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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
デイゴ王国氷海龍編
58/151

57話

 南に向かうにつれて、明らかに崩れている建物の数は増えていく。おそらく、元々この辺りの家が老朽化していたのだろう。

 そこに今回の騒ぎで、一気に古くなっていた建物が倒壊した形になるってことか。

 けどそれなら救出は急がないと不味いかもしれないな。

 老朽化してる家に住んでるってことは若い連中は少ないだろう。むしろ昔からその家に住んでいる老人の方が多い可能性が高い。

 そう考えると、邪神級の襲来からすでに2日も経っているのは絶望的かもしれないが、何もやらないよりはましだ。


「リリウム。一気に奥まで行って広域で魔力探査やるぞ。人がいない方が分かりやすい!」

「そうだな。ならば私は左側を担当する。トーカは右側を頼む」

「了解!」


 冒険者たちが救出作業をする場所を飛び越え、さらに奥に進みながらリリウムと言葉を交わし、二手に分かれた。

 

 俺は右手にしばらく進んだ後、適当に瓦礫の上で立ち止まる。

 そして詠唱した。もちろん威力は最大。手加減抜き、全てを見通すつもりでやる。


「月示せ、魔力のありか。サーチ!」


 俺の脳裏に町の地図が浮かび上がり、点々とだが魔力の反応が見られた。さらに地域を絞っていくことで、その場所を鮮明にしていく。


「一番近い場所は――すぐそこか」


 地図の明かりで1番近くに映ったのは、目と鼻の先。半分だけ倒壊したパン屋だ。表の看板だけが埃にまみれながら虚しく揺れている。

 どうやら表面は大丈夫だが、壁面が崩れたようだ。

 俺は瓦礫から飛び降り、すぐさまその家に駆け込む。中は台風に直接さらされたかのように荷物が散乱し、足の速いパンが腐り始め、異臭が立ち込めていた。


「生きてる奴いるか!?」


 魔力反応から人がいるのは分かっているが、意識があるかどうかを確認するために声を掛ける。

 そして耳を澄ますと、かすかながら声が返ってきた。


「……けて」

「今助ける!」


 壁面が崩れているのは1階の一部分。そこだけの範囲ならばすぐにでもどけられる。

 しかしここで焦ってはダメだ。瓦礫の中に人が埋もれているってことは、瓦礫に隙間ができてるってことだ。

 今焦って強引に瓦礫を動かせば、隙間が崩れた瓦礫によって潰されてしまうかもしれない。それでは元も子もない。

 慎重に、しかし迅速に。

 これを心掛けて、俺は瓦礫の1番上に手を掛けた。




 桃花と別れ、リリウムは左側に走る。

 走りながらもリリウムはすぐさま魔力探査を発動させた。そして感じる僅かな魔力の反応。

 ギルドからの話の通り、確かに生き埋めになった人が少ないのか、魔力の反応はぽつぽつとしかない。しかし2日経っていることを考えれば、少なからず生き埋めでの犠牲者は出ている。

 そう考えるだけで、リリウムの胸は締め付けられるように苦しくなる。


「早く助けなければ」


 リリウムは1番魔力反応が弱まっている場所に向かった。




 一際大きな瓦礫を持ち上げる。そうするとその下から空洞が見えた。

 その空洞が見えた瞬間、俺は瓦礫を投げ捨てる勢いで部屋の外へ弾き飛ばす。

 その空洞には2人が埋まっていた。

 1人は年配の女性。そしてもう1人がさっき俺の呼びかけに答えた子供だろう。

 年配の女性にすでに生気は無い。しかし死してもなお子供だけは守り通そうとしたのだろう、腕の中で子供を抱きしめ続けていた。

 その子供は、かなり衰弱しているようだが、まだ意識はしっかりとある。


「助けに来たぜ」


 子供は突然入ってきた日の光に眩しそうに眼を細めるだけだ。もう自分で抜け出す気力は残っていないのだろう。

 俺はそれに気づいて子供の体をつかみ上げる。それと同時に、役目は果たしたと言わんばかりに死後硬直しているはずの女性の腕から力が抜けるのを感じだ。


「よく頑張ったな。この人はお前のかあちゃんか?」


 その質問に、子供は1度だけ頷く。


「かあちゃんはしっかりお前を守ったんだから、誇れよ」


 子供は声を出す気力も無い中、必死にうなずきながら涙を流していた。




 1番魔力反応が弱い場所に到着したリリウムは、そこで全壊している家を前に、立ち止まっていた。

 気持ちとしては、すぐにでも瓦礫をどかして、その場所から助け出したい。

 しかしリリウムは桃花とは違い、筋力はそれほどない。鍛えているとはいえ、それは標準な人間の中での鍛えているだ。それでは到底、崩れた瓦礫をどかすことなどできない。

 しかしそこはそれほど問題ではない。もともと動かせないことなど分かっていたし、魔法を使えばどうにでもなることだ。

 しかし今1番問題なのは、魔力反応の弱いこの下に埋まっている存在が、瓦礫をどかしている間に死んでしまう可能性だ。

 この時点でリリウムは自分の選択を後悔する。

 救助する順番の選択を明らかに間違えてしまったのだ。

 この緊急事態では、切り捨てるべき命は必ず出てしまう。それをどの段階で判断するかは人それぞれだが、それによって救える命の数が変わってくるのだ。

 この場面においては、1番近い場所にいる人から助けていくか、それとも1番魔力反応の高い場所から救助を開始するべきだったのだ。

 1番魔力反応が弱いから、早く助けなければと短絡的な考えで動いてしまったことを後悔しながらも、しかしそれでもここを見捨てることは出来ないリリウムは、詠唱をしながら必死に間に合ってくれと願うしかなかった。




