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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
デイゴ王国氷海龍編
67/151

66話

 中央の島に到着するまでに、2つの島を経由する必要があった。その2つは現在、禿げ島と化している。

 両方とも、俺が森ごと吹き飛ばしたからだ。

 氷海龍が同じことしかしてこないなら、こっちも同じことを繰り返すだけだ。

 そして氷海龍の巣があると言う、中心の島に辿り着いた俺達が見たものは、今までの島とは別の光景だった。


「こりゃスゲーな」

「氷海龍の魔力の影響だろうな」


 島の表面には、海で泳げそうなほどの気温にも関わらず霜柱が立っている。

 幾度の魔力の放出により、その魔力をより近くで受けていたこの島は、魔力の属性の影響すら受けるようになったのだろう。

 そして当然出て来る魔物たち。

 しかしその魔物たちも別物になっていた。俺たちの前には3体の魔物しかいない。しかしリリウムの焦りは容易に見て取れるほど最高潮に達していた。


「フェリールにバラディオス、ウロスルナまでもいるのか」


 リリウムがそれぞれの魔物の名を呟く。

 フェリールは俺が初めて倒した2等星級の魔物だ。しかしその個体よりもはるかに大きく、狂暴性が増しているように見える。

 バラディオスは、2足歩行の肉食恐竜のような姿をした生き物だ。大きさは、フェリールとさほど変わらないことからも、3メートル程度はあると見た。

 口からは鋭利な牙が覗き、その隙間から涎が垂れている。

 その涎が垂れた先の草はジュウジュウと音を立てながら溶けていた。

 そしてウロスルナ。こいつは他の2体とは明らかに違っていた。

 なんというか、その存在感が全く別物なのである。

 胴の長いその姿は巨大な蛇を思わせる。その全長は森に隠れて見ることができないが、3メートルどころの話ではない。

 前者2体をも、余裕で絞め殺すことができるほどの長さはあるだろう。

 そして、その表面を覆う鱗のような物も、1枚1枚が強烈な魔力を帯びている。

 邪神級ほどではないが、それでもその鱗1枚で相当な素材になりそうな気がする。余裕があったら何枚か剥がして持って帰りたいな。


「2等星級2体に1等星級まで来るとは、氷海龍も本気と言うことだろうな」


 俺の感覚を説明するようにリリウムが3体の等星を言ってくれた。

 やっぱり1等星級が出て来たか。

 さて、どうやって倒すか。そう考えようとしたとき、俺はとっさにリリウムを突き飛ばし、自分もその場から飛び退いた。


「トーカいきなり何を!?」

「足元気をつけろ!」


 そう言いながらサイディッシュを振り抜く。

 島の木々を吹き飛ばすほどではないが、地面を抉る程度には衝撃波を生み出し、霜柱ごと地面を削った。

 それとほぼ同時に、地面からもう1体のウロスルナが飛び出してきた。


「2体目だと!?」

「魔物に気を取られ過ぎるな! じっとしていると足元凍らされるぞ!」

「なに!?」


 リリウムが足元を確認すれば、自分の靴に氷が張りついているのに気付いた。

 これはただの霜柱じゃない。俺達を動けなくするためのもんだ。

 ある程度時間が無いと凍り付かないみたいだが、それでも厄介なことに変わりはない。

 それに加えてさっきの奇襲だ。最初から作戦を立てていたと言われても不思議ではない。なるほど知性を持つってのはこのことか。

 魔物の能力に加えてその力を、知性を持って操るのだ。厄介この上ない。


「リリウム。どれぐらいなら1人で戦える?」

「タイマンならば1等星級だと数分と言ったところだ。2等星級ならば勝てるが……」


 生憎1等星級も2等星級も2体ずつだ。

 なら――


「俺がウロスルナは引き受ける。リリウムは倒すことは考えずに、後の2体の相手を頼む。時間稼ぎでいい」

「分かった。それぐらいならばやってみせよう。私も魔の領域にいたのだからな!」


 そういやぁそうだったな。あそこも一応2等星級ならうじゃうじゃしてるんだっけ?


