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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
ユズリハ王国王都編
50/151

49話

 6日目、予定通り今日の夜から外壁の外に馬車を止め、そこで待機することになる。そのため宿に泊まるのは昨夜までだ。

 おばちゃんには、すでにその事は伝えてある。


「さて、そろそろ行くかね。しかし、この部屋も案外長く使ったな。」


 自分の使っていた部屋を見回しながら感慨深げにつぶやく。

 王都に来てからだいたい一か月。その間ずっとこの部屋で過ごしてきた。

 王都でやったことで1番の収穫と言えば、やはり新しい武器を手に入れたことだろう。

 今も自分の背中に付けられているサイディッシュは、その重さで自分の存在を主張する。

 改良が完了してからの実戦はまだ無いが、頼もしい相棒になってくれることは間違いない。これから長い付き合いになるであろう相棒を1度握って部屋を出た。


 1階に降りると夕食の準備をしていたおばちゃんが顔を出した。


「行くのかい?」

「ああ、約束の時間だからな。いままでお世話になったぜ」

「宿なんだから当たり前さ。そうだ、他の町に行っても止まり木を使っておくれよ」

「おう、色々便利だしな」


 噂集めるのにここほどうってつけの場所は無い。まあ、正確な情報が欲しいのなら、ここじゃ少し物足りないかもしんないけどな。


「これが頼まれてた夜食だよ」

「あんがと」


 フィーナと俺用に2人前の弁当を受け取り、俺は宿を出た。

 向かう場所はフィーナの自宅だ。そこに馬車が止まっている。そこから俺とフィーナ2人で外壁の外へ出て一夜を明かす。

 翌日はリリウム次第だ。リリウムが来たら馬車を出して追っ手を振り切って逃げるのみ。何かしてくるようなら軽くけん制程度はするつもりだが、殺すつもりは無い。まあ、お家騒動に巻き込まれた無関係な連中みたいなもんだしな。


 フィーナの家に着くころには、沈みかけていた夕日は完全に沈んでいた。

 家の扉をノックすると、すぐに返事が返ってくる。


「はーい、今開けます。あ、トーカいらっしゃい」

「時間通り?」

「ばっちりです。こっちもだいたい準備は終わってますよ。後は馬を繋ぐだけです」

「了解。手伝うぜ」

「ありがとうございます。こっちですよ」


 フィーナに案内されて裏庭に回る。そこにはフィーナの愛馬とこっちの世界に来たとき初めて見たフィーナの馬車が置いてある。荷物はすでに昨日運び込んであるため、本当に後は馬を繋ぐだけのようだ。

 フィーナが馬を所定の位置まで持ってきて、俺が紐を繋いでいく。と言っても留め金で留めるだけだから素人でも誰でも簡単に出来る仕事だ。


「これで完了だな」

「はい、出発まで少しありますから中で休みません?」

「お邪魔するわ」


 爺さんにもしっかり挨拶してかないといけないしな。


 家の中に入ると、爺さんが机でお茶を飲んでいた。


「久しぶりじゃな」

「ああ、色々と準備が忙しくてな。しっかりと不安要素は取り除かないとな」

「当然だな。今日出発か」

「安心しな。ちゃんと守るぜ」

「当たり前だ。大切な孫娘だぞ。傷1つでも付けたら地の果てまでも追いかけて確実に締め上げてくれるわ」


 やべぇ。超こえぇ。


「おう、肝に銘じとく」

「おじい様。あんまりトーカをいじめないでください!」

「そういうわけじゃないんだが……」

「どっからどう見てもいじめてるようにしか見えませんでしたよ?」


 お茶を持ってきたフィーナが頬を膨らませながら爺さんに詰め寄る。爺さんはしどろもどろになりながら俺に目線をよこした。つまり助けてくれってことか?

 しかし、ここは雰囲気を和ませるためにも俺は追い打ちをかけるべきだよな! てかそうしてこそ俺だよな!


「ううぅ……言葉の暴力は堪えるぜ……」

「お主!……」


 その後に続く言葉は確実に「裏切ったな!」だな。けどそれが俺!


「おじい様!」

「まあまあ、フィーナそこら辺にして。お茶こぼれるぜ?」

「あ!」


 ヒートアップしそうになるフィーナを押さえて爺さんに視線を送る。貸1つだぜ?

 返ってきた感情は敵視だった。


「おほん。とりあえずフィーナのことは任せたぞ」


 強引に仕切り直したな。まあ、雰囲気はさっきより明るくなったかね?


「任せときな」

「私抜きで話を進められるのは心外です……」


 そう言いながらフィーナが一気にお茶を煽った。


 しばらくお茶を飲みながら談笑すると、計画の時間になる。


「フィーナ。そろそろ行くか」

「はい。ではおじい様行ってきます」

「怪我や病気には気を付けるんだぞ。と、言っても冒険者になるのだからそれも難しいかもしれんがな」

「大丈夫です。トーカにいろいろ教えてもらいながら行きますから」

「俺もそこまでベテランって訳じゃないんだけどな」


 体だけは頑丈だぜ? もうギプスも外してもらったしな。

 罅も完全に治っているらしい。この世界色々な星の加護があるくせに回復魔法みたいなのが無いんだよな。あったらスゲー便利なのに……せいぜい毒魔法を応用して薬を作るぐらいだ。

 その薬も、ギプスを外してもらう時にチラッと聞いた話では、長年の勉強が必要になるとのことで、俺には無理だとそうそうにあきらめた。勉強嫌いだしな!


