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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
デイゴ王国氷海龍編
69/151

68話

「やったか?」


 リリウムが若干不安そうに尋ねる。


「わかんねぇ。結構手ごたえは感じたけど、倒せるまでは行ってないかもしんない」

「今の一撃をしても無理なのか……」


 まあそれが邪神級ってことだろ。

 豪炎の双腕は自分の腕に炎を纏わせる。故に、自分の腕も無事とは言い難い状態になるのだ。自分にもダメージがある代わりに爆発的な威力を発揮させる技だからな。

 現に、俺の両腕も表面が火傷状態になってしまっている。

 普通の人間ならば、完全に皮膚がただれていている温度だ。


「けど無事でもないはずだ」


 煙が晴れ、氷海龍の姿が見えてくる。

 氷海龍は生きていた。しかし、その鼻っ面は氷が割れ、ひどく潰れてしまっている。

 そして回復するための氷も、先ほどの衝撃で全て吹き飛んだ。だから回復は出来ない。


『返せ……』


 それでもなお、氷海龍は戦おうとした。そこで俺は問いかける。今なら話す余裕があると思った。

 知性を持ち、感情を持つ。情報屋の言った言葉の意味を確かめるためだ。


「お前の子供はどうやったら助かるんだ?」

『……我が子に氷の加護を』

「あの、球体が、子供だったん、ですか?」


 ようやく動けるようになったフィーナが、まだ若干辛そうにしながら、リリウムに連れられて俺の下にやってくる。そして氷海龍に対して質問を投げかけた。


『そうだ。我が子は弱っている。力が足りない……私の力はすでに限界まで渡したと言うのに……』


 ふむ、氷海龍の魔力の大半はすでに子供に譲渡してあると? けど、子供にはまだ氷属性の魔力が足りていないから死にそうだと?

 それって魔力の大食らいってことか? てか足りないから、人間の氷属性の魔力を持った奴からもらおうとしたってことか。

 ならタストリアで人を探していたのも、氷属性の加護を持つやつ。しかも結構な魔力量を持ってないと意味ないだろうから、最低でも1等星の加護を持つ奴を探してたってこととか?


「それで、私が船で、魔法を使った時に、出て来たんですね」

『お前は星に愛されている。故に足りると思った』

「けど足りなかったってことか」

『あと少しのはずだ』

「あの氷が、完全に、球体になれば、いいんですか?」

『そうだ』


 どういうことか聞いてみたら、氷の球体は、最初は薔薇の花のように開いていたらしい。

 それに魔力を与えるうちに、徐々に形を球体へと変化させていったのだとか。そんな話を聞いた今じゃ、もう卵にしか思えない。

 しかしそんなことを聞いて、フィーナはどうする気だ?

 同情しようにも、フィーナにも魔力は残っていないから与えられないだろ。


「なら、いい方法があります」


 そう言ってフィーナは俺を見た。

 ん? なにすんの?




 本当に大丈夫なんかね? 俺の魔力なんか注いで。

 フィーナの提案は、俺の魔力を氷海龍の卵にそそぐと言うものだった。月の加護は確かに全属性の加護を持ってるから、氷属性の加護でもあるんだけど、他の属性の魔力が混ざっても大丈夫なのか?

 確証が持てない以上やらない方が良いと思うんだけどな。

 これでだめで卵が壊れたりしたら、それこそ氷海龍発狂もんよ?


