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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
デイゴ王国闘技大会編・個人戦
73/151

72話

 魚の串焼きを齧りながら、俺達3人は露店の散策を続けていた。

 やっぱ海が近いことに影響されてるのか、アクセサリーも貝や真珠を使ったもの、魚をモチーフにしたものが多いな。


「綺麗ですね」


 フィーナが露店の中から1つのガラス細工を取りあげる。

 イルカのような魚をモチーフにされたそれは、太陽の光を受け水色を反射させきらきらと光っていた。


「色違いもあるんだな」


 フィーナの取りあげたすぐ横を見れば、同じ形で赤色と緑色のものが置いてある。


「ガラスに色を付けるのは簡単ですからね。こうやって色でバリエーションを出したりするだけで、セットで売れたりするようになるんですよ」

「なるほど。確かに友人どうしで同じものを買うというのは良くある話だな」


 そこで実際に身に付けていないのが、リリウムのリリウムたる由縁である。


「なら俺達も買ってみるか。鞄に何もついてないのはちっと寂しいしな」

「いいですね。ちょうど3色あるみたいですし、1つずつ買いましょう」

「完璧に販売側の戦略に乗せられているな」

「こういうのはわざと乗せられるのも良いものですよ」


 と、言うことで俺が赤色、フィーナが水色、リリウムが緑色の魚を購入する。

 俺はそのまま持っていた鞄に付け、フィーナは腕飾りに括り付けた。

 リリウムは少しの間どこに付けようか悩んだようだが、最終的に財布の紐に付けることにしたらしい。


「いかにも仲間って感じでいいですね」

「俺はこういうの付けたことなかったからな、なんか変な気分だ」


 同じものを身に付けようとする友人なんていなかったしな。兄弟とかいたらそういうこともあったのかもしれないけど。


「私も初めてだな。ずっと1人だと思われてたみたいだし、少し嬉しいよ」

「そうなのか?」

「ユズリハの王都から逃げるときにな……私兵にまで1人でどうするつもりだと言われたのだ。完全に仲間がいることを可能性から除外されてたところを見ると、どうもずっと1人だと思われていたようだ……」


 あらら……まあ今は――


「今は俺達もいるし、そう思われることは無いだろ」

「そうですよ。もう1か月以上一緒に旅をしてきた仲間じゃないですか」

「そうだな。私はもう1人じゃないんだな……いや、元から1人だったわけではないんだが……」


 それでも長期間にわたって一緒のパーティーを組むことは無かったらしいし、初めてみたいなもんだろ。

 店の前でいつまでも話していても邪魔になる。と、いう訳で次の店を探して町をぶらつく。


「さて、じゃあ次の店はどこにするかな」

「デイゴの食材とかもみたいですけど、しばらく首都にいますからね。今見ても意味ないですし」

「闘技大会が近くて、武器屋が盛んになっていると聞くが、行ってみるか?」

「お、それも良いな」


 バスカールみたいな奴いないかな?

 そうして次の目的地を決めようとしたときだった。声を掛けられたのは。


「トーカ殿?」

「んあ?」


 突然名前を呼ばれ、魚を銜えたまま振り返る。そこには懐かしい顔がいた。


「あれ? 確かミルファんとこの騎士の――」

「シグルドです。久しぶりですね」

「おお、そうだった。シグルドさんか。久しぶりだな」


 そこにいたのは、ユズリハ王国で王族の護衛をしている騎士だった。確か第1王女のシルファと付き合ってるんだっけ?


「なんでこんなところにいんの?」


 王族の護衛だろ? 王族のそばにいなくていいのかよ。それとも王族が来てるのか?

