70話
闘技大会編です。
町を出て1週間後。俺たちはようやく首都に着いた。
船ならば2日の距離も、陸地を進むと結構時間かかるもんなんだよな。
割と平らな道を進んでた気がしたけど、それでも3倍以上の時間がかかるんだから、船の便利さはスゲーわ。まあ、夜も移動し続けてる船と休憩挟みながら進む馬車で比べる方がおかしい気がするけど。
「ここがデイゴの首都か。あんまパッとしないな」
デイゴの首都は、ユズリハ同様大きな外壁に囲まれている。
しかしユズリハでは見えた、外壁の高さをも越すシンボル的な王城の姿は、デイゴでは見えない。
「まあ、外から見るとそうでしょうね。けど中はユズリハ同様にぎやかですよ」
「デイゴの首都には色々な娯楽施設も多い。それゆえ、人も多く集まるからな」
「娯楽施設?」
そう言えばこの世界に来てからそう言うのってあんまり聞かないな。
「近々行われる闘技大会の闘技場もそうですし、競馬、競艇、カジノもあります。その分お金はかかる町ですけどね」
「へー」
ギャンブルの盛んな町なのかね? まあ、金はあるし結構遊べそうだ。
「さて、受付をして中に入りましょう。まずは宿探しですね」
「この町には止まり木ってあるのか?」
「もちろんあるぞ。私も何度か世話になっているからな」
「なら第1候補はそこかね?」
「そうだろうな」
「あそこはある意味信頼できますからね」
適当に話を進めながら、俺たちは検閲を受け首都の外門を潜った。
デイゴの各大臣が首都に集められて3日。
その会議には、いささかおかしな雰囲気が流れていた。
「本当に氷海龍の巣は襲撃されたのかね?」
「間違いない。それは兵士たちが確認している。実際島を遠くから観察した結果もここに届いている」
そう言って1人の大臣が紙の束をバサバサと揺らした。
「しかし、実際氷海龍の姿は見えていないのだろう? 怒り狂った様子も無いし、近くの町が襲撃されたと言うのも無い」
「私たちは国の危機だと聞いて集められたのだがね。このようなことに時間を食い潰されるほど余裕は無いのだよ」
「まったくだ。これ以上会議は無意味だろう。私は明日にでも領地に帰らせてもらうぞ」
その意見に賛同するように何人かの大臣も首を縦に振る。
そんな中、宰相は厳しい表情をしていた。
緊急として各大臣が集まったのが3日前。邪神級の被害が出る可能性があると言うことで、大臣たちも異例の速さで首都に集結した。
しかし蓋を開けてみれば、襲撃はおろか、氷海龍の姿を確認したと言う報告すらない。
かといって、兵士達が全滅している訳でもない。
島のすぐ近くに駐在している兵士達からは、きわめて平和な1日を過ごしていると報告が上がってきている。
冒険者の襲撃があったとはとても考えられない状況だった。
しかし実際に、12ある島のうち中央の島を含む4の島は激しい戦闘の後が見受けられる。
そのどれもが、邪神級の力をもってしなければなせないほどの破壊だ。
ならば氷海龍と何者かの戦闘があったのは間違いない。
魔物ならば、邪神級の氷海龍と戦うことなど無い。邪神級と争おうと思うものなど、世の中には、気の狂った人間以外存在しないのだ。
だから報告にあった冒険者と戦ったのだろうとは予想がつく。
しかしそれ以上のことが全く分かっていなかった。今更ながら、冒険者の身元調査を止めさせて人員を警備に集中させたことが悔やまれる。
このままでは、大臣たちは各領地や仕事に戻ってしまう。それでは今後氷海龍が現れた場合に後手に回ることになる。それだけは避けたい。
しかし現実は、それをよしとしない。
ならば出来ることは1つだと宰相は考えた。
「では、この緊急会議は明日で終了としよう。しかし実際に戦闘の跡がある以上、今後がどうなるかは分からない。そこで、氷海龍が現れた時にすぐに動ける兵士を首都に常駐させておきたいのだが構わないか?」
他の町がどうなろうと、せめて首都だけでもと宰相は考えた。国の脳が死んでは、手足は全て動かなくなってしまうからだ。逆に脳さえ生きていれば、国はいくらでもその手足を再生できる。
「部隊はどこの部隊を置くのだ? 我が国はそれほど兵士に余裕がある訳では無いぞ?」
細長い国の国境警備には、かなりの数の兵士が使われている。
今首都にいる兵士の数は、それほど多くない。その中でさらに常駐させるとなれば、他の場所の警備を薄くするしかないのだ。