 日が暮れるまで救助をつづけ、完全に日は暮れたが俺がさらに続けようとしたところに、ほかの冒険者からストップをかけられた。


「もう限界だ。これ以上は手元が暗くて救助は危険だ」

「くっ……」


 魔力反応はまだ残っている。しかし、冒険者の言うことも確かだ。

 俺は地図内に映る魔力反応を見ながら、しかし撤収することしかできなかった。


 他の冒険者と共にギルドの仮施設がある広場まで戻る。

 その間に現状を聞いたが、俺とリリウムが参加したことで南地区の救助はかなり進んでいたらしい。

 今日俺が助けられたのはあの子供を筆頭に6人。あの子供以外は皆老人で、かなり衰弱が進んでいたが、何とか間に合ったと言うような状態だ。

 そしてリリウムが助けたのが4人。こちらも老人ばかりだったらしい。やはり逃げ遅れた人たちが埋まってしまっていたようだ。

 広場に入ると、壊れた噴水にリリウムが座っているのを見つけた。

 その表情は遠くから見ても明らかに暗い。それは駆けつけて早々に4人を救出した奴の顔ではない。

 まあ、それを言うなら俺の表情も他人から見ればそうなんだろうけど。


「リリウム」

「トーカか」


 魔力探査で生きている人の場所が正確に分かる。さらに生命探査よりもはっきりと、弱り具合まで分かってしまうため、その現実が俺達に心理的ダメージを与える。

 分かりすぎるのも問題だよな。


「フィーナの所に戻ろうぜ。向こうも情報を集めてくれてるはずだし」

「ああ、そうだな」


 フィーナには町の外に集まっている人に当時何が起こったのかを詳しく調べてもらっている。

 ギルドからの情報で邪神級の魔物に襲われたのは間違いないが、まだ近くにいる可能性があるならより詳しい情報が欲しい。

 それに邪神級の魔物がなぜタストリアの町を襲ったのかもまだ分かっていないのだ。

 その事が判明するまでは、気を抜けない。

 リリウムが立ち上がり、俺と共に広場を出ようとしたところで、俺たちは声を掛けられた。

 振り返れば、そこには情報をくれた女性がいた。


「あ、あの今日はありがとうございました。お二人のおかげで今日だけで10名も助けることができました」


 女性は深々と頭を下げる。しかし俺達は純粋に喜ぶことは出来ない。南区画だけでも、後最低でも2倍近くの人が埋もれていることを知ってしまっているからだ。


「いいさ。当然のことをしたまでだ」

「そうだ。被災救助は冒険者の義務にも設定されている」

「それでもです。お二人がいなければこれだけの人数を救出することは不可能だったと思います」


 まあ当然と言えば当然かもしれない。生命探査の使える魔法使いはいただろうが、それでも一部。他の冒険者は、いるかも生きているかも分からない状態で、家の瓦礫を撤去していかなければならない状態だったのだ。

 俺の場合は途中でどの家に生き残りがいるかを教え協力したが、それでも救出には時間がかかった。


「まあそう言うことなら素直に気持ちは受けとっとく」

「そうだな。明日も朝から参加させてもらう予定だ。こちらこそよろしく頼む」

「はい! 私たちも全力でサポートさせていただきます」


 広場を出る俺達の背中に、女性はいつまでも頭を下げ続けていた。




 馬車の下まで戻ると、フィーナはそこで炊き出しを行っていた。

 どうやら襲われてから2日の間で周辺の村から救援物資は届いているらしい。しかし如何せん人手と道具が足りずに困っていたそうだ。

 そこに道具を一式そろえた馬車があるのだ、使わない手は無い。


「フィーナ、お疲れ様」

「トーカにリリウム。お二人もお疲れ様でした。活躍はここにも聞こえてきていましたよ」


 救助された人の家族や、冒険者の一部がここに戻ってきて話していたらしい。

 颯爽と現れた二人組の冒険者が、ピンポイントで生存者の場所を見つけ、驚くべき技で瓦礫をどけていったと言うものらしいが――


「俺は馬鹿力使ってただけなんだけどな」

「私もたいしたことはしていないな。ウィンドカッターを剣に纏わせて、瓦礫を少しずつ削っていっただけだ」

「噂の原因、明らかにリリウムの技だろ」

「まあ、そうなのだろうな」


 リリウム自身はあまりピンと来ていないようだが、馬鹿力が凄い技術とは言えないしな。


「フィーナは今炊き出しか?」


 ばつが悪くなったリリウムが強引に話題を振る。


「はい、二人の分もちゃんとありますよ」


 そう言えばここに到着してから何も食べてなかったな。働きづめで気付かなかったけど、今になって腹が減ってきた。


「なら俺達も飯にするか」

「そうだな。明日も日の出と共に救助を始める。しっかり体力を回復させなくては」

「頑張ってください。私はもう少しみなさんと話しながら情報を集めてみますね」

「頼むわ。どうも氷海龍の目的がよくわかんねぇし」

「そうだな。邪神級の魔物が目的も無く町を襲うとはあまり考えられない。何か町を襲う必要があったはずだ」

「分かりました。その辺りも注意しながら調べてみますね」

「よろしく頼む」


 その後、俺とリリウムは夕食を取り、早々に寝袋に収まった。

 しかし眠れるかと言えばそうではない。目を閉じると、さっきまで見ていた魔力反応の地図を思い出してしまうのだ。

 そのせいでなかなか寝付けないまま、夜は過ぎて行った。


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