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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
デイゴ王国氷海龍編
59/151

58話

 翌日。桃花たちが日の出とともに町に入る。

 それを見送ってフィーナは避難民の朝食の炊き出しに参加していた。

 炊き出しに参加する理由は2つ。

 1つは冒険者の義務としての協力。そしてもう1つは情報収集である。

 人間、辛い時に胃袋をつかまれると弱いものである。特にこの状況ならば、食事をくれる人は神にも等しい人物になるだろう。

 その事を利用して住民と仲良くなり、当時何があったかを聞き出す予定だ。

 昨日の時点で何があったかを聞こうとしても、住民は皆一様に怖がって話そうとしなかった。

 そのせいで思ったほど情報が手に入らなかったのである。

 そこで夜から参加している炊き出しでは、腕によりをかけて料理を作り、自ら炊き出しの先頭に立って住民たちに出来立ての料理を配っていた。


「どうぞ。熱いですから気を付けてくださいね」

「ありがとう」


 朝食は簡単な野菜入りのスープだ。いくら周りの村から救援物資が来ているとはいえ、それも無限ではない。

 タストリアはデイゴでも大きな町に部類されるだけあって、人の数も多い。そのため、周辺の村だけではどうしてもまかない切れないのだ。

 故に朝食では、なるべく食材を使わないよう、前日の野菜くずを使ったスープになっていた。

 これは決してフィーナ1人で決めたものではない。

 何人もいる炊き出し協力班のメンバーで決めたことだ。

 炊き出し班のメンバーはフィーナともう1人の女性冒険者を除けば残りの全員が町民だ。誰も自分の家や家族のことが心配ながらも、必死に頑張っている。

 その町民たちが材料のことを心配して節約するように言い出したのだから、フィーナが反対する理由は無かった。


 現在、フィーナ達がいる集まりは、テントが並んでいるだけの集落と呼ぶことすらもできない簡単なコミュニティーだ。

 地区同士で集まっているため、顔見知りが多いのか概ね関係は良好のようだが、それでもこの状態。いついさかいが起きてもおかしくない。

 そのため町長は、それぞれのコミュニティーに騎士団の人間を4人ずつ配置し、警備にあたらせている。

 これは同時に防御用の囲いが何もないこの状態で、魔物に襲われたときの対抗手段でもあった。

 フィーナはその騎士にも炊き出しを持っていく。


「お勤めご苦労さまです。これよかったらどうぞ」

「ああ、ありがとう。ちょうど腹が減ってきたところだったんだ」


 見張り番が終わり休憩に入っていた騎士の1人にスープを渡す。


「なにそれ、カイルだけズルいわよ! フィーナ、私にも頂戴!」

「お前はこれから見回りだろ……」

「ちゃんと皆さんの分は取ってありますから大丈夫ですよ」


 カイルと呼ばれた騎士は、今フィーナがスープを渡した騎士だ。そしてそれに抗議を上げたのが仲間の女性騎士。年齢は若いが、かなり優秀で仲間からの信頼も厚いトリナである。

 フィーナがみんなの分もちゃんとあることを言うと、トリナは一安心したようで巡回に出た。

 それを見送ってカイルがフィーナに声を掛ける。


「あんたはいつまでここにいるつもりだ?」

「もう少し情報が欲しいので、もうしばらくはいるつもりです。町の救出もまだ終わってないようですし」

「ふむ……」


 それを聞いてカイルが少し考え込む。


「どうかしましたか?」

「確かに情報を集めたいのは分かるが、ここにはあまり長居しない方が良い」

「それはなぜ?」


 フィーナは首を傾げた。この状況なら冒険者には少しでも長くいてもらいたいものだが。


「物資が少しずつ減ってきているのは知っているだろう?」

「ええ」


 料理当番をしているのだから当然だ。今1番物資不足を感じているのは料理当番だろう。


「それで少し住民にきな臭い動きが出て来るかもしれん。冒険者の馬車は自分たち用の食材は取ってあるだろう? もしかしたらそれを狙うやつらがいるかもしれん。タストリアの住民がそんなことをするような奴ではないと思いたいが、この状況だ。どんな感情が働くか分からない」

