6話
フィーナと別れた後、俺は少し町を散策してから宿に戻った。まだ昼過ぎだが、今から依頼を受けるような時間でもないし、かといって寝るにはどう見ても早すぎる。
と、言うわけでいい加減返さないといけない教習本を読み進めることにした。
「やっぱ読むだけじゃきついもんな。いい加減、試しながら読んでかねぇと実感がわかん!」
もともと魔法などない世界から来たのだ。魔法はこういうものだと言われても、感覚的にはつかめない。
だから教習本の子供が行う魔法適正診断と言うのをやってみることにした。
「えっと、まずは自分に星の加護があるかを確認する?」
これは赤い星があるかどうか調べるってことか。俺の頭上には今も真っ赤な月が輝いてるぜ。
「次にその星が何等星か調べる。ふむ、属性魔法は3等星以上しか使えないんだっけか?」
本にはだいたいの明るさによる等星の位が示されている。数個の実例を交えて解説してあるから結構わかりやすい。てか、俺の場合調べる以前の問題だよな……赤いしでかいし明るし、明らかに1等星だろ。てかそれ以上だろ。魔物で言うなら邪神級?
「3等星以上の可能性がある人は次のページへ?」
ここからは等星別に書いてあるのか。まあ、使い方がだいぶ変わってくるみたいだし、別々になるのも当然か。俺の場合は自称邪神級だし、1等星のところを読んでおくかね。
ペラペラとページをめくり、1等星のページを開く。
まず魔法を使ってみようか。最初の方だし基礎の簡単な魔法を出してるみたいだな。とりあえず書いてあるライトとムーブを使ってみますか。
ライトは言わずもがな明かりの魔法。挿絵を見ると、手のひらの上に球体のようなものが浮いている。これが光源になってるっぽいな。
ムーブはサイコキネシスみたいなもんか。遠くのものを動かす力みたいだ。挿絵だと手から何か魔力?みたいなもんが出て物体を動かしているようだ。
「とりあえずライトか。詠唱とかあんのかね?」
読み進めていく。そういえばリリウムは風属性の魔法を使う時に詠唱を使っていた。やっぱりああいう詠唱はあるんだな。お、これか?
気になる文章を見つけた。
「なになに、星の加護を使うときは、自らの意思を言葉にして天に捧げるようにすることで星の加護を使うことができる? かなり感覚的だけど、こんなもんなのかね?」
とにかく実践してみる。
とりあえず集中するために目を閉じ、手のひらを胸の高さあたりで仰向けにする。
自らの言葉で、ね。ならオリジナルでいい訳か。でもそんなもん簡単には思いつかないしな。今はリリウムと同じ言葉を使ってみるか。
「星に願うは灯り。灯れライト」
体がふわっとする感覚に襲われた。そして一瞬だけ手のひらに光源ができる。しかしそれはすぐに消えてしまった。
今のが加護の力を使う感覚だってのは分かった。けど――
「すぐに消えた。捧げ方が悪いのか? やっぱオリジナルじゃないと力が出ないっぽいな」
自分のオリジナル詠唱か。他の連中がどういう詠唱の仕方をしているか分からんけど、それを少し参考にしたいな。なんか例とかないのか?
