51話
氷海龍編突入です。
時折、馬のために休憩を挟みながら、日が暮れるギリギリまで走り続けた。
結果、最初の騎兵隊以降追ってくる連中はいなかった。
最後の俺の魔法が決め手になったってことだろうな!
けど、その魔法以降リリウムの視線が痛い痛い。まあ、2属性目使っちゃったからな。けど、そろそろリリウムに隠し通すのも限界だろうし、一緒に旅するんなら知っておいても良いはずだ。
何かを隠しながら仲良くするってのは、どうも性に合わん!
馬車を降り野営の準備を終えると、リリウムが機を見計らったように話を持ち出した。
「さてトーカ。そろそろ聞かせてもらおうか」
「俺の属性の事だろ」
「そうだ。最後に使った魔法は明らかに土属性の魔法だった。火と炎のような上位交換の魔法の場合は勘違いの可能性も存在するが、風と土では間違えようがない」
「まあそうだろうな」
火属性のファイアーボールと炎属性のフレアボールは、威力が違うだけで見た目はほぼ同じだったりする。
極稀にだがそのような勘違いが存在するのも事実だが、風と土では根本的に違うので間違えようがないのだ。しかも今回使った魔法は、風を一切使わない上に、下手したら水属性の魔法とも思われかねない地面を泥にする魔法だ。
俺はまず何から話そうかと考えながらたき火に目を向ける。
「トーカ。私の時と同じように全部見せちゃえばいいんじゃないですか?」
「フィーナはトーカの秘密を知っているのか?」
「あ、はい。私は以前に教えてもらいました。王都に来た時の商隊でですね」
「そうだったのか」
フィーナはどこか自慢げな表情で話す。
そしてリリウムは何か納得したような表情をした。
まあ今はそれは良いとして、フィーナの言うことも一理ある。やっぱり最初に事実を端的に示すのが1番分かりやすいか。
まあ、極星の勇者が大好きなリリウムがどういう反応するのかはちょっと楽しみだしな。
「よし、そうだな。まずは俺の使える属性を見せよう」
「風と土だけではないのか!?」
「まあ見てな。星誘いて、8色の明かりを灯せ。ライト!」
詠唱に合わせて腕を振るう。それに合わせて8色に色分けされた球体が浮かび上がった。それはそれぞれにオレンジ、赤、青、水色、黄緑、黄色、茶色、紫色の色を放つ。
順に火、炎、水、氷、風、雷、土、毒だ。
ギリギリまで威力を押さえたその魔法は、それでも尚たき火の明かりを打ち消さんほどに煌々と輝いていた。
それを見たリリウムはと言えば、目を見開き、口を半開きにしてポカンと間抜けな表情をしている。
こりゃ完全に意識持ってかれているな。
「おーい、しっかりしろー」
リリウムの正面で手を振る。しかし焦点の合っていない目がそれを捉えることは無い。
仕方ない。
俺はリリウムの正面に移動し、目の前でパンッと手を叩いた。
その音に反応して、リリウムが我を取り戻す。
「なっ! 今のはなんだ!?」
「ただの属性ライトだぜ。全8種シークレットは無しだ。箱買いすればもれなくコンプ出来るな!」
「言ってる意味が分からん!」
「だから、俺は全属性の魔法が使えるんだって。ほれ、よく見てみ」
8色のライトを手元に寄せてリリウムに付きつけるように見せる。
リリウムはウッと引きながらもそのライトを受け取る。ライト自体に危険は無いからな。
「全属性……こんなことができるのは」
「極星しかないってか? けど残念、俺の加護の星は極星じゃないぜ」
リリウムがかつてのフィーナと同じ結論に辿り着こうとしたところで、俺が待ったをかける。このやり取りも懐かしいな。もう一か月以上前になるのか。
「極星じゃなければなんだと言うのだ。全属性が使える星など聞いたことが無い!」
「ほら、今真上にある星だよ」
今日も案の定、月は真上にその姿を悠然と示している。
煌々の降り注ぐ光が、太陽の光が届かない今、俺達を明るく照らしていた。
まあ俺の場合は、月自体は赤く染まってるんだけどな。
「月……だと?」
「そうだぜ。俺の加護は月の加護だ。もちろん1等星だよな」
「バカを言うな! 月など1等星以上の存在だろ! 無理やり部類にいれるのだとしたらそれこそ極星か邪神級に分別されるものだ!」
リリウムは声を荒げながら指を月に向けて突き上げる。
「あれだけ輝いているのだぞ! 他の星と比べる方がおかしいほどだ!」
やっぱ1等星以上になっちまうか。薄々は気づいてたけど、あんまり気にしないようにしてたんだけどな……
とりあえず俺の異常性がまた1つはっきりしたってことで。
「まあまあ。リリウムさん少し落ち着いてください。これでも飲んで深呼吸ですよ」
フィーナが宥めるようにコップを差し出す。
俺がリリウムに星のことを説明している間も、フィーナはしっかり食事の準備を進めていた。
今は鍋から良い匂いが漂ってくる。
今朝作っていたポトフだ。どうやら少し魚介類を足してまた煮込んでいるらしい。まあ長旅だし海産物も少し買ったけど最初に使うってことだろうな。フィーナの保存の魔法があるとは言え、今後はフィーナも戦うために魔法を使わないといけないから、常に保存の魔法を掛け続けることは出来ない。
むしろ俺としては積極的にフィーナを戦闘に出すつもりだ。そうしなければ練習にならない。冒険者なら魔物ぐらい1人で倒せないとな!
