67話
2匹目のボーっとしていたウロスルナの首を落とし、俺は魔法を解いた。
土の壁が崩れ、壁によって別たれた島が1つに戻る。
「さて、リリウムはどうしてるかな?」
あれだけデカい魔物が駈けずりまわっているのだ。少し耳を澄ませれば、すぐにどのあたりにいるのか見当がつく。
少し気になったのは、その音が1つしか聞こえないことだ。
フェリールとバラディオスの速度が一緒とも思えないし、協力して狩りをするような存在にも見えなかった。
なら音が1つしか聞こえないのは、どちらかが死んでいる可能性があると言うことだ。
「リリウム倒したのか?」
確かにA-のランクならば2等星級を倒せないことも無いだろう。しかし、リリウムもそれはタイマンならと言っていた。
リリウムが自分の力を見誤っていたのだろうか?
そりゃねぇよな。なら上手くタイマンに持っていったってところか。
まあいいや。とりあえず残りの1体をサクッと殺して、氷海龍とご対面しますかね。
ウロスルナの鱗を適当に剥がし鞄に入れ、俺は音のする場所に向けて走り出した。
俺がその場所に着いたとき、勝負は膠着状態になっていた。
木の上から見るバラディオスの姿は、恐竜そのものだな。あの背中とかに乗ったら楽しそう。
と、言うことで思ったら即実行。
リリウムに集中しているバラディオスの背中に飛び乗った。
「な!? トーカ!」
突然バラディオスの背中に現れた俺に、リリウムが驚きの声を上げる。
バラディオスも突然背中に乗られ、俺を振り落とそうと懸命に体をゆすったり、木々にぶつけたりする。
しかしその程度で落ちる訳がない。
ゲーセンのロデオマシーン、エクストラモードクリア済みの俺には、余裕だな。
あれは酷かった。超スピードで横回転しながら、体を90度傾けて来るとか、殺人マシーンとしか思えない挙動してたからな。あの動きは牛じゃなくて、完璧にコマだったし。
背中から生えた棘を適当につかんで体勢を保ちながら、俺は気になったことを聞く。
「なあ、フェリールどうした?」
「あ、あれはもう倒した」
「おお、リリウム1人でか。やっぱA-となるとそれぐらいは出来るんだな」
「トーカはもう片付けてしまったのか?」
「2匹とも殺してきた。鱗も何枚か回収しといたぜ」
そう言って鞄を叩く。僅かに鱗どうしが当たって音を立てる。
「そうか、1等星級しかもあのウロスルナを2匹同時に倒せるのか」
「まあ、俺だからな。それよりこいつもとっとと倒して、先に進むぞ」
いい加減、暴れてる奴の背中に乗るのは気持ち悪くなってくるからな。
鎌の刃を回転させ、背中に突き刺す。血があふれ出し、肉が辺りに飛び散る。
バラディオスは、今まで体感したことの無い強烈な痛みに叫び声をあげた。俺はそれを無視して、さらにサイディッシュを体の深くへと突き刺していく。
骨が削られ、内臓を搔き回し、神経をズタズタに引き裂く。
ちょっとすれば、背骨と神経が切れたのか、その場に崩れ落ちるように倒れる。
しかしまだしっかりと息はあるようだ。
弱りながらも、しっかりとこちらに敵意を向けてきている。
俺はその視線を一身に受けながら、斧を首に振り下ろした。
俺がリリウムのそばによると、なにやら複雑な感情のこもった目で見てきた。
「トーカが強いのは理解しているが、こうも簡単に倒されるとやはり納得いかないな」
「まあまあ、リリウムもフェリール1人で倒せたんだろ?」
「確かに。しかしかなり苦戦を強いられたし、長期戦にもなったのだが……」
「その辺りは慣れだって」
なんの根拠も無い適当なことを言いながら、俺とリリウムは島の中心を目指す。
島には、はるか昔に舗装された砂利道があり、その先に祠が建てられているらしい。
今ではその砂利道も草が生い茂り、注意してみなければすぐに道から外れてしまいそうになる。
1等星級と2等星級が同時に襲って来て以降、新たな襲撃は無い。
自分の巣が島ごと吹っ飛ばされるのを警戒しているのか、それともすでに手が尽き果てたのか。
まあ2つ目は無いにしても、このまま何もしてこないってことは無いだろう。
さっきの戦闘中だって、こっそり足元を凍らせたりしてきたしな。
歩きながら考えていると、木々の先に崖が見えた。
「あそこだ。聞いた話ではあの崖に祠が祭られているらしい」
「やっと着いたか」
砂利道の見失わないように歩くのは結構苦労が必要だった。
半径1キロ程度の小さな島だが、この祠に来るまでに15分以上かかってしまっている。
早く巣への入口を見つけないとな。
祠はやはり長年整備されてはおらず、かなりボロボロだ。蔦があらゆるところに絡みつき、土台は半分以上が雑草におおわれている。
中を開いてみれば、小さな鏡があるだけだ。その鏡も割れてしまっている。
「これが氷海龍を祭った祠か」
「そのようだな。内側の壁にも氷海龍の絵が書いてあるようだ」
覗き込めば、そこには氷海龍とそれを崇める人間の姿が書かれている。
「ここまで来たのは良いけど、どこに巣の入口があるんだ?」
「分からない。祠ならば何かヒントがあると思ったんだが」
祠には、特に変わった様子はない。
「まあ、巣のことはこいつら倒してから考えるか」
祠まで辿り着いて調べている時に、再び魔力の波動が放たれていた。
そして祠の周りに集まって来る魔物たち。
この島も、他の島と同じように、はげ島にしてやる。
自分の巣が滅茶苦茶にされりゃ、氷海龍も怒って出て来るだろ。
「リリウム、ぶっ放すから伏せてろよ」
「またか!」
俺の言葉にリリウムが素早く反応し、地面に伏せる。
1度目の衝撃に軽くもみくちゃにされたリリウムは、2度目の時にそれを学び、とっさに伏せるようになった。そして3度目を使う前に、俺にこの技を使う時はあらかじめ言ってくれと言われたのだ。
リリウムが伏せたのを背後に感じて、俺はサイディッシュを振り抜いた。
禿げ島になった光景を見ながら、俺は残党がいないか確認する。
後ろではリリウムが4度目の光景にもかかわらずやはり呆然としている。まあ、普通は考えられない光景だし、仕方がないかね?
土がむき出しになった周辺は、すぐに岩肌が見えていた。
崖の近くだからか、この辺りは土が少ないらしい。
と、周囲を見ていたらリリウムが何かに気づいたらしく声を掛けてきた。
「トーカ。これを見てくれ」
「ん?」
リリウムは、衝撃で吹き飛ばされた祠を見ている。
その祠の先には、空洞ができていた。
「祠の先にある洞窟か」
「広さはそんなにないみたいだが、地面の下に続いているようだ」
地下か。地表に巣っぽいものは無いし、地下に行ってみても良い気がする。てかそこぐらいしか巣に出来そうな場所無いし。
「どうする?」
「もちろん行くぜ」
「しかし地下だと魔法の威力は弱まるぞ」
「まあしょうがねぇだろ。とりあえずフィーナを助けられればいいんだ」
「分かった」
俺達は魔法でライトを発動させ、洞窟の中に入って行った。
洞窟は、人1人が入れる程度の広さしかない。そこで俺が先を歩き、リリウムが後ろを警戒しながら進むことにした。
数分歩いて来ているが、いまだに分かれ道1つ無い。しかも、緩やかに下っているうえに、時々階段のように明らかに人工に作られた跡も何度か見受けられた。
要は、ここは人工の洞窟ってことだよな。わざわざ祠の裏に隠してたってことは、それ相応の理由があるはずだ。
そう、例えば氷海龍の巣に直通しているとか。
どういう理由でこの洞窟を掘ったのかは知らないが、今の俺達には都合がいい。
さらにしばらく進んでいくと、だんだんと気温が下がってくるのを肌で感じる。
洞窟の表面にも、うっすらと氷のようなものが貼りだした。
「リリウム、近いかもしんないぜ」
「そうだな。かなり下に下ってきているはずだ。高さ的にはすでに海の中だろう」
「氷海龍の巣がこの先にあるんだとしたら、奴はその海の中から入ってきてるってことか」
「仮にも海龍なのだからそれぐらいは簡単だろうな」
そういやあ、一応氷ってついてるけど海龍の部類になるのか。
まあ、どうでもいいか。フィーナ助け出すために倒すんだし。
「トーカ、先が広くなっていないか?」
「ああ、見えてる。一気に広くなってるみたいだ。光で先が見えないしな」
洞窟の先には、そこから光が入ってきていた。
俺はライトを消して、入ってくる灯りを頼りに進んでいく。
そして洞窟を抜けた。
目の前に広がるのは、神秘的な光景だった。
ドーム状にくりぬかれた巨大な空洞。その一面は全て滑らかな6角形の氷に覆われ、亀の甲羅のようになっている。
その1枚1枚が光を反射させ、僅かな灯りしかないこの場を明るくしていた。
だが、俺にはその神秘的な光景はどうでもよかった。
目の前にいる存在に全ての注意を注いでいる。
ゆっくりと鎌首を持ち上げるその存在は、間違いなくあの氷海龍だった。
そしてそのすぐ下にいる小さな存在。
「フィーナ!」
俺の声に反応して、フィーナがこちらを振り向いた。
そして笑顔を作る。
よかった。無事だった。
俺がホッとしたのも束の間、フィーナはその場に崩れ落ちた。
「フィーナ!」
全力で踏み込み、フィーナに駆け寄ろうとする。
しかしその進路を氷海龍が遮った。
「邪魔だ!」
『まだ返す訳にはいかない!』
全力で踏み込んだため、サイディッシュを抜く暇も無い。
俺は己の拳のみで、氷海龍と対峙した。
氷海龍の牙が目の前に迫る。俺はそこから目をそらすことなく、逆に集中する。
そしてその間合いを見切り、拳を振るう。
拳は氷海龍の頬に直撃し、氷の体に罅を入れた。そのままの勢いで振り抜けば、氷海龍はその巨体を後ろに吹き飛ばされた。
氷面に激突し、激しい音と共に氷の一部が崩れ落ちる。
氷海龍は、その壁から崩れた氷を操り、自分の罅の入った頬に押し付けた。
それだけで、氷海龍の頬の罅が完全に消える。
自己再生能力は結構強いみたいだな。周りは氷だらけだし、回復させる手段はいくらでもあるってことか。
さすがにこの一帯を吹き飛ばそうにも、すぐ近くには倒れたままのフィーナがいる。
今やるのは危険だ。
とにかく氷海龍をフィーナから引き離す。そうすればリリウムが動いてくれるはずだ。
「月示せ、炎華の胎動。フレイムエクスプロージョン!」
左腕を突きだし、その先に出来た炎の球体を氷海龍に飛ばす。
氷海龍は、自らの魔力を口に集中させると、氷の玉を生み出す。そしてその玉から氷の波が光線のように吐き出される。
炎と氷がぶつかり合い、激しい爆発を起こす。
そもそも、俺の炎は触れた直後に激しい爆発を起こすものだ。
それが氷との直撃によって、さらに激しさを増す。
爆発に巻き込まれた氷が、水蒸気となって辺りを満たす。
息苦しくなったが、今はそれを気にしている状態ではない。
魔法を使っても、さっきと同じように相殺されるだろう。なんせ相手はふざけた量の魔力を自由に使えるのだ。ならば、肉弾戦で勝負するしかない。
相手の武器は、その爪と牙。そして長い体だろう。その3つに注意していれば、問題ないはずだ。
サイディッシュを抜き、鎌を展開させる。
俺は近づくために、けん制を込めてもう一度魔法を発動させた。
「月示せ、土壁の波。グランドウェーブ」
地面の氷を突き破り、その下にある土が津波となって氷海龍を襲う。
その土壁はやはり、氷海龍の氷の光線のような魔法によって破壊された。
しかし、土壁の波に隠れて近づいた俺が、氷海龍の目の前に出る。
そしてサイディッシュを氷海龍の額目掛けて振り下ろした。
ガンッと重い音が周囲に響き渡る。
氷海龍の額と、俺のサイディッシュが火花を上げてぶつかり合った。
少しあたっただけでは、サイディッシュの威力は発揮されない。当て続けることで、その真価を示すのがチェーンソーだ。
氷海龍は、攻撃を受けた瞬間にそれを悟ったのか、首を振って俺を引き離す。
俺は無理することなくそれにしたがって、氷海龍から離れた。
しかしそれでいい。
気が付けば、俺は氷海龍とフィーナの間に立っている。
土壁の波の角度を調整することで、少しずつ氷海龍をフィーナから引き離していたのだ。後は、後ろに押し込むだけである。
「月示せ、気塊の槌。エアハンマー」
「さらに、月示せ、炎華の胎動。フレイムエクスプロージョン!」
エアハンマーの発動と同時に、さらにもう1つの魔法を詠唱する。
氷海龍は、氷の壁を生み出しエアハンマーを受けた。しかしその直後に飛来したフレイムエクスプロージョンに対する防御を間に合わせることができない。
フレイムエクスプロージョンが直撃し、爆発を起こす。
氷海龍が叫び声を上げながら、壁に激突した。激しい煙が氷海龍の姿を完全に隠してしまう。
その瞬間を見計らって、俺はリリウムの名前を呼んだ。
「分かっている!」
リリウムも、すでにフィーナの下に辿り着いていた。
そして抱き上げて、氷海龍と対角線の壁まで下がる。俺が2人と氷海龍の間に入ると、すぐにフィーナの容態を調べ始めた。
「フィーナはどうだ?」
「問題ない。魔力をかなり消費しているが、気絶しているだけだ」
「良かった」
リリウムがぱちぱちとフィーナの頬を軽くたたく。
「う……うぅん」
「大丈夫か? フィーナ」
「リリウム……さん?」
目を覚ましたフィーナがリリウムの名前を呟く。
「俺もいるぜ」
このままだと忘れ去られそうだったので、俺も自己主張しといた。
「トーカ? 私は?」
「魔力を使いすぎて、倒れたんだ。いったいそんなになるまで何をさせられていたんだ?」
「私は……あの氷の塊に魔力を」
フィーナが視線を向ける先には、丸い氷の球体。
他のどの氷よりも、深い青に包まれて、光輝いていた。
「あれが何か分かるか?」
「いえ、聞こうにもそんな雰囲気ではありませんでしたから」
そりゃ氷海龍に「これ何?」なんて聞けないわな。まあ、どんなもんか分からないにしろ、ぶっ壊した方が良さそうだけど。
「壊せると思うか?」
「物自体はただの氷ですので、簡単に壊せると思いますけど」
俺の質問に、フィーナが戸惑う。
なんだろうか。気になることでもあるのか?
「なんかあるの?」
「氷海龍はあれをかなり大切にしています。破壊してしまった場合、どうなるか」
「なるほどね」
宝かなんかは知らんけど、大切な物を破壊されりゃ怒るか。
なら、先に氷海龍を動けなくしてから壊すまでだ。
そう考えた瞬間、煙の中から再び氷の光線が飛び出してきた。
後ろにはフィーナたちがいるから避けられない。
チェーンソーの回転速度を最大にして、俺はその氷に向けて振り抜く。
「はぁああああ!!!」
サイディッシュが氷の光線を切り裂く。しかし、サイディッシュもただでは済まなかった。
高速回転していた刃が止まる。
見れば、刃とその中につながる部分が全て凍ってしまっている。
回転でかなりの高温になっていたはずなのに、それが瞬間冷凍状態だ。
あの光線はかなりやばいな。生身で受けたら、細胞の1つまで瞬間で凍らされる。
凍ってしまったサイディッシュの鎌は使い物にならない。
後は斧側で対応するか、肉弾戦だな。
とりあえず――
俺は光線によって煙の晴れた壁際に視線を集中させる。
氷海龍は多少弱っているようだ。壁に体の一部をもたれさせ、こちらを睨みつけている。
『その加護の娘を返せ』
「もともとこっちのだ!」
氷海龍が突撃してくる。俺はそれを正面から受け止めた。
ガリガリと地面を削りながら、後退させられるが、それでもしっかりと受け止めた両手で、氷海龍の牙をつかむ。
地面に突き刺す勢いで、足を踏ん張る。地面の氷が一気にはがれ、土煙を上げながら、氷海龍の突撃が止まった。
そこに追い打ちを掛けるように氷海龍が氷の光線を再び放とうとしてくる。
俺は口を強引に閉じさせることで、その光線の発射を防ぐ。
そしてにらみ合い。
「なんでそこまでフィーナを欲しがる」
『我が子を守るためだ!』
「子供? 子供がいるのか?」
『我が子を助けるためには、氷の加護がいるのだ! その娘を渡せ!』
「だからって、フィーナを殺されてたまるか! 言わなきゃいけない事が山ほどあんだよ!」
氷の加護がどんな風に子供を守るのかにつながるかは知らないが、フィーナを倒れる状態までしたのは許されない。
「月示せ、豪炎の双腕! プロミネンスバイト」
俺の両腕から炎が迸る。同じ威力で相殺してくるなら、直接ぶつけりゃいいだけだ。
ちょうどいいことに、今目の前でにらみ合いしてんだしな。この腕で思いっきりぶん殴ってやる。
「くらえや」
氷海龍の鼻っ面目掛けて拳を振り抜く。
図体のデカい氷海龍は、俺の拳を避けることができずに、正面から食らった。
ドンッとこれまで以上に激しい衝撃が発生し、この空洞の表面に張っていた氷をすべて吹き飛ばす。
リリウムたちは、その衝撃に巻き込まれないように、風の魔法を全開にして自分たちを守っている。
さすがに風の壁では防ぎきれないだろう大きさの氷は、俺がすぐさまウィンドカッターで砕く。
氷海龍は、大きくのけぞってから、そのまま後ろに倒れ込んだ。