「国境と、周辺道路の警備からは人員は割けない。そこで、他の国に手伝ってもらうことにする」
「まさか援助を求める気か?」
「正気の沙汰とは思えんな」
「他国の部隊を首都にいれるなど、侵略してくれと言っているようなものではないか」
宰相の意見に、大臣たちがあきれた顔で答える。中には嘲笑する者までいた。
しかしそれを宰相は聞き流し、ニヤリと笑みを作る。
「何も部隊を呼ぶ必要など無いさ。要は強い兵士が何人かいればいいのだ」
邪神級相手に部隊などは、大きな的にしかならない。邪神級を相手にする場合に必要なのは、突出した力を持つ少数の兵士なのだ。
それはこれまでの数少ない邪神級との戦闘から学んできた知識である。
実際に、以前行われた邪神級との戦闘も、A+ランクの冒険者しか活躍しなかった。当時大部隊を展開させて迎撃にあたった国は、多くの兵力を喪失したことになる。
A+ランクの冒険者が7名以上いれば勝てる相手。しかし逆に言えば、A+以上の冒険者が7名いなければ、いくらその他の兵士を集めてたとしても勝てない相手である。そう言う結論だ。
その経験を生かして、宰相は少数精鋭を集めると言ったのだ。しかし――
「他の国が強い兵士を1人だけ貸してくれるとでも?」
どこの国も、強い兵士とは国防にあたらせるものだ。わざわざ他国の為に切り札の1つを使う国はいない。
「まさか。そのようなことをする愚かな国は、この世界どこを探してあるまい。要は、氷海龍からの警備目的以外で呼べばいいのだ」
その言葉で大臣のうちに何名かが宰相の真意に気付きニヤリと笑う。
「そう言うことか」
「確かにその手ならば」
「どういうことだ?」
まだ分からない大臣たちの為に、宰相は口を開いた。
「闘技大会の参加者として呼び込むのだよ。幸い闘技大会は来週から始まるし、すでに招待している騎士も各国から集まりつつある。さらに腕利きの冒険者なども参加させれば、首都の戦力は一時的にとは言え飛躍的に上昇する。冒険者は邪神級の出現に対し、救出活動を行うことが義務付けられているしな」
それが闘技大会となれば話は別だ。
闘技大会の参加を募るために、デイゴはかなり大きな景品を用意している。それは鉱山だ。
他国から強い騎士を引っ張りだすために、デイゴは闘技大会の団体戦優勝から1年間の間、鉱山の採掘権を与えることを条件に、他国と交渉し国を代表するまでの大きな大会にまで育て上げてきた。
他国も資源は欲しい。だから毎年他の国の様子を見ながらギリギリ勝てるラインの兵士を送ってくるのだ。
そうすることでデイゴの闘技大会は少しずつそのレベルを上げて行った。
鉱山を貰ってもどうしようもない冒険者などには、多額の賞金が用意され、鉱山はデイゴに採掘権を戻されるが、それはもともとデイゴの領土にあるのだから当然のことである。
よって、今度の大会に冒険者の中から強者を選出すれば、必然的に他の国も出て来る騎士のレベルは上げざるを得ない。そうして首都にいる各兵士のレベルを底上げする作戦だ。
「なるほど!」
「そう言うことか」
「それならば、闘技大会も盛り上がるだろうしいい案ではないか」
大臣たちの変わり身の早さに、若干大臣の変更の必要性を考えながら、その日の会議は終了した。
町の中に入って、初めて王城が見えた。
ユズリハの城の3分の2ぐらいしか高さが無い。潮風とかの問題なのかね? 潮風って風化が激しいって聞くし、あんまり高い城を建てると、潰れるのかも。
町並みはタストリアと似たような石造りの街並みが続く。タストリアが破壊されていなければこんな感じなのだろうと言うのが想像できた。
地面は煉瓦で舗装され、水捌けを考慮してか、路の両側には排水溝が設置されていた。
「デイゴの街並みはやっぱ石造りが多いのか」
「そうですね。タストリアも壊される前はこんな感じでしたよ」
「見てみたかったんだけどな」
「復興したら行ってみましょう。あそこの名物とかもありますから」
たわいの無い会話をしながら、止まり木への道を進む。
場所はリリウムが知っているらしく、案内を頼んだ。
「にしても人が多いな」
辺りは活気に満ち溢れ、露店商人たちの掛け声が響き渡っている。
客を見れば、今まで訪れた町よりどことなく旅行客が多そうなイメージがした。
「もう闘技大会は来週だからな。もう少し余裕をもって到着する予定だったんだが」
