35話
工業ギルドは町の1番外側。しかも閑散とした地域にあった。
「なんでこんなところにあんの?」
冒険者ギルドや、商業ギルドは町の重要地点付近にあるのに。
「よく爆発するからです。魔力回路をいじる人が多いので、安全性を考慮してこの場所に建てられました」
「そんな頻繁に危険行為やらかしてる奴らがいるんだな」
まあ、今俺の目の前にも、そのうちの1人がいるけど。
「魔力を止めて流してまた止めてって結構面倒くさいんですよね」
「それで爆発してりゃ世話ないけどな……」
ため息を1つ付き、カラリスに続いて工業ギルドへ入った。
中は意外と整理されていて、頻繁に爆発が起こっているようには見えない。しかし、よく見ればテーブルのところどころに焼けた跡のようなものがあった。
あれが爆発跡か……
「さあ、受付に行きますよ」
カラリスの後について受付に行く。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか?」
受付は優しい表情をした初老の男性だった。
「魔力回路の開示と、素材の効果を知りたいんです」
「分かりました。ではギルドカードの確認をします」
カラリスが工業ギルドのギルドカードを渡すと、魔法道具でそれを読み込む。すぐに証明が済んだ。
「確認しました、カードはお返ししますね。では、こちらに知りたい魔力回路の能力と、素材の能力を書いてください」
男性によって渡された紙に、カラリスが、高温で溶けにくい素材と円環式魔力保存回路と書き込み返す。
円環式なんちゃらってのが魔力を消費しない魔力回路の事か。てかどうやって値段決めてんだろうね? 特許権みたいなのがあんのかね?
「分かりました。溶けにくい素材と言うことですが、どれぐらいの温度が希望でしょうか?」
「最高温度でお願いします。上位20の素材の情報を貰いたいです」
「分かりました。調べるのと値段を算出しますので少々お待ちください。しばらく時間がかかりますので、休憩所でお茶でも飲んできてください」
男性はそういって紙を2枚カラリスに渡すと、2冊のファイルを手に何かを調べ出した。
もしかしてあのファイルが情報の元? かなり原始的な方法で調べてんだな。
「じゃあ、私たちは向こうでお茶をしながら待ちましょう」
どうやらもらった紙は、お茶の無料券らしい。ギルド館員特典って奴かな?
20分ほどして呼び出された。どうやら調べものが終わったらしい。
「ご指定の情報は見つかりました。情報を見る前に料金をいただきますがよろしいですか?」
「おいくらになりました?」
「円環式魔力保存回路は公開値段が100万チップになります。素材の上位20種は5万チップですね」
回路の情報料高!? 見るだけで100万チップって……いや、でも1回覚えれば何度でも使える分、特許料みたいなので少しずつ取られるよりかは安く済むのか?
「100万ですか……」
カラリスもさすがにこの値段には悩むようだ。でも、ここはしっかり調べておいてもらいたい。だから俺が出すことにしようかね。どうせ俺の武器作ってもらうんだし。ちょうどカルートのおかげで大金が入ってるから余裕はある。
「俺が出すぜ。現金払いじゃないとダメ?」
「いえ、口座で払っていただいても大丈夫ですよ」
「他のギルドの口座からも落とせる? たとえば冒険者ギルドとかから」
「お名前とギルドカードを貸していただければ可能です」
「じゃあ頼むわ。105万は俺の口座から出してくれ」
そう言って男性にギルドカードを渡す。
「良いんですか!?」
「俺の武器作ってもらうんだしな。それに素材にする魔物を倒せばまた金は増える」
「うーん……分かりました。では私は最高の作品でお返ししないといけませんね!」
「では漆と…おか様の口座から105万チップいただきました。円環式魔力保存回路の100万チップの8割は情報の登録者へ。2割はギルドへ支払われます。そして素材の情報量5万チップはすべてギルドへ支払われます」
「了解」
ギルドカードを返してもらい、カラリスに情報を見てもらう。
「どうだ?」
「魔力回路の方はこの保存回路を使えば問題解決はしそうですね。組み込みも今の回路なら無理なくできます。問題は素材ですね。最低の20位でも3等星級上位。5位以上は全員1等星級です。1位なんて邪神級じゃないですか……現実的に見れば6位のマグナワイバーンが限界でしょうね」
「どんな魔物?」
「火口に住むワイバーンが死んで骨になった物が魔物化した姿です。火口に住むぐらいですから、溶岩に潜っても溶けない骨を持っています」
溶岩で溶けねぇとかそりゃすげえな! 使うしかないだろ!