 フィーナと爺さんが玄関前で抱き合って最後の別れをしている。俺はその間に裏から馬車を持ってきた。

 フィーナの馬は非常に賢いらしく、俺の雑な指示でもしっかり動いてくれる。

 商隊で移動した時も、すぐに言うことを聞いてくれるようになったし、受け入れてくれたと思っていいのかね?


「どうなんだ?」

――ブルルル


 違うらしい。フィーナの手前ってやつかね。まあいいや。とりあえず――


「これからしばらくよろしくな」

――ヒヒーン!


 首をなでながら言ったら、大きく挨拶を返された。やっぱ馬って頭良いよな。

 馬の声に気付いたフィーナがこちらを振り返る。

 爺さんは少しさびしそうにしてたけど、いつまでそうしていても、寂しさが消える訳じゃない。ここはぐっと堪えてもらうことにしようかね。


「フィーナ、連れてきたぜ」

「ありがとうございます。じゃあおじい様。今度こそ行ってきますね」

「うむ、行ってこい」


 フィーナが御者席に乗り込み、馬に鞭を打つ。

 愛馬はその鞭でゆっくりと歩きだした。

 爺さんは俺達から爺さんが見えなくなるまで、フィーナをずっと見送っていた。

 フィーナの目にうっすらと光るものがあるのに気が付いたけど、俺はあえて見ぬふりをしておいた。


 外壁の外に出るとき、兵士に簡単な質問をされたが、フィーナに野宿を慣れさせるためと言ったら簡単に信じてくれた。むしろ俺より野宿は得意なんだけどな。

 ついでに邪魔にならず、安全な場所も教えてくれたので、言葉に甘えてそこで明日を待つことにする。


「テントとかどうすんの?」

「今日は馬車の中で良いと思いますよ。さすがにリリウムさんが合流すると中では狭いので、テントを張ることになると思いますが」

「それもそっかね。じゃあ俺が先、見張りしてるから」

「お願いします。五時間で交代ですね」

「おう。お休み」

「はい、おやすみなさい」


 周りはすでに暗くなっているため、俺たちは順番に床に就くことにした。いくら外壁のすぐ近くで、安全だと言っても、野盗やホームレスの襲撃が無いとは限らない。

 だから念のために順番に警戒だけはするようにしておく。


「さて、フィーナが寝てる間に」


 馬車の外に出てサイディッシュを展開させる。

 やっとギプスも外れ、腕を自由に動かせるようになったのだ。さっきから振り回したい衝動が俺の体中を駆け巡っている。

 さすがに寝ている人の近くでチェーンソーを廻すことは躊躇い、素振りだけに抑えとくけどな。

 サイディッシュをいつものように両手で構える。

 鎌と斧をそれぞれ水平に保ち、ゆっくりと腰を使ってサイディッシュを右後ろに下げていく。

 そして体全体のバネを使って振り抜く。

 ブワッと風が巻き起こり、斧の刃に触れた草が飛び散った。

 だがそこでは止まらない! 止められない! 止める気にならない!!

