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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
ユズリハ王国王都編
37/151

36話

「んじゃ、ニルスト鉱山に向かいますか!」


 1日分の食料だけ持って、俺は馬車の発着場に来ていた。

 時刻は7時少し前。朝一の馬車が出る少し前だ。

 すでに何人かの鉱山労働者らしき人影が馬車に乗り込んでいるのを見つけて、俺も馬車の前に立っている人に声を掛ける。


「なあ、ニルスト鉱山に行く馬車ってこれであってる?」

「ん? おお、あってるぞ。坊主も乗ってくのか? 鉱山労働者には見えないが」

「ああ、俺は冒険者だからな。ニルスト山の頂上の方に用事があってね。これギルドカードね」

「おお!」


 ギルドカードを渡すと、驚かれた。


「その年でB-か。分かった、冒険者なら料金は割引だ」


 代金を払い、馬車に乗り込む。鉱山労働者が乗ることだけあって、馬車はなかなかデカく、中に座っている人たちも筋肉がムキムキのおっさんばっかりだ。


「じゃあ時間だ! 出るぞ!」


 御者が俺たちに声を掛け馬車を出した。


 鉱山の入口は、イメージしていたのと大分違った。

 もっと木の枠で囲われただけの、いかにも坑道なものを想像してたんだけどな。

 実際の入口は、きれいに煉瓦が積まれ、しっかりとした扉までつけられている。その前には民家を2軒繋げた程度のサイズの建物があり、そこで鉱山労働者は登録して鉱山の中に入るらしい。

 まあ、俺には関係ないけどな。俺はここからさらに登山せにゃならんし。

 現在俺のいる場所は、ニルスト鉱山の入口にあたる場所。山の中腹付近だ。

 そこまでは道が整備されていて、意外と馬車でも快適だった。

 だがここから急に道は、人が3人横に並んで歩くのが精一杯の道になる。舗装も適当で、ところどころに穴が目立つ。

 馬車で行ったら1発で酔いそうだな。そもそも馬車じゃ入れそうにないけど。

 鉱山労働者と別れ、一路山頂を目指した。




「見つけてしまいましたよ、美味しいお店。これはトーカと一緒に行かなくては」


 王都に着いてから、祖父のもとに身を寄せていたフィーナがしていたこと。それは町のグルメをひたすら調べることだった。

 最初は祖父に聞いて、すぐにでも桃花と一緒に食べに行く予定だったが、まさか祖父が自炊至上主義だったとは知らなかった。

 そのため、商業ギルドを使って、町のあらゆるお店を探し、それでも足りず自らの足を使ってやっと昨日、桃花と行くのにぴったりの値段、雰囲気、評判を体現したお店を見つけたのだ。

 そして今日、フィーナは桃花が泊まっている止まり木に来ていた。

 お店の場所はすでにチェックしてある。値段も、2人で3,000チップとなかなか良心的な値段だ。以前の氷精霊の恵みに比べれば安いモノである。

 さすがに前回のは、自分も少しやりすぎたと反省しての値段選択だ。


「これならトーカも安心して付いて来てくれるはずです!」


 フィーナは、トーカとのランチを期待して悠々と止まり木に入っていった。




「クーラ! トーカのところへ行くわよ!」

「待ってくださいミリー様。先にトーカ様のご都合を調べなければ」

「構わないわ! いれば連れてくる。いなくても呼び出して連れてくる。簡単なことじゃない!」

「そんなむちゃくちゃな。トーカ様は冒険者なんですから、依頼で出かけている可能性も」

「とにかく行くわよ! 私は早く町に行きたいの!」

「結局それが本音なんじゃないですか!」


 ユズリハ国第2王女ミルファはミリーとなって町に向かった。もちろんクーラを引き連れて。

 今回の目的は、以前王女を暗殺者から守った冒険者、桃花を王城へ招くことだ。普通ならば従者が召集状を渡して招くのだが、ミルファ自身が直接行きたいと国王に直談判して、今回のことが決まった。

 暗殺者に狙われたのだから、普通は王城を出ることなど許されないはずなのだが、桃花が暗殺者の1人を生かして捕まえ衛兵に引き渡したことで情報が手に入り、暗殺を企てた没落貴族を処刑することができた。