「ならそいつを狩るか」
「でもこんな危険な魔物を倒す依頼となると、トーカさん1人だとかなり厳しいと思いますよ?」
「そこは俺だから大丈夫だぜ。カルートも無傷で倒せるんだ。2等星級なら問題ねぇだろ」
「うーん……」
「ま、カラリスがなんと言おうと情報はもらったから勝手に狩りに行くけどな!」
「なっ!?」
そんな面白そうな魔物がいるのに戦わない訳無いじゃないか! 全力で砕きに行くぜ!
「じゃあ、明日から魔物狩ってくるから、その間にその回路で新しい魔力回路組んどいてくれ。じゃあまた今度な!」
やることが決まれば前は急げ。今から準備して、明日にはマグナワイバーンを狩りに行くぜ! とりあえずマグナワイバーンがどこにいるか、冒険者ギルドで調べてみるかね!
俺は慌てるカラリスを置いて、冒険者ギルドへ走った。
「ナージュ、いるか?」
「ど、どうしたんですか!?」
ギルドに駆け込み、まっすぐナージュがいる受付に向かった。
走ってきた俺に、ナージュは驚いて声を上げる。
「魔物の情報が知りたいんだけどさ!」
「魔物の情報ですか? 依頼などではなくて?」
「そうそう、個人的な用事で魔物の部位が必要になってな!」
「そういうことでしたら、調べることは出来ますよ。同時に討伐依頼が出ているかも調べましょうか?」
「頼むわ。マグナワイバーンなんだけど」
「マグナワイバーン……」
俺には見慣れた表情だが、やはりナージュもポカーンとする。
「わ、分かりました。調べてみますね」
カルートのことがあったおかげで、ナージュはすぐに我に返ると、マグナワイバーンに付いての情報を調べ始めた。
俺はそれを待つ間に休憩所で一息つく。
「いらっしゃい。何にします?」
「コーヒー。これギルドカードね」
「はい、あB-ですね。では無料になります。少々お待ちください」
愛想よく厨房へ戻っていくウェイトレスを見送って、俺は本を開いた。
極星の勇者の物語は終盤に差し掛かり、そろそろラスボスが出て来るころかなってところだ。最近忙しくて、あんまり読み進められてなかったけど、ようやく終わりそうだ。
「勇者のラスボスっつったらやっぱ魔王とかかね? でもこの世界で魔王とか魔人とか聞かねぇけど、そんなのあるのか?」
魔人はエルフや獣人を指してる小説もあったりするけど、この世界じゃ獣人は人間の一種だし、エルフは存在しない。
よくある獣人と人間の軋轢も、獣人と人間の違いが耳があるとか尻尾があるとか程度なため、黒人と白人の違いとか、国籍の違い程度の感覚でしかないみたいだ。
まあ、下手に獣人差別とかあっても、面倒くさいだけだからこっちとしては大いに助かるけどな。
で、極星の勇者の敵だが、当初からちょくちょく伏線みたいなのは張られてたけど、どうも相手は人間っぽいな。暗躍とか、裏工作とかしてるし、微妙に小物臭がするけど、インテリ系のラスボスならそんな感じになるだろうし。
「お待たせしました。こちらコーヒーになります」
「ども」
本を置き、コーヒーのカップに手を取る。
ちなみにこの世界、コーヒーはホットしかない。冷やすって事自体があんまり浸透してないっぽいんだよな。アイスコーヒーも結構すきなんだけど。
と、ここでウェイトレスが、今だに俺のそばに立っていることに気付いた。
ブラウンのショートヘアーの女の子だ。年齢は俺と同じぐらい?
「どったの?」
「えっと、最近王都に来て、もうカルートを倒しちゃったって言う冒険者さんですよね?」
「そうだけど」
それがどうかしたのだろうか?
