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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
ユズリハ王国王都編
39/151

38話

 リリウムが屋敷に戻ると、メイドが寄ってきた。


「リリウム様。お客様がお待ちです」

「私に客?」


 リリウムには心当たりが無かった。そもそも貴族としての役目はすべて兄が行っていて、自分自身は社交界などにもほとんど出たことが無い。ゆえに、貴族に自ら会いに来る人脈などあるはずも無い。ならば、来ているのは冒険者ギルドの関係者だとあたりを付ける。


「冒険者ギルドに勤めているナージュと言う女性です。応接室にてお待ちです」

「分かった。すぐに行くと伝えておいてくれ」

「承知いたしました」


 メイドに伝言を頼み自分は部屋に戻る。もともと桃花の場所へ行くために、一応の外行き用の服を着ていたのだ。

 いつものラフな格好に着替え、リリウムは応接室の扉を開いた。


「すまない、待たせてしまったようだな」

「いえ、突然お伺いしたこちらが悪いのですから、お気になさらないでください」

「そうか、ありがとう。まあかけてくれ」


 挨拶の為に立ち上がったナージュを席に座らせ、自分もその正面に座る。そのタイミングに合わせてメイドがお茶を出した。


「それで今日はどのような用件で?」


 リリウムには先日依頼中に殺したオルトロの話だろうとあたりをつけていた。

 しかしその予想は裏切られる。


「今日は、ある冒険者の資料製作の為に伺わせていただきました」

「ある冒険者?」

「漆トーカ様の事です」

「トーカがどうかしたのか?」

「申し訳ありませんが、このことはギルドの上層部に提出する資料のことになりますので詳しいことはお話できません」

「そうか……ならば仕方ない。まあ、ギルドの話となればギルドの一員である私には拒否権は無いよ」

「ありがとうございます。それでは何点かお聞きしたいことがあります」


 ナージュの質問は、桃花の魔物討伐履歴についてだった。

 依頼以外に魔物を討伐したことがあるかに始まり、フェリールをどのような倒し方で倒したのか、またどのような噂があったのかなど、キクリの町にいた時の事を重点的に聞いて来た。

 しかしリリウムが桃花にあったのもごく最近。フェリールの討伐の時であることを話し、それ以前のことは分からないと素直に話す。

 また噂のことは確実に嘘であることを主張しながら話していった。そうでもなければ、また王都で同じような噂が流れる可能性があるからだ。

 フェリールの討伐方法や、噂の話を聞きながら、ナージュはだんだん疲れたように頭が下がっていく。

 そして話し終えた時には、おでこを指で押さえ何とか体勢を保っているという状態になった。


「大丈夫か?」

「あ、はい。大丈夫です。前もってある程度の情報はありましたから。ただ実際に見た人の話を聞くと想像以上で……」


 ナージュの調べてきたところでは、すでに2属性の魔法使いであり、一般の冒険者以上の身体能力を有していることは分かっていたが、まさか魔法を使わなくても2等星級の魔物を倒せるほどの力を持っているとは予想外だった。

 これでは2属性魔法の使い手であると言うことですら霞んで見える。


「まあ、確かに初めて聞く者には衝撃的な事ばかりだろうな。しかしトーカのそばにいればそれもすぐになれそうだがな」

「そうですね。今もマグナワイバーンの討伐に行っていると言う話ですし」

「トーカのことだ、そろそろ討伐が終わったころだろうな」

「まさか1日で!? さすがにそれは無理でしょう。マグナワイバーンは基本的に地中に隠れていますし、何日もかけて探しだし、また何日もかけて討伐するような魔物ですよ?」

「それができてしまうからトーカなんだ」


 地中に隠れていても魔力探査を使えば簡単に見つけられてしまう。


「意味が分かりませんよ……」


 ナージュには、リリウムの瞳が嘘を言っているようには見えなかった。


「確かに意味が分からない強さを持っているが、その使い方を心得ている感じはあるな。まあ少し行き当たりばったりなところもあるが、大きな間違いを起こすような性格はしていない」

