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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
ユズリハ王国王都編
49/151

48話

 1週間はあっという間に過ぎて行った。

 1日目は乾物系の食料品集め。

 2日目はナイフなどの、いつも使っている武器の手入れをバスカールに頼みにいった。

 その際バスカールの店に行くと店は閉まっていた。そして張り紙が一枚。

 『御用の方はカラリス魔法道具店へ』とだけ書かれていた。

 俺は張り紙の通りカラリスの店へ行く。バスカールとフィーナはそこにいた。

 どうやら武器を取りに来たついでに裏庭で訓練をしているらしい。そしてフィーナに聞いて驚いたことに、バスカールはカラリスと同棲を始めていた。

 お互い不況を乗り越えるために2人で頑張っていくらしい。本当の目的は一緒にいた方が良いアイディアが浮かびそうだからという理由っぽいが……

 初めてあったあの日以降、毎日のように話し合っていたら恋仲になったって感じかね?

 バスカールにナイフを預け待っている間に少しフィーナの訓練姿を見せてもらったが、今は基本の素振りや戦闘中の動きなんかを学んでいるらしい。

 フィーナは案外素質があるらしく、基礎は今日中に完成するだろうとバスカールから太鼓判を押された。

 そしてフィーナの為に用意された魔法道具の剣の性能を見せてもらった。

 フィーナが剣に魔力を流すと、周囲の気温が1,2度下がった気がする。そして刃の周りに白い靄があふれ始める。

 その靄は徐々に収束し、刃を完全に覆った。

 それを確認したフィーナが剣を一振り。

 覆っていた靄が振り払われ、中から透き通るような透明度を持った氷の剣が生まれていた。


「これがフィーナの武器?」

「はい、氷属性の場合は氷を剣の周りに纏わせ、切断力を飛躍的に上昇させているそうです」

「どんなもんなら切れる?」

「トーカが前サイディッシュで砕いた岩ぐらいなら綺麗にすっぱり行けると思うよ。どうせだから試してみようか」

「はい」


 バスカールの答えにフィーナが賛同する。

 岩は俺が砕いたせいで庭に破片がばらまかれている。しかし下部はしっかりと岩の形を残していた。


「行きます! ヤッ!」


 フィーナが剣をまっすぐに振り下ろす。

 ズパンッと鋭い音が響き渡り、剣が岩にめり込む。そして真っ二つに切り裂いた。


「スゲーな。フィーナのフォームもかなり綺麗じゃん」


 素人目に見ても、フィーナが剣を振るう姿は綺麗なものだった。

 重心が全くぶれていないと言うか、剣に力がしっかりと入っている気がする。


「フィーナは才能あると思うよ。魔法だけじゃなくて、剣の才能もあるとかうらやましいよ」

「まったくだよな。俺も魔法だけだし」

「バカ力持ってる人が何を言ってるんですか……」


 バスカールと感想を言い合っていたら、戻ってきたフィーナに呆れた目で見られた。

 手にある剣はすでに魔力を解き、普通の剣に戻っている。


「とりあえず修行は順調みたいだな。こっちは準備してるから、計画の前日には馬車を外壁の外に出したい。フィーナ頼める?」

「任せてください。それまでには修行も終わらせてみせますよ」

「このままだと明後日には終わっちゃいそうだけどね」

「じゃあ、明々後日に荷物をフィーナの家に持ってくぜ?」

「分かりました」


 ナイフの手入れを済ませ、宿に戻った。

 3日目4日目はギルドと串焼き屋に行ってきた。もちろん街を出ることを説明するためだ。

 ナージュには色々とお世話になったからな。串焼き屋はまあ、今後来れないことをマナカナに伝えてもらうためだ。

 串焼きが食えなくなるから大量に買い込んで、3日目は1人でモリモリ食ってた。

 4日目にナージュに話に行くと、ナージュは顔を出した俺を見た瞬間、顔に緊張を張り付けて受け答えしていた。俺そんな緊張されるような事してたのかね?