 何となく辺りを見回してみるが、それらしき影は無い。


「今日は私1人です。王族の方々はいらっしゃいません」

「そうなのか? ならなおさら何で?」

「闘技大会に招待されましてね。王からも功績を立てて来いと言われて来た次第です」

「シグルドも参加するのか」


 こりゃ面白いレベルの戦いになりそうだな。


「も、ということはトーカ殿も参加するのですか?」

「団体戦の方だけだけどな。個人戦にはこっちの仲間が参加するよ」


 そう言って隣にいるフィーナの頭をポンポンと叩く。


「そちらの女性は?」

「冒険者仲間――今は彼女か、のフィーナだ。新人だけど、なかなか強くなると思うぜ」

「そうですか、初めましてユズリハ王国騎士のシグルド・カートライスです」

「初めましてフィーナと申します」


 そう言ってお互いに握手を交わす。


「んで、反対にいるのが――」

「リリウム・フォートランド殿ですね」

「やはり気づいていたか。そうだ、こうして話すのは久しぶりだな」

「そうですね。訓練の時以来ですか」


 貴族どうしの付き合いで面識があったのか、リリウムとシグルドは簡単に挨拶を交わす。


「実家の騒動は聞いていますよ」

「お恥ずかしい限りだ。しかしこれで少しはフォートランド家もユズリハに貢献できるようになると思う」

「はい、王族の方々も期待しているみたいです。今は身の回りの整理をしている所のようですが?」

「うむ、私もたまに情報を仕入れてはいるが、詳しい事までは分からなくてな。1度帰って状況を見極めるのも良いかもしれないな」

「リリウムさん帰っちゃうんですか?」


 突然のリリウムの言葉にフィーナが驚く。


「うむ、さすがに兄に全てをまかせっきりと言うのも悪いだろう。1度くらいは顔を出して直接礼を言わないといけないだろうしな」

「それじゃあ闘技大会は……」

「大丈夫だ。闘技大会終了まではしっかり稽古をつけさせてもらうし、アドバイスもするよ」

「そ、そうですか。安心しました」


 フィーナがふぅと息をはく。まあ、突然師匠みたいな人がいなくなるのは不安だよな。


「シグルドは団体戦の方には参加するのか?」

「一応ユズリハ騎士団として登録はしてあります。しかし私のメインは個人戦ですから、戦った後の状況次第と言ったところですかね」


 まあそりゃそうか。個人戦で怪我が無かったとしても、3日間の激闘の疲れは蓄積される。それを引き連れて団体戦を勝ち抜けるほど、闘技大会は甘くなさそうだし。


「ではあまりメイドを待たせてもいけませんので私はそろそろ」

「おう、闘技大会で会おうぜ」

「ええ、騎士の戦いっぷりを見せてあげましょう」


 そう言ってシグルドはメイドと共に人の波に消えていった。


「王国騎士の中でも専属護衛のシグルドが出て来るのか」

「リリウム、あいつの強さどれぐらいか知ってる?」

「何度か訓練に呼ばれたときに手合せしたことはある。その時は私と同じか少し強いぐらいだったな。冒険者のランクで言えばAランク……もしかしたらそれ以上の実力者だ」

「そ、そんな方と戦うんでしょうか……」

「まあ、胸を借りるつもりで飛び込めばいいと思うぞ」

「だよな。負けても問題ないんだし」


 魔物との戦いと違い、闘技大会は正式な試合だ。ならば、負けることに躊躇する必要は無い。

 生死が関わらない以上、それは冒険者にとって訓練でしかないのだ。ならば実力を少しでも伸ばすためにも、ドンとぶつからなければならないだろう。


「不安になりますよ……」

「その不安を消すように、しっかり訓練してやるから安心しろ」

「なんだか別の意味で安心できなくなった気がしますよ……」


 リリウムの応援のような追い打ちに、落ち込みながらフィーナは焼き魚にかぶりついた。




 氷海龍の情報が入ってこない。

 王都に到着してから3日目。フェイリスは、その事に疑問を感じ始めていた。

 冒険者に巣を襲撃されてからすでに10日が経っている。報復するには十分すぎる時間があるのだ。

 それにもかかわらず、氷海龍はその姿をどこにもあらわさない。


「どういうことだ? 巣は実際に襲われたと情報がある。ならその冒険者が氷海龍を殺した?」


 いやいやと考え直す。邪神級相手にA+でもない冒険者が挑んだところで、埃と同様に蹴散らされるのがオチに決まっている。

 そんな馬鹿なことを考える必要は無いと首を振った。


「王城へ行けば何か情報が入るか……」


 A+冒険者ほどの実力者ならば、王城と言えどもないがしろには扱えない。

 むしろこの国の状況からしたら、氷海龍と戦う気のあるA+冒険者は嬉しいはずだ。


「情報の共有か。しかし国とはあまり関わりたくないんだがな」


 それがたとえ一時的な関係であっても、他の国から色々と邪推されるのは勘弁したい。

 A+冒険者と言うのは、部隊3つや4つと平然と戦える存在なのだ。その存在を国が囲ったとすれば、相当な戦力になる。

 しかしそれは、敵になるならとA+冒険者を殺そうとする国も出て来ると言うことだ。

 同じA+冒険者の常闇のルリなどは、冒険者になる前からカラン合島国に仕えていると宣言しているため、対して問題にはならなかったが、爆炎のドラグルや雷帝フェイリスは、いたって普通の冒険者からA+に上り詰めた成り上がり者だ。

