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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
ユズリハ王国王都編
40/151

39話

 とりあえず最初に行く場所はカラリスの店か。どれぐらい量使うか分かんねぇからギルドに売る訳にもいかねぇしな。

 坂道を上りカラリスの店に行く。

 尻尾は店の前に置き、中に入った。


「カラリスいる?」

「あ、トーカさん、戻ってこられたですね!」

「おう、素材持ってきたぜ。大きくて邪魔だから店の外に置いてある」

「分かりました。見に行きましょう!」


 カラリスを連れて店の前に出る。そこには尻尾に興味を持った通行人が人だかりを作っていた。


「これがマグナワイバーンの骨ですか!」

「大きくて、これだけしか持って来れなかったけどな。他の骨は隠してあるから足りなきゃ持ってくるぜ?」

「これだけあれば十分ですよ! むしろこの半分ぐらいでもいいぐらいです」

「じゃあこれ全部渡すから、とりあえず作ってくれ。余った分はギルドに売りに行くから」

「分かりました。では中に運びこむので手伝ってもらっていいですか?」

「もちろんだぜ。どこに運ぶ?」

「一番奥に。そこで作りますから」

「了解」


 尻尾を再び肩に担ぎ、店の中に入る。

 方向を変えるのが一苦労だな。廊下でさっきから壁に当たる当たる。

 一番奥の部屋に尻尾を置いて、ふぅと息をつくとカラリスが水を持ってきてくれた。


「お疲れ様でした。まさかこんなに早く狩って来るとは思ってませんでしたよ」

「じゃあまだ機構の問題点は改善されてない?」

「まさか、ちゃんと改良は完了してますよ! 趣味人なめないでください」


 フフンと胸を張るカラリス。どうせ店閉めて改良に勤しんでたんだろうな。


「おかげで問題点になってた魔力の消費は解決されましたよ。素材の問題もこれで解決されるし、後は重さですね」

「それは作ってみないと何とも言えないか」

「そうですね。まあ、2日もあれば試作ができるから待っててください」

「あいよ。楽しみにしてるぜ」


 後を任せ、俺は店を出た。

 次に向かう場所は冒険者ギルドだ。あそこには治療用の施設が併設してある。

 今まで使ったことが無かったけど、さすがにこの怪我は使わんとマズイだろ。

 マグナワイバーンに焼かれた手の平と、痛みが残る肘。特に肘は下手に後遺症が残っても嫌なのでしっかり見てもらうことにする。

 ギルドに入り、受付に顔を出す。


「こんにちは。どのようなご用でしょう?」

「医療室使いたいんだけどさ、どこにある?」

「医療室は右手奥、廊下の突き当たりになります。お怪我ですか?」

「まあちょっと魔物とやり合ってね。まあそこまで酷くないから検診程度だけど」

「そうでしたか。お大事に」


 受付嬢に言われた通り廊下の突き当たりに医療室はあった。そこの扉だけ白いカーテンがあり、隙間から病院特融の薬の臭いが漏れてきていた。


「ここか」


 ノックをして中に入る。中は学校の保健室のような場所だった。

 簡易のベッドと医師用の机、奥には2台の大きなベッドが置かれている。今はどちらも使われていないようだ。

 そして医者用の机の前に座っている白衣の人物。


「いらっしゃい。ここに人が来るなんて珍しいわね」

「そうなのか?」


 白衣のお姉さんは、こっちを見て珍しそうに頬に手を当てって言った。

 てか珍しいのか?冒険者なら、治療のためによく使ってそうなイメージあったんだけどな。


「ほら、冒険者の怪我って、かすり傷か死ぬ傷のどっちかが大半じゃない? 治療が必要だけど、命に別状がないっていうのは意外と珍しいのよ」

「なるほどな」