「実際どうなのよ?」

「大丈夫だと思うんですけど」

『別の属性の加護は注ごうとしても弾かれる筈だ』

「そうなのか? 少し試してからにした方が良いともうけど」


 子供のことだからな。なるべく慎重にした方が良い。


「ではリリウムさんの風属性を少しだけ入れてみませんか? 3等星なら属性の強さも小さいですから、子供とは言え、邪神級なら問題ないでしょう」

「氷海龍、試してみてもいいか?」

『構わない。少しでも我が子が助かる可能性があるのなら』


 氷海龍は、自分の子供の卵をいとおしそうに見つめながら許可を出した。

 それを受けて、リリウムが卵に近づき、手をかざす。


「では行くぞ」


 そして慎重に少しずつ魔力を流し始めた。

 魔力が手に集まり、氷海龍の卵に向かっていく。そして卵に触れた時点で霧散した。


「ふむ。他の属性は弾かれるようだな」

「なら試してみる価値はあるな」


 俺の全属性から他の属性を弾いて、氷属性の魔力だけを吸収させれば、氷海龍の子供は助かるはずだ。


「トーカ、最初は少しずつお願いします。もしかしたら強さの問題で弾けない可能性もありますから」

「了解」


 リリウムと場所を変わり、今度は俺が氷海龍の卵の前に腰を下ろす。

 そして卵にそっと手を当てて、ゆっくりと魔力を流していく。

 今度は、卵は魔力を弾くことなく、ゆっくりとしたペースだが吸収し始めた。


「これは成功か?」

「おそらく」


 フィーナ、リリウム、氷海龍の視線が俺と卵に注がれる。

 そんな中で、集中して卵に魔力を送り続けていると、次第に変化が現れた。

 卵がうっすらと輝き始める。それを見て、俺は魔力を注ぐのを止め卵から離れる。

 それに対比するように氷海龍が卵を包むようにその体を巻きつける。

 そして卵の光が激しさを増していき、不意に氷に罅が入った。


『おお! 我が子よ!』


 氷海龍が感激の声を上げ、その光景を見つめる。

 俺達3人は、声を上げることもできず、その神秘的な光景をただ見ているだけだ。

 罅が次第に大きくなっていく。

 卵の上部がパリンと音を立てて割れる。

 そして中から小さな鳴き声が聞こえてきた。それは小さく可愛らしい鳴き声だ。


『キュー、キュー』


 その声は必死に親を探すように鳴き声を上げる。

 氷海龍がそれに答えるように小さく鳴き声を上げた。氷海龍独特の言葉なのだろうか、その鳴き声は、俺達にはただの鳴き声としか聞こえない。

 しかし、その声はしっかりと氷海龍の子供には届いたようだ。

 ひょっこりと子供が卵の上部から顔を出す。

 見た目は氷海龍そっくりだ。小さな人形のように小柄で愛らしいが、中身はすでに氷海龍と同じなのだろう。かなりの魔力を感じる。

 顔を出した子供を、氷海龍は優しく舐める。

 子供は嬉しそうにされるがままにしていたが、しばらくするとこちらに視線を向けた。

 その視線の先には、フィーナと俺。どうもリリウムからは視線がそれてるっぽいな。

 と、子供は突然卵の中から飛び出し、フィーナの胸に向かって飛び込んできた。

 慌ててフィーナはその子供を抱きとめる。

 子供は、親がしてくれたのと同じようにフィーナの頬を優しく舐めた。

 ってこれは――


「懐かれてる?」

「そうみたいですね。けど何ででしょう?」

『魔力を与えたからだろう。我々は魔力を分け与えてくれたものを親だと思っている』


 子供がフィーナの頬に顔を摺り寄せる光景を見ながら、氷海龍が説明してくれた。

 しかし、魔力を与えたものを親と思うってことは――


『キュー!』

「やっぱり俺もか」


 フィーナを一通り堪能したらしい子供は、今度は俺の所に飛び込んできた。

 それを抱き留め、頭を撫でてみる。

 ひんやりとして気持ちがいいな。表面もつるつるだし。

 子供はそれがくすぐったかったのか、もぞもぞと動き俺の腕から抜け出した。

 そして、するすると体を首に巻きつけてくる。

 マフラーのように首に体を巻きつけた子供は、その頭をチョコンと俺の頭の上に乗せた。

そして満足げに一鳴き。


「なんだろう。スゲー可愛い」

「そうですね。これはちょっと犯罪的ですよ」

「2人だけズルくないか?」


 魔力を与えられなかったことで、見向きもされないリリウムが少しむくれる。けどしかたがないじゃん。リリウム風属性しか持ってないんだし。

 と、子供が俺の頭の上でもう一度鳴いた。そして口に魔力が集まる。

 これはもしかして


「さっきの冷凍ビーム!?」

「子供でも使えるのか!?」


 俺が驚く。それにつられてリリウムも声を上げた。

 そして俺の頭上で炎が噴き上がった――炎?

 何があったのか分からず、呆然としている俺。しかしフィーナとリリウムは別の意味で呆然としていた。


「何があったんだ?」


 俺は頭上で起きているのことが見えないためよく分からない。

 唯一分かるのは、頭のてっぺんから炎が出たことぐらいだ。少し熱いし……


「い……いま、その子炎を吐きましたよ」

「ああ……間違いなく炎を吐いたな。私もばっちり見たぞ」


 その光景は、親にとっても予想外だったのか、ポカンと口を開けて驚いている。


「なあ、氷海龍ってのは氷属性以外にも使えるもんなのか?」


 ポカンとしたままの親に声を掛ける。その問いかけにハッとした声で氷海龍が答えてくれた。


『水属性ならば使える。しかし火や炎は絶対に無理なはずだ』

「けどこいつ炎吐いたぞ?」

「これはもしかして……」


 そこでフィーナがある仮設に辿り着く。


「トーカの全属性の魔力がそのまま入っちゃったってことじゃないでしょうか?」

「マジ? 氷属性以外は弾かれたんじゃないの?」

「なにぶん初めての試みですからね。リリウムの風属性はしっかりと弾かれていましたから、もしかしたらと言う程度ですが」

「けど、その可能性1番高いだろうな」


 フィーナの意見にリリウムが賛同する。

 けどそれって、もうこいつ氷海龍じゃなくなってね?