「あの……よかったらサインください!」
「……は?」
今サインっつった? サインってあれだよね、色紙に名前書く奴。俺のサインが欲しいとか意味が分からないんだけど。
「私、将来に見込みのある冒険者さんのサインを集めるのが趣味なんです! 王都に来ていきなりカルートを倒せるようなすごい冒険者さんなら、必ず将来有名になると思うんです!」
あ、そういうことね。
「こら、シャイナ!」
「ふぇ!? 先輩!?」
俺が理解したところで、厨房からもう1人の女性が出てきた。20代前半のロングヘアの女性だ。シャイナがかわいい系だとすれば、女性は間違いなく綺麗系に分類されるだろう。てか、休憩所のウェイトレスレベル高ぇな。キクリの子もみんな可愛かったぞ。
そしてどうやら今目の前にいる子がシャイナと言う子で、出てきたのはその先輩店員らしい。
「またサイン求めてたんでしょ。仕事中はダメって口を酸っぱくして言ってるでしょうに。ごめんなさいね、せっかくの休憩中に」
「別にいいさ。気にすることじゃねぇし」
「ほら、冒険者さんもこう言ってることだし、良いじゃないですか」
「ダメ! そういうのは仕事が終わってからにしなさい」
「はい……」
しゅんとなりながら厨房へ戻っていくシャイナ。
それを見送って、先輩が話しかけてきた。
「本当にごめんなさいね。仕事だけはきっちりやるから、なかなか強く叱れなくて」
「いいさ、仕事きっちりやってるならな。それよりあんたは誰? さっきの子の先輩らしいけど」
「ああ、私はナミラよ。ここには3年前から働いてるの。さっきの子はシャイナって言う子で、半年前から働いてるわ
「ここで3年って結構すげぇな。嫌な絡み方してくる連中も多いだろ?」
キクリのギルドでさえ、そういう冒険者が多くて、半年も働いていればすごい方だと言われていた休憩所のウェイトレス。それを3年も勤め上げられるものは伊達じゃない。
「ふふ、触られたらきっちりお仕置きしてるからね。私って言葉より先にお盆が出ちゃうタイプなのよ」
「つまり盆でぶっ叩いてると」
「おかげでこのお盆は特注品にしてもらってるのよ。最初のころは叩くとすぐに曲がったり凹んだりしてすごい怒られちゃったから」
「冒険者叩くのは店員として良いのか?」
「もちろん、いきなり叩くのはダメよ。でも相手が触ってきたら叩いてるんだし、正当防衛よ。ちゃんと休憩所の注意書きにも書いてあるわ。ほら」
ナミラの視線を追えば、壁際に注意書き3条と書かれた紙が貼ってあった。
・暴れないこと。武力を以て排除します
・触らないこと。武力を以て排除します
・代金を払うこと。武力を以て徴収します
「基本的に解決手段は武力なのな……」
「相手は冒険者ですもの、当然の処置よ。でもシャイナは凄いわよ。働き始めて半年になるけど、まだ誰にも触らせてないもの」
「へー、運動神経いいのな」
「それだけじゃ無理よ。相手は隙を付いて触ろうとしてくるもの。私も最初は触らせないように動こうとしてたけど、無理だったわ。シャイナは多分――勘が良いのね。何となくで躱してるって言ってたし」
「そりゃスゲーな。その勘、俺も欲しいわ。魔物の攻撃よけるのとかに便利そうだし」
「ふふ、あの子の勘は人限定みたいだから、あまり意味なさそうよ」
「そりゃ残念」
わざとらしく肩を竦めると、ナミラはくつくつと笑い厨房へ戻っていった。
そしてちょうどコーヒーを飲み終わる頃に呼び出しがあった。
「調べれた?」
「はい、終わりましたよ。まず簡潔に言えば、討伐依頼等のマグナワイバーンを狩る依頼は出ていませんでした」
「そっか。ついでに受けられりゃいいと思ったんだけどな」
「マグナワイバーンは、そもそも火口付近に生息する魔物ですから人里に被害が出にくいです。ですから討伐依頼が出ることはめったにありませんからね」
「個人で出すにも金が掛かりすぎるだろうしな」
フェリールの時は個人で依頼が来てたけど、それでも300万以上の金が一度に動いたことになる。それほどの金を簡単に用意出来る奴なんて、貴族ぐらいしかいないだろ。
工業ギルドの男の話じゃ、マグナワイバーンは骨の魔物らしいし、貴族の好きそうな宝飾品にも応用はできないだろうしな。
そう考えると、依頼が無いのも当然か。
「それでですね、部位が欲しいと言うことでしたので、マグナワイバーンの生息が確認されている場所を調べました。他の情報も一通りありますが何を見ますか?」
「とりあえず生息場所と弱点かな」
その2つがあれば問題ねぇだろ。後は聞いているうちに何か思い出したら聞けばいいし。
「分かりました。まず生息場所ですね。一番近い生息場所は、王都から1日ほど馬車で移動したニルスト鉱山の山頂付近になります。ここまでは炭鉱労働者の為に1日4便王都と鉱山を往復する馬車がありますから、行き来は楽なはずです」
「一般人とかも乗れんの?」
そういう馬車って限定した連中しか乗れないと思うんだけど?