 魔物との戦いで怪我をすれば、死ぬ可能性は一気に高まる。逆に薬草取りなどの依頼での怪我は薬草を取る時に指を切ったとかその程度だ。

 途中魔物に襲われても、前者の言い分に代わる。

 つまり中途半端に骨を折るだけとか、火傷するだけとか少ないのね。


「あとチーム組んでいる人たちは、大抵専門の治療師がいるのよね。だからここに来るまでも無くちゃんと対処できちゃうの」

「じゃあここに来るのはチーム組んでない運の良かった連中ってことか」

「そういうことね。チーム組まない人も珍しいから、すっごく少ないの。おかげで私はのんびり出来るから良いけど」

「けど今日は俺が来たぜ。診察してもらっていいか?」

「もちろんよ。それが私の仕事だもの。座って。怪我は手の平かしら?」


 包帯の巻いてある俺の手を見て、お姉さんはつぶやく。


「手の平もあるけど左肘を調べて欲しい。もしかしたら罅が入ってるかもしんないんだよ」

「あら、分かったわ。じゃあまずは肘から見ちゃいましょうか。ちょっとこっちに伸ばしてくれる」

「あいよ」


 お姉さんの診察を受けていると、入口から1人の青年が入ってきた。


「ルーヤさん、依頼の薬草持ってきましたよ。鑑定士も太鼓判を押した高品質のものです」


 入ってきたのはさっきまで同じ馬車に乗っていた青年だった。

 どうやら大量の薬草採取の依頼はギルドから出されていたものだったらしい。


「あれ? 君はさっきの」

「よう、さっきぶりだな。まさかこんなに早く再会するとは思わなかったぜ」

「ちょっと動かないで。診察中よ」

「あ、悪い悪い」


 振り向きざまに腕が動いてしまいお姉さんに怒られる。


「カイト君はお疲れ様。いつも通りの場所に置いておいて」

「分かりました」


 青年の名前はカイトと言うらしい。で、お姉さんの名前がルーヤさんね。いつもの場所ってことはカイトは良くこの依頼を受けてんのか。


「今のカイトって人は薬草採取のプロかなんか?」

「ある意味そうね。彼カイト君が言うには自分は戦闘が向いてないんですって。だから薬草の採取と逃げ足にひたすら磨きを掛けているみたいよ。おかげで私たちもちょっと危険な場所に生えてる薬草なんかはカイト君に取りに行ってもらってるの」

「へー、そういうタイプの冒険者もいるんだ」

「戦ってばかりが冒険者じゃないわ。未知の場所を探索したり、居住区を広げるために森林を伐採したり、道路工事をしたり、やり方は千差万別」


 ギルドの仕事は色々あるのだ。選び方が自由なら、それだけ違ったタイプの冒険者もいるってことだよな。


「さて、診察は終わり」

「お、もうか」

「診察は魔法使うだけだもの」

「今のが魔法?」


 何やら手の平に魔力を集めて俺の肘を触ってたけど、今のが魔法だったのか?


「基礎魔法の1つよ。まあ医療系の魔法だから知らない人は多いわね。今のは私の手の平に魔力を集めて、触った場所に異常があればそれを知らせてくれる魔法。熟練度次第で怪我の理由とかも分かるのよ」

「そりゃ便利だな。基礎魔法にも色々あるんだね」

「魔法も属性魔法しか使えないと思われがちだけど、基礎も基礎で便利なものは多いわ。あんまり知らないようなら一度色々調べてみると良いわよ」

「そうだな」


 俺の知ってる基礎魔法はリリウムから聞いた冒険者として覚えておいて損は無いもの程度だ。後は生命探知を発展させた魔力探知ぐらい。

 全部で15個あるかどうかって感じだし、もう少しレパートリ増やしても良いかもしんないな。

 特にこれからも1人で冒険者をやってくなら、色々な状況に対処できるようにしておかねぇといけねぇいだろうし。


「で、診察の結果だけど、やっぱり腕に罅が入ってるわね。肘に近いけど、肘には異常がないみたいね。最初のうちはあまり動かさない方が良いからギプスつけるわよ? 2週間ぐらいしたら外して少しずつ動かしましょうか」