リリウムは受け取ったコップの中身を一気に飲み干すとフウとため息を付く。
これで少しは落ち着いたかな?
「すまないフィーナ殿」
「フィーナで良いですよ。これから一緒に旅をするんですから」
「なら私もリリウムで良い」
「分かりました。よろしくお願いしますね、リリウム」
「ああ、よろしく。フィーナ」
2人が握手しあうのを見ながら、俺は鍋に目を向ける。うん、いい感じだ。
「じゃあ2人が仲を深め合ったところで飯にしますか。リリウムには飯の途中にでも質問受け付けるからさ」
「分かった。色々聞いてやるから覚悟しておいてくれ」
「ハハハ、俺自身もあんまり詳しく分かってねぇからあんまりしっかりとした答えは返せねぇぜ」
鍋の近くに腰掛け、俺はフィーナから皿を受け取った。
「つまりトーカは星の加護をまだ使いこなせていないと言うことか?」
「そういうことになるのかね?」
リリウムが質問してきたことは、どのくらい魔法を使えるのかということだった。
要は、1つの属性を一生かけて極めた魔法使いと、8属性をそれぞれ使ってきた魔法使いならばどちらが強いのかということだ。
まさか最初から勝負関連に関して質問されるとは思わなかった。
しかもこの答え、非常に答えにくいのだ。なんせ俺はまだこの加護を使い始めてから3か月もたっていない。つまりこの世界に生まれたそこらへんにいる子供より加護に慣れていないのだ。
「だから応用力としては色々出来るんだろうけど、1つを極めた奴と比べられると正直厳しいかも。魔法って使い続けると慣れてきて威力上がるじゃん?」
「そうだな。私のウィンドカッターも最初は5等星級の魔物すら倒せなかったが、気が付けば3等星級までは一撃で屠れるようになっていた」
「つまり一生かけて1つの魔法を使い続けた奴の魔法の威力ってのは相当になってんだよ。だから下手すると力技で押し切られかねん」
「なるほどな。8属性を使えても良い事ばかりではないのか」
応用が利くと言えば聞こえはいいが、要は器用貧乏だからな。極星の勇者なんかは転生みたいだから、この世界に子供のころから慣れ親しんでるだろうし、上手く使えたのかもしんないけど今の俺にはまだ無理だろうな。
「だから俺は風属性をメインに使ってる。最近は土と火を練習してるって感じかね?」
土のランスや足枷、火の乾燥などだ。
火はどっちかって言うと必要に駆られてって感じだけどな。
他の属性は正直とっかかりすらつかめていない。毒属性だって、あの花を枯らしたこと以外何も進展していないのだ。まあ練習する時間が無かったと言われればそれまでなのだが、練習していても知れる程度だろうと思う。
「私の氷の魔法も使えるんじゃないですか? トーカの前で何回か使いましたよね?」
「おう、保存の魔法は使えるぞ。後は勝手に作ったブリザードとかかな」
「ブリザード?」
リリウムが俺の魔法名に首を傾げる。
「おう、一言で言えば周囲一帯を氷漬けにする魔法かね。4等星級以下なら問答無用で体の中心まで一瞬で冷凍保存されるぜ」
「そんな狂気じみた魔法を持っているのか……」
「狂気じみたとは失礼な。リリウムのウィンドカッターだってランダムに飛ばしたりすりゃ同じくらい危険になるぜ?」
「何を言っているんだ? ウィンドカッターは同時に2本出すのが精一杯だろう」
「マジ?」
俺2本どころか檻作る感じに大量に発生させちゃってたんだけど……
「3等星だとそれが限界だな。2等星ならその倍、1等星ならさらに3倍は出せるだろうが」
ってことは1等星で出せる限界は12本!? 俺檻の時何本出した? かなりの範囲を人が通れないサイズで囲ったし100本は軽く超えてたぞ?