「お、親としてはそれでいいのか?」

『我が子が強くなるのはいいことだ』


 氷海龍。意外と臨機応変だった。

 しかし、俺の属性を飲み込んで別の属性も使えるようになったってことは――


「お前、全属性使えるのか?」

『キュー?』


 子供自身にも分からなさそうだ。もしかしたら自分が別の属性を使ったと言うことすらも、よく分かっていないのかもしれない。

 てか魔力を貰って、その属性を使えるようになったってことは、氷海龍は親から魔力を貰ってその力を蓄えてきたって訳だよな。

 そんで今回の子供は、親の魔力のほとんどを貰っても、まだ全然足りないほどの魔力キャパシティーがあったわけだ。

 つまり、すでに潜在能力的な状態で親を超えてることになる。

 そこに加えて1等星のフィーナの氷属性。そして月の全属性の加護が加わってより最強に……俺こいつが成長したら勝てる自信無いかも。

 しかし、氷海龍は親から魔力を貰って子供が生まれるんだよな。ってことは毎回弱くなっていくんじゃないか?

 氷海龍の親自体は、魔力を全部あたえて死ぬわけにはいかないしな。


「なあ、お前らってだんだん弱くなってたのか?」

『そんな訳はない。我々は少しずつ力を強めていく。この力は遥かに長い年月をかけて手に入れたのものだ』

「けど、子供は親より魔力が少なくなるはずじゃないのか?」

『なにも1回の譲渡で全てを渡す訳では無い。何日も何か月もかけて何度も魔力を渡すのだ。必然的に魔力量は多くなる。我が子の場合は器が大きすぎて、私では満たすことができず、卵として過ごせる日にちに限界が来ていたのだ』


 なるほど。そういうことか。なら邪神級と呼ばれるようになるまで、少しずつ力を蓄えて行ったってことになるのか。

 もしかしたら昔は、漁師と協力とかしてた可能性もあるんだな。

 まあ、今は関係のない話か。


「とりあえず、無事子供は生まれたってことで、フィーナは返してもらうぜ」

『もとより我が子が助かれば返す予定だった』

「ぶっ倒れるまで魔力注がせたくせによく言うぜ」


 助かったから笑い話で済ませられるが、もしフィーナが死んでいたら、俺が氷海龍を殺すのにためらいは無かっただろう。

 むしろ、この周辺の島ごと一帯を全て吹き飛ばしていたかもしれない。


『そのことはすまないと思っている。私も我が子の事で頭がいっぱいだったのだ』

「まあまあ、トーカも氷海龍さんも。終わったことですから」

「そういう訳にはいかねぇよ。フィーナ、今回の騒動は俺達だけが巻き込まれた訳じゃねぇってこと忘れてねぇか?」

「あ……」


 今回の騒動で多すぎるほどの人の命が失われている。タストリアは壊滅状態にまで追い込まれたし、親を失った子供も、子供を失った親もいるはずだ。

 1人の親の行動で多くの被害が出たんだ。その被害を簡単に終わったことにさせる訳にはいかねぇ。


「あんたが子供を助けたくて焦ってたのは分かった。けどそれで死んだ奴にはどう責任取るつもりだ?」

『……』

「死んだ中には、子供を助けるために抱きかかえて死んでた親もいたんだぞ。あんたならどういう気持ちで守ったか分かるだろ」

『……我はどうすればいい』

「自分で考えろ――って言いたいところだけどな。あんたは魔物だし人間の感覚が分かり難いのも知ってる。だからとりあえず方針は決めてやる。そこから先は自分で考えるんだ。言われた通りにやるだけじゃ償いにはなんねぇ」

『そうだな』

「方針としちゃあ、人間に便宜を図ることだな。別に人間を優先しろとかそんなことは言わねぇけど、もし困ってる奴を見て、あんたにそれを解決できるだけの力があるなら、助けるんだ」

『そんなことでいいのだろうか。襲ってしまった町を直すのを手伝えると思うが』

「それは止めた方が良いだろう」


 氷海龍の提案を断ったのはリリウムだ。


「あなたは大きすぎるし、今は人に恐怖を植え付けてしまった。今出て行けば確実に人は逃げるか攻撃してくる」

『そうか。ならばしばらくはここでその子の世話をしながら、海に来た人間を助けるとしよう』

「それが良いだろうな」


 とりあえず氷海龍の償いはこれが限界かね? さすがにこの状況で死ねとは言えないし。

海に出た人間に便宜を図らせれば、少しは漁師も氷海龍に対する信仰みたいなもんを取り戻すかもしんないし。


「ほれ、本当の親んとこに戻りな」


 そう言って子供を俺の頭の上から引き離し、氷海龍に向ける。子供はぐずることなく素直に従って親の爪に巻きついた。


「じゃあ俺たちは行くかね」

「そうですね」

「ああ」


 フィーナの両側を挟むようにして、おぼつかない足取りのフィーナに注意しながら外への道を歩き出した。


次回で氷海龍編は最後です。

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