「問題ありませんよ。お金さえ払えばちゃんと連れて行ってくれます。冒険者だと言えば2割引にもなりますし」
護衛代わりってことか。
「了解。続けて」
「馬車は鉱山の入口までしか行きませんから、そこから山を登る必要がありますね。これにおそらく半日程度かかるでしょう。そうして上った先で、森が無くなり、岩肌がむき出しになっている場所があります。そこの周辺にマグナワイバーンがいると言う情報がありますね」
森林限界を超えたほどの高さにあるのか、それとも何らかの影響で木が全部なくなったのかは知らんけど、隠れる場所が無いのは良いな。正面からぶち抜ける。
「場所は分かった。倒し方って特別だったりする?」
「マグナワイバーンは骨の魔物ですから、一般的な切ったり刺したりは意味がありませんね。骨を折るにしても相当な力が必要になるみたいです。トーカさんが倒したカルートの2倍は固いと思っていいと思いますよ」
カルートの2倍か。ってことは折るのは不可能ってことか? でも関節外せば……
「マグナワイバーンの倒し方として最もポピュラーなのが、頭を外すことですね。マグナワイバーンは関節もむき出しなので、そこを叩けば外れるはずです。どういう理由かは分かっていませんが、頭が外れると動きを停止するみたいなので」
ふむ、アニメとかのスケルトンみたいに、頭が外れても動き続けるってことは無い訳ね。それに関節が弱点ってのは良い事聞いた。やっぱ関節外せば倒せるか。
しかし理由は分かってないってことだけど、魔力を見れば何か分かるかね? 頭に魔力の根源があるとか。
「マグナワイバーンの弱点ですが、氷属性の魔法に弱いことも判明しています。マグナワイバーン自体がかなり高温になっていますので、氷魔法をぶつけられると体に罅が入って脆くなるそうです。しかしこの場合は、部位に傷がついてしまうので、倒すだけの時に使われることが多いですね」
熱膨張か? しかし罅が入るんじゃ今回は使えねぇな。俺が欲しいのはその骨だし。
しかし魔物自体が高温になってんのか。持ち帰るのどうすりゃいいんだ?
「マグナワイバーンを運ぶ手段って何があるの?」
「マグナワイバーンは頭が外れると徐々に熱を失っていき、最終的には熱に強いただの頑丈な骨になります。それまでに2時間程度かかりますが、それで普通に持ち運ぶことができますよ」
「なるほどね。了解。じゃあ最後に聞きたいんだけどさ。馬車っていつ出るの?」
「鉱山への馬車は朝から7時、10時、13時、17時に出ます。それぞれ同じぐらいの時間に到着するはずですよ」
「飯は?」
「持参です」
まあ、当然だろうな。乗合馬車で飯出してくれるところなんてある訳ないし。
「分かったサンキューな」
「これもお仕事ですから」
「じゃあ、いくら?」
「いくらとは?」
ナージュが顔を傾げた。情報料いらないのか?
「マグナワイバーンの情報料。いらないの?」
「ああ、冒険者ギルドはそれ以外で十分利益が出ていますから情報料は取りません。その代り討伐してきた魔物の素材はちゃんとギルドで売ってくださいね。それがギルドの運用資金の元になりますから」
「了解。ガッツリ狩って来るぜ。じゃあまたな!」
「はい、ご健闘お祈りします」
いつもの挨拶でギルドを出た。
「今度はマグナワイバーンですか……仕事増やさないでくださいよ……」
ナージュは、桃花が去った後頭を抱えた。
今は桃花の過去の依頼受注履歴を調べたり、カルートとの戦闘の詳細をまとめギルドマスターに提出するための資料を製作している途中だった。
そこに今回のマグナワイバーンである。
しかも今回はギルドを通さない、依頼ですらない討伐なのだ。
もしかしたらギルドの依頼以外にも他の場面で魔物と戦っている可能性が濃厚になったのである。
つまりそれも調べて資料にしなければならない。
ギルドマスターに提出する資料である以上、中途半端なものは作れない。それでは適切な判断があおげないからだ。
「これは知り合いの冒険者とか探す必要があるのかしら? そういえばAランク冒険者のリリウムさんや、チームスグリが一緒に依頼受けてたわね」
桃花が初めて王都のギルドに顔を出したときのことを思い出す。あの時は護衛依頼の完了報告だった。その際の依頼のことも資料にはしっかりと書かれている。
「スグリの人たちとも仲は良さそうだったけど、リリウムさんはそれ以上に信頼している感じがしたわね。リリウムさんに聞いてみた方が良いかしら?」
リリウムの受注履歴を調べていると、最近は何も受けていないことが分かる。王都に実家があると書いてあることから、久しぶりの休みでも楽しんでいるのだろうと判断する。
それを確認してナージュは、引き出しから有休許可申請の用紙を取り出し、必要事項を記入した。




