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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
ユズリハ王国キクリ編
4/151

3話

 止まり木の中へ入ると1階にはカウンターと沢山のテーブル。酒屋兼食堂と言った感じだ。


「すんません」

「おう、いらっしゃい」


 俺はカウンターにいたおっさんに声を掛ける。


「部屋借りたいんだけど空いてる?」

「空いてるぞ。どれだけ泊まる? 一泊朝夜飯付きで3000チップだ」

「じゃあ1週間」


 そういってポケットから1万チップ硬貨2枚と千チップ硬貨1枚を取り出す。

 それを受けとっておっさんはカウンターの下から鍵を取り出した。


「はいよ、部屋は3階の一番手前だ。飯はここで食うならただになる。そん時はその鍵を見せれば宿泊客だって分かるからよ」

「なるほど。出かけるときは預けてっていいのか?」

「ああ、かまわんぞ」

「了解」


 鍵を受け取り部屋に行く。

 部屋はワンルームに簡単な水道が付いていた。この時代の技術力で水道って何気にすごくないか? しかもここ3階だし。


 自分の部屋の位置だけ確認してまたすぐに1階へ戻る。


「おっちゃん、このあたりで服屋と本屋ってどこにある?」

「服屋なら目の前の道を左にずっと行った突き当たりだ。本屋はどんなもん捜してんだ?」

「魔法の初歩的な奴を教えてくれそうなの」

「教習本か。そういうのは冒険者ギルドで貸し出してるぞ?」

「マジ!?」

「マジだ。知らんかったのか?」

「知らんかったわ……」


 ギルドで貸し出してたのか。さっき行ってきたところじゃん。また行くのも面倒くさいし明日でいっか。

 なら今から行くのは服屋だな。まだ金は5000チップ以上あるし下着を買うぐらいなら大丈夫だろ。


「まあ、いいや。サンキュー」

「おう、鍵は預かるか?」

「ああ、頼むぜ」


 おっちゃんに鍵を渡して俺は止まり木を出た。




 冒険者になるんだから防具を買った方がいいのかとも思ったけど、俺基本的に怪我しないだろうし、そもそも5000チップで買えるような防具があるはずも無い。

 てなわけで服屋の前まで来たわけだが……


「あんたら何?」

「へっへっへ」


 服屋に入ろうとしたら変な男たちに邪魔された。てかこいつらさっき冒険者ギルドの休憩所にいた奴らだよな。つるっぱげに見覚えあるしな。


「へっへっへ」


 とりあえず言葉が通じそうにないから同じ笑い方してみた。

 そしたらなんか相手が険悪なムードになったんだがなんでだ!? 笑顔は世界の共通語じゃないのか!? それともここが異世界だから別ですとか言うつもりか!?


「なめてんのかてめぇ。新人のくせしてハルちゃんとあんな長く話しやがって」

「あの時間の長さは明らかに協定違反だよな、お前ら」


 リーダーっぽい男が他の男たちに言うと、周りの男たちも口々に肯定した。

 というかハルちゃんって誰よ? あの受付の猫耳少女か?


「協定を破った奴には罰を与えないとな。て訳で3万チップだ、とっとと置いて行け」

「なるほど、物乞いか」


 あれ? なんか違う? 物拾いじゃないし、落し物でもないし……


「ガキが! なめんなよ!」


 俺の言葉ってもしかして挑発になった? まあ、いっか。相手から手出してきたんだし、正当防衛成立するよな。周りの人たちも証言してくれるだろうし。

 て、訳で殴り掛かってきた男の腕を反対側に折り曲げる。

 案外脆かった。

 怒りっぽかったしきっとカルシウム足りてなかったんだな。可哀想に。


「うわぁぁぁああああ!!!!」

「てめぇよくもカンタをやってくれたな!」


 今の男はカンタと言うらしい。なんか田舎出の子供にいそうな名前だな。

 ハハ、今度は3人同時ってか? でも遅いなー、そんなゆっくり振りかぶってたら風穴空いちゃうぜ?