目次に戻って調べてみる。教習本とかって大抵例とか多めに書いてあったり、後ろのページにまとめてあったりするよな。化学の元素記号とか社会の年表とか。
「あった。さすが教習本」
最後のページから少し戻ったところに詠唱参考単語一覧と呼ばれるものが書いてあった。この中から何個か選んで組み合われて作るらしい。
参考として加護星を示す言葉があると良いらしいが、なら月って言葉を入れるべきかね。さっきは星に願うって言っちゃったし、月じゃないし。
なら次は月に願うはで言ってみるか。
「月に願うは灯り、灯れライト」
ボワッと球体が手のひらに浮かび上がる。今度はさっきより長時間付いているが、安定していないようだ。球体がふよふよと揺らめいている。
「誰かに願うってのが、性に合わねぇんだよな」
自分に合った捧げる言葉を考えないと、星の加護は引き出せないみたいだな。なら俺の性格に合わせて言葉を選ぶべきだろ。
まず月ってのは俺の加護星の名前だし入れるのは決定。で、他の部分に俺らしさ――俺らしさってなんだ? フィーナには子供っぽいって言われてたな。
子供っぽいなら崇拝はねえよな。願うってのもなんか違う気がする。やっぱ星だろうと月だろうと対等な立場であるべきか? 俺ならむしろ使う側だろ。
ならワードはどうなる。対等か俺より下。なら「誘う」とかどうだ。それか俺の力を示す象徴として「示す」とか入れても良いかもしんない。
よし、この2つで試してみるか。
「月誘いて灯りを灯せ、ライト」
先ほどより明らかに光量、安定性ともに格段にいい。やっぱりこっちの路線であっているみたいだ。よし次。
「月示せ灯りを、ライト――うおっ!?」
魔力が手に集まった瞬間、比べものにならない光が部屋を満たした。
真昼間なのに部屋の窓から強烈な光量がもれている。
「やべぇ、消えろ!」
俺が腕を振るうと光球が霧散して消えた。
「おお、ビビった。これが俺のオリジナルっぽいな。でも威力強すぎんだろ月の加護。これなら威力抑えるときに最初の詠唱使った方がいいかもしれんな。使い分けるか?」
いつもは〝誘いて〟を使い、本気の時は〝示せ〟を使う。
これで決まりだな。
詠唱が決まったところで魔法も使えるようになった。
次のステップは属性の把握と書かれていた。
「属性の把握は、手当たり次第に使ってみるしかない。属性球と呼ばれる属性の付与されたライトを使うことでそれが発動すればその属性の加護星であることが分かり、発動せず普通のライトになればその属性は加護星の属性でないことが分かると。なるほどね。それぞれの属性にするには詠唱に属性の含める言葉を入れればいいだけか」
属性は火、風、水、土の4属性とそれぞれの派生に炎、雷、氷、毒の4つが存在する。
派生属性であっても、使えるのは1つで、例えばフィーナは氷の属性がつかえるが、その派生前の水は使えないってことか。同じようにリリウムの属性は風だが、いくら訓練を積んでも派生属性の雷は使えないと。
「さっそく基礎からやってみますか
月誘いて火の明かりを灯せ、ライト」
ポワッと薄く赤色の混じったライトが出現した。つまりこれが俺の属性ってことか。まあ俺非常識だし、念のため他の属性も調べてみるか? もしかしたら2つ使えるかもしれないし。
「月誘いて風の明かりを灯せ、ライト」
あ、出た。今度は黄緑より薄い緑の色をした球体が浮かび上がった。やっぱ調べといてよかったわ、俺非常識だ。
だが、俺はここで1つ、嫌な予感がした。そもそも火と風の属性がたまたま一発で引き当てることができるのだろうか? つまり、他の属性を持っている可能性……
「一気にやってみるか」
1つずつやるのは面倒くさい。ついでに同時発動の練習もしてみる。
「月誘いて水、土の明かりを灯せ」
とりあえず2つの同時発動からやってみる。属性を持ってなくても、普通のライトが生まれるはず……
「ハハ、俺の非常識もここまで来ますか」
俺の目の前には水色と黄土色の球体が浮いていた。ここまで来るとだいたいわかる。つまり俺は全属性持ちってやつじゃないのか。
「月誘いて炎、雷、氷、毒の明かりを灯せ、ライト!」
こんどは4つ一緒に発動させる。
案の定球体は4つ、しかもそれぞれの色をした球体が浮いていた。
「消えろ」
俺の言葉1つでその4つは消滅する。
「ハハ、楽しくなってきた」
全部の属性を使えてしまった。なら練習する量も8倍必要になるよな。
でも、面白い! 元の世界になかった分、練習にやりがいを感じる!
その日、夜遅くまで俺は魔法の練習に明け暮れた。