「あんなことに巻き込まれちゃいましたからね」
ポリポリと頬を搔きながら、苦笑いをするフィーナ。
まあ、氷海龍に拉致されるとか、普通は予想できないわな。
「けど、威圧感には強くなったんじゃないか? あれだけの魔力を受けても普通に意識を保っていられるのは、かなりのことだぞ」
「そうですね。今なら普通の騎士の威圧ならどうとでも出来る気がします」
「なら闘技大会もいいところまでは行けそうだな」
首都に来たのは、そもそも闘技大会に出場するためだ。
それはフィーナの訓練も兼ねてのことだから、その前に実戦で威圧感に慣れていたのはいい経験になっているだろうな。
いきなりの戦闘で、威圧感で動けないとかなったらつまらないだろうし。
「その闘技大会ですが、どういう風に出場するんですか? 個人戦と団体戦がありますよね?」
首都の入口で門番にもらったパンフレットを開く。
そこには来週開催される闘技大会の内容が書かれていた。
個人戦3日、中1日空けて団体戦2日の計6日かけて行われる闘技大会は、参加自由の為たまたま立ち寄った冒険者や、デイゴ国から招待された他国の騎士や冒険者なんかも参加するらしい。
毎年レベルの高い戦いが見れるとのことで、かなり人気の競技になっているようだ。
その6日間、町はお祭り騒ぎ同然となり、旅行客も多くなる。商人には稼ぎ時だな。
「個人戦は、参加者1人に指南役が1人つけられるみたいだな」
「ならフィーナが参加で、リリウムが指南役だな」
「それが良いだろうな。トーカではまともな指南は出来ないだろう」
「まあ、正面から殴ればいいしな!」
「それができれば指南や作戦などは必要ない……」
「まあトーカですから」
リリウムとフィーナがあきれる。
とりあえず個人戦はフィーナだけの参加でいいだろう。仲間同士で潰しあう必要も無いし。
「団体戦は5名までの参加可能みたいですね。3人でも出れないことは無いでしょうが――」
「相手は5人で来るだろうし、かなり苦戦することになりそうだな」
「負けるとは考えないんですね……」
「まあ、トーカがいるしな」
俺の名前がよく分からないことの象徴みたいな使われ方してる気がする。
釈然としないが、とりあえず3人で参加かな。
「まあ、勝つことよりフィーナの経験値を溜めることが重要だからな。今回俺は守りに徹するぜ」
「私とフィーナが攻めで、トーカが援護だな。トーカの魔法なら援護だけでも倒せそうだが」
「それでもいいけど、仲間巻き込みそうだな」
「やめてくださいよ。トーカの魔法に巻き込まれるのなんて絶対嫌ですからね!」
フィーナが焦ったように声を上げ、それを聞いてリリウムが笑顔を引きつらせる。島を吹き飛ばした時の事でも思い出しているのだろう。
そうして俺たちは止まり木に到着した。
宿に荷物を置いた後、俺たちは冒険者ギルドに訪れていた。
理由は簡単。闘技大会の出場登録をするためだ。
闘技大会は国と冒険者ギルドが共同で運営しているらしく、出場希望者は、騎士団の詰所か冒険者ギルドに登録しに行くことになるのだ。
登録自体は冒険者であろうと詰所でも行えるのだが、現金を降ろす理由もあってこっちに来た。
首都の冒険者ギルドは、外観を合わせるためか石造りになっている。しかし中にはしっかりと木の板が貼られ、ユズリハの冒険者ギルドのあまりイメージが違わない。
俺たちは看板の案内に従って、闘技大会の登録受付へと向かう。この時期だけは臨時で小さな机と椅子が設置され、そこが受付となるようだ。
受付の上にでかでかと掲げられた、闘技大会参加受付と書かれた看板が目印でよく分かりやすい。
その下には、気の良さそうな獣人の女性が座っていた。
「獣人久しぶりに見たな」
最後に見たのいつだっけ?
そんなことを思いながら受付に近づく。
すると向こうも気付いたのか、小さく笑いかけてきた。それに愛想よく手を振ると、反対の手をフィーナにつままれる。
「トーカ。私の彼氏だってこと忘れてませんか?」
「……まさか!」
微妙に忘れてた。
だって、付き合い始めても特に何か変わったことって無かったし……
「その微妙な間はこの際聞かなかったことにしておきます。とりあえず受付済ませちゃいましょう」
「了解」
「お前たち。私を忘れないでくれよ」
後ろからついてきたリリウムが小さくつぶやいているのが聞こえてしまった……