 その場で回転してもう1度草を薙ぐ。

 衝撃でさらに半径の広がった草むらが切り裂かれた。

 止まっている刃ではさすがに綺麗に切ることは出来ないのか、鎌側の刃に触れた草はどれも引きちぎられるように飛び散る。

 逆に斧側に触れた草は、断面を平にして飛び散っていく。

 柄の部分を回転させ、動いている最中も斧と鎌両方の刃を使い、草を切り裂いていく。

 その場で回転していたのを止め、今度は交互に軸足を変え移動しながらサイディッシュを縦横無尽に振り回す。

 ザッと草が切り裂かれる音、ブチブチと根から引きちぎられる音、サイディッシュが風を切る音。そして俺の土を踏む音。

それぞれの音が連続して、不思議なハーモニーを生み出しながら、俺は無心でサイディッシュを振り続けた。


 数分間振り続けただろうか。時間の感覚があやふやだ。

 息は上がり、心臓はバクバクと脈打つ。

 最初は簡単な素振りだけのつもりだったのに、気が付けば興奮して実戦さながらの動きで走り回ってしまった。

 頬から顎に垂れそうになる汗を手で拭い去り、その場に倒れ込むように横になった。

 夜風が火照った体を冷やしていく。


「ふぅ……」


 久しぶりに動いた気がした。3週間近く戦闘と言うものをしていなかったのだ。

 こっちの世界に来てからは少なくとも2週間に1回は強敵と呼べる相手と戦ってきた。そのせいで動いてないと変な感じになるのだ。

 元の世界じゃ戦うことなんてあるはず無かったが、こんなことになったことは無い。

 つまりそれだけ今の生活が充実していると感じているのだ。


「神さんにほんと感謝だよな」


 俺の力を理解してくれる人を見つけた。

 仲間だと言ってくれる人を見つけた。

 力を必要としてくれる人たちがいる。

 それだけでこの世界に来たのは正解だったと思えた。


「さて、明日は祭りだしあんまり体力減らすのも不味いよな」


 汗が引き始めたころ、俺は立ち上がり御者席に戻った。




 幾ら野営に慣れていると言っても、それは父との野営だ。

 そんなフィーナが馬車に入って横になるぐらいで、簡単に眠れるわけがなかった。

 枕に顔をうずめながら、フィーナは外から聞こえる音に聞き耳を立てている。

 サシュッと軽い音がすれば次はブチブチと重い音が聞こえる。かと思えば鍬で畑を耕すような土を刺す音も聞こえた。

 それは紛れも無く、桃花がサイディッシュを振るっている音だと分かる。

 最初は敵か何かが来たかとも思ったが、それ以外の音が全く聞こえないのに気付いて素振りだと分かった。

 その音を聞きながらフィーナは1人考える。

 いつから自分は桃花を好きになったのかと。

 出会いは偶然だった。必死に逃げている所に突然現れ、いとも簡単に盗賊たちを倒してしまう。

 今思えば、あの時の圧倒的な強さでさえ手加減したものだと思うと、つくづく桃花の異常性が分かる。しかし自分には、そんなこと関係なかった。

 ただ純粋に救ってくれた人。それでしかなかった。

 その後、桃花の常識の無さに驚き、助けてもらったお礼として常識を色々と教えた。

 そして町で別れた。

 再会も偶然だった。祖父との連絡が取れ、どのように王都まで行こうか考えていたときの出会い。偶然にも桃花も王都に行くと言うことで、上手く便乗できないかと考えたが、桃花はすでに護衛の依頼を受けてしまっていた。

 桃花の提案に乗って、自分も商隊と一緒に移動できるように交渉し無事王都までの護衛を得ることができた。

 そして移動途中。そこで桃花の心の一部を知ることになる。

 教えてもらった桃花の秘密。そして自分が異常であることを理解しているが故の苦しみ。

 そこで今まで見てきた桃花への印象は一変した。

 今までの印象は、ただただ明るく自由で奔放な人だと思っていた。それも冒険者なのだから当たり前なのかとも思っていた。

 しかしそれは、桃花によって作られた印象だったと知った時、そして桃花が怯えられたと言って馬車に来た時の笑ってはいても辛そうな表情。

 その時に自分は桃花のそばにいたいと思った。その時がこの恋の始まりだったのかもしれない。

 そして王都に着いたとき、桃花の姿が見えなくて非常に焦った。まさかこれでお別れだなんて思いたくなかった。

 だから商隊の人に聞いて、桃花がギルドに向かったと知った時は全力で追いかけた。

 そして何とか、細いながらもつながりを残せた。

 それは今思えば正解だったのだろう。おかげでこうして冒険者にもなれたし、一緒に旅することもできる。

 唯一の肉親と離れるのは少し心細かったが、それ以上に桃花と一緒にいたいと言う気持ちが勝っていた。だからこそ確信する。

 フィーナ自身は桃花のことが好きなのだと。


 自分の気持ちがはっきりしたからこそ考えることがある。

 桃花が自分のことをどう思っているのかだ。

 フィーナはまず最低限の所から考え始めた。

 桃花は自分のことを嫌っていないかと。

 それは無いと即答できた。

 そう思えるのは、商隊で移動してくれた時に桃花が打ち明けてくれた秘密。その時の親友だと言ってくれた言葉。

 そして何より今一緒にいることができているからだ。

 フィーナから見ても、桃花は自分のことを快く受け入れてくれたと思う。かなり無茶な要求を祖父はしたと思ったが、それを受け入れてくれた以上悪く思われていないのは確かだ。

 ならばそれ以上はあるのか?

 桃花が自分のことを好きである可能性だ。

 その問いを自分に掛けた時、フィーナは答えを出すことができなかった。

 確かに桃花は色々なことをしてくれる。普通なら関わりたくないと思えるようなことですら快く引き受けてくれたのだ。

 しかし桃花なら、もしその立場が自分でなかったとしても受け入れたのではないかと思う。

 桃花は優しいのだ。

 異常なほどの力を持っても狂わずにいられる。それだけでも桃花の心は相当なものだろう。しかしそれ以上にその力を誰かの為に使おうとするのだ。

 そして桃花を見ていると1つのことに気付いた。それは家族と言うキーワードによく反応することだ。

 桃花と桃花の家族の間に何があったのかは知らない。しかし桃花が家族というキーワードに限っては、積極的に関わろうとするような気がするのだ。

 だから今回祖父が桃花に家族を守ってくれと頼んだ時、引き受けてくれた気がする。

 それがフィーナに一歩を踏み出させるのを躊躇わせていた。


「トーカの気持ちが知りたいです……」


 枕に向けられて発せられたその言葉は、すぐに小さく消えてしまった。


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