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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
ユズリハ王国王都編
48/151

47話

 部屋を出て廊下を進む。先導しているのはシグルドだ。


「武器は兵士達に門まで持っていかせるが良いか?」

「おう、下手に城の中で武器持ち歩きたくねぇしな」


 変な勘繰りを受けるのはごめんだからな。持って行ってくれるならそれに越してたことは無い。


「しかしあの武器はいったいどういうものなのだ? 一見鎌と斧が合わさったものに見えるが、鎌には変な棘が生えていた。それにあの大きさだと重さも相当なものだろう。持ってくるときに兵士達が苦労していたぞ?」

「まあそうだろうな」


 何せあの武器、20㎏はある。鎌に8㎏、斧に8㎏、中心部分に4㎏の分配だが、先端に重さが集中するため、実際に持つとそれ以上に感じるしな。柄だけ持った場合だと体感は30超えるんじゃないか? まあ持ち方次第だろうけど。

 

「あの武器はオリジナルのもんだ。魔法道具の回路も使ってるから、かなり珍しいだろうな」

「ほう、魔法道具の回路をか」

「攻撃に使える回路も色々あるみたいでさ。知り合いに相談して付けてもらったんだよ。まあ原形の武器自体も突拍子も無い考えから生まれたもんだけどな」


 敵を威圧することをメインにする武器なんて、普通ならだれも必要としないだろうしな。この世界じゃ武器は敵を倒すために使うものであって、脅すために使うもんじゃないからな。


「魔法回路を使えば威力が足りない武器でも何らかの魔法で威力を上げたり別の事象を引き起こしたりして追加効果を与えること出来るみたいだからな。まあコストのことを考えると騎士団全員に支給ってのは無理だろうけど。それに戦闘中に魔法回路を常時使えるほど魔力があるなら魔法を使った方が早い」


 俺のサイディッシュもすでに500万チップ近い金が掛かっている。騎士の剣に魔法回路を組み込もうとしても、騎士全員の剣にそれを施そうとなると国庫が火の海になりかねないんじゃないか?


