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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
デイゴ王国氷海龍編
66/151

65話

 俺は昨日と同じ教会の扉を見ていた。横にはリリウムが立っている。

 大きく息を吸い込み、短く吐き出す。


「よし!」


 気合いを入れて、俺は教会の扉を開いた。


 その女性は、やはり昨日と同じ状態で祈りをささげていた。そして今日は、俺たちが中に入ると、すぐに立ち上がり振り返る。


「良くいらっしゃいましたね」

「ああ、また来た」


 女性は俺と見えないはずの視線をぶつけ合う。それは決してにらみ合うようなものではなく、互いを確かめるような意味合いが強かった。

 そしてしばらく見つめ合うと、ふっと女性の表情がほころんだ。


「自分の心に、気が付けたようですね」

「ああ、あんたに言われて、リリウムに助けられて、ようやくだけどな」

「それでいいんですよ。何でも1人で出来る人なんていません。どんなに力があっても、どれだけ経験があっても、1人ではやはり限界があります」


 そう言って女性は銅像を見上げる。

 俺にはその姿が、銅像の女性と同じように見えた。


「あんたはいったい何者なんだ? 情報が集まるにしても、詳しすぎる」


 この女性の口ぶりは、完全に俺の能力を把握しているような口ぶりだ。むしろそれ以上に俺の過去すら知っていそうな口ぶりである。

 しかし俺の過去はこの世界とは別の世界にある。だからこの世界の人間に俺の過去を知る奴は2人しかいない筈なのだ。フィーナとリリウム。俺が俺自身のことを話した2人だけのはずなのに、この女性は全てを知っているように思えてしまう。

 しかし、その事に以前会った何でも屋のような情報を知られている不快感は無かった。それも不思議なことだ。


「さあ? 私は私です。それ以上でもそれ以下でもありません。しがない情報屋の1人ですよ」


 そう言って女性はくすくすと笑う。

 そして表情を改めた。


「さて、ではあなたが望む情報を提供しましょう。今のあなたならば破滅することは無いでしょうから」

「おう、頼む」

「氷海龍の巣はここから船で30分ほど行った場所にある、小さな小島の集まる場所にあります。その小島の中心に1つだけ他のより明らかに大きな島があります。その島が氷海龍の巣になっていますよ」

「そんな場所に氷海龍の巣が?」


 驚きの声を上げたのはリリウムだった。


「小島の集まりならば漁師が多くいてもおかしくはない。そんな人の集まる場所に氷海龍は巣を作っているのか?」

「その小島の集まりは、海底の起伏が激しく、流れが非常にいびつなのです。ゆえに漁師はそこで漁をすることができず、近づくことすら難しい。氷海龍はその海流すら操ることができると言われていますからね。人を近づけないように流れを操ることも簡単な事なのでしょう」


 なるほどね。航海技術が意外と発達していないこの世界ならば、海流を操作することで船を近づけないようにすることは難しくないかもしれない。

 その上、邪神級の魔物がいる可能性があると分かれば、人は自分から近づくことなど無いだろう。

 漁師が民話を知って、その場所を知っているのならなおさらだ。


「と、言うことはその小島はどれも無人島なのか?」

「はい。巣のある島に小さな祠が1つあるだけで、それ以外は全て手つかずの自然ですよ。まあ、そうは言っても小さな島ばかりですからね。住めるような広さが無いのも多いですし」

「なるほど」


 リリウムが納得したようにうなずく。


「了解。場所が分かれば後は助けに行くだけだ」

「では最後に私から1つアドバイスです」

「ん?」

「邪神級は確かに魔物ですが、私たちと同じように知性を持ち、感情を持ちます。その事をお忘れなきよう」

「んー、何のことか良くわかんねぇけど、まあ了解」


 正直俺の見てきた氷海龍にそれほど知性があるようには思えなかったけどな。かなり感情的に暴れてた気がするし。


「心の隅に置いておけばいいですよ」

「分かった。情報ありがとな」

「桃花さんも頑張ってくださいね」

「やっぱり名前知ってんのか……」

「情報屋ですから」


 女性は、にっこりとほほ笑みながら手を振って、俺達が教会から出るのを見送ってくれた。

 あれ? あいつ今俺のことを桃花って呼ばなかったか?