「そうですか?」


 話を聞いていると、ナージュは桃花がいつか大きなミスを犯しそうな気がしていた。

 それだけの力を持っているのなら、人を脅したり、傷つけたりするのも簡単なはずだ。しかも桃花はまだ16歳。成人しているとは言え、まだ思考には子供の部分が残っているはずである。

 そんな人物を安心してみていることなど、ナージュには出来なかった。


「分かりました。その話も報告書には書かせていただきますね」

「頼む」

「今日はありがとうございました。私はこれで失礼させていただきます」

「ああ、また聞きたいことがあったらいつでも来てくれ。話せることは話そう」

「ありがとうございます」


 ナージュはメイドに案内され屋敷を出た。

 ナージュを見送ったリリウムは、小さくため息を付く。


「トーカ。もう注目されているぞ……」


 変な噂を流さないようにしようと決めたばかりなのにこの状態だ。噂が流れないようにするには目立たないのが1番なのだが、桃花にはその考えがないのかと問いただしたくなる。


「まったく。とことん人を振り回す体質なのだな」


 小さくつぶやいてリリウムは自室に戻った。




 マグナワイバーンの骨が冷めるまでにサイディッシュを回収し、怪我の治療をする。

 両手は火傷で水膨れが酷い状態になってしまっていた。

 魔法で水の球体を作り、その中に両手を突っ込む。びりびりと火傷が痛むが、今はぐっとこらえた。

 とりあえず今できるのはこのぐらいだ。後は両手に包帯を巻いて菌が入らないようにすることぐらいしかできない。

 痛みがあるってことは神経までは行ってないってことだよな? ならとりあえず清潔にしときゃ治るはずだよな。

 消毒液が無いこの世界では、菌を防ぐのは至難の業だ。

 俺は20分置きに水球を作り、その中に手を突っ込んだ。


 2時間ほどでマグナワイバーンの骨に触れるようになった。ホッカイロのような温かさを放つそれを持って山を下りる。できることならすべて持ち帰りたかったが、今の手の状況では尻尾を持ち帰ることがせいぜいだ。

 他の部分を冒険者に取られないように、マグナワイバーンが出てきた穴に隠す。機会があればまた取りに来ようと決意し山を降りて行った。


 坑道の入口まで戻って来れたのは王都への馬車の最終便が出る数分前になってしまっていた。


「セーフ」


 ずるずると巨大な骨の尻尾を引きずる俺を見て、炭鉱夫が大いに驚く。

 その視線を無視して馬車に近づいた。


「なあ乗りたいんだけど大丈夫?」

「まだ席に空きはあるが、そんなでっかいもん乗せる場所はねぇぞ?」


 御者は眉をしかめながらマグナワイバーンの尻尾を見る。

やっぱここから歩くしかないかね?