「じゃあ頑張れよ!」

「トーカも気を付けてくれ」

「速攻で片付けて駆けつけてやんよ」


 言葉に続けて詠唱を開始する。


「月示せ、堅牢なる檻。クレイジェイル!」


 土が盛り上がり、俺とリリウムを分断する。それに合わせて魔物も2体ずつに分断した。

 俺の方にウロスルナ2体。そしてリリウムの方にフェリールとバラディオス。

 ウロスルナは分断されるのを嫌ったのか、壁に向かって突撃する。しかし、顔面から突撃したその壁は罅1つ入らず、逆にウロスルナにダメージを与えた。


「甘い甘い。あんたが土ん中掘ることは知ってんだ。なら掘れない硬さにするのは当然だろ?」


 意味は分かっていないだろうが、ウロスルナは俺の挑発するような言葉に怒りをあらわにした。


「2匹とも逃がさねぇよ。速攻でぶち殺してやる」


 サイディッシュを構え、俺は2体に向けて走りだした。




 桃花の魔法で別れたリリウムは、2体の2等星級を相手にしていた。

 魔法で足に風を纏い、木の枝を飛びわたりながら、2体と戦う。出来ることなら地面を使いたいが、霜柱が立っている場所は全て氷海龍が何かしら攻撃を仕掛けてくる可能性を考えて、木の上を選んでいた。

 2体はリリウムを追うように地面を駆ける。フェリールは持ち前の俊敏性でリリウムにぴったりと張り付いて来ているが、バラディオスはその動きを木々が邪魔して思うように動けていなかった。

 徐々にバラディオスとの距離が離れ、視界から完全に消える。

 それを見計らって、リリウムはフェリールに反転攻勢を仕掛けた。


「トーカには時間稼ぎでいいと言われたが、1体ぐらい倒してしまっても良いのだろう?」


 剣に風を纏わせ、切断力を上げる。

 そしてフェリールに切りかかった。

 突然反転してきたリリウムに、フェリールは若干反応が遅れる。その隙をついて、フェリールの顔に剣を振り下ろす。


「ハ!」


 以前は傷1つ付かなかったフェリールの顔に、斬撃が入った。

 ギリギリで躱されたため、傷は頬にうっすらと1本入る程度に収まってしまったが、それでもリリウムには確かな手ごたえを感じる。


「私もまだまだ成長出来ていると言うことだな」


 桃花の滅茶苦茶の影に隠れてしまっているが、リリウムもA-の冒険者なのだ。そして桃花の強さを見て、より力を求めた。

 その成果がこの場で出てきたのだ。

 それに――


「フィーナが攫われたのは、私の責任だからな。少しは役に立たないと」


 リリウムは、ずっと後悔の念に囚われていた。

 もし、あの時フィーナの手を離さなければ。もし、あの時転ばずに扉まで辿り着いていれば。たどり着けなくとも、フィーナだけでも中の冒険者に投げていれば。

 Ifのことを考え、それができなかった自分を責める。

 氷海龍を追いかけようとした桃花を止めたことも、その事に拍車を掛ける。

 桃花はフィーナを攫われたことで、我を忘れるほどに怒った。しかしリリウムにそれは出来なかった。どこか冷静な自分がいて、その冷静な自分が客観的に場を判断してしまうのだ。

