5話
「久しぶりのキクリ!」
町への出入り口の前で腕を広げてたら衛兵に変な顔で見られた。
まあ、いいや。と言うことで冒険者カードを見せて中に入る。商業カードよりかは手荷物検査なので時間がかかったが、それでも普通に入るよりは断然速いっぽい。
だって、俺が並んでる時から検査してた一般人は、俺が検査終わって町に入ってもまだ検査してたからな。あんなに何を検査するんだか。
そして最初に行くのはギルド。依頼の完了報告は何よりも優先されなければならないのだ。まあ、俺の場合は、先に完了報告済ませて金が欲しいんだが……
「やあ、久しぶり」
俺はあえて依頼を受けた受付嬢のところへやってきた。
「どうしました? 受理を取りやめますか? 罰則金が発生しますが」
「いやいや、完了報告だよ」
「なっ!?」
やっぱ驚く顔って面白いな。それが美人だとなおさらだわ。
「これが依頼の素材な」
そしてリュックから爪と牙5本ずつを取り出す。
受付嬢は驚きながらも素材を確認していく。そして――
「た、確かに素材を受け取りました。これで依頼は達成になります。依頼料のお支払はどうしましょうか?」
「何があんの?」
「そういえば新人でしたね……依頼料のお支払は現金でそのまま渡す場合と、ギルドの口座を作成してそちらに振り込まれる仕組みがございます。大金なので振り込まれる方が殆どですが」
「じゃあ、口座作ってそっちに入れたい」
「承りました。こちらが口座開設用の書類になります」
俺はそこに記入をしてギルドカードと共に受付に渡す。
「はい、これで口座の開設は完了しました。依頼料はこちらの口座に振り込まれます。また、口座からお金を引き出したい場合はギルドカードを使って各ギルドの受付で可能です」
「了解。振り込みっていつごろ入る?」
「明日には入っています」
「了解、じゃあね」
「お疲れ様でした……」
怒涛のように押し寄せた俺と言う波によって、受付嬢は疲れ切った様子で俺を見送った。
そして俺が次に向かう場所はカナの家。しかし俺はカナの家がどこにあるか知らない。
「でさ、マナカナの家を教えて欲しい訳」
「ふん、ガキに2人の家なぞ教えるもんか。それはこの露店商全員の誓いだ!」
一人目から玉砕した。なるほど、アイドル的な存在だからみんなで守ろうってことか。しかしそれだと困った。この眼球を届けられない。
と、そういえばカナって冒険者だったんだっけ?なら冒険者ギルドで家の場所教えてくんないかな? 教えてくんなくても連絡が取れればいいわけだし。
そして俺は今来た道を全速力で戻ることになった。
「こんちは!」
「来ましたね、化け物」
猫耳少女の受付に顔を出したらひどい言われようだった。
「化け物とは失礼な! こんなんでも人間です!」
「こんなんとか言っちゃってる時点で自分が化け物みたいだって認めちゃってるじゃないですか!」
「いや、だって俺の力って人間超えてるし? 普通じゃないのは理解してるさ」
「だったら少しは自重してください! さっきの依頼の達成でギルドの上が騒がしくて敵いません!」
「上?」
「今上で重役たちが会議を行っているんですよ。あなたのランクについて。本当に一人でフェリールを倒せるほどの実力があるのならF-になんて置いておける訳ないじゃないですか。今それで事実確認を行っているんです。私は見ての通り耳がいいから重役の怒鳴り声とか聞こえてきてすっごく耳障りなんですよ!」
「ああ、それで気が立ってるわけね。かわいい毛並まで逆立ってるぜ」
猫がフーッてやるみたいになっている。そういうのも可愛いけど、やっぱり毛並は滑らかな方が好きだしな俺は。
「なっ……そんなこと言われても騙されませんよ! そもそも本当に一人で狩って来たんですか? 依頼内容は素材の確保でしたから討伐確認をせずに完了しましたけど、これ討伐依頼だったら事実確認だけで1か月はかかりますよ?」
「マジマジ。魔の領域に行って、浅いところで木を揺らしておびき出して殴って殺した」
「いろいろと非常識すぎますが、ここまで来ると逆に清々しいですね」
「そういえばそん時に1人証人みたいなのができたぞ。たまたま森の中であったんだけどな、最初は突っかかって来たのに、フェリール倒した後はやけに普通な対応になったな」
「どなたですか? 魔の領域にいる人なんて結構限られますけど?」
「リリウムっていう冒険者だよ。結構有名なんだって?」
「リリウム様ですか!?」
その名前に驚いて、猫耳少女がダンと立ち上がる。その音に驚いて周りにいた人たちが全員猫耳少女を見た。
それに気づいた猫耳少女は恥ずかしそうに再び着席する。
てか猫耳少女っていちいち言いにくいな。そういえば名前聞き忘れてた。
「なあなあ」
「なんでしょうか?」
「君名前なんて言うの? そういえば聞いて無くってさ」
「ああ、私はハルシアと言います」
ハルシア……どっかで聞いたような。ああ! 思い出した!