「屋根に載せるとかも無理?」

「それの重さにもよるな。その大きさだとかなり重いだろ? そんなもん乗せて走らせたら王都に着く前に馬がへばっちまう」

「重さか……」


 2メートルほどの尻尾はだいたい200キロ近くある。炭鉱夫なら3人分と考えるといけないことも無いと思うが――


「大人3人分ぐらいの重さかな?」

「そりゃ無理だ。せいぜい1人多くするのが限界だよ。今でもいっぱいいっぱい乗せてんだ」

「そっか。じゃあいいや。歩いて帰るさ」

「いや、朝一の馬車なら人が少ないから乗せれるかもしれんぞ? 聞くだけ聞いてみた方が良いぜ」

「そっか、了解」


 出発する馬車を見送って俺は坑道近くにある事務所に向かった。


 骨を入口の所に置き、中に入る。今日野宿できる場所を教えてもらうためだ。

 正直激戦の後なんだからベッドで寝たいけど、ここじゃ贅沢は言ってらんないし、とりあえず雨風のしのげる場所を教えてもらいたいもんだな。

 王都への最終便の馬車が出た受付はがらんとしていて人の気配が薄かった。だが人は何人か残っているようだ。


「すみません!」

「おう、今行く」


 俺が声を掛けると奥から厳つい声が聞こえてきた。

 そして奥の扉が開き、大柄の男が出て来る。いかにも毎日ピッケル振ってますって感じの山男だ。


「馬車に乗れなくてさ。どっか雨風がしのげるところ探してんだけどなんかない?」

「ん? ここは初めてか?」

「おう、今日ちょっと用事で来ただけだからな」

「そうか。ここにも一応宿泊施設はあるぞ。泊まり込みで、鉱山で働く連中もいるからな。そういうやつらの為にベッドぐらいは用意してある」

「マジか!? それって誰でも泊まれんの?」

「金を払うならな。飯は出ないぞ」

「全然オッケー。泊まりたいんだけどいくら?」

「1泊で500チップだ」

「安いな!」

「部屋区切ってベッド置いただけだからな。取り合えず泊まるんなら2階の3番目の部屋を使え。鍵なんかないから貴重品の管理は自分でしろよ」

「了解。500チップな」


 山男にチップを払い、俺は入口に置いておいた尻尾を持って2階に上がる。一応五月蠅くしないように部屋の中に入る時は尻尾を持ち上げて入った。

 狭い部屋に尻尾を強引に押し込みベッドにダイブする。

 寝る前に包帯を取り、1回水に両手を突っ込んでから、新品の包帯で火傷を巻き直し眠りに着いた。


 翌朝、旅支度の為に日が昇ると同時に起きた。

 ライトの魔法が有っても基本的に山となれば、人間の行動は日が昇ると同時に始まり日が沈むと終わる。

 昨日の受付に行けば、やはり山男がいた。


「おう、昨日の坊主か」

「昨日は助かったぜ。じゃあ俺は帰りの準備するから。朝一の馬車って何時だっけ?」

「王都と同じ7時だ。あと1時間ってところだな」

「その時間って今日乗る人多いかね?」

「いや、王都からこっちに来るのなら結構いるが、こっちから帰るのは少ないな。今日は下手すれば誰もいなくて中止になりかねん」

「なら大丈夫かね?」

「昨日の骨か?」

「そうそう」


 昨日部屋に運び込むときに、山男には骨を見られてしまった。


「まあ大丈夫だと思うぞ。心配なら少し早めに行っとけ」

「そうするわ。あとこの辺りで飯売ってるような場所って無い? こっちから移動するとき用に少しはあるっしょ?」

「まともな料理は無いがな。干し肉とか果物なら森で取れたのがいくつか売ってるぞ」

「どこで買える?」


 見たところこの周りには店らしきものが無いけど?


「ここだ」


 そう言いながら山男はカウンターの下から干し肉と果物を取り出した。


「そういうのもっと早く言ってくれよ。危うく食い物なしで出発するところだったぜ?」

「ハハハ、その時にはちゃんと止めるさ。で、どれぐらい買う?」

「とりあえず2食分ありゃ良いかな」

「あいよ」


 2食分の干し肉と果物を貰い、俺は受付を後にした。

 そして家から出て馬車の乗合所まで行く。

 そこにはすでに準備を始めている御者がいた。


「ちょっといいか?」

「ん? なんだ客か?」

「そうそう、ちょっと大きめの荷物運びたいからさ俺合わせて4人分ぐらいのスペースは欲しいんだけど大丈夫?」

「4人分? 何運ぶ気だ?」

「ワイバーンの尻尾の骨。だいたい200キロぐらいあるから大人3人分だろ?」

「ふむ、まあ金払うならこっちは文句ねえぜ」

「もちろん払うさ。あ、1人分は冒険者代金な」

「あいよ」


 ギルドカードを見せて金を払う。


「じゃあ俺は荷物持ってくるから」

「おう、待ってるぜ」


 1時間後、俺は骨と共に王都に向けて出発した。




「帰ってきた王都!」

「うるせぇぞ!」

「すんません……」


 王都が見えてきたところでいつものように叫んだら、同乗してたおっさんに怒られた。

馬車の乗客は俺を含めて4人。結構多かったな。

1人はさっき怒鳴ったおっさん。もう1人は寡黙にずっと腕を組んで動かないおっさん。そして最後の1人は冒険者らしき細身の青年。腰に騎士剣を下げているから、剣士なんだろうな。