「2週間か。完治までは3週間ぐらいかかるな。しばらく依頼受けられそうに無いな」

「右利きみたいだけど、左腕が使えないのは依頼者としても不安だろうしね。せめて2週間は依頼を受けちゃだめよ」

「しょうがねぇか。了解。ギプス頼むわ」


 頼むのは良いけど、ギプスってつけるのに時間かかるんじゃねぇか? それなら先に手の平の火傷見てもらいたいんだけど。


「じゃあこっちに向けて。すぐに付けちゃうわよ」


 ルーヤは俺の肘を覆うほどの大きさの長方形の箱を取り出し、俺に付けた。そして箱の中に水を注ぎこんでいく。

 ギプスってこんなつけ方だっけ? 異世界だからギプスも異世界式なのか?

 箱の中が水でいっぱいになると、今度はその上に手をかざし詠唱を始めた。

 なるほど魔法で固定するってことか。


「星に願いて水を固めん、ウォーターロック」


 詠唱が完了すると同時に中の水が石のように固くなる。そして俺の肘周辺は動かなくなった。

 基礎魔法色々便利とか言っときながら、ルーヤしっかり属性魔法使ってんじゃん……

 俺の考えを察したのか、ルーヤが口を開く。


「基礎は便利だけど、万能じゃないわ」

「さようで」

「む、何か納得してないって感じね」

「そうでも無いさ。じゃあ次は手の平頼むわ」


 不満そうなルーヤを措いて、俺は手の平を差し出した。


 治療を終え、医療室から出る。

 火傷には、効果が抜群だと言う薬草を塗ってもらったが、正直かなり痛い。

 水につけた時とか比べ物にならない。

 付けた瞬間は思わず声が漏れたし、今もひりひりとずっと痛みが続いている。まあ、これが効いてるって証拠だって言われたらどうしようもない。


「さて、カラリスにも渡したし、串焼き買って宿にでも戻りますかね」


 しばらく安静で何もできない状況なのだ。まだ読み終わっていない極星の勇者の伝説を読み終えてしまうのも良いだろうと思い、俺は宿に足を向けた。


 宿に着くとさっそく女将に絡まれた。しかもその表情はやけににやにやとしている。

 いったい何なんだ?


「あんたが出かけてる間に知り合いが来てたよ」

「知り合い?」

「あんたもやるじゃないか。美少女4人につば付けてるなんてね」

「何のことだ?」


 まったく分からなかった。美少女4人。内3人は何となく分かる気がする。たぶんフィーナとミリーとクーラだ。

 フィーナは近いうちに飯食いに行くって約束してたし、ミリーとクーラは俺の呼び出しあたりだろう。あの王女様の性格からすると使者を送るとかしなさそうだもんな。

 しかしそうすると後の1人が分からん。


「名前は聞いてるよ。フィーナって子とミリーって子。その付添いのクーラって子に、リリウムって言う冒険者だよ」

「ああ! リリウムか!」


 別れてから自分のことで忙しくてすっかり忘れてたわ。そういやあリリウムも一緒に王都に来てたんだよな。

 でも、ここに来たってことはなんかあったのかね? 実家に帰った理由がお見合いだし、それがらみだと俺もちっと手が出しにくいぞ?