「あんたが前冒険者崩れが言ってたハルちゃんか!」
「なんですかその呼び方は!? というか冒険者崩れってなんですか!?」
本人はハルちゃんとは呼ばれていないらしい。
そこで俺はところどころに嘘を交えつつ、ハルちゃんと言われていたことと冒険者崩れを叩きのめしたことを語った。
「て、訳。分かったかハルちゃん」
「うう……そんなことに。というかハルちゃんって呼び方やめてください! 恥ずかしいです!」
「いいじゃん、可愛いと思うぜ。な、あんたもそう思うだろ?」
俺はさっきから俺とハルちゃんの会話に聞き耳を立てていた隣の受付嬢に話しかける。
突然振られて驚いているが、顔はうんうんと頷いていた。
「な」
「な。じゃありません。恥ずかしいんです!」
それでもなお、強固にハルちゃんと呼ばれるのを拒否し続けるハルちゃん。仕方ないならば別の呼び方を考えてあげるか。
「ならハルたんね」
「ハルたん?」
「俺の地元で最上級にかわいい子を示す時の敬称」
「なっ!?」
おお! 耳がピンと立った! しかも内側が真っ赤に染まってる!
「何を言い出すんですか!? やめてください!」
「えー、ハルちゃんが嫌だって言うからハルたんにしたのに……」
「いいですよ! わかりましたよ! ハルちゃんでいいですからハルたんだけはやめてください!」
「了解、よろしくなハルちゃん。で、本題なんだけど」
やけに遠回りした気がするな。
「冒険者のカナって子の住所分かる? 教えられないなら連絡だけでも取りたいんだけど」
「カナさんですか?」
ハルちゃんはきょとんとした顔で首を傾げる。
その反応は知り合いっぽいな。
「そう、妹にマナって子がいるカナ。知り合い?」
「ええ、時々依頼を受けに来ていますから。数少ない女性冒険者ですし、受付の皆とも仲がいいです。マナちゃんの作ったお菓子とか持ってきてくれますし」
「物でつられてんのかよ、受付……」
「そ!……そんな訳ないじゃないですか」
「思いっきりキョドってますよ」
「それより! カナさんと連絡を取ってどうするんですか?」
「マナって子が病気なんだろ? そして俺はフェリールを討伐してきたわけだ。それだけ言えば分かるんじゃない?」
「まさか目を持っているんですか!?」
「え!? フェリールの目があるの!?」
「ほんと!?」
ハルちゃんの声で受付嬢の半分がこちらを見た。てかみんな聞き耳立ててたのかよ……そしてみんな食べ物につられてたのかよ……
「これな」
俺はリュックにしまってあったフェリールの目の瓶詰を取り出す。
それを見た受付嬢たちがにわかに沸き立つ。
「どう、連絡取れる?」
「あ、はい! すぐに連絡を取ります! 取らせます!」
ハルちゃんの言葉を合図に受付嬢たちがせわしなく動き出した。きっと全力で伝手を使って連絡を取るつもりなんだろうな。まあ、俺はその間休憩所で休ませてもらおうかね。
休憩所にいることだけ告げて、俺は受付を後にした。
数分後、一人の女性がギルドに駆け込んでくる。
「カナ! こっちだぜ」
「トーカ! フェリールの目があるって本当か!?」
「ああ、これだぜ」
俺は瓶をカナに渡す。
「頼む! いくらでも出す! なんだったら私もやる! だからこれを譲ってくれ!」
ギルド中に聞こえる大声でそんなこと言いやがった。
「まあまあ落ち着けって。ちゃんと交渉するから」
俺はギルド中の視線。主に受付嬢からの冷たい視線を受けながらカナを落ち着かせるために椅子に座らせる。
「ほら、水でも飲んで落ち着け」
「ああ、すまない」
カナはよほど急いで来たのか、出された水を一気に飲み干す。
「落ち着いた?」
「うん、大丈夫。落ち着いたわ」
「そりゃよかった。で、このフェリールの目だけどな、カナに売ろうと思ってる」
「そうか! ありがとう! だがすまないがそんなに金は無いぞ?」
「大丈夫。金は要らないさ」
「なっ!? やはり体か……?」
カナは顔を真っ赤にして尻すぼみに聞く。お姉さん系のカナがそんな可愛い姿をすると、ギャップでかなりやばいが、俺はそんなことをお願いするためにフェリールの目を取って来たのではないのだ。
「違い違う。あの串焼きを買う時に値引きして欲しいんだよ」
「なっ! そんなことでいいのか!?」
カナは今度は別の意味で驚いた。てかカナ今日だけで一生分驚いてるんじゃないか?
