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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
ユズリハ王国王都編
46/151

45話

 フィーナと別れた俺はリリウムの家に向かった。場所はリリウムが来たときに聞いている。

 さすが貴族とだけ言うことあって、リリウムの家は以前見た商人の家より大きい。確かにこの大きさの家に住んでいたのなら、止まり木の部屋などスイート以外は小さく見えて仕方がないだろうな。


 家の門の前には私兵が立っており、そこに要件を伝えるようだ。俺はリリウムに会いに来たわけではないので、リリウムの名前を出さない。むしろ今リリウムとの関係を疑われるのはまずいからだ。

 だから俺は最初からハクの名前を出した。


「すみません」

「なんだ」


 私兵はずいぶんと高圧的な態度だ。そんな態度じゃ嫌われちゃうぜ?


「ここにハクってメイドがいると思うんですが、お取次ぎお願いできますでしょうか?」

「メイドに何の用だ」

「実家から手紙を預かりまして、直接渡してほしいと言うことなので、持ってまいりました」

「そうか。分かった少し待て」


 1メイドに充てた実家からの手紙など、いちいち私兵は確認しない。

 一応は手紙を偽装して持ってきてはいるが、必要なかったみたいだな。案外ザル警備?

 10分ほどして門から1人のメイドが出てきた。名前の通り、真っ白の髪をした女性だ。ずいぶんと落ち着いた感じがするし、30代手前ってところか?