「そうかもしれないな。しかし幹部連中ぐらいに持たせるのならばいいかもしれない」

「その辺りは任せるさ。俺の領分じゃない」

「そうだったな」


 喋っているうちに門の前に着いた。そこには騎士の1人がしんどそうにサイディッシュを両手で抱えている。

 俺はその騎士に近づき片手を伸ばした。


「あんがとな。キツかったろ?」

「いえ、これぐらいどうってことありませんよ……」


 騎士は強がるがその顔には大量の汗が流れている。

 早く受け取ってやるかね。

 伸ばしたその腕でサイディッシュの柄をつかみ持ち上げる。腕にグッと負担がかかるが、俺にとってはどうってことない。

 俺が片手で容易に持ち上げるのを見たその騎士は、その光景に唖然としていた。

 次に隣の騎士からナイフを受け取り腰にしまう。これで預けていた武器は全て帰ってきた訳だ。


「じゃあミルファ様によろしく言っといてくれ」


 最後に荷物を受け取りながらシグルドに声を掛けた。


「ああ、わかった。しかしその武器は本当に凄いな。見るだけで恐怖を感じるぞ」

「まあそう言う武器だからな。ちょっと魔法道具の機構見てみるか?」


 シグルドの興味津々な瞳に負け、俺はサイディッシュをシグルドの前に持ってくる。そして鎌を展開させた。


「ほう、この棘々はなんだ?」

「触ると危ないぞ? ちょっと離れててくれ」


 俺の言葉にシグルドが周りの騎士に少し下がるように命じ、自分も2,3歩下がる。

 それを確認して俺は魔力回路に魔力を流した。分量的には全力で刃を回転させるときの半分ぐらいだ。それでも結構な速度になるけどな。

 キィィィィンと勢いよく回りだしバチンッバチンッと火花を上げる刃に、その場にいた騎士全員が驚き、思わず腰の剣に手を当てる。


「ちょっ!?」


 俺はそれに驚いて、急いで鎌から魔力を排出した。

 それに合わせて刃の回転が止まる。


「す、すまん。さすがにそれは予想外で思わず体が動いてしまった。お前たちもすぐに剣から手を離せ!」


 シグルドの言葉に半ば放心に近い状態で手を当てていた騎士たちが、我に返り剣から手を離す。


「ああ、びっくりした」

「それはこちらもだ」

「まあ、つまりこういうことだな。刃を回転させて火花散らせたりしてる」

「恐ろしい武器だな。それで貫かれると内臓を引き裂かれるのか」

「まあそう言う使い方もありだな」


 けどそれは人間には使いたくねぇな。かなりR-18Gの描写一直線じゃねぇか。


「とにかく魔法回路は色々出来るってことだ」


 そう言いながら鎌を閉じ、背中に戻す。


「なるほど、勉強になった。少し考えてみよう」

「まあ頑張れ。じゃあまた機会があったら会おうぜ」

「ああ、たっしゃでな」


 ちょっとした騒動を起こして、俺は城の門を抜け町中に入っていった。



 桃花が人ごみに消えていくのを見ながら、サイディッシュを持っていた騎士がシグルドに歩み寄る。


「あの冒険者はいったい何者なんでしょう……私はあのような重い武器を持ったのは初めてです」

「どれぐらいの重さだった?」

「総重量は20程度かと。ただ重さが鎌と斧に集中していますから構えるだけでもかなりの力が必要になります。それを振り回すとなると、正直私では想像もできません」

「そうか。それほどか」


 シグルドは桃花を見た瞬間かなり強いだろうと感じた。

 だがその感覚はどうも曖昧だった。直観は桃花の実力をかなりのものと評価するが、筋肉の付き方や身長はどう見ても普通の騎士以下なのだ。

 それがあの武器を持って戦うところを想像できなかった。

 しかし今、実際に桃花はシグルドの目の前であの武器を片手で持ち、尚且つ平然と操ってみせた。


「敵にはなりたくないな」


 謎すぎる桃花の存在は、騎士団長をもってしても戦いを拒否されるほど異質な存在だった。




「ヴァリス様、いらっしゃいますか?」


 別荘の一室。壁を埋め尽くさんばかりの本に囲まれた部屋に1人の女性が訪ねた。

 ヴァリス・フォートランドの妻、ルーシア・フォートランドだ。

 室内で本を読んでいたヴァリスはその声に本から顔を上げる。


「ルーか。どうしたんだい?」

「お手紙が来ましたよ」


 ルーシアは懐から手紙を取り出すと机の上に置いた。その封はまだ切られていない。


「ありがとう」


 ヴァリスは本を置き、手紙を受け取った。差出人は書いていない。しかし裏面の左下に監視役を示す目のマークが書かれていることでその手紙が誰からの物か把握した。

 手紙を開きその内容を確認する。

 そして口元をニヤリと不敵に歪めた。

 ルーシアはその表情に、嬉しそうに微笑む。ヴァリスがその表情をするときは計画が上手くいっている証拠だからだ。


「上手くいっているようですね」

「ええ、順調すぎて怖いぐらいですよ。しかしリリウムもいいタイミングで戻ってきてくれましたね。いえ、これは呼び戻した両親に感謝するべきなんでしょうかね」


 両親が強引に婚約を推し進めたからこそ、計画のステップを何段階も飛ばして実行段階まで推し進められたのだ。