「あれにはハマったからな。これから良く食うだろうし、少しでも安くしておきたい。最終的には元を取るつもりだからな!」
何日たってもあの串焼きの美味さが忘れられないのだ。今も思い出しただけで涎が……
「そんなことならお安い御用だ! マナが元気になればまた店を始められる! むしろ無料にしても良いぐらいだ!」
「それはだめだぜ。せめて原価分は取らないと店自体がやって行けなくなっちまうかも知れないからな。そうなったら困るのは俺だ」
「そうか、なら精一杯サービスさせてもらうよ!」
「ああ、期待してるぜ。じゃあ行ってやんな。マナが待ってるんだろ?」
「そうだな。ありがとう!」
カナは嬉しそうに瓶を抱えると、ギルドを後にした。
俺はその場に残って、カップに入っていた冷めた紅茶をちびちびと飲む。
やっぱいいことをした後の紅茶は、いくら冷めてても美味いね。
そんなことを思いながら飲んでいると、人影が俺の頭上を覆った。
「んあ?」
俺は首だけ上げてその正体を確認する。それはあの受付嬢だ。
「あなた、もしかしてあの子のためにフェリールを?」
「どうだろうね」
「そう、なかなか見どころはありそうね」
「そりゃどういたしまして」
これはもしかして俺の株価急上昇か?
「まあ、私に対する態度の悪さから差し引き0ってところかしら」
「ハハ、あの時は急いでたもんでね。悪かったな」
「もういいわ、理由も分かったし。でもむやみやたらと他人を挑発しない方がいいわよ。冒険者なんて荒くれ者が多いんだから闇討ちされるわよ?」
「それは警告?それともアドバイス?」
「経験者からのア・ド・バ・イ・ス」
「ならありがたく聞いとくよ」
「それがいいわ。そういえば私の名前、まだ言ってなかったわね」
「そうだな。聞いてないや」
「私はサリナよ。よろしくね」
「トーカだ。よろしくな」
サリナと和解して俺はギルドを出た。
もう今日はさすがに、何もやる気にならない。
とっとと宿に戻って、ベッドにダイブする。
やっと着いた一段落に、俺はホッとしながら眠りに着いた。
翌朝。食堂に降りるとおっちゃんが話しかけてきた。そういえば宿泊費そろそろ払わないといけねぇや。
「おう、今朝は早いんだな」
「昨日早く寝ちまってな。それより宿泊費ってそろそろ1週間たつんじゃねぇか?」
「坊主ここ最近依頼で出かけてただろ?」
「ああ、4日ほど居なかった」
「その間の金額は差し引いてある。坊主の残り宿泊日はあと4日だ」
「マジか! そんなサービスやってるなんて知らなかったぜ」
「止まり木は冒険者がよく泊まるからな。依頼で部屋を開けるなんてよくあることだ。そのあたりのサービスもやらないと他の宿に客を取られちまうからな」
「大変なんだな」
「宿なんてどこもそんなもんだ。それより今日はどうするんだ? 冒険者業は休みか?」
「ああ、さすがに働きづめは疲れるんでね。借りてた金を返して、ゆっくりするさ」
今日は振り込まれているはずの依頼料を引き出して金を返す。その後はどうするかね。
「なんだ借金があるのか?」
「正式なもんじゃないけどな。一時的に個人間で貸してもらってるだけさ」
「冒険者によく貸したな。普通ならだれも貸さねえぞ?」
「やっぱ死亡率が高いから?」
「ああ、依頼に出かけて帰ってこない奴なんて結構いるからな。家の宿の場合は、部屋に戻らなくなってから半月で死んだと判断して部屋を片付ける。前もって言ってくれれば別だけどな。そうなった場合は大抵部屋を出てから行っちまうからな」
「確かに」
朝食を平らげて、宿を出る。まずはギルドへ。
「おはよう、ハルちゃん」
「あ、トーカさん。おはようございます」
ハルちゃんって呼び方には慣れたみたいだな。あのおどおどしてる姿も可愛かったし、ちと惜しい。
「口座から引き出したいんだけど」
「あ、はい。ではカードをお願いします」
言われた通りカードを渡す。
「いくら引き出されますか?」
「とりあえず6万チップ頼むわ。2万チップは1,000硬貨でね」
「わかりました。少々お待ちくださいね」
ハルちゃんがお金を持ってくるために席を立つ。