 見せしめとして大々的に処刑を行ったため、現在は極めて安全な状態だと言っていい状況だ。

 そして何より、親バカの国王が溺愛している娘の願いを断れることなど無いのだ。

 町へ降りてきたミリーとクーラは、一直線に止まり木へ向かう。桃花がそこに宿を取っていることは、すでに衛兵の調べで分かっている。


「ふっふっふ。あの面白い冒険者にもう1度会えると思うとワクワクするわね、クーラ」

「確かに面白い方ではありますが、あまり肩入れするのも感心できませんよ? トーカ様は冒険者、最も死にやすい職業なんですから、別れが辛くなるだけです」

「あの男が簡単に死ぬもんですか。じゃあ行くわよ!」


 ミリーはクーラを引き連れて堂々と止まり木に入っていた。




「困ったことになった。さすがにこれは強硬手段に出るしかないか? しかし……」


 リリウムは非常に困っていた。

 原因は父から言われた見合いの話だ。

 今回も簡単に断ってさっさと王都から離れようと思っていたのだが、思っていた以上にお膳立てが上手く、先方はすでに婚約した気分で接してきている。

 この状態では、リリウムが1人強引に反対したところで強制的に婚約を結ばれるのは目に見えていた。

 こういう時に頼りになる兄も、現在は妻と2人で慰安旅行に出かけてしまっていた。これも父が計画的に仕込んでいたものだろう。

 兄は去年結婚し、名義的にはフォートランド家の家長になっているが、実権は未だ父が持っている状態だ。

 今の所、フォートランド家にリリウムの味方はいない。

 ずっと1人で依頼を受けてきたせいで、冒険者にもリリウムが仲間と呼ぶにふさわしい人物はほとんどいなかった。

 今の王都に限って言えば、桃花1人だろう。


「トーカか。愚痴を聞いてもらうぐらいはかまわないか?」


 リリウムは、具体的な解決手段の提示を桃花には求めていない。愚痴を聞いてもらうことで、少しでも気分を楽にしようと考えていた。もしかしたら、話すことで何か解決手段が湧くかもしれないとも考えている。

 と、言うより桃花に助けを求めた場合、物理的な手段で助けられかねないからだ。


「トーカは止まり木にいるだろうか?」


 リリウムは、気持ちのはけ口を求め、とぼとぼと止まり木に入っていった。




 止まり木に4人の女性が入ってくる。恰好も背もバラバラで、その表情は2つに分かれていた。

 2人は非常に笑顔で、残りの2人はどこか不安そうな表情だ。

 その姿に止まり木の食堂にいた冒険者たちのみならず、一般人の視線も注目する。

 女性たちはそれぞれの歩調でカウンターに向かうと、止まり木の女将に尋ねた。


「あの」「すまんが」「すまないが」

『トーカと言う冒険者はいるか(いますか)?』

『え!?』


 初めは3人、次に4人の言葉が重なる。


「あ、リリウムさん。お久しぶりです」

「フィーナ殿か、久しぶりだな」

「その節はお世話になりました」

「こちらこそ」


 商隊の移動中に少しだけ話したことのあるフィーナとリリウムは顔見知りだ。しかし他の2人をフィーナは知らない。


「あの、お二人もトーカを探しているんですか? 」

「お主もか? 私はトーカに用事があって来たんだ」

「私はこの方の付添いです」

「私も少し話したいことがあって来たんだが……!」


 そこでリリウムがミリーの正体に気付く。リリウムも貴族だ。子供のころに晩餐会で一度だけ第2王女にあったことがあった。

 成長していたため一目では気付かなかったが、よく見れば幼いころの雰囲気をしっかりと残している。

 逆にリリウムが貴族だと言うことに気付いたのは従者のクーラだった。

 クーラは一通り貴族の名前と家族構成、さらにその顔を覚えている。王女付きのメイドだからこそ必要になる情報だったが、それが役に立った。

 声を上げようとするリリウムの前にすっと立ち、自分の口元に人指し指を当てる。

 そして2人にしか聞こえない声でそっとつぶやいた。


「現在はお忍びです。そのようにお願いします」

「ん……ああ、わかった」


 リリウムはとっさに言われた意味を理解し、小さくつぶやく。


「どうしたんですか?」


 2人の動きに疑問を持ったフィーナが問いかける。


「この方の服に埃が付いておりましたので、取らせていただきました」

「ああ、私も気付けないところにあってな。助かったありがとう」

「どういたしまして」

「そうでしたか」

「それであんたたち、全員がトーカに用事があるのかい? それぞれ自己紹介してもらっても良いかね? トーカは確かにこの宿に泊まっているけど、身元が分からない人間を、迂闊に客には近づけられないよ?」