 その判断に、冒険者のリリウムは逆らうことができなかった。

 信頼してくれているはずの桃花を後ろから不意打ちで気絶させるなど、今の自分ではどうかしているとしか思えない。

 それほどまでに、心と考えが別れてしまっていたのだ。

 これまでの冒険者としての生活に必要だった技能だったのかもしれない。しかしその技能は、信頼を簡単に裏切れてしまうものだった。

 だから、今は少しでも桃花の負担を減らしたいと思った。

 最後の相手は邪神級だ。その時は、自分は足手まといにしかならないと思っている。せいぜいフィーナを庇う程度だろう。

 ゆえに今、1体でも桃花の敵になる存在を減らすべく、リリウムは戦う。


「あまりトーカは待ってくれないだろうからな。私も全力で攻めさせてもらうぞ」


 リリウムは自分の心に気合を入れ直し、フェリールの振り下ろす爪を躱し懐に飛び込んだ。




 突撃してくるウロスルナをサイディッシュで受け止める。

 ずるずると地面を押されるが、それでもしっかりと受け止めウロスルナの口の中に手を突き出す。


「月示せ、炎華の胎動。フレイムエクスプロージョン!」


 火球がウロスルナの口の中へと入っていき、胴の中ほどで爆発する。

 壮絶な煙が口の中から吐き出され、俺とウロスルナの姿を覆い隠した。

 この程度で死ぬようなら1等星級ではない。ここから平然と攻撃してくるからこその1等星級だ。

 サイディッシュにかかる重みが無くなると同時に、俺はその場で跳躍する。

 その一瞬後に、俺の右手から2匹目のウロスルナが突撃してくる。

 この2体は、さっきから明らかな連携をしている。

 1体が囮となり俺の動きを止める。そしてその間にもう1体が横か後ろから攻撃してくるのだ。

 だが、その作戦は上手くは行っていない。

 俺を思ったように足止め出来ていないからだろう。

 あまり俺と正面から対峙していると、やられることを薄々感づいているのだろうか、数秒動きを止める程度ですぐに下がってしまうのだ。

 もう少し正面から対峙してくれるんなら、そのまま腕力で顎砕いてやるんだけどな。

 しかしさっきから攻撃が突撃してくるばっかりだ。

 それ以外に攻撃方法が無いのかと疑いたくなる。けどその程度の攻撃ならシリゴルとかで対処できるだろうし、1等星級足らしめる何かがあるはずだ。

 ずっとそれを待っているんだが、どうもとっかかりが見えない。

 いっそこっちから動いてみるか?

 再び1体のウロスルナが突撃してきた。その口を大きく広げて、俺に噛みつかんとしてくる。

 俺はサイディッシュの鎌を閉じ、身を屈めた。

 そしてタイミングを見計らって軽く飛び上がる。

 何もしてこないことにウロスルナが若干驚いたような動きを見せたが、もう遅い。俺はウロスルナの口の中に飛び込んだ。


 ねっとりとした体液が体中にまとわりつく。気持ち悪いが、今はそれを気にしている余裕は無い。

 俺はウロスルナの口の中に飛び込み、そのまま胴の方へと降りて行った。

 ウロスルナの体のなかは巨大な空洞になっているらしく、俺が体を屈めれば普通に歩ける程度には高さがある。

 こりゃ獲物を丸のみするために大きくなってる可能性があるな。そう考えるとまんま蛇じゃねぇか。

 ってことはそろそろ来るはずだ。

 俺はぬめっとした体内の中で立ち止まり、サイディッシュを内臓に突き立てる。

 一瞬痙攣したようにビクッとするが、すぐに何事も無かったかのようにもとに戻った。

 そしてじっとしていると、どこからともなく聞こえてくるジュッとする音。

 来た。消化液。

 体内ならば確実に来るだろうと思っていた。

 そして俺はこれを待っていた。

 微妙に危ない手ではあるが、俺が今ウロスルナのどの位置にいるのかの目安になるのがこれぐらいしか思い浮かばなかったのだ。

 消化液が出て来るってことは、すでに俺はウロスルナの食道は超えたって訳だ。

 ならここら辺でいい。

 閉じていたサイディッシュを再び展開させる。そして魔力を流し込んだ。

 キィィィンンと高い音がして、サイディッシュの刃が高速で回転し始める。


「ぶち破る」


 俺はウロスルナの体内でサイディッシュを、満月を描くように振り回した。

 バスンッと衝撃波が体内を蹂躙する。そしてサイディッシュの刃により、内臓がズタズタに切り裂かれていく。

 次第にその切り込みは深くなり、やがてカツンっと何かにあたった。

 俺の予想では、骨かはたまた表面に見えていた鱗になるはずだ。

 傷口からサイディッシュを抜き、その中に手を突っ込む。そしてその固い物を全力で引き抜いた。

 ブチブチと嫌な音がして白いものが見えた。どうやら骨だったらしい。

 ならちょうどいい。ここら辺の骨全部引き抜いてやる!