 それを証明するように3人の男の鳩尾にそれぞれ一発ずつ蹴りを入れた。今回はかなり手加減したよ? じゃないと周りに迷惑かかっちまうからな。俺ってば周りの迷惑まで考えて良い人だよな。

 自我自賛してたらなんか男どもが怯えだした。

 まったく情けない連中だ。たった4人やられただけで怖気づくとは……

 これは俺が鍛えなおしてやらねばなるまい!


「お前らこっち来い」


 威圧感を放ちつつ気絶した男たちを引きずって裏道に入る。

 起きてるやつらはちゃんと自分で歩かせたぜ? なんか腰が抜けたとか言ってる腑抜けがいたから腰を蹴ってやったけど、そしたらすぐに走れるようになった。俺って整体師の資質もあるかもしんないな。


「お前らの腑抜けた根性叩き直してやるよ!」




 5分ほどで裏道から出る。俺の後ろに付いてくる者はいない。てかほんの5分で全員気絶とかどんだけ腑抜けなんだよ……

 さて、本当の目的を進めますかね。

 服屋に入って適当に物色する。正直俺の好みにピンとくるものがないな。まあ、今はほとんど金を持ってないからピンと来ても買えないけど。

 て、ことで下着類を数枚買って止まり木に戻ってきた。


「おっちゃん」

「おう、坊主か」


 鍵を受け取り部屋に戻ろうとするところをおっちゃんに呼び止められた。


「言い忘れてた、泊り客の飯は6時から8時だ。その間で注文しないと料金かかるぞ。朝は7時から9時だ」

「サンキュー」


 現時刻は5時前。飯はまだだな。少し寝るか。そろそろ布団が恋しくなってたんだよな。馬車の中じゃ布団なんてあるはずないし、交替で見張りもしてたから眠りも浅かったんだ。

 さっきから眠くてしょうがない。

 布団にボスッとダイブすると、俺はそのまま眠りについた。




目が覚めたら外が明るかった。


「んあ? 今何時だ?」


 時間の経過は異世界も同じだったため腕時計をそのまま使っている。

 8時……8時!? 朝の8時か!? ちょっと寝るつもりが一晩寝ちまったのか……まあいいや、ちょうど飯が食える時間だ。降りて食って来よう。

 下着だけ変えて食堂に降りる。

 半分ぐらいの席が冒険者みたいな恰好をした連中で埋まっている。残りの半分には一般の客みたいなのがいた。

 俺はカウンターの空いてる席に座る。するとタイミングを見計らったようにおっちゃんが話しかけてきた。


「昨日はよく寝てたみたいだな」

「ああ、まさか一晩寝るとは思わなかったぜ」

「疲れてたんだろ、冒険者ならよくあることだ」


 あれ? 俺が冒険者だって言ったっけ?


「ここに泊まるのは大抵が冒険者だ。それにお前みたいな性格の奴も大抵が冒険者になる。お前は見て一発でわかったぞ」

「マジか、俺ってばそんなに冒険者かね?」

「お前が普通の職場にいるのを想像できなかっただけだ」


 確かに俺も想像できねえわ。コンビニでいらっしゃいませとか言ってる俺とか、笑いがこみあげてくる。


「まあ、今日から冒険者になるんだけどな。昨日は登録してきただけだ」

「そうだったのか。ならお前はラッキーだったな」

「何でだ?」

「昨日この町で冒険者をやってる荒くれた連中が、裏路地で誰かに叩きのめされてな。今朝この町を出て行ったんだよ。あいつら新人から金を巻き上げたりしてたから、みんな辟易してたんだ」

「なんだそんな連中がいたのか。冒険者ってのも怖いねー」


 まあ、そいつら叩きのめしたのは俺だけどな。まさかそんな連中だったとは。もうちょっと厳しくやってやればよかったかな?