 ゆえに、決して国には仕えないと公言しているが、邪推する奴らは必ず現れてしまう。

 しかし今回の相手は邪神級。背に腹は代えられないと、フェイリスは酒場を出て、王城に向かって歩き出した。


 大通りを抜け、城に続く道を歩く。

 相変わらず人の視線が気になるが、フェイリスはそれをことごとく無視して王城へと目指していた。

 そんな時、ふと店の前に立っている女性に目が止まった。


「あれは確か――」


 記憶の片隅にある。若くしてA-ランクまで上ってきた冒険者だ。

 当初は天才、秀才などと呼ばれていたが、月日が経つにつれていつの間にかその噂も無くなっていた。

 話を聞く限りでは、魔の領域で修業を積んでいたと言う話だったが、どうやら領域から出て来たらしい。


「確か、リリウムと言ったか」


 この時期にこの町にいると言うことは、闘技大会にも出場するのだろうと予測する。腰に下げた細剣も、最近変えたのか真新しさが目立つ。


「少しはレベルの高い勝負が期待できそうだな」


 A+ランクの冒険者から見れば、AランクもA-ランクも大して変わらない。彼らの違いは、ギルドにとって有意義な依頼を受けたかそうでないかの違い程度だと認識している。

 ゆえにA-としても、Aより格下だとは思わない。常に全力で挑むに足る相手だと思っている。


「だが、今は魔物だな」


 思わず目的意識が逸れそうになるのを、口に出して修正する。

 そしてリリウムの隣を通り過ぎた時、全身に電流が走ったような気がした。

 思わず振り返る。それはリリウムのいた方向だ。しかし正確に言えば、リリウムの方向ではない。

 それは桃花のいた場所だ。

 そして桃花も振り返っていた。

 フェイリスと桃花の目が合う。

 その瞬間フェイリスは理解した。こいつは邪神級と同等の力を秘めていると。

 強者だからこそ分かるのだ。その力がどれほど大きいものか。

 気が付けば額から汗が流れている。A-冒険者であるリリウムがどうして一緒にいられるのか不思議でたまらないほどだ。

 目をそらそうにもそらせない。

 そうして固まっていると、桃花がニヤリと笑った。

 その時、体が勝手に動く。今まで1歩も動かなかった足が、勝手に桃花から離れて行こうとするのだ。

 フェイリスはそれに抗うことなく、ひたすらまっすぐ進むことにした。


 王城の前に到着する。その頃になってやっと汗が引いてきたのをフェイリスは感じた。


「なんだったんだ。奴は……」


 今のは恐怖だったのだろうか。しかし彼からは威圧感は感じられなかった。

 殺意や敵意なんてものは出していない。ならば、何が自身をここまで焦らせたのかが分からない。


「今は忘れよう。今の俺の敵は邪神級だ」


 ぶんぶんと頭を振って、さっきの感覚を振り払う。そして城門の門番に声を掛けた。




 しばらくして一室に通される。来客用の豪華な調度品が並ぶその部屋で、フェイリスの汚らしさは異彩を放っていた。

 そこに扉が開き宰相が入ってきた。


「すまないな、待たせてしまって」

「いや、突然来たのはこっちだ。むしろ今は忙しい時期だろうに、悪いな」

「構わないさ。A+ランクの冒険者が来たのだ。王が直接出向いても良いぐらいだろう」

「そう言ってもらえると助かる。忙しいだろうし、単刀直入に用件を話させてもらうぞ」

「そうだな」

「邪神級の情報だ。あんたらが何故大々的に闘技大会の参加を募っているのかは、だいたい予想がついている。俺の目的もそれだ」


 そう言ってフェイリスは一端言葉を区切り、相手の出方を見る。

 ここまで行って、協力を受け入れてくれるなら良し、なお隠そうとするのなら、多少脅しのようなことをしても聞き出すと考えている。

 宰相は、すぐに答えた。


「なるほど、ならばこちらとしても情報を提供し、協力を求めたい」

「助かる」

「それで何の情報が欲しいんだ?」

「現状と、襲撃した馬鹿の名前だ」

「ふむ」


 そう言って宰相は考え込む。


「まず現状だ。氷海龍の巣を1日中張り付いて監視させているが、変化はない。平和そのものだと報告が来ている。定期報告も問題なく来ていることから、本当に異常はないのだろう」

「巣を襲われたのに、動きが無いのはおかしいだろ」

「私もそう思っている。しかし実際に奴は動かないのだ。それどころか巣にいないのではないかと思ってしまうほど静かだと言う」

「前はどうだったんだ?」


 今が静かだと言うのならば、以前は少しぐらい音がしていたのだろうか?


