ~うん、そうだね」

「これなら午前中に試合を終えて、午後から反省会がしっかりできそうだな」

「は、反省会ですか?」

「実戦は訓練とは何かと違うからな。その場で感じたことを振り返れば、収穫も多い。習うより慣れろと言う感覚に近いかもしれんな」

「そう言うことですか」


 まあ、それもこれも、全てフィーナが乱戦方式の生き残り2名に残らないと意味ないんだけどな。

 けど、まあ大丈夫だろ。リリウムと俺と、3人で考えた奇襲方法もあるしな。

 そこにスタッフが入ってくる。


「それではこれより乱戦方式1組目の試合を開始したいと思います。一覧の1組目に書かれていた方はスタッフの指示に従って移動してください。また、今後この部屋は個人戦参加選手の為の控室となりますので、団体戦のみ出場、または指南役のみの方は退室をお願いします」


 なんだ、俺とリリウムは退室しないといけないのか。

 それを聞いたフィーナが心細そうな表情を向けてくる。

 俺はフィーナの頭にポンと手を載せて、励ますように言う。


「まあ、ルールだからしかたねぇって。俺たちは観客席からしっかり応援してるから頑張ってこい」

「うぅぅ、わかりました」

「トーカ、フィーナが頑張れるように勝ったら何かご褒美をあげたらどうだ?」

「ご褒美?」

「報酬があると、トーカでもやる気が出るだろ?」


 それは良い考えかも知んないな。うし、なら――


「フィーナ、1回勝ち残るごとに、フィーナの言うことを何でも聞く権利をやろう。優勝まですれば5回なんでも言うことを聞いてやる」

「ん? 今なんでもするって言いました?」


 とたん、フィーナの目の色が変わった。何か欲しいもんでもあったのか?


「おう、なんでも聞いてやる。俺に出来ることに限るけどな」

「分かりました! 優勝してきます!」


 そう言ってフィーナは意気揚々と、スタッフの後に着いて部屋を出て行ってしまった。

 それを見送ってリリウムが口を開く。


「あんなこと言ってしまって大丈夫なのか?」

「まあ、金は余ってるし、大抵のことは聞いてやれるだろ」

「いや、そう言うことではなくてだな。フィーナに結婚でも迫られたらどうするつもりだ? どこかに身を落ち着けるのか?」

「へ?」


 リリウムの言った言葉の意味が最初は理解できなかった。けど、理解すればそれは無いだろと思える。


「最近付き合い始めたばっかだし、そう言うのはまだもっと先の話だろ? それにあの目の色の替え方は、物欲だと俺は睨んだね」

「ふむ、まあそう言うことにしておこう」


 リリウムが何か含むような笑いを残すが、特に気にすることなく、俺たちは観客席へと移った。

 そして、フィーナの初めての対人戦闘が始まる。


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