 俺が昨日のことを思い出していると飯が出てきた。

 パンとスープ、それにミルクだ。


「これ何のミルク?」

「ルルスーだ」


 魔物か! 案外魔物も生活に浸透してんのな。


「サンキュー、いただきます」


 ギルドカードを受け取るため、俺はさっさと飯を平らげて止まり木を出た。




 ギルドに行く前に露店に寄っていくことにした。朝食は食ったけど、パンとスープじゃ物足りない。やっぱり男の子なら朝もガッツリ食いたいのだ。

 て、訳でお姉さんがいた露店に来たんだが……


「やってない」


 時間が早すぎたのか? でも他の露店はどこも始まってるし、ここだけやってないってのはおかしいはずだ。

 俺が呆然と誰もいない露店を見ていると、となりの露店をやっているおっちゃんが話しかけてきた。


「今日はそこは休みだよ」


 おかしい、カナは明日もなって言ってたのに今日休みだなんて


「なんで?」

「今朝早くカナちゃんが来てな。妹さんの体調が悪いからしばらく休むってよ」

「妹さん?」

「なんだ、お前さんこの辺りは初めてかい?」

「ああ、昨日来たばっかだ」

「なら知らなくて当然か」


 そういっておっちゃんは何かを思い出すように語りだした。けど面倒臭そうだから適当に聞いてまとめる。

 つまりカナは冒険者で、もともとこの露店は双子の妹であるマナがやっていたと。

 マナは料理の天才で、タレを作ったのもマナ。ほかの露店で出している料理にも何度かアドバイスなども入れていたそうだ。

 だが、運悪く病気にかかってしまい今は家で療養中。

 しかしその病気は非常に厄介で、薬を作れば治るのだが、その薬を作るには非常に高価な素材が必要だとのこと。

 今までコツコツ露店でためたお金と、カナの冒険者で稼いだお金でだいたいの材料は揃ったがどうしても1つ足りない素材があるだとか。

 それがフェリールと言う魔獣の瞳。

 その瞳の中に入っている水がマナの病気に効く重要な薬になるらしい。


「フェリールって強いのか?」


 高価ってことは、希少ってことだ。魔物が強いか非常に希少な魔物なのだろう。


「2等星級って話だぜ。冒険者でもうかつには手がだせねぇって話だ。それにフェリールがいるのは魔の領域だ。つまりそんなところまで誰も行きたがらねえんだと。冒険者が聞いて呆れるぜ」