「私がハクです。手紙を持ってきていただいたと言うのはあなたでしょうか?」

「おう、これが手紙な」


 俺は偽装された手紙を渡す。その時にもう1枚の紙を手紙の上に置いて。

 ハクは一瞬眉をしかめたが、それが何か分かるとすぐに納得した表情になり、その場で手紙を開いた。

 そしてそれにかぶせるように俺からの手紙を重ね、家族からの手紙を読んでいるように見せかけながら俺の手紙を読む。

 内容は簡単だ。

 計画に参加すること。そして移動手段と食糧の確保はしておくから、冒険者としての武器だけ持って外壁の外まで逃げて来いと言うことを書いてある。


「わざわざ持ってきていただいて申しわけありませんが、この手紙は受け取れません」


 ハクはそう言って俺の手紙もまとめて封筒の中に戻すと俺に返してきた。


「なぜ?」

「私は父の意見に賛同できないからです。この手紙は燃やしてしまって構いません」

「分かった。俺は届けるのが目的だったからな。あんたが内容を読んだ以上、俺の役目は終わったわけだ」


 手紙を返してきたのは、内容を誰かに読まれることを防ぐためだろう。

 後は俺が燃やして証拠を完全になくしてしまえばいいと言うわけだ。


「ありがとうございました」

「いんや、これも仕事だ。じゃあまた機会があったらどこかで会おうぜ」

「はい、機会がございましたら」


 リリウムからはハクが計画の数日前から暇を貰うことを聞いている。つまり今回の計画に巻き込まれることは無いと言うことだ。

 ならまたどこかで会う機会があるかもしれない。なんせ、リリウム側に付いているメイドだからな。

 俺はリリウムの屋敷を離れ裏路地に入る。そしてそこで魔法で指先に火を灯し、その火に手紙を付けた。

 封筒の角に火が付き、それはすぐに全体へと燃え広がる。

 完全に燃えたところで足で踏みその火を消した。

火の後始末は丁寧にね。

 真っ黒な炭の塊となった手紙を確認して、俺は宿に戻った。




 翌々日。俺は早朝から身支度を整えてベッドに座っていた。改良されたサイディッシュは壁に立てかけられている。

 とげとげとした刃が朝日に輝きなんとも言えない威圧感を放っているが、俺はそれを見て恍惚とする。

 正直ここまで良い物ができるとは思っていなかった。

 初めての試みということもあって、ゆっくりと回転する程度の到底チェーンソーとは呼べない代物ができると考えていたのだ。

 しかし結果は想像以上のでき。むしろこれ以上の物は存在しないだろうと言う完成度を誇っている。

 そこに自分専用と言う言葉が、俺の感情の喜びを増強させていた。


「早く振り回してぇ……」


 傍から聞けば、確実に危険思想の人間だが、部屋には俺しかいない。

 ゆえに気兼ねなくその武器を鑑賞することができていた。

 そこにノックの音が響く。


「漆トーカ殿、おられますか?」


 声は男の者だ。

 迎えが来たみたいだな。


「ああ、今行く」

「では外でお待ちしております」


 ハキハキとした声で受け答えをした扉の先にいる男。おそらくユズリハ王国の騎士だろう。

 今日は俺が王様と謁見する日。以前あった第2王女暗殺事件で王女を守ったとして王様からお礼を言われるために王城へ向かう。

 俺自身は面倒くさいし行きたくはないんだが、第2王女自らに来いと言われてしまっては行かない訳にはいくまい。

 サイディッシュを背中に背負い、鞄を持って部屋を出た。


 宿の外に行くとそこには豪華な馬車が置いてある。そしてその前に並ぶ騎士たち。

 明らかに場違いだろ……てか冒険者1人呼ぶのにこの扱いはおかしいぞ。

 道行く人も何事かと注目している。正直この中にはあまり行きたくねぇな。

 けど行かなければならないのだ。

 さっさと覚悟決めて馬車ん中に入っちまおう……中に入っちまえば外からは見えないし。


「お待たせしました」

「こちらへどうぞ」


 騎士の1人が馬車の扉を開ける。サイディッシュを背中から降ろして中に入る。サイディッシュは中に入ると邪魔なので騎士の人が持って行ってくれることになった。

 悪いね、かなり重いから頑張ってくれ。

 サイディッシュを受け取り、その重さに驚いている騎士の1人をそっと見てから馬車の中に入った。

 馬車は丁寧な革張りの椅子に、豪華な宝飾のカーテンと、まさに王族、貴族が乗るために作られた感じの馬車だ。

 本当になんでこんな馬車を迎えによこしたし……

 馬車に揺られること十数分、馬車が停止した。俺は外が見えないようにカーテンを閉じていたため、どこに停車したのか分からない。予想では城門の前ぐらいか。さすがに身体検査も何もなしで王城に冒険者を入れるとは思えないからな。

 そして扉が開けられる。


「到着いたしました。申し訳ありませんがこちらで検査を受けていただきます」

「構わないさ。冒険者なんだ。そんな丁寧に接しなくていいぜ?」

「いえ、王女様の命の恩人ですのでぞんざいに扱うことなどできません」


 やっぱり前見た時も思ったけど、かなり訓練が行き届いてるな。普通なら、いくら王女の命を救ったからって、末端の騎士までその人物を丁寧に扱うなんて事出来るはずがない。

 むしろ冒険者風情がとなめてかかるのが当然なはずだ。


「武器はどうすればいい?」

「お部屋までは私たちがお持ちします。王との謁見の際は、お部屋に置いて行っていただきます。その時は私たちが責任を持って警備させていただきます」

「あの武器重いし、そんな盗まれる心配はないと思うけどな」


 まあ、持って行ってくれると言うのならありがたくお願いしようかね。

 城門の前にある小屋で身体検査と手荷物検査を受ける。と言っても、俺は腰にあるナイフを兵士に渡してバッグの中身を確認されるだけだ。

 中身も財布やタオル、ギルドカードと危険なものなど入っていない。


「ありがとうございます。では城内へ案内します」

「よろしく」


 検査を終え、俺は王城へと入った。


 兵士が先を歩くのに付いて行く。その間に何気なく廊下や空いている扉の中を何となく覗き見しながら進んでいくが、特に珍しいものは無い。

 もっと壺とか絵画とか貴重なもんがごろごろ飾られてると思ったんだけどな。

 王城のイメージと言えば豪華絢爛、ふかふかの赤絨毯が敷かれ煌びやかなイメージがあるのだが、どうも俺の想像していたものと違う。


「想像と違いましたか?」


 そんな俺の考えに気が付いたのか、俺の先を歩く兵士が声を掛けてきた。やっぱりしっかり監視してたか。

 普通客人と言えども、そんなフラフラと色々なものを見ようとしていたら注意されるはずだ。それが何のお咎めも無しだとすると、それは相手が監視していて見ているものが問題ない時ぐらいしか考えられない。

 この兵士も俺の行動を監視しながら道案内をしていたらしい。

 先を歩きながら後ろの人間の監視するとか器用だな。


「まあな。もっと豪華なイメージがあった」

「初めて王城に来られた方はみなさんそう言います。しかし、一般の兵士やメイドが沢山歩く廊下に貴重なものはそうそう置けません。そういったものはうっかり壊してしまったりした場合弁償できないものばかりですから。なので、そういった貴重なものは厳重に宝物庫に保管されているんです」

「なるほどね」


 少し考えれば当たり前のことなのかもしれない。

 豪華なものがあれば、扱う技量も相当なものが要求される。全てのメイドや兵士がその技量を満たせるとは思えないし、もしかしたらその中に邪な考えを持って盗もうとする連中も現れるかもしれない。