 そもそも貴族がらみなんてミリーとオルトロだけで間に合ってるしな。


「なんだいあの冒険者が本命かい?」


 俺の声を何かと勘違いした女将がにやにや笑いながら顔を近づけてくる。

 俺はそれを手でグッと返し、距離を取る。


「ちげぇよ。1人誰か想像がつかなくってな。とりあえず了解したぜ。後で連絡取っとくわ」

「2日ぐらいで帰ってくるって話してあるから、明日ぐらいにはまた来るんじゃないかい?」

「それもそうか? じゃあのんびり待たせてもらうかな。明日からは怪我のせいでしばらく休業だし」

「なんだい、怪我しちまったのかい?」

「全治3週間程度だな。まあ、のんびりするさ」


 俺は腕のギプスを見せ、コンコンと固まった水を叩く。


「そうだったのかい。まあしっかり休んでまた頑張んなよ」

「もちろんだ。武器もそろそろ完成しそうだからな」


 完成してもしばらくは全力で振るえないのが残念だけどな。


「じゃあ、俺は行くぜ」

「ああ、ごゆっくり」


 女将に見送られながら俺は部屋に戻った。




 翌日。朝一番で来たのはミリーとクーラだった。


「トーカ! いるわね!」

「ノックぐらいした方が良いですよ、ミリー様!」

「どっちにしろ遅いぜ、クーラ……」


 朝食後、部屋でゆっくりしていたら、ミリーが部屋に飛び込んできた。部屋にいるときは鍵かけてないし、それが悪かったな。


「トーカ! 王城に行く日程が決まったわよ!」

「やっぱ行くの?」


 スゲー行きたくねぇんだけど。


「当たり前でしょ! 王女の命を救ったのよ! しっかりお礼を貰っときなさい!」

「ミリーもう少し声のボリューム絞ってくれ。隣の部屋の奴に迷惑になる」

「あら、私としたことが興奮しすぎたみたいね」

「ミリー様はいつも通りですよ……」


 クーラがため息を付きながら王城へ上がる時の予定を話していく。やっぱ俺に拒否権は無い訳ね。


「予定はちょうど1週間後の今日。当日は使者が止まり木の前まで馬車で迎えに来ますのでそれに乗って王城へ来てください。そうしないとたぶん城門の所で止められちゃいますから」

「了解。服装っていつも通りで良いの? てか正装とかって持ってないんだけど」

「冒険者ですので冒険者の恰好で構いませんよ。ただ顔を深く隠すフードなどは開けてください」

「ふむふむ」

「王城での内容は王との謁見のみです。さすがに強引に予定を押して詰め込んだので僅かしか時間が取れませんでした。もしかしたら謁見の後に少し話すぐらいの時間は作れるかもしれませんが、それもあまり長くはなりませんので。まあトーカ様なら緊張とかの心配はなさそうですが」

「王女助けておいて、お礼はいらないなんて言う人だものね。お父様とも普通に話しそうだわ」

「謁見のマナーとか知らねぇからな。無礼しても知らねぇぞ?」

「問題ないわ。もともと冒険者に貴族の礼儀を求めるほど、お父様は無茶な要求はしないし、他の重鎮も貴族も冒険者を見下してるところがあるから、むしろそれぐらいの方が勝手に自尊心を満たしてくれるわ」

「部下にずいぶん辛辣だな」


 その言い方は明らかに嫌っている空気を纏っている。

 長く仕えている重鎮ともなれば、王女なら子供のころからの仲でもありそうなのに。


「そりゃ、今の重鎮はね。正直絞りかすって言うのが正しいのかしら? 私の命を狙った没落貴族とそんなに変わらないような連中ばっかりだし」

「そんなんで大丈夫なのか?」

「フフ、そのあたりは問題ないわ。実権はとことんお父様に集中しているし、暗殺された場合の対処法は大きく公表されているの。だから迂闊に殺すことなんて出来ない」


 王に権利集中ってそれはそれでマズイ気がするけどな。

 まあ、今上手くいってるんならいいか?


「とにかく、トーカは来週王城に来ること! 最高のもてなしをしてあげるわ!」

「ほどほどに頼むぜ……」

「じゃあ私は町へ行くわ! クーラついて来なさい!」

「あ、待ってくださいミリー様! それではトーカ様。また来週」


 クーラは1つ頭を下げると、部屋から飛び出していったミリーを追って走って出て行った。

 あわただしかった部屋が急に静かになる。


「王城ね。異世界物の定番っちゃ定番だけど、いざ自分の身に降りかかると結構面倒くさいよな」


 とりあえず来週ということで、今は忘れることにして、再び本を開いた。


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