「そうですか……分かりました。今日少し相談してみます」

「ああ、まだ1日2日は大丈夫だろうからな。その間はよろしくたのむ」

「お任せください」


 フィーナは自身満々にポンと胸を叩いた。


 その後もフィーナの情報収集のための作戦は続く。

 逃げてきて暇を持て余している子供たちの相手を積極的にして、その会話から情報を取り出そうと試みたり、噂話に詳しそうな奥様方の集まりにそっと参加してみたりする。

 そうしてアッと言う間に夕方になり、桃花たちが救助から戻ってきた。

 それを見てフィーナは少しホッとする。

 昨日、非常に暗かった2人の表情が、今日は少し和らいでいるのだ。

 出かけるときは切羽詰まった表情だっただけに、その変化は非常に嬉しかった。




「お二人ともお疲れ様です」


 俺達が馬車に戻ってくるとフィーナが出迎えてくれた。


「おう、ただいま」

「今戻った」

「今日はどうでしたか?」

「大分進んだぜ。1番被害が大きかった南区はあらかた片付いた。やっぱ魔力探査あると効率が全然違うわ」

「それ以前にトーカの馬鹿力のおかげで瓦礫の撤去がずいぶん楽だったのもあるがな。普通は強力な力は繊細な扱いができない。瓦礫を避けるには不向きなはずなんだが、トーカの場合はそれが手足だ。これほど繊細に動かせるものは無い」

「まあ、そんな感じでかなりいいペースで進んでる。早ければ明日には大方の救出が終了するぜ」

「それは良かったです」


 その報告を聞いてフィーナの表情にも笑顔がこぼれる。

 そして今度はフィーナが今日1日で手に入れた情報の報告をすることになる。

 3人は馬車に乗り込み、外から聞かれないよう防音の魔法を掛けてから、フィーナの報告を聞いた。

 防音の魔法を掛けるのは念のためだ。

 氷海龍の情報を話すのだから、その名前を聞くだけでも嫌な人間は周りにいくらでもいるらしい。だからその配慮を込めて防音の魔法を張るわけだ。


「とりあえず今日手に入った情報は2つです」


 そう言ってフィーナは指を2本立てる。


「1つは氷海龍が来た方向。もう1つは町での行動と氷海龍が町を襲ったおおよその目的です」

「目的が分かったのか!?」


 2つ目にリリウムが食いつく。


「はい。大まかにですが」

「それでも十分だ。何か対策ができる可能性がある」

「とりあえず最初のから聞こうぜ」


 興奮したリリウムを俺が宥め、フィーナに先を促した。

 フィーナはそれに頷いて1つ目の情報から話し始める。


「まず氷海龍が来た方向です。これは多くの住民が見ていましたし、町の破壊具合を見てもなんとなく想像できてますよね?」

「おう、南区画が一番被害が大きかった。その中でも特に東南は酷かったな」

「そうだな。逆に西北は被害が少なかった」


 被害が1番大きかった場所と1番小さかった場所はちょうど真逆の位置になる。


「つまり氷海龍は東南からやってきたと言うことです。タストリアの東南にも海は広がっていますし、タストリアを出た後向かう予定だった方向も東南です」

「なら俺たちが行く予定だった場所も破壊されてる可能性があるってことか?」

「いえ、それは無いでしょう」


 俺の意見をフィーナは首を横に振って否定した。


「なんでだ?」

「氷海龍が東南から来たのだとすれば、最初に破壊されるのは私たちが行く予定だった港町になるはずです。しかしそこの情報は全く入ってこない」

「混乱してるだけとか?」


 この町でも酷い情報の混乱が起きている。その港町が氷海龍に襲われた拍子に、伝令用の馬が全滅している可能性も否定はできない筈だ。


「それでも情報が来ないのはおかしいんですよ。港町なら商人も多いはずです。その商人は魚をタストリアに運んでくるはずですが、その商人が襲われたという情報を持っていません」