 平民上がりなら余計そうだろうしな。

 目の前に金がごろごろ転がってるようなもんだし。


「こちらがお客様の待合室になります。中の物は自由に使っていただいて構いませんのでごゆっくりどうぞ」

「あんがと」


 案内された部屋の中に入る。部屋の隅にはメイドが2人いた。おそらく俺の面倒を見てくれるってことだろう。

 俺がソファーに座ると、慣れた動作でお茶と菓子を用意してくれる。そしてまた自分の定位置であるかのように部屋の隅に戻っていた。

サイディッシュとナイフはすでに中に運び込まれていた。冒険者と武器をセットで王城に持ち込ませるなんて不用心とか思ったけど、よく考えれば、武器を使って何かしようとする考えを持った連中自体を中にいれないようにしてるのかね。

 リリウムも、よほどのことが無い限り冒険者が王城へ来ることは無いとか言ってたし、そのあたりはしっかり下調べしてるのかも。

 ……俺呼ばれるのはおかしくないか?

 だって俺、過去の経歴とか一切ないんですけど……いきなりキクリに現れて冒険者登録した謎の男ってことになるのか? しかしそんな素性の知れない奴を、王女を助けたからって言って王城に呼ぶか?

 顎を支え、さながら考える人の像のようになりながら思考を巡らせる。

 もし俺なら、そんな危ない奴を王のそばに呼ぼうなんて考えない。確実に反対するはずだ。

 なら俺は今回なんで呼ばれた? ただのお礼だけじゃないって可能性が出て来るか?

 たとえば俺の素性を調べるために近くに呼んだ? いや、これなら王と謁見させる必要は無いはずだ。ならなんだ?

 呼ばれた時点である程度問題が無いと判断されたと思っていいのか? 王女と何度も話してるし、もし王族の命を狙っている人物なら殺すタイミングは確かにいくらでもあった。

 それを見逃してずっと仲良くしていたことが信頼につながったのか? それともミリーが何かしたのか?

 この城の兵士たちは王女たちにずいぶんと厚い信頼を寄せてるみたいだし、王女の言葉ならってことなのか?

 答えの出ない問いをぐるぐると考えていると、部屋がノックされた。

 メイドがそれに反応して扉を開ける。

 そこには豪華なドレスを身にまとったミリー、ミルファ・ユズリハ・サイハルトの姿があった。

 俺は考えをいったん中断してソファーから立ち上がる。そしてミルファに頭を下げた。


「良い、今はまだ謁見ではないからな。2人はしばらく席を外してくれ」

『承知いたしました』


 ミルファの言葉でメイド2人が部屋から出て行く。

 おいおい、そんな簡単に王女の2人っきりにさせて良いのか?

 2人が部屋から出てドアが閉じるのを確認すると、ミルファはいつものミリーの笑顔に戻る。つまり王女モードから普通モードになりたかったわけか。


「悪いわね、ずいぶんと待たせちゃって」

「いや、色々考えてたらいつの間にかこんなに時間が経っちまってた」


 ミリーの言葉で時間を確認すれば、部屋に入ってからすでに30分経過している。


「そう? ならいいんだけど、どうも今日の謁見を今さらになって大臣たちが反対し始めたの」

「やっぱ反対の声は出てんのか。俺が考えてたこともちょうどその事だ」

「どういうこと?」

「まあ立って話すのもなんだし座ろうぜ。まだ呼び出しじゃないんだろ?」

「そうね」


 ミリーが対面のソファーに座る。俺は空いているカップに紅茶を注いでミリーに出した。


「冷めちまってるかもしんないけどな」

「いいわ。それで何を考えていたの?」

「ミリーは俺の素性調べただろ?」

「ええ。王城に呼ぶには、しっかりとした素性と素行の調査が行われるからね」


 結構あっけなく暴露したな。まあ当然のことだからそれほど隠すようなことでもないのか。


「なら俺の経歴がおかしいことは知ってるよな?」

「キクリから前の経歴が一切ない事かしら?」

「そう、それ。なんでそんな怪しい奴が王城に呼ばれたのかなって思ってさ」


 大臣が今反対してるのもその事に関してだろうしな。


「簡単な話よ。日頃の素行も調査していると言ったでしょ? つまりその素行調査からトーカが暗殺者やどこかの国の密偵にしてはあり得ないほど目立ってたもの。それで私たちが安全と判断したのよ。(うち)の諜報部員は優秀だもの、人を見る目はしっかりしてるわ。もちろん私もね!」