 まあ、いいか。どうせ後少しで王都からは出て行っちゃうし、祭り起こして出て行くから、しばらくは戻って来れないだろうしな。

 

「と、言うことは明々後日には王都を出てしまうんですね」

「おう、今まで世話になったな。次は多分デイゴに行くことになるのかね」


 フィーナと話し合った結果、帝国に行くかデイゴに行くかの二択になった後、帝国は色々厳しいと言うので、デイゴに行くことにした。フィーナが今まで何度も行き来しているため、道をしっかり把握しているのも決定打になった訳だ。


「分かりました。お元気で」

「おう、簡単には死なねぇぜ。後こいつ休憩所のシャイナに渡しといて」

「シャイナにですか?」


 俺は宿で書いてきたサインの入った封筒をナージュに渡す。


「前にサイン求められたんだけどさ、先輩が来て書いてやれなかったからな」


 あれ以来休憩所に行く機会が無くてすっかり期を逃してしまっていたのだ。しばらくここには来れないだろうから、渡せるなら今日が最後のチャンスと言うことになる。


「それなら直接渡してあげた方が喜ぶと思いますよ?」


 ナージュは至極当然なことを言う。でもさ――


「自分からサイン書いて渡すって滅茶苦茶恥ずかしくない?」


 求められたその場で書くなら別にいいけど、その後に自分から書いて「はい、あげる」なんて憤死もんだよな。


「そういうことですか。分かりました。しっかりと渡しておきますよ」

「サンキュー。それとギルドマスターって今会える?」

「ギルドマスターにですか?」

「そう」

「少し待ってください。確認取ってみます」


 ナージュが席を立ち確認しに行った。

 俺がギルドマスターと会いたい理由は1つ。俺のことについてギルドマスターがどこまで把握してるかってことと、デイゴのギルドの情報だ。

 キクリの町からギルドマスターに俺の情報は行っているはずだ。今回は直接会う機会が無かったけど、あの情報を見て何もしてないとは思っていない。

 2属性ってことになってる俺の加護の星の事も聞いてるだろうし、ギルドとしての方針はしっかりと聞いておきたいのだ。

 しばらくしてナージュが戻ってきた。


「お会いできるそうです。すぐに案内しますね」

「あんがと」


 ナージュの案内に従って、俺はギルドの奥へ入っていった。


「失礼します。漆トーカさんをお連れしました」

「入ってくれ」


 扉の向こうから低い声が聞こえてきた。


「トーカさんどうぞ」

「あんがと」


 扉を開け中に入る。中はキクリのギルドマスターの部屋とさほど変わんない気がするな。


「失礼します」

「君が漆トーカ君か。話はいろいろ聞いているよ。座ってくれ」


 促されるままソファーに座ると、ギルドマスターも俺の前に座る。

 ギルドマスターはキクリのマスターと同じぐらいの年齢らしい。知り合いと言うことだし、案外昔は一緒に冒険してたのかもしれないな。キクリのマスターが魔法使いタイプだとすれば、王都のマスターは生粋の剣士タイプと見た。

 なんせ服の上からでもはっきりと筋肉の凹凸が分かるのだ。現役を引退して初老になってもなおその体型を維持できるのは凄まじいものがある。


「それで今日は何の用かな? 突然だったから驚いたが」

「ああ、少し確認したいことがあってさ」

「確認?」


 ギルドマスターにもうすぐ王都を離れることを話し、自分の情報がどういう扱いになっているのかを単刀直入に問う。


「なるほどの。まあ、確かに異質な力を持っておるようじゃが、ギルドとしては問題を起こさない限りは静観するつもりじゃ。正直問題を大きくしたくは無いしの」


 その言葉には事なかれ主義とは別の感情が含まれているように思えた。


「まあ、俺も問題はあんま起こすつもりはねぇよ。王都を出るときに少し騒ぎが起こるかもしんねぇけど、それは俺のせいじゃないしな」

「トーカ君が直接原因になっていないのならギルドは問題なしと判断する予定だ。まあ、問題ありと判断した場合はしっかりと罰を受けてもらうがの」

「そりゃ当然だ。とにかく現状の対応は分かったぜ。何もないならやりたいようにやるだけだ」

「それが冒険者と言うものじゃなからな」

「なら次だ」


 話はデイゴのことに移り変わっていく。

 デイゴのギルドが何個あるか分からないが、俺の力を知って利用しそうな奴らにはなるべく近づきたくはない。

 そこでギルドマスター同士なら交流があるだろうと踏んで聞いてみたわけだが……


「すまんのう。ギルドは1国間でしか情報の共有は行っておらんのじゃ」

「何でだ? かなりデカい組織なんだし、情報の共有は大切だろ?」

「規模が多きすぎるからじゃ。多国間に干渉できるギルドが情報を共有してみろ。すぐに敵国の密偵だと言われて攻撃されるのが落ちじゃよ。じゃから情報は1国間のギルドに留めてあらかじめその憂いを断っておる。魔物などの多国間で協力が必要な情報は国に許可を貰って共有しておる」