ハルちゃんが戻ってくる間暇になってしまった。地球にいたころは携帯とかいじって暇をつぶせたけど、こっちじゃそういうのは無いもんな。
そこでリュックの中から本を取り出す。
ギルドで借りた教習本だ。ちまちまと読み進めてはいるが、まとめて読んでいないから結構時間がかかっている。だが、魔法の基礎はだいたいわかった。そろそろ基礎魔法ぐらいなら使ってみても良いかもしれない。まあ、最初は無害なのから始めるけど。
と、そんな風に待っているとハルちゃんが戻ってきた。
「お待たせしました。こちらがお金になります。ご確認ください」
革製の袋に入れられた硬貨を確認する。うし、ちゃんとあるな。
「おっけー、ちゃんとあったぜ」
「ではカードをお返ししますね。そういえばトーカさん、ランクアップの話が持ち上がってますよ?」
「ランクアップ? 俺まだ1つしか依頼受けてないけど?」
「フェリールを1人で倒せるような人をいつまでもF-においておける訳ないじゃないですか。上層部でも、フェリールの討伐が確認され次第ランクアップ試験を提示するそうですよ。たぶん特例で何段階か飛ばすんじゃないですか?」
「マジか。てか試験って何やんの? 特別な依頼を受けるとか?」
「はい、そういえば試験の説明をしてませんでしたね。今しちゃっても大丈夫ですか?」
「ああ、問題ないぜ」
フィーナとは別に待ち合わせしてないし、時間はたっぷりある。
「では試験について説明させていただきます。試験は各ランクが+から-へ移行するときに受けていただくものです。たとえばC+からB-への移行の時とかですね。この際にある試験はギルドから依頼されたものを受けていただきますが、拒否することも可能です。自分ができると思ったら受けていただく感じになりますね。拒否された場合は評価が0からのやり直しになりますが」
「なるほど。でも何回も連続で拒否してランクを上げない連中が出てくるんじゃないのか?」
「いえ、5回連続で試験を拒否された場合は、冒険者の資格がはく奪されます。これは意欲なしと見られてはく奪されるわけですね」
「そういう仕組みね。了解」
「もちろん依頼ですので失敗した場合には罰金が科せられます。また、この依頼でもし死亡した場合も自己責任になりますのでご了承ください」
そのあたりは全部普通の依頼と同じか。まあ、ギルドに認められて昇格の試験を受けるんだから、そんな失敗するようなもんでもないだろ。
「試験の内容はその時々で違います。討伐系もあれば採取系の物もありますし、まれに公共事業もあります」
「国の依頼を試験にしていいのかよ……」
「問題ありません。ちゃんと許可は取ってありますから」
「ふーん、しっかりしてんだな」
「冒険者ギルドはかなり大きいですからね。そういうのはしっかり決めておかないと不正が連発するんです。長年かけてやっと築き上げたルールですから。これで試験の説明は以上です。何か分からないことありましたか?」
「いや、大丈夫。適当に試験には備えとくさ」
「そうですね。気負いすぎない程度に備えといてください」
「じゃ、俺は行くぜ」
「はい、お気をつけて」
ハルちゃんに見送られながら俺はギルドを出た。そしてそのままの足で商業ギルドへ向かう。
そこでフィーナに連絡を取ってもらい、待っている間に教習本を読んでいた。
しばらくしてフィーナがギルドに顔を出す。そして俺を見るとパッと表情を明るくした。
「よう」
「おはようございますトーカさん。依頼は上手くいきましたか?」
「ああ、完璧だぜ。今日は借りた分を返しに来た」
「そうですか……ここじゃ何なんで場所を変えませんか?」
「あいよ」
一瞬フィーナの声が沈んだ気がしたが、すぐにまた元に戻る。俺の気のせいだったかもしれないな。
フィーナに連れられてやってきたのは前にも入ったことがある喫茶店だ。
「コーヒー」
「モンブランと紅茶、ミルクで」
それぞれに注文をして、来るのを待つ。
「それで、どうやって倒したんですか? フェリールなんて普通に戦って勝てる相手じゃないではないですよね?」
どうやらフィーナは俺がフェリールを罠にかけて倒したと思っているらしい。まだまだフィーナも商人として未熟だな。人の力を見抜けないでいる。