「ふむ。商人ほど情報に精通した連中が知らないのでは、襲われていないと考えるのが無難だな」


 フィーナの意見にリリウムも肯定の意思を見せた。

 まあ、そこまで言われちゃ俺も意見は無いわな。つまりまっすぐ東南から来たわけじゃないってことか。


「そう考えると、氷海龍はどこから来たことになるんだ?」

「私の予想ですが、港町から王都まで行く途中の海路にいくつか島があるんです。おそらくそこから来たのではないかと思っています」

「島か。その根拠は?」


 確かに島なら氷海龍が巣を作っていても不思議ではなさそうだが、それだけでそこだと考えるのは難しい。

 どこかの岬に洞窟でも作っているかもしれないし、海の底に住んでいる可能性だってあるのだ。


「その島の周辺には昔から言い伝えがあるんですよ。昔、私も島の近くに訪れた時、住民のお婆さんや漁師から何度も聞きました」

「そんな噂があるのか?」


 その事に関しては、リリウムは知らないようだ。要は地域密着型の民話ってことか。地球でもそういうのって結構あったし、魔物がいるこの世界ならそんなの意外とありふれてそうだな。しかもマジで実在するパターンが。


「その噂では、島には海を守護する守り神が住んでいると言うことです。龍の姿をしていて、人間が海に出る際に悪さをしないように監視していると。人間が海の生き物を必要以上に取ったり、海の生き物に害があるような薬を撒いたりすると、仕返しに来ると伝承がありました。島にはその守り神を祭った祠もあるそうですから」


 なるほどね。海の守り神か。確かにそれほどの伝承になるなら邪神級でもおかしくない。それにその伝承は人間に都合のいいものではなく、むしろ都合の悪いもの。戒めとして機能するタイプの伝承だ。

 ならば実際の経験から来ている伝承なのかもしれない。


「なので私はその辺りから来たとみています」

「ならばその辺りを通る時は注意した方が良いかもしれないな」

「そうですね。まあ、トーカが暴走しないように注意するって感じになりそうですが」


 フィーナが苦笑しながら俺の顔を見る。

 何を失礼な。俺だって無理な暴走は極力控えてますよ!


「その時は私が後ろから殴ってやるさ」

「リリウムまで!?」

「それで次に町での行動です」


 俺の渾身の突っ込みを完全にスルーし、フィーナが話を続ける。


「町で何か特別な行動をしていたのか?」

「いえ、ただ少し不思議な動きをしていたと聞きました」


 不思議な動き?


「どうも氷海龍は何かを探すような素振りを見せていたそうです。家の屋根がことごとく破壊されているのも、中を見るための様だったと町を襲撃する場面を見ていた人たちは言っていました」


 何かを探す、か。しかし、魔物に何かを探すなんて知能があるのか?

 俺がこれまで見てきた魔物はみんな本能に従って何かを壊すとか、走るとか、縄張りを守るみたいな感じがしたんだけど。

 俺の疑問を感じ取ったのか、リリウムが補足を加えてきた。


「確かに邪神級なら考えられるな。邪神級は普通の魔物とは別物だ。上級ドラゴンしかりフェニックスしかり非常に高度な知能を持って人との会話も可能らしい。それほどの知能を持っているのなら何かを探すという行動も納得できる」

「会話の出来る魔物がいるのか。しかし戦う分には邪魔だな」


 意思疎通ができる魔物なんて倒しにくいだけじゃないか。ただ力技で生きるか死ぬかの戦闘を楽しめなくなる気がする。

 色々思考が入るとつまらなくなるものって多いからな。単純な物の方が面白いってことは結構あるもんだ。


「トーカ……相手は邪神級だ。そもそも戦うと言うことが無いから安心していいぞ」

「そうですよ。戦おうとしても私たちが全力で止めますからね」

「……ちぇっ」

「今舌打ちしました!? まあ、いいです。つまり氷海龍は何かを探すためにタストリアを襲った可能性が高いと言うわけです。ここで考えるべきなのが」

「ふむ、氷海龍が探しそうなものか」

「はい」


 氷海龍の探しそうなものか。そもそも俺は邪神級や氷海龍がどういう存在か分かってないからあんまり想像できないんだけど、氷海龍って言うぐらいだから氷属性持ってんだろうな。

 なら氷に関する物か、それとも伝説のアイテムとかかな?