「じゃあ、ユズリハにあるギルドのギルドマスターの情報は知ってても、デイゴのギルドマスターのことは分からないのか」

「紹介することもできんの」

「分かった。まあ、気を付けながらやるしかないな」

「応援はしておるよ。貴重なギルドの戦力じゃからな」

「対魔物に特化してるけどな」


 あんま戦争とかには巻き込まれたくねぇし。


「それで十分じゃよ。魔物を倒せるものは貴重じゃ。戦争は戦争好きにやらせておけば良い」

「それもそうだな。まあだいたいのことは把握できた。冒険者らしく自己責任で行くぜ」


 そう言って席を立ちあがり扉に向かう。その背中に声を掛けられた。


「デイゴは魚が美味い。楽しんでくるといい」

「おう!」


 俺は振り返らずに部屋を出た。


5日目、準備は大詰めに入る。乾物などの保存の効く食糧をフィーナの家に運びそのまま馬車に運び込んでしまう。そして保存があまり持たない食材を今日購入するのだ。

今日はフィーナに訓練の時間をずらしてもらって、買い物に付き合ってもらう。フィーナの保存の魔法が使える限度を見極めながら、買い物をするためだ。

 しかし現実は甘くない……


「おじさん! これもう一声!」

「お嬢ちゃんキツイよ……これ以上値引きしたらおかあちゃんに怒られちまう」

「大丈夫ですよ。これも一緒に買いますから!」

「そういう問題じゃないんだけど……ああ! もう分かったよ! それでいいよ!」

「ありがとうございます!」


 買い物は戦争だった。

 俺の出る幕が無い。完璧な荷物持ちとしてフィーナの後ろに棒立ちである。

 今回はリリウムの分の食料も買っておく必要があるために多めに買うことになる。そのため俺の両手はすでに袋でいっぱいだ。

 しかしフィーナの買い物のペースはとどまるところを知らない。


「フィーナ、後どれぐらい買うの?」

「王都からなるべく離れて、かつ最初に補給ができる村までの距離を考えると、後4日分は欲しいですね。私の保存もまだ余裕はありますから」

「了解……」


 イキイキとしたフィーナの表情にただうなずくことしかできなかった。


 荷物の買い出しと馬車への積み込みが終わった時、すでに日は暮れ街は夜の姿を見せていた。

 想像以上に時間がかかったのは、フィーナの保存魔法である。王都からデイゴへの移動では、魔法を掛け直す必要が無いようにかなり強力に保存の魔法を食料品に掛けた。

 王都の兵士がどこまで追って来るのか分からないのが理由だが、俺自身としてはそこまで心配することじゃないんじゃないかと思ってるんだが。


「ダメです! 旅を甘く見ちゃいけません。何が起こるのか分からないのが旅なんですから、色々と対策出来ることは対策しておかないと」

「そんなもんかねー」

「そんなもんなんです!」


 この力説によって強引にねじ伏せられてしまった。

 何かとフィーナに尻に敷かれっぱなしだが、やはり経験者の言葉の重みと言うのには逆らえないもんだ。

 車で1時間や、電車で5駅なんかの時代が懐かしい……


「とりあえず旅の準備はこれで完了ですよ。明日馬車を外壁の外に出して待機しておけばいいんですよね?」

「おう、リリウムは南門から逃げるって連絡貰ってるし、南門の影にでも寄せとけばいいだろ。怪しまれない程度にな」

「検閲に時間がかかっている風を装えば問題ないと思います。それよりリリウムさんは大丈夫でしょうか? いくらA-ランクの冒険者だからと言っても、多勢に無勢だと思うんですが」