 場所が分かれば後は足の確保だ。

 しかし情報通りなら足の確保が1番難しいことになる。

 そもそも漁師はその島に行きたいと言っても連れて行ってくれないだろうし、他の船持ちに頼んでも、おそらく海流の問題から近づきたくはないだろう。

 その島に近づいて座礁しようものなら笑い話にもならないからな。


「さて、どうするよ?」

「自分たちで船を確保するのが1番早いだろうな」

「だよなー、けど船ってそんな簡単に手に入るもん?」

「小さいものなら何とかなるだろう。幸い乗るのは助け出すフィーナを合わせても3人だ」

「それもそうか。なら船を買うとしますかね」

「その場で使い潰す可能性もあるから、なるべく安いのに……いや、船が壊れた場合は私たちの帰る手段がなくなるのか」


 場所が島だからな。


「なら少し高くても頑丈なのにする?」

「しかしそもそも巻き込まれないようにしないと意味が無いんじゃないか? 氷海龍の攻撃に耐える船なんて、私たちが乗っていた客船でもないと無理だろう」

「それもそっか。なら1番外側の島に泊めて、後は島を渡って行くしかないか」

「それも難しいんじゃないか? 密集していると言っても島どうしの距離は結構あると思うぞ?」

「まあ、その時は魔法で凍らせるさ。リリウムでも風で飛び越えれないことは無いだろうし」

「それもそうか。しかし海を凍らせることができることに驚かなくなってしまった私も、少し常識から外れてきてしまった気がするな……」


 そう言ってリリウムが遠い目をする。

 失礼な。凍らせるのは島と島の間に1本道とかそんなもんしかできないんだぞ。

 さすがに海全体を凍らせるなんてきついだろうし。

 と、いう訳で俺たちは適当に安い船を買うために、港に向かった。


 港でとりあえず船を買える場所を探す。

 そもそも港なら買えるんかね? なんかノリと勢いできちゃったけど、造船所とか行った方が良い気がするんだけど。


「なあ、船って港で買えるのか?」

「トーカが知ってるんじゃないのか?」

「え?」

「ん?」


 リリウム知ってて港来たんじゃないの?

 これはあれだ。お互いの認識に齟齬が発生していると見た。

 リリウムは俺が船の買える場所を知ってて港に向かっていると思っていて、俺はリリウムが船の買える場所を知ってると思って付いて来てたと。

 なんか懐かしい気がするが、とりあえず――


「近くの人に聞いてみるか」

「そうだな」


 民家の扉を叩くことにした。


 結論から言えば、造船所自体が港の近くにあった。

 そして俺たちは、無事船を購入。帆船なんて豪華なもんは買うつもりも無く、まさしく手漕ぎボートと言った感じの小さな船を買った。

 しかし小さな木のボートでも5万チップか。結構するもんだな。


「では行くとするか」

「漕ぐのは任せろ!」

「当然だ。馬鹿力頼りにしているぞ」

「おう!」


 リリウムが地図を片手に航路を示してくれる。後は俺がその指示にしたがってひたすら漕ぐだけだった。




 魔力を与え続けて3日目。フィーナはさすがに演技なしに、限界に近づいていた。

 氷の薔薇は、その姿を少しずつ変え、今では蕾に戻ったかのように丸くなっている。

 綺麗に開かれていた花弁のような氷も、全てその球体の中に飲まれてしまっていた。

 氷海龍は、その姿をずっと見続けている。

 時折巣を出て行くことがあるが、それもほんの数分程度で、戻ってきたときには、数個の果実がフィーナに渡された。

 フィーナはそれを食べて飢えをしのいでいる。

 しかしそれもそろそろ限界だった。


「諦める訳にはいかないです」


 与える魔力は限界まで絞って少しずつ放出している。

 今のままだと後半日が限界だろうと、フィーナは自分の体と相談しながら判断する。

 もしこれが1人の時や、行商時代の出来事だったのならとっくに諦めて倒れていただろう。しかし、今は諦めることができなかった。

 それも全て桃花の影響だ。

 桃花ならばなんとかしてくれる。桃花ならば助けてくれる。

 そう信じられるだけの行動を桃花が今まで取って来たからこそ、フィーナは相手が邪神級でも諦めずに必死に考え、必死に耐えてきた。


「きっと助けに来てくれます」


 自分に言い聞かせるようにつぶやく。

 その時、ずっと氷の玉を見続けていた氷海龍が空を見上げるように、地上に視線を向けた。

 その姿を目で追う。

 氷海龍はじっと1点を見続ける。そして氷海龍が唸り声を上げ、体から魔力を放ち始めた。

 それを見てフィーナは何となく理解する。

 桃花が助けに来てくれたのだと。




 リリウムの指示に従うこと30分。全力で漕ぎ続けた結果、目的の小島の密集地に到着することができた。

 ここまで氷海龍の妨害は無い。なら考えられるのは、俺達の存在に気付いていないか俺達の存在が気にするほどのものでもないと判断されているか、それとも氷海龍がまだ手を出せない場所にいるのかだ。