 それならちょっと俺も欲しいな。

 氷海龍が昔から守っていたアイテムをある日盗賊に盗み出されたから、それを探すためにアイテムの痕跡をたどってタストリアに来たのだとしたら……燃える!


「とりあえず今はその程度の情報しかありません。氷海龍が実際に何かを探していたという証拠もありませんし、見つけたかどうかということも分かりません。そもそもそれが何か道具なのか人なのかも分かりませんからね」

「そうか、屋根を壊して探すってことは人を探してたって可能性もあるのか……」

「まあその事は、今はどうしようもない。おいおい考えていけばいいだろう」

「それもそうですね。なら最後の1つです」


 それは予想外だった。しかし人だとすると、氷海龍の巫女とかか! それはそれで、俺が助けたら英雄になれるんじゃね!?

 と、馬鹿なことを考えていたら、話は最後の1つに移ってしまっていた。

 俺完全に置いてきぼりにされてるな……

 てか最後の1つ? 分かったのは2つじゃなかったのか?

 リリウムも同じ気持ちらしく、首を傾げた。


「これは氷海龍とは直接は関係ありませんが、私たちに関わってくることです」

「どういうことだ?」

「今日、ここの警備をしている騎士団の人から注意がありました。そろそろ物資が乏しくなってきて暴徒化する人がいるかもしれないから、冒険者で移動可能な量の食料を保持している人がいたら、早めにタストリアから移動するようにと」

「そういうことか……」

「どういうこと?」


 俺にはフィーナの言っている意味がよく分からなかった。

 物資が少なくなってきて、暴徒化する連中が現れるのは分かる。地球でも一部の人間がそういう風になるってニュースは良く見たことがあった。けどそれでなんで俺達が早めに逃げないといけないんだ?


「商人や冒険者の馬車は、長距離移動に備えて保存食を蓄えていることが多いんです。暴徒化した人たちはそれを狙って襲ってくる可能性があるということです。無差別に町を襲っても食べられるものはありませんから、それなら確実にある場所を襲うと言うことですね」

「あー、そういうことか」


 物資の量自体は全然足りないが、見つける苦労を考えれば冒険者の馬車を襲うのが一番ってことになるのか。それにいくら冒険者の腕っぷしが強くっても、多勢に無勢では勝ち目はないわけだな。俺は別だけど。


「騎士団の話では早いと明後日には暴徒化した人が動き出す可能性があるそうです。今でもしっかり食べられているわけではありませんから。なのでできれば明日には移動して欲しいと」

「明日か……」


 フィーナの言葉にリリウムが考え込む。

 町の救出は今日大分進んだ。しかしそれでもまだ少しはいるかもしれない。

 それを考えるとできれば明日も日暮れまでやりたかった。それは俺も同じ気持ちだ。

 けどそれは、俺達の安全が確保されてるって前提条件が付くと俺は思っている。だから


「俺はフィーナに賛成するぜ。明日には移動してもいいと思う」


 俺やリリウムなら暴徒化した連中が襲って来ても問題なく対処できるだろうけど、フィーナはまだ無理だ。

 それに俺たちが日中町に行ってしまっては、フィーナが1人で暴徒化した連中の対処をすることになる。それはマズイ。


「ふむ、トーカが賛成するなら私は特に何も言わない」

「なら明日には出発するか。行先はどうする?」

「予定通り、港町に行こうと思います。襲われていないのなら、そこから王都に向けて船が出ていますから。馬車の乗せられる船って結構限られちゃうんですよ」


 フェリーみたいなもんだろうしな。馬の面倒とか考えると、置いとけばいい車より大変そうだ。

 そりゃやりたがる船員も少ないだろう。


「ならその予定で。けど昼までは救出活動参加させてもらっていいか?」

「わかりました。では昼食を取ったら出発にしましょう」

「分かった」

「了解」


 フィーナが意見をまとめ、俺たちが賛同する。

 こうして今日の極秘会議は終わった。


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