月の加護の異常さが大分分かって来たな。
「トーカどれぐらいまで出せるんですか?」
「あー、えっと200ぐらい?」
ブフッと2人が、俺の答えを聞いた瞬間ポトフを噴出した。
「なんですかそれ!?」
「トーカ! それは本当なのか!?」
「あー、たぶんマジ。ちょっとやってみるか」
俺はそう言って立ち上がると、魔力探査を発動させる。
うし、周囲に人影は俺達以外なし。ついでに魔物の反応も無しと。
うっかり使って見ず知らずの人間にバレるのは避けたいからな。そういやあこの魔力探査の魔法、フィーナに教えてなかったな。後で教えておこう。
「月示せ、風の檻。ウィンドキューブ!」
ウィンドカッターで作られた刃が周囲を覆っていく。ウィンドカッターの刃は光を歪めて白く光るため夜は分かりやすい。
一瞬にして周囲に半球状の檻が作られた。
「今の俺が全力でやるとこんな感じだな。隙間を限界まで埋めたから小型の犬でも入れないだろ」
「これほどとは……」
「月ってやっぱりすごいんですね」
2人は刃に覆われた空を見上げながらつぶやく。
「やっぱ異常だよな……」
2人の反応を見て、やはり自分の力が普通のものではないのがはっきりと分かる。
何度やっても、この自分と他人が明確に違うものだと分からされるときは一番キツイな。
いくら仲が良くっても、その時だけは明確な壁が間に出来てるように感じる。
「だ、大丈夫ですよトーカ! 私はそれでもトーカを恐れませんし、ずっとそばにいますからね!」
俺のつぶやきが聞こえたのか、フィーナがなにやら焦ったように言葉をかけてくる。
そう言えばフィーナは、俺がオルトロに化け物って呼ばれて少し落ち込んだ時も励ましてくれたな。なんか毎回精神的に助けてもらってる気がする。
「確かに凄い力だが、トーカはこの力を無害な人に向けることは無いのだろ? ならば異常だろうがそうじゃなかろうが関係ないさ。魔法は強い。ゆえに簡単に人を傷つけられるからな。正直一般人にとっては魔法の規模はそれほど問題じゃない」
リリウムもリリウムなりの言葉で励ましてくれる。
フィーナが感情論だとすれば、リリウムはどちらかと言えば現実に基づいた論理的な説得だ。その両方ともが俺の励みになる。
落ち込んでる必要は無いな。2人も俺のことを理解してくれようとしてくれている人がいるんだ。それは嬉しい事じゃないか。
「2人ともありがとうな」
「仲間ですから当然です!」
「そうだな。仲間だからな」
3人で笑いあいながら、夕食の時間は過ぎて行った。
食事が終わればフィーナの訓練の時間になる。
バスカールから習った剣術をより発展させるために、リリウムに教えてもらうことにしたのだ。
バスカールの知っている剣術はいわば基礎。基礎を1週間でみっちり体に教え込まれたフィーナに今後必要になってくるのは、実戦に必要な応用力ということになる訳だ。
そこで長年冒険者として魔物と戦ってきているリリウムの出番。
リリウムならばフィーナと同じような体格をしているから、体力以外ならばそれほど動きは変わらない。
ってことで練習をしているのだが――
「はっ!」
フィーナがリリウムに切り込む。リリウムはそれを片手で受け流しフィーナの後ろに回り込んだ。
そして手刀を首筋に向けて振りおろそうとする。しかし途中でとっさに止め、後方に飛び退いた。
リリウムが飛び退いた場所をフィーナの短剣が通り過ぎていく。
「なるほど。確かに基礎はしっかり教え込まれているようだな。体は柔らかいみたいだし、応用もすぐにできるようになりそうだな」
フィーナの評価は意外にも高い。
素人目からフィーナの動きを見ても良いのか悪いのかは分からないが、剣どうしがぶつかりあう音はかなり重い音を発生させていた。つまりしっかりと剣に力が乗っていると言うことなのだろう。
そしてリリウムの手刀を躱した短剣の動き。
剣をいなされ体勢を崩された状態で、フィーナは左手の短剣を逆手にもちリリウムの手刀目掛けてピンポイントで振り抜いていた。
予想して動いたのか、それともただのまぐれか分からないが、前者だとしたらとんでもないことだ。
「では今度は私から攻める。しっかり防げよ!」
「よろしくお願いします!」
俺のライトで照らされた平原に2人の声と剣の音だけが響いていた。