 女将が4人に声を掛ける。


「私は商人をしていましたフィーナと申します。トーカとは親友です」

「私はミリーと言う。こっちの従者はクーラだ。2人とも暴漢に襲われそうになったのを助けてもらってね。お礼を言いに来たのよ」

「私は冒険者のリリウムだ。トーカには少し相談したいことがあってきた」

「なんだいあの子、女はまだ先だなんて言っときながら、しっかりつば付けてるのかい」


 女将は呆れたようにつぶやき、言葉をつづけた。


「せっかく来たのに残念だけど、今トーカは出かけてるよ。依頼じゃないけど町を出てるから戻るのは2日後ぐらいだって言ってたね」


 その言葉を聞いて全員が明らかに落ち込む。


「2日後ですか。しかしいないのなら仕方ありませんね」

「そうだな。また出直そう」

「その方が良いと思いますね」

「女将、トーカは何をしに出ているか聞いているかしら?」


 あきらめムードの3人に対し、1人ミリーは女将に桃花の事情を聞く。


「ん? なんかの魔物の討伐だって言ってたね。たしか場所はニルスト山だったかね?」

「ニルスト山。国の鉱山よね」

「ニルストの鉄は上質ですからね。しかしあそこに出る魔物と言えば5等星級か4等星級位だと思いますよ?」


 ミリーの言葉にクーラが補足説明を入れる。


「トーカのことだ。どうせ山頂にでも行っているのだろう」


 2人の会話に入ってきたのはリリウムだ。リリウムはニルスト山と聞いて、桃花の狙いにだいたい気付いていた。


「山頂? 何かあるの?」

「いえ、ニルスト山の山頂は何もない噴火口になっています。活火山ではありませんので静かな場所だと聞いていますよ?」

「あそこには2等星級の魔物がいると言う情報がある。おそらくそれを狩りに行ったのだろう」

「2等星級!? チーム組んで狩る魔物じゃない!?」

「それを1人で!? あ、誰かチームを組んで行ったんですね」


 桃花の実力を知らない2人は、リリウムの言葉を聞いて驚く。しかし桃花の秘密を知っているフィーナや、目の前でフェリールを殴り殺す姿を見ているリリウムは別段驚かない。むしろ「ああ、トーカならやりそうだ」程度の感覚である。


「トーカがチームを組むことは稀だろうな。まだ冒険者になって期間も短い。おそらくチームを組めるほどの知り合いとしたら私ぐらいのものだと思うぞ?」

「じゃあお1人で!? それはすぐに助けに行った方が」

「大丈夫ですよ。トーカは2等星級程度には負けません」

「根拠はあるの?」


 フィーナの自信に満ちた言葉にミリーが尋ねる。ミリーは何かすぐに答えるものだと思っていたが、フィーナはなぜか困ったような顔をして口ごもる。


「えっと、根拠はあるにはあるんですが」

「なんなのよ? はっきりとしないわね」


 根拠は桃花の加護の星が月で、8属性すべての魔法を使えることなのだが、それは桃花とフィーナ2人だけの秘密と約束している。こんなところでそれを話すことなどできるはずも無く、フィーナは自分の迂闊な発言に困ってしまった。

 そこに救いをもたらしたのは、リリウムだった。


「トーカは私の目の前で、フェリールと1対1で戦って勝利している。2等星級ならフェリール以上の強さの魔物は少ないし、山頂に住んでいると情報のある魔物も、同程度だ。ならば問題ないだろう」

「あら、トーカってフェリールを1人で倒せるの!? それは良い事聞いたわね!」


 面白い人間の上に実力は2等星級とタイマンを張れる実力を持つのなら、ぜひとも近くに置いておきたい。諜報部に依頼したトーカの身元調査もそろそろ来ることを考えても、王城に招待した時には、高待遇で迎えることも考えた。


「何が良い事なのか分かりませんが、そろそろ場所を変えませんか? 視線が気になって……」


 王女として人の前に立つため、人の視線に慣れているミリーとその付添いのクーラ、冒険者ギルドに入れば注目の的になるため、嫌でも視線に慣らされたリリウムは気が付いていないが、4人は止まり木の客の注目の的になっていた。

 カウンターの前で同じ人物を探していたり、2等星級だのそれ以上だのと物騒な話をしていれば当然のことである。

 フィーナはそんな視線に耐えきれなくなり、3人に話を持ちかける。


「みなさん、私の知らない時のトーカを知っているようですし、時間があればこれからお茶なんてどうでしょうか?」

「ふむ、私としてはあまり家には帰りたくないし、嬉しい誘いだな」

「私も良いわよ。トーカがいないんじゃどうしようもないしね。このまま帰るのもつまらないわ」

「私はミリー様について行きます」

「じゃあ、良い喫茶店を知っているので、そちらに行きませんか?」


 フィーナの後について、3人は移動した。


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