「あと20分ぐらいで着くぞ。降りる準備はしておけ。特に坊主な」


 尻尾の大きさからして確実に検問に引っかかるらしい。特に問題になるようなもんじゃないから大丈夫だろうけど、通り抜けるのには時間がかかるかもしれないとか。


「了解ー」


 椅子の下に押し込めてあった尻尾を取り出す。その姿を見て、他の乗客に動揺が走った。

 そういえば誰も来ないうちに尻尾は椅子の下に押し込んじまってたな。移動中は1回も出さなかったから、乗客が見るのは初めてか。


「おい、そいつどうしたんだ?」


 さっき怒鳴ったおっさんが話しかけてきた。


「こいつ? ニルスト鉱山の山頂付近にいる魔物の尻尾だよ。俺の武器の素材に使いたいから狩って来た」

「その尻尾の大きさからすると相当デカいだろ? あんた何もんだい?」

「どこにでもいる、ただの冒険者だよ」

「最近の冒険者ってのは、そんなでかい魔物を簡単に狩れるもんなのかい。スゲーな」

「そんな訳ないじゃないですか! 僕なんかニルスト鉱山じゃ薬草取るのが精一杯ですよ!」


 今まで黙っていた冒険者風の青年が声を上げた。

 てかやっぱり冒険者だったか。ニルスト鉱山には薬草の採取で来てたと。だから足元に大きな袋があったわけね。


「そうなのか?」

「とてもじゃないですけど、あんな大きな尻尾を持つような魔物なんて、1人で狩れる訳ないじゃないですか。のこのこ狩りに行ったら逆に餌になるのが落ちですよ」

「じゃあこいつは何なんだ?」

「知りませんよ!」

「ハハ、ただの冒険者だぜ。B-ランクだけどな」

「B-でも普通は無理なんですけどね……」


 少しだけにぎやかになった馬車は、王都の外壁まで着いた。


「ほら、ここまでだ。後は自分たちで検問は受けろよ」

「お疲れ」

「お疲れ様でした」

「じゃあまたどこかで会おう」

「機会があればな。お疲れ!」


 三者三様に挨拶を交わし馬車を降りる。肘の骨が少し痛むがもう少しの我慢だ。

 尻尾を背負い検問の列に並ぶ。

 すると1人の兵士が俺のもとへすっ飛んできた。


「おい君!」

「どったの?」

「その荷物はいったいなんだ!?」

「これ? 魔物の尻尾」

「それは見れば分かる! なんでそんなものを持っているのかと聞いているんだ!」

「そりゃこの魔物狩って来たからに決まってんじゃん。俺の武器に必要なんだよ」

「武器の強化?」


 兵士は不思議そうに俺の背中に背負われているサイディッシュを見る。


「そうそう、こいつの強化」

「ふむ、とりあえず魔物の種類とどこで狩ったかを教えてくれ。調べて問題が無いようなら通す。さすがに時間がかかるだろうから先に聞いておくよ」

「了解。魔物はマグナワイバーン、狩った場所はニルスト鉱山の山頂付近だ」

「分かった。調べて来るから列から外れて待っててくれ。そんなもの持っていると旅人や商人が怖がる」

「了解」


 言われた通りにおとなしく列からずれて近くに腰を下ろす。

 検問を待つ必要がなくなったのは助かったけど、余計に時間がかかるとやだな。

 しばらく待っていると兵士が戻ってきた。時間的には普通に検問を通るのと同じぐらいの長さか。まあ座ってられたのは楽だったな。


「確認が取れた。その尻尾以外の手荷物を検査して問題が無ければ通ってもらって構わないよ」

「了解。手荷物はこの武器とバッグ1つだけだぜ」


 中身もほとんど入っていない。検査は1.2分で終わった。


「問題なしだな。分かったこれを持って通ってもらって構わないよ」


 兵士から通行許可書を貰い門を潜った。


現在36話~38話の内容で納得なご指摘をいただいているので、今後内容が変更される場合があります。ご了承ください。

ストーリー自体に変更はありません。

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