 ただ1番目と2番目の可能性は低いと俺は思っている。

 氷海龍は邪神級だ。しかも途方もない魔力を持っている。ならば魔力探査をかなりの精度で使えるだろう。故に俺たちの存在に気付いていないとは思えない。

 そして2番目の可能性は、前回の戦闘で俺と戦っている以上、あり得ない。

 最初にぶつかった時に、俺が何となく相手の強さを理解できたのだ。なら氷海龍もこっちの強さを理解できているはずである。そうでなければ、船の上で俺との戦闘を避けてフィーナを攫うことだけに集中した理由が分からなくなる。

 だから答えは3つ目。まだ手の出せない範囲にいるのが正しいと思っている。

 しかしここからは別だろう。なんせ島々は氷海龍のテリトリーだ。何かしてくるなら、島に上陸した時だと思っている。


「つうわけでリリウム、気を引き締めろ」

「言われなくても分かっている。非常識なトーカと違って私は一般人だ。邪神級の怖さは良く知っている」

「非常識で悪うござんしたね」


 リリウムはすでに剣を抜き、いつでも戦える体勢だ。

 俺はそれを視界の隅に入れながら、乗ってきたボートを島の木にロープで縛り付ける。


「さて、ほんじゃ行きますか」

「ああ」


 目指すのは島々の中心、氷海龍の巣がある島だ。




 変化は、船で着いた島からもう1つ内側の島に移動した時におきた。


「リリウム!」

「この魔力は氷海龍か!」

「間違いねぇ。仕掛けて来るぞ!」


 突然小島の全域を満たすほどの濃厚な魔力があふれ出す。

 それに合わせるように、島に生えている木々がざわざわと揺れた。

 リリウムはとっさに俺の背中を守るように立ち、周囲を警戒する。その動きに俺は一瞬ビクッとなってしまった。船の時に殴られたからな。ちょっとトラウマになってるかも……

 今いる小島は、中心に見える小島ほど大きくはないが、それでもいったん森の中に入れば、周りの木々に阻まれて浜が見えなくなる程度には広い。さらに人の手が入っていない森は、うっそうと茂っていて視界が非常に悪かった。

 魔力が発生したのが、俺たちが島の中心付近に来た時と同時な事を考えると、この位置に来るのを待っていた可能性があるな。

 背中合わせに周囲を警戒していると、木々の間に動物の姿が見えた。

 しかしそれは1匹だけではない。

 次々と湧き上がるように出て来る動物たち。しかしそのどれもが血走った目をしている。つまり――


「魔物か」

「どうやらこの周辺にいた鳥や動物が魔物化させられたらしいな」

「これも氷海龍の力ってやつか」

「おそらくそうだろう。邪神級は魔物を生み出せると聞く。しかしこれほど劇的に生み出せるとは……」


 リリウムの焦りが背中越しに伝わる。

 しかし今の俺には、この程度の存在が脅威とは思えなかった。


「リリウム。この島の周辺は無人だよな?」

「いきなりなんだ? まあそうだが」

「なら遠慮いらねぇだろ。結構堪えてきたんだ。ここら辺で爆発させてもらうわ」

「トーカ、何をいっ……」


 リリウムの言葉は最後まで聞こえることは無かった。

 それは魔物たちが襲いかかって来たからではない。

 けたたましいサイディッシュの回転音が、リリウムの声をかき消したのだ。


「遠慮はしねぇ。邪魔するなら全部薙ぎ払う! そんでもって正面から堂々と奪い返してやるよ!」


 圧倒的な叫び声を上げるサイディッシュにも負けない声で、高らかに宣言する。


「これが俺の宣戦布告だ! 受け取れ氷海龍!」


 俺は全ての力を込めて、サイディッシュを振り抜いた。


 振り抜いた衝撃が島を襲う。

 その衝撃波に大地が揺れ、地表を抉り、木々が強引に引き抜かれ、折れ、なぎ倒され吹き飛ばされていく。

 俺の一振りによって、小島の表面は焦土と化した。

 無事だったのは、俺の真後ろでとっさに伏せたリリウムだけだ。それでも少し巻き込まれて土まみれになっている。

 当のリリウムは何が起きたのかまだわかってない状況だけどな!


「うし、第2の島突破だな」

「あ……ああ」


 木の影に隠れていた魔物たちは、全て木々に巻き込まれて海に落ちたか、下敷きになっている。

 いちいち雑魚に構っている暇はないのだ。

 加熱して煙を上げるサイディッシュを片手に、俺は目的の島目指して歩みを進めた。


これ魔力流した意味ないですよね。まあ、あれです。ノリですよノリ

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