「逃げるだけなら問題ねぇだろ。風属性の魔法も持ってるから、移動は得意のはずだぜ」


 何せ俺でも一瞬で移動してきたように思える移動方法を持っているのだ。私兵程度では追いつくこと以前に、逃げたリリウムを見つけることすら難しいだろう。問題は――


「まあ、出て来ることは無いと思うけど、国の兵士が出てきたら厄介だけどな。そこは俺が止めるさ」

「トーカはあまり目立たない方が良いと思うんですが」


 フィーナは月の加護のことを心配して言ってくれるが、これは俺がミルファに計画があることを言ったことが原因だからな。俺が何とかしないといけないところだ。


「問題ねぇよ。バレねぇ様にやるさ。さて、明日も早くから動くことになると思うし、俺は帰るぜ」

「ええ、おやすみなさい」


 もろもろの準備を整え、4日目は過ぎて行った。




 ミルファがお決まりの椅子にドカッと腰を下ろす。それに合わせて諜報部隊の1人が口を開いた。


「ミルファ様より言われたリリウム・フォートランドの周りに関する調査が完了しました」

「で、どんな感じになってるの?」

「どうやらヴァリス・フォートランドが関係貴族を巻き込んで、実家の実権を手に入れる算段があるようです」

「ヴァリスは少し前から家長になってたわよね?」


 今更実権どうこうをする時間は当に過ぎている気がすると、ミルファは首を傾げた。


「家長はヴァリスになっておりますが、実権は今だ父親が握ったままの様です」

「なるほどね。それで近々ある予定って言う祭りのことは?」

「ミルファ様はリリウム・フォートランドの婚約の件はご存知でしょうか?」

「ええ」


 リリウムから悩みの1つとして聞いたものだ。王族として手出しできないことに歯噛みしていた記憶が新しい。


「リリウム・フォートランドが明後日実家から逃げ出すように仕向けられているそうです」

「逃げちゃうわけね。それでお祭りか」


 トーカの言っていたお祭りの意味がそれで判明した。

 リリウムが逃げ出したとなれば、実家の父親は全力でそれを阻止するために兵士を動かすことになるだろう。

 リリウムが実質軟禁状態になっているとすれば、武力行使による逃走が考えられる。つまりA-ランクの冒険者が街中で暴れることになるのだ。

 これは王都の治安という意味では重大な問題になる。

 これをヴァリス・フォートランドは利用して、父親から実権をはく奪。どこかへ隠居させて静かに暮らさせるつもりなのだろう。

 そしてトーカはその計画に参加していると。


「リリウムがどう動くか分かる?」

「デイゴへ行く可能性が高いことから、南門に向けて逃げるかと予想されます」

「デイゴへ?」


 フォートランド家から1番近い門は西門だ。そこに行かずにあえて南門からデイゴへ向かうとなると、それ相応の理由が出て来るはずである。


「冒険者の漆トーカとフィーナの2名が3人分のデイゴまでの食料を買い溜めているのを確認しています」


 その言葉にミルファが眉をひそめる。

 冒険者の漆トーカは分かるにしても、フィーナの名前が出たのが意外だった。

 フィーナは元商人で今は祖父の家に身を寄せているはずである。それは自分でも言っていたことをミルファ自身が確認している。

 それが今は冒険者となってトーカと一緒に行動することになっているのだ。


「どういうこと? フィーナは確か商人だったはずよ?」

「数日前にフィーナが冒険者登録しています。その際漆トーカと一緒だったと報告を受けています」

「トーカが強引に? いえ、それは無いわね。ならフィーナが望んでってことになるけど」


 その理由がいまいち思い浮かばない。しかし、ミルファの女の勘が1つの答えを導き出した。

 フィーナがトーカに惚れてるなら、一緒について行きたいと思うかもしれないわよね。逃げるならリリウムも一緒になるだろうから、2人っきりにするのを不安に思ったとか……

 かなり突拍子もない考え方で、証拠も何もないが、ミルファにはそれが1番しっくりきたのも確かだった。


「それでいかがいたしますか?」

「なにを?」


 兵士の声で我に返る。


「騒動が起こると分かっているのに、何も対応をしないのは問題かと」

「ふむ、それもそうね」


 ミルファは桃花が自身にこのことを話した意味を考える。桃花を見ていてミルファが思ったのはバカではないと言う感想だ。ならば今回のことを自分に話しても得が無いことぐらいは、判断が付いているはずだと考える。


――なら何かを期待した?


 このことを話して王女の何かを期待する。つまりそれは。


「そうね。兵士たちには明後日、西から南門にかけての巡回を減らすように言っておきなさい」

「いいのですか?」

「ええ、相手はA-冒険者よ。一般兵じゃ相手にならないわ。なら兵力は温存しておくものよ。幸い今回の事件はクーデターじゃなくて、実権の正式な掌握だもの。問題行動ではないわ」

「分かりました。そのように伝えておきます」

「じゃあ報告会は終了ね」

「失礼いたします」


「私に出来る精一杯の応援はこれと後1つね。後は頑張んなさい」


 兵士が部屋を出て行ったあとで、ミルファは小さくつぶやいたあと、クーラを呼び寄せた。


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