「まったくだな。今日休みなのは、妹さんの病状が悪化したってことか?」

「そう言うことだろうな。大変だろうに……」

「あんがと、だいたい分かったぜ」


 とりあえず初めての依頼は何にするか決まったな。

 俺はギルドカードを受け取るべく冒険者ギルドへ進んだ。




 ギルドに入ると、昨日とは違い、人が大勢いた。いかにも冒険者っぽい人や、魔法使います!って主張してるローブを着た人。そのほかにも騎士っぽい人もいる。

 そしてその中で最も素早く移動しているのが、ウエイトレス。

 大柄な男たちの間を縫うように移動し、注文を取っては料理を運び、空いた皿は引いていく。

 さりげなく触ろうとした人にはしっかり足を踏んだりとお仕置きも忘れないその挙動は、歴戦の勇者を思わせる。

 てか、この中じゃ一番強いんじゃないか? っと、そんなことを考えている場合ではない。さっさとギルドカードを受け取って依頼を受けねば。


「すんません」

「おはようございます。どのようなご用件でしょう……っと昨日登録された方ですね」

「お、そうだぜ。よく覚えてたな」


 今日行った受付は昨日の猫耳少女の隣の席の人だ。

 道具を借りるときにチラッと見ただけだと思ったのに、すごい記憶力だな。1日ですごい数の冒険者とも顔を合わせてるはずなのに。


「特徴的でしたからね。魔導具が壊れてるかもしれないから貸してほしいなんて、そうそう言われませんよ。しかも結局原因が違ったって話ですし」

「そうだったのか。ハハ、俺って人より少し頑丈でね。そんでさ、ギルドカードできてる?」

「はい、少々お待ちください」


 そういって受付嬢は席を立ち後ろにある棚を何やらあさる。

 そして戻ってきた。その手には1枚のカードが握られていた。


「こちらが漆さんのギルドカードになります」

「サンキュー」

「正常に動くか確認してくださいね」

「どうやんの?」


 魔力を流すとかだったら困るな。やり方知らないし。


「左下にある丸いふくらみを押していただければ大丈夫ですよ」

「これか?」


 見れば平らなカードの左下にだけ小さく薄い半球状のふくらみがあった。

 俺はそこを押してみる。

 するとギルドカードにうっすらと文字が浮かび上がってきた。それは昨日俺が用紙に記入したものだ。

 あとはランクとかも書いてある。


「問題ないみたいですね」

「ああ、問題無いっぽいぜ」

「では今日から冒険者として正式に登録されました。ご活躍を期待しています」

「そうだ、止まり木で聞いたんだけどさ、ここって魔法の教習用の本とか貸してくれるって本当?」

「はい、貸し出していますよ」

「借りたいんだけど」

「わかりました。こちらがその本になります」


 渡されたのはえらく質の悪い紙でできた本。まともに装丁さえされていない。まあ、貸し出し用なんだからこんなもんが限界か。

 ぱらぱらと中身を見れば、魔力の使い方や魔法の使い方など、書いてあることは俺の必要そうな内容で間違いない。なのでこれを借りていくことにする。


「サンキュー。でさ、さっそく依頼受けたいんだけどさ」

「はい、どのような内容にしますか?」

「フェリールの討伐依頼ってある?」

「……はい?」

「だからフェリールの討伐依頼」


 俺の言った言葉に受付嬢がぽかーんとなる。その呆けた顔はちょっとかわいいな。

 だが、言葉の意味を理解すると、だんだんとその可愛らしい顔が険しくなってきた。


「死にたいんですか?」


 おお、超冷たい声だ。一瞬背中がゾクッとしたぜ。


「まさか」

「ならなぜフェリールなんですか? あれは2等星級の魔物ですよ? 5人以上のチーム、しかもせめて1人はAランク程度の実力が無いと倒せない相手です。Aランクでも、個人で討伐するのは不可能ではありませんがかなりの危険を伴う相手です、その相手に今日冒険者登録したばかりのあなたが挑むと?」

「別に冒険者の強さに登録日は関係ないだろ?」


 俺はにやにやと笑いながら揚げ足を取る。わざと怒らせるようなことをするのは、さっさと俺を見捨てて依頼を紹介してほしいからだ。

 下手に心配されると、依頼の受領ができなくなっちまう。こんなやつ死んじまえばいいんだと思えるような奴なら、依頼は簡単に受領できるだろうしな。


「わかりました。好きにしてください。フェリールの討伐依頼は今のところ出ていませんが、その素材の採取依頼ならあります。フェリールの爪と牙を5本ずつ。これが依頼書です」


 依頼書を確認すると、個人依頼になっていた。どうやら鍛冶屋からの依頼らしい。フェリールの爪と牙はどちらも鋭く固く、武器には最高なんだそうだ。

 俺が欲しいのは目だし、その場所とも被らない。この依頼なら受けても問題なさそうだ。ちなみに成功報酬は素材を持ち帰って50万チップ。さらに素材の購入費として100万チップだそうだ。


「おっけー。これ受けるぜ」

「ではギルドカードをこちらに。依頼中は他の依頼は受けられなくなるので、せいぜいお気を付けください」


 言葉の節々に棘が入っているけど、さすが冒険者ギルドの受付嬢。笑顔は崩さない。


「サンキュー」


 依頼受理の登録をしたギルドカードを受け取り受付を離れる。

 俺と受付嬢の会話を聞いていたのか、何人かの冒険者が俺に憐みの視線を向けてきた。どうせ無謀なことをしようとする新人とかだとでも思われてるんだろうね。

 まあ、人の認識なんていちいち気にしてらんないし、急ぐ旅だ。さっさと準備して出かけよう。

 俺はギルドを出て宿に戻った。


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