「そんなんでいいのか王族……」

「良いのよ。実際、これまで王城で危険な目に遭ったことは無いもの。町に出た時は何度か命を狙われたことがあったけどね」


 それはつまり俺の時以外にも襲われた経験があったり、後から護衛に報告を聞いたりしたと言うことだろう。


「ならあんまり町に出ない方が良いんじゃないか? 第2王女なんだし」

「民の暮らしを知らないで王族なんて、恥ずかしくて口が裂けても言えないわよ。だから私は時々町に出て民の暮らしを視察しているの! つまりこれも王族の立派な務めなのよ!」

「そう言いながら気晴らしに喫茶店で飯を食うと」

「王城は安全だけど、思惑が色々ドロドロしていて面倒なのよ……」


 本音が出たな。つまりミリーと言う存在は、王城での気晴らしも兼ねてワンパクな性格になっちまってるってことか。こりゃクーラも苦労するはずだわ。そういえば今日はクーラがいないな。


「今日クーラは一緒じゃないのか? 専属メイドなんだろ?」

「そうだったわ。クーラなら今、植物学者たちとセリースの開発をさせているの。トーカの言った樹液のことが大詰めになってるのよ。しかしあの樹液と言うのは凄いわね! あれほど甘く円やかなものは初めて食べたわよ!」

「そりゃよかった」


 植物学者集めて調べさせるとか言ってたけど、もうそんな所まで言ってたのか。やけに進みが早いってことは、元から樹液の存在を植物学者が知ってたってことかな。煮詰めるとか料理に関することを学者が知らなくていままでは出来なかったけど、案が出てくれば実行できるって訳か。ならクーラは料理係かね?


「完成したらこの部屋に持ってこさせるように言ってあるの! そろそろ来てもおかしく無いころね!」

「ならゆっくり待つとしますか。しかし、ミリーは大臣たちの説得に行かなくていいのか?」


 俺のことをよく知ってるミリーが直接説得すれば案外早く何とかなりそうなもんだがね。


「ダメね。あいつらは自分の権力のことを考えて反対してるもの」

「権力?」

「私の近くに男の影をちらつかせたくないのよ。あわよくば息子を王女の婿にって考えてる連中ばかりだからね。全くどいつもこいつも無能のくせによくやるわよ」

「ずいぶん辛辣だな」


 何か嫌なことでもあったのかね? そういうことならむしろパーティーとかで煽てられてそうだけど。


「当たり前よ! あいつらは、私が4等星の加護だからって、常に見下した目で見て来るもの。隠してるつもりでも全然隠せてないから余計に腹が立つわ! 自分もせいぜい3等星の底辺をうろついてるくせに」

「加護の問題か。やっぱ加護で偉さが変わったりするわけ?」


 星の加護が浸透した世界なら、もしかしたらそういうのがあるかもしれないと思ってたけど、権力関連で絡んでくるのか。冒険者は武力が全てだから、加護の大きさはあんまり関係なかったんだよな。


「属性魔法を使える人は、それだけである程度有能とされるからね。政治能力皆無でもね! まったく困った考え方よ。それで滅びそうになった国がいくつもあるって言うのに、あいつらは学習という言葉を知らないんだもの」