「時々氷海龍自体の目撃もあった。島の中だけでだがね。しかし今はそれも無い」

「なるほど。どこか別の場所にいる可能性は?」

「否定できない。しかしそれではお手上げだ」

「なるほど。現れるまで何もできないと言うことか」

「氷海龍のことは国のすべての部隊に伝えてある。現れた時点ですぐに連絡が来るはずだ」

「その情報は俺も貰うことができるか?」

「協力してくれるのなら情報を惜しむつもりは無い。こちらとしても戦力は欲しいからな。君ほど身元がしっかりしている者もなかなかいないしな」

「それは助かる」

「次に襲撃した人物だが――」


 そこで宰相はまたしても言葉を区切った。それは何を話すか悩む仕草と言うよりも、話していいのだろうかと言う仕草だ。

 それを鋭敏に感じとったフェイリスは、巣を襲った冒険者が生きていると確信した。

 つまり、邪神級相手に戦って生き残ったのだ。

 それがどれほど凄い事なのか。かつて邪神級と戦ったことのあるフェイリスだからこそ分かる。

 どれほどの人数で攻めれば生き残れるのか。正直見当もつかない。邪神級の前には数など無意味なのだ。ならば、その中に精鋭がいたと言うことだろう。

 邪神級を相手にして生き残る。最低でもAランクの実力はある存在だ。


「話してくれ」

「――そうだな。話しておこう。私も最初は死んでいるだろうと思って調べなかった。しかし、氷海龍の動きが無いことを不審に思い、一応調べさせたのだ。そのせいで情報が遅れた」


 宰相はそれを後悔するように眉を寄せる。


「氷海龍はタストリアを襲撃した後、ここに来る大型帆船を襲い、1人の女性を攫ったらしい。それは帆船についていた冒険者が確認している」

「ふむ」

「そしてその場でその女性を巡り、邪神級と戦った人物がいると情報が入っている。冒険者2名だ」

「2人だと!?」


 その数にフェイリスは驚く。確かに邪神級に数は無意味だが、それでも少なすぎる。最低でもA+ランクが7人必要と言われる邪神級相手に、2人で挑むことは不可能だ。

 しかし船が無事に首都に着いて、冒険者たちの情報が得られていると言うことは、生き残ったと言うことだ。


「1人は漆・トーカ、半年とかからずB-ランクになった腕利きだ」

「B-ランク」


 ギルドとしての価値はB-なだけで、戦闘面では確実にAランクの冒険者だろうとフェイリスは予測する。


「もう1人は、A-ランクのリリウム・フォートランドだ」

「なっ!?」


 その名前に言葉を失った。

 その名前はついさっき、ほんの30分前に首都で見た存在だ。

 邪神級の巣を襲撃し、尚且つ5体満足の状態で首都に来ている。そして思い出されるもう1つの顔。

 リリウムのすぐそばにいて、さらにフェイリスの存在に気づき、フェイリスを焦らせた男の存在。

(奴が漆・トーカだ)