「なんもしてないさ。直接ぶん殴ってきた」
「マジですか!?」
フィーナに俺の言葉づかいが移った。女の子がそんな言葉使うもんじゃないぜ。
「マジだ。まあ、最初に変な横槍が入ったけど、おおむね俺一人で殴り殺した。2等星級の魔物って聞いてたから期待してたけど、結構弱かったな。俺にかすり傷1つ付けられねえの」
「何なんですか、その化け物じみた強さは……」
「お? 今の話信じるのか? 普通疑うもんだろ?」
「トーカさんがそんな意味のない嘘をつかないことぐらい分かります。トーカさんって意外と真面目だし面倒見も良い気がしましたから。顔も知らないマナと言う人のためにフェリールを倒しちゃうぐらいですから」
どこか拗ねたように言うフィーナ。なにか機嫌損ねるようなことでもしたかね? てんで覚えがないんだけど……
「で、そのマナさんは元気になったんですか?」
「さあ?」
「さあ?って……フェリールの眼球渡したんじゃないんですか!?」
「渡したぜ、マナの姉さんに。本当は直接持っていきたかったんだけどな、なんかマナってかなり有名でさ、家の場所が秘匿されてて分からなかったんだよな。で、姉さんのカナをギルドに呼び出してそこで眼球を渡した。後は知らん」
「普通そこまでやったらマナさんに一目会ってみたいとか思いませんか?」
「確かに、思うっちゃ思うけどな。でも元気になれば露店でそのうち会えるだろ。露店の割引も確約させたしな」
ニシシと笑いながら、串焼きの味を思い出す。もうすぐそれが食えると思うと嬉しくなるね。
「はあ……色気より食い気ですね」
「だろうね。案外色気を隠してるだけかもしれないぜ」
「あら、なら私にも隠してたりするんですか?」
フィーナはしなを付けたような声で話す。けど俺には無意味だな。
「悪いが子供は範囲外だ」
「失礼ですね! 私も立派なレディですよ!」
「ならもう少し落ち着かないとな。目立ってるぜ」
フィーナが声を上げたせいで、客の視線がこっちに集中している。それに気づいたフィーナがポンっと音が出そうな勢いで顔を赤くし、静かに席に着いた。
「ううぅ……意地悪です」
「ハハハ、からかいがいのある奴は好きだぜ。っとそうだ、先にこれ渡しちまうな」
俺は今日フィーナを呼び出した目的の物を取り出す。
袋の中に入っているのは、4万1千チップだ。町に入るときにもらった3万1千チップと町を出るときに借りた食糧などが1万チップ分。
ギルドからもらった時の袋に入れて、俺が必要な分はすでに出してポケットにしまってある。
「はい、確かに確認しました。これで貸し借りは無しになりましたね……」
「おう、やっとだ。思ったより時間がかかっちまった」
「どれだけ早く返すつもりだったんですか……」
「できれば当日? 貸し借りの関係ってなんかやだしな。どうせなら普通に友達とかになりたいじゃん?」
「えっ?」
俺の友達という言葉にフィーナが驚いて顔を上げる。
正直そんな反応されるとは思ってなかった。フィーナの俺に対する態度は結構フレンドリーだったし、俺としては異世界最初の人間関係だったから大切にしたいと思ってたんだけどな。もしかしてフィーナって自分が上じゃないと嫌なタイプ?
「え? なに、友達とか嫌? それだと俺結構ショック受けるんだけど」
「い、いえ! そんなことないです! 私も友達になりたいです!」
なんかすごい勢いで賛同された。まあ、俺が思ってたのと違ってよかったわ。でもならなんで最初に驚いたのかね? 女の子ってよく分からねえな。
まあいいか。
「おう! そうか、ならこれからは対等な友達としてよろしくな!」
「はい、よろしくお願いします!」
異世界に来て初めて対等な友達と呼べる存在ができた。
地球にいたことはこのふざけた力のせいで、子供のころは周りから恐れられてたし、中学校、高校に上がっても、親友と呼べる存在はできなかった。
みんながどこか俺を敬遠して、本当の意味で俺に踏み込んでくる奴はいなかった。
だからもしかしたらフィーナが人生で最初の友達かも知れないな……
やっぱこの世界来て正解だったな。