「そりゃまた面倒な連中だな。そういやあミリーは無属性の魔法を極めてるんだっけ?」

「そうよ! あいつらが属性魔法の底辺をうろついている内に、私は無属性魔法を極めて、あいつらをぼこぼこにしてやるのよ!」

「ハハハ、ほどほどにな」


 確かに属性魔法に胡坐をかいてるやつなら、少し無属性魔法を練習すれば簡単に倒せるだろうしな。

 魔法なんて応用が全てなんだ。少し属性が付いたぐらいで強くなるわけじゃない。その属性をさらにどうやって魔法に応用するかで強さが変わってくるんだからな。


「トーカも今度私の魔法の練習に付き合いなさいよ! 冒険者なら色々知ってるんでしょ?」

「まあ、知ってはいるけど、俺も属性魔法をメインに使ってるし、無属性はあんまり知らねぇぞ? と、そうだ。それに俺近いうちに王都を出ることになったしな」

「え?」


 俺の思い出したような発言に、ミリーの表情が凍り付いた。


「え? なにか王都で気に入らないことでもあった? それとももしかして何か問題起こしちゃった?」


 ミリーが急にあたふたと慌てだす。


「違う違う。俺以外の奴の都合だよ。まあ、ちょっとした祭りをやることになってな。それに合わせて王都を出ることにしたんだよ。それに色々な国も回ってみたいしな」

「そ……そうなの。つまりトーカがこの国を嫌になったとか、そういうことじゃないのね」

「違うぜ。この国は結構好きだしな。美味い串焼きとか、話の合う武器職人とか魔法道具屋とかいるし」

「ならよかったわ。けどちょっと聞き捨てならない言葉を聞いたわね。祭りってどういうことかしら? 王都でお祭りの予定なんてしばらく無いけど」


 ミリーの声がちょっとドスの聞いたものになった。これは半分王女モードだな。

 さて、リリウムの事を話してしまっても良い物か……確かリリウムとミリーもフィーナと一緒に知り合ったって話だから面識はあるはずだよな。けどどこまでの仲かは知らねぇし迂闊なことは言えないな。

 けど、国に関わることだし、王女が知る権利ぐらいはあるか? 

 ここは自分で調べてもらって自分で判断してもらうか。リリウムの計画に参加すると決めた以上、俺はリリウムを全力で応援するけどな。

 王国の兵士がリリウムの逃走を妨害するんなら、それを止めるのは俺の仕事になりそうだな。


「祭りに関して俺から詳しく言うことは出来ねぇな。だからヒントだけ出しとくわ」

「何かしら?」

「ミリーはリリウムの現状を知ってるか?」

「強引な婚約の事? 一応私も知ってはいるわ。ただ国として貴族どうしの婚約を反対することは難しいから指をくわえてみていることしかできないけど」


 ミリーは悔しそうに眉間に皺を作る。


「それがらみで祭りは起こるぜ。俺の素性を調べられる優秀な諜報部隊なら簡単に調べられるだろ?」

「そう……貴族絡みなのね。なら私もしっかり調べないといけないわね」


 そういうミリーの口元には笑顔が張り付いていた。

 さっきの口ぶりからするに、ミリーも強引な婚約は嫌らしい。まあ当然っちゃ当然だけどな。

 で、リリウム絡みで俺が祭りと言ったからには、起こることとして予想できるのはただ1つ。婚約潰しになる訳だが、この分なら大丈夫そうか?

 ミリーから怪しげな笑い声が漏れ始めると同時にドアがノックされた。そして外から聞こえてきたのはクーラの声。


「失礼します」


 その声に反応してミリーがいつもの表情に戻る。


「やっと来たわね。完成したの!?」

「はい、たった今完成しました!」


 クーラの手にはお盆。そしてその上には3つのカップが乗せられていた。

 あれが完成品か。


「トーカ様もお久しぶりです」

「おう、1週間ぶりだな」


 クーラがそれぞれの手元にカップを1つずつ置く。その中はやはりあの喫茶店で飲んだものと同じセリースだ。


「トーカ様も飲んでみてください」

「おう、いただくぜ」


 ミリーがごくごくと飲み始める。俺もカップを傾けた。

 舌に感じる甘味、そして喉を通る円やかさ。どれをとってもあの喫茶店で飲んだものと同じものだ。


「完璧じゃない! よくやったわね、クーラ。他の植物学者たちにも褒美を上げないといけないわ!」

「確かにあの喫茶店のと同じ味だな。すごく美味い」

「ありがとうございます!」


 クーラが満面の笑みを作った。


 クーラが来てからさらに30分ほど雑談を重ねたころ。ようやく兵士3人が俺を呼びに来た。

 部屋に入ってきてミルファとクーラがいることに一瞬驚いた兵士達だったが、俺が助けた後仲良くなったことは周知の事実だったようで、すぐに落ち着きを取り戻し謁見の準備が整ったことを伝えてきた。


「ようやくか」

「じゃあ行きましょう。私も同席することになってるし、案内するわ」

「さすがにそれはまずいですよ、ご主人様。兵士の仕事も無くなってしまいます」

「む、それもそうね。なら私は先に行ってるわ。謁見楽しみにしてるわよ」

「何を楽しみにするのかわかんねぇけどな。問題起こす気はねぇぞ?」


 俺だってTPOぐらいはわきまえるし「俺はこの国の人間じゃないから膝をつかない」なんて事するつもりもないしな。

 礼儀に関することはある程度ミリーとクーラに雑談の中で教えてもらったし、そこまで大それたミスはすることは無いだろう。

 王様もこっちが冒険者だと分かって接してくれるらしいから、小さい事には目をつむってくれるらしい。


「ではご案内します」


 ミリーとクーラが部屋を出た後で、俺も身体検査をした後、兵士に付いて謁見の間へ向かう。兵士1人が俺の案内役で、後の2人はここで俺の荷物の警備だと言うことだった。


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