 その事には感謝するが、それが両親を辺境へ追いやるための計画だと言うのが皮肉である。


「ヴァリス様、そろそろ話してくださっても良いんじゃないですか?」

「何をですか?」

「なぜリリウムの婚約を潰したんですか? リリウムが1等伯の家に嫁げば、ヴァリス様が実権を手にした後に役に立つと思うのですが」

「その事ですか。そうですね説明しましょうか」


 ヴァリスは嬉しそうにリリウムの婚約を潰した理由を語りだす。ルーシアはヴァリスが自分の計画を話す時が一番楽しそうな表情をすることを知っている。

 その時の笑顔が、いたずらを考える無邪気な子供の用で、ルーシアの一番好きな表情だった。


「まずルーは1つ勘違いをしていますよ」

「勘違い?」

「リリウムが嫁いでも家には何のメリットも無いんですよ」


 ヴァリスの言葉に首を傾げるルーシア。


「リリウムが嫁ぐ予定だった家は、どこでしたか?」

「ランディバル家ですね。家柄よりも個人の実績を評価することで有名です」

「そうです。リリウムが婚約相手に選ばれたのも、冒険者としてのリリウムの功績からでしょう」


 リリウムの冒険者としての功績は、冒険者に詳しくないルーシアですら話を聞くほどだ。

 たとえば町に迫る魔物の群れを1人で退治した。たとえば賊に襲われていた町を1人で救った。たとえば2等星級の魔物を1人で退治した。たとえば1等星級との戦いで見事生き残った。

 数々の戦績はどれも一流の冒険者として申し分ない物だ。それを否定できるものなどいない。


「ちなみに今のフォートランド家の功績はほぼリリウムの功績のみになってしまっています。両親の怠慢のおかげでね」


 今の両親になってから功績と言うものを上げたことがない。

 過去の栄光にすがりついている今の両親では、近いうちに1等爵から2等爵に降格されることは間違いない。

 リリウムの功績も、冒険者としての功績であって家の功績ではないため、貴族としての評価にはつながらない。


「つまりリリウムを取られてしまうと、家はそこら辺の無能貴族と同じ扱いになってしまうわけですね」

「それでも1等伯との縁談は貴重なのでは?」

「ルーの言った通り、ランディバル家は功績を重んじる傾向があります。今回の縁談はリリウム個人の功績に向けられたものであってフォートランド家に向けられたものではありません」


 ならばランディバル家が、抜け殻となったフォートランド家に手を貸すとは思えない。ましてや今の両親の状況ではなおさらだ。リリウムが何か言っても、何もしなかった両親では説得力に欠けるし、実績の無い新しい当主でもそれは同じことだ。


「だから縁談は潰したのですよ。今フォートランド家の功績を取られる訳にはいきませんからね。せめて私が何か功績を上げるまではリリウムには冒険者として頑張ってもらわないと」

「なるほど、そういうことでしたか」


 ルーシアはヴァリスならばリリウムがいなくても功績を上げることは可能だろうと思っている。それは妻だからとかそういう理由抜きに、ヴァリスの今までの行動を一番近くで見てきたからこそ、そう思ったのだ。

 実権を親に握られたままのヴァリスが、今回のクーデターを起こせるまでに裏取引を成功させたのがその証拠だ。

「それに」とヴァリスは言葉を続ける。


「それに昔から私に素直に接してくれたのはリリウムだけでしたからね。どうも私は子供のころから人を騙すような人間だと思われていたもので、リリウムの純粋なまなざしは好きなんですよ。リリウムが両親の都合で不自由になるのは兄として嫌ですからね」


 ヴァリスは少し恥ずかしそうにしながらも、そう言って頬を赤く染めた。

 その姿をみてまた微笑むルーシア。

 いつもの穏やかな表情。そして時折見せる狂気にも似た誰かを騙す時の表情、そしてごく少数の、心を許した者のことを話すヴァリスの表情。その3つのギャップにルーシアは自分が落とされたのじゃないかと考えた。


「今の話は忘れてください。蛇足でした」

「はい、ヴァリス様」

「では私たちもそろそろ動きましょうか。リリウムが逃走した後に私たちがいなくては実権を取り戻せませんからね。せめて王都まで1日程度の場所までは行かなくては」


 ヴァリス達は実際に慰安旅行に来ていた。今回の計画が決まってからすぐに戻ろうかとも考えたが、せっかく両親が計画してくれた旅行だ。なるべくギリギリまで楽しもうと動き出す準備だけはしながら、ゆっくりと寛いでいたのだ。しかしそれももう十分堪能できた。


「分かりましたわ。他の者にも伝えておきますね」

「お願いします。明日には出発しますし、今日は早めに寝ないといけませんね」

「あら、せっかくの最後の夜ですし、少しおつきあいお願いしますわ」

「ふう、仕方がないですね。分かりました、部屋で待っていますよ」

「フフ、楽しみにしていますわ」


 微笑みながらルーシアが部屋を出て行くのを見送って、ヴァリスは読書に戻った。


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