 フェイリスにはそうとしか考えられなかった。そうでなければ、自分があれほど焦るはずない。

 そしてそんな2人は平然と首都で買い物をしている。その状態がいかに異常な事か。気付けばフェイリスは宰相に向かって怒鳴っていた。


「そいつは今首都(ここ)にいるぞ! なんで普通に入都させた!? 邪神級に喧嘩を売るような相手をどうして放っている!?」


 その言葉に宰相は苦々しい表情で返す。


「最初に言っただろ。死んだものとして調べなかったため情報が遅れたと。私がその情報を手に入れたのは、すでに2人が入都した後だったのだ」

「ならなぜすぐに叩き出さない! 危険人物なんだぞ! そいつらを狙って氷海龍が来る可能性もある!」

「邪神級と戦って生き残る相手だぞ! 奴ら自身がすでに邪神級と同じ存在だ! 迂闊につついて街中で暴れられでもしたら、それこそ取り返しがつかないことになる!」


 宰相の言葉にそうかと気付く。

 邪神級を撃退できる。あるいは正面から戦える存在ならば、その実力も邪神級なのだ。

 ならば、人の形をした邪神級が首都にいると思った方が早い。

 宰相の判断は正しいのだ。迂闊につつけば藪蛇になる可能性が高い。何せ相手は邪神級に喧嘩を売るほど狂暴な人間なのだから。

 そう考え、フェイリスは少し焦りすぎていたと反省する。


「すまない。国の頭脳がほっとくはずは無いな」


 ソファーに座り直し、膝に肘をついて目頭を押さえる。


「そう言うことだ。しかも彼らは闘技大会の出場登録をしている」

「なに?」

「個人戦には、彼らの仲間の1人。最近冒険者になったフィーナと言う女性が個人戦に参加する。指南役にリリウム・フォートランドがつくのを見ると、本当に初心者なのだろう。戦闘経験を得ると言う意味での参加の可能性が高い」

「フィーナと言う奴の戦闘能力は?」

「情報はほとんどない。しかし最近までは商人をやっていたらしいことから、それほど高くないと見える。しかし1等星の氷属性の加護を持っている」

「1等星か」


 それだけで他の冒険者より、どれほどのアドバンテージになるだろうか。フェイリスは考える。

 使いどころを間違わなければ、かなりの脅威になるだろうが、話を聞く限り戦いにおいては初心者。ならばそれほどその加護も脅威にはならない。

 しかし宰相がなぜその事を心配するのか。闘技大会に強い人間が出るのはいいことだろう。それが冒険者ならば、優勝賞品の採掘権は賞金に代わり、採掘権はそのままデイゴに残る。そうなれば、1年採掘で賞金の元は十分取れる。

 その事が気になったフェイリスは、質問をぶつけた。


「なぜ闘技大会を心配する? 問題はどうやってそいつらを首都から出すかだろう」

「邪神級と戦える相手だぞ。闘技大会に出れば死人を出す可能性もある。それにレベルが違いすぎれば、来年からの開催にも問題が出てくる。皆が近いレベルの相手だからこそ、闘技大会は白熱するのだ」

「なら俺が出るのも問題じゃないのか?」

「たしかにフェイリス殿はA+ランクだが、騎士の中にもその程度の強さは1人や2人いるさ。それに騎士は人と戦うことに特化しているからね」

「そう言うことか」


 冒険者はどちらかと言えば対魔物のプロフェッショナルだ。しかし逆に言えば、人間相手では盗賊程度しか相手にしたことが無い。日頃、人を仮想敵として訓練している騎士に比べれば、動きが違うのだろう。そして自分の国の騎士に自信があるのだろうとフェイリスは納得した。

 確かに、冒険者でなく騎士になっているのなら、同じ強さを持っていても、噂になることは少ない。


「それでだ。問題は団体戦だ」

「出て来るのか?」

「3人でな」

「3人――」


 ということは漆・トーカ、リリウム・フォートランド、フィーナの3人なのだろうと予想をつける。

 フィーナはどうにでもなるだろうが、後の2人が問題だと考えた。


「どうするつもりだ?」

「フェイリス殿。我が国の団体として参加してもらえないだろうか?」

「デイゴ代表としてか……」

「我が国としては、相手とのレベルが開き過ぎだと思われなければいい。フェイリス殿がともに団体戦に出てくれるのならば、そう思われる可能性は減らせるだろう。そして我が国が一回戦で彼らを倒すことができれば、彼らの出国を早めることも可能かもしれない」


 それはまさしく最初に危惧していた国に仕えたと思われる可能性そのものである。

 しかし、現状背に腹は代えられない。だがそれでも条件はある。


「出る奴を見て判断したい。ただの足手まといなら、そこら辺の冒険者と組んでも同じことだ。こちらにメリットが無いからな」

「分かった。返答はこちらとしてもなるべく早い方が望ましい。今からでも都合はいいかね?」

「問題ない」


 ほぼ同時に席を立つ。そうして宰相とフェイリスは客室を後にした。


*イルカは部類上は哺乳類ですが、流れ的に魚と書いています。

*分かり難いですが、フェイリスの場面は前半とは日にちが違います。

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