 俺は安定しない足場に足を突き刺し強引に安定させる。そしてその骨を抜き放った。

 その瞬間、そこから光が差し込む。

 どうやら骨を強引に抜いた瞬間、外側の肉ごと内側に引きずり込み、皮が裂けてしまったようだ。

 大量の血と体液と共に、俺はその隙間から外に出る。


「ふぅ……だいぶ溶けちまったな」


 服は消化液により半分以上が溶けてしまっている。

 ズボンは片方が半ズボンになってしまっているし、上は、片腕だけノースリーブ状態だ。

 背中にもぽっかりと穴が開いてしまっている。

 肌はちょっとひりひりする程度に収まっているのが不思議なぐらいだ。


「この服気に入ってたんだけどな。まあいいや、こいつの素材売っていい服でも買いますか」


 出てきた場所を見れば、ウロスルナはすでに息絶え、その場に倒れていた。骨を抜かれた時に、ショック死したみたいだな。

 そして、その光景に動きを止めてしまっている、もう1体のウロスルナ。

 驚きすぎると、魔物でも動きが止まるのな。

 サイディッシュの斧側を構え、壮絶な笑みを湛えながら俺はその動きを止めたもう1体に近づいて行った。




 時々攻撃を加えては、バラディオスが追いつき追いかけっこを再開する。

 これをすでに5度は繰り返し、リリウムは確実にフェリールにダメージを与えて行った。

 フェリールの動きにキレが無くなってきたのも、その証拠だ。

 今までは全力で逃げるリリウムにぴったりとくっついてきたフェリールだが、3度目の攻撃で足に傷を負ってからというもの、時々リリウムの姿を見失うようになっている。

 その隙をついて、またリリウムがダメージを入れることで、着実にフェリールは弱ってきていた。


「次で行けそうだな」


 後ろから追ってくるフェリールを覗き見ながら、リリウムは攻撃のタイミングを見計らう。

 多少弱ってきたとはいえ、相手は2等星級。こちらは1度でも攻撃を受ければ死に直結する相手だ。

 ゆえに慎重さはどれだけあっても足りることは無い。

 ジグザグに枝を飛び移りながら、フェリールの様子を観察する。

 と、フェリールが躓くような姿勢を見せた。

 その瞬間を見て、リリウムは一気に速度を上げる。1度完全に見失わせてから、隙を突く作戦だ。

 一瞬躓いたフェリールは、速度を上げたリリウムに追いつくことができず、その姿を見失ってしまう。

 適当に走っても、森の中で動き回る人間1人を見つけることなどできは無しない。

 ゆえに、その場にとどまることをフェリールは決めた。

 しかしそれこそリリウムの思う壺だった。

 リリウムは、木の影に隠れながらフェリールの背後へと回る。


「ここはお前を頼りにしているぞ」


 ずっと一緒に冒険をしてきた相棒の剣をこつんと叩き、襲撃のタイミングを見計らう。

 フェリールは辺りを警戒しながら、ゆっくりと森を進んでいる。

 あまり遅くしていてもバラディオスに追いつかれる可能性がある。故にのんびりはしていられない。

 なかなか注意が逸れないフェリール。そこでリリウムは、注意の方向を操ることにした。

 懐から小さな投げナイフを取り出す。

 そしてそれをフェリールの正面上にある木に向かって投げつけた。

 ナイフは木の葉に当たりその場でカサカサと音を立てる。

 フェリールはリリウムのもくろみ通りに、その音に注意を向けた。

 ずっと木の枝を移動してきたために、今回の襲撃も上から来ると無意識のうちに想定してしまったのだ。

 その隙をついて、リリウムが背後から迫る。

 全力で走り寄り、フェリールの股下に入る。


「覚悟!」


 風を纏った剣は、フェリールの腹から首